心の家路

ソブラエティのための道具90 (6)
90 tools for sobriety (6)

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2006/01/11 

90 TOOLS FOR SOBRIETY

ソブラエティのための道具 90

6 ) 第一のことは、第一に (一番大切なことを一番にしなさい)
Do first things first.


「一番大切なことを、一番にしなさい」

と言われても、一番大切なことが何なのか、僕にはさっぱり解っていなかったのです。

「一番大切なものは何だろう」と考えると、それは「成功すること」でした。
大学の同級生たちは、大手の会社に入って、そろそろ役職が付いたりする頃でした。 彼らの安定に比べ、自分の経済的不安定を情けなく感じていました。 僕と同じように中途退学した人々や、卒業してもフリーになった連中も、それぞれ東京で元気に仕事をしているようでした。
それに比べ僕は敗残者であり、負け組であり、忘れ去られた者でした。 そして望みは、捲土重来(けんどちょうらい)、「成功して見返してやること」であり、「自分を周囲に認めさせること」でした。

しかし10年も酒を飲んでのトラブルを続けていると、そんなことは夢物語だとうすうす理解し、「普通の生活がしたい」というのが第一の希望に変わりました。成功の夢は心の陰にこっそり隠しておくことにしたのです。
お酒を止めるのは、そのために

「やらなくちゃならない沢山のことのひとつ」

でした。 決して 「一番大切なこと」 なんかじゃなかったのです。

清潔にすること、決められた時間に行動すること、約束を守ること、結果としてお金を稼ぐこと、きちんと食事を食べること、ストレスがたまらないように適度に遊ぶこと、欠いている義理を果たすこと・・・。普通の生活とはそういうことを指すのであって、酒を止めるために必要以上に時間を割くことじゃないと思っていたのです。

しかし、最後には僕も、一番大切なことが何なのか(無理やり)理解させられました。
飲んでいては普通の生活はできないのでした。 飲んでいても普通の生活ができるなら病気ではないのです。
飲めば普通の生活ができない自分は確かに病気なのに、ただ僕自身が病気だと認めていないだけなのでした。 他の何よりも 「飲まないで生きる」 ことを大切にしなければ、他のすべての望みは叶わないのが現実でした。

ソブラエティ一年目に、妻の妊娠の経過が悪く、彼女は産婦人科へ3回入院しました。 同室の人のたいていの旦那さんは、仕事帰りの夕食時に毎日見舞いに寄るのでした。 でも僕は毎日ではなく、週に4日が精一杯でした。 週に3日は夜のミーティングに通っていたからです。 それでも足りないかもしれないという不安もありました。
しかし、初めての妊娠で、しかも経過の悪い妻は大変に不安がり、僕の不在を不満に思ったようです。
責める彼女の言葉に、

「生まれてくる赤ん坊のためにも、今一番大切なことをやっているんだ」

といって詫びることしか僕にはできませんでした。
出産費用も不安なのに、ミーティングに通うガソリン代を使っていていいものだろうか、という迷いもありました。 でも、逆に飲んで僕が病院に入ってしまえば、出産どころが自分の入院費用ですらどうしたらいいのかわからないのでした。 「第一のことは第一に」 と自分に言い聞かせながらの行動の選択だったのです。

僕がアルコールで苦しんだ年月は 「お酒を止めることが一番大切」 になるまでに必要な年月でした。

「物事には順番がある」
「優先順位をつけよう」

しかし、大切なことから片付けていく、というやり方は何年経っても身についてくれません。 物事の優先順位がつけられずパニックになることもあります。 大事なこと(例えば休息を取ること)をおろそかにしたせいで、翌日後悔している様は、二日酔いの気分に似たところがあります。

ミーティングに通う頻度は減ってきてしまいました。 でも、一番大切なこと(飲まないで生きること)を大切にしてこそ、やっと病気でない人と同じ土台に立てることを、受け入とめるために、やっぱり仲間は欠かせないと思うのです。

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