心の家路

ソブラエティのための道具90 (24)
90 tools for sobriety (24)

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2006/01/11 

90 TOOLS FOR SOBRIETY

ソブラエティのための道具 90

24) 意思と生きかたを自分のハイヤー・パワーにゆだねるよう努力してみなさい。
Try to turn your life and your will over to your High Power.


ミーティングの終わりにみんなで「平安の祈り」を唱えるとき、僕は最後に一行を加えて心の中で唱えます。

私の意思ではなく、あなたの意思がかなえられますように。
Thy will, not mine, be done.

地図を持たずに旅する旅人は、たいていは間違った場所にたどり着くといいます。
人生という旅路を「自分の意思」を頼りに旅してきた結果、僕は鍵のかかる精神病院の中へとたどり着きました。トイレはしょっちゅう詰まって汚物が逆流し、お風呂は先を争って入らなければ湯が汚れてしまい、お金とタバコは鍵のかかる引き出しにしまっておかなければ、無くなっても文句が言えませんでした。そこが人生の目的地だとはとうてい思えませんでしたが、このまま退院していけば、この先何度もこの病院に世話になるだろうってことも、僕にはわかっていました。

ケースワーカー室の本棚でみつけたビッグブックには、十年も前に女性が寄贈したと書かれていました。ベッドに横になって読み始めてみたものの、文語めいた言葉が読みにくく、途中で何十回と放り出しました。もし何もやることがない入院中でなかったならば、最後まで読み通すことはできなかったでしょう。各ページの左上に書かれた「アルコール中毒からの回復」という言葉が、僕の唯一の希望でした。
3章と5章の先頭だけは馴染み深いものでした。けれど、その本のほとんどは、神に願い、神に祈り、神の意思を実行する人々のことが書かれていて、本の文体以上に僕を「げんなり」とさせてしまいました。とてもじゃないけれど僕は「御旨の行われんことを!」なんて口走っている自分を想像すらできなかったのです。

病院からAAミーティングに行って、もらったのは名刺大のカードでした。そこには平安の祈りが書かれていました。僕はビッグブックを読んだ話をし、信じることが必要ならば、とても僕にはできそうにないと言いました。するとスポンサーは、彼も昔はそうだったと伝えてくれました。彼が保護室にいるときに、奥さんがビッグブックを差し入れてくれたそうですが、それに怒り狂った彼は本を水洗トイレに流そうとし、流れなかったので引き破いてトイレを詰まらせてしまったのだと言って笑っていました。

「まず形から入ろうや、必要なのはやる気だって書いてあるんだからさ」

そう言って、一緒に目をつぶって平安の祈りを唱えました。
祈りに心はこもっていませんでしたが、祈りは習慣になりました。ハンドブックに平安の祈りが載るようになりましたが、最後の一行はそこにはありませんでした。だからミーティングでは誰もそこは唱えません。でもそんなことは問題ではなく、僕は自分の心の中の言葉に集中するようにしています。

酒によるトラブルがなくなっても、僕の周りは気に入らないことだらけです。「それが神の意思ならば」という言葉は、相変わらずちょっと詭弁めいて聞こえますし、反発心が起きないわけじゃありません。でも「そうかもしれないね」と言っていたほうが、心は楽です。

ハイヤー・パワーは僕に地図を与えてはくれません。だから人生の目的地がどこなのかは今もわからないままです。でも神様は24時間の道路標識を僕の前に立ててくれてあります。その道を辿っていけば(それが難しいんですけどね)、どうやら周りのみんなとそんなに極端には違わない場所へたどり着きそうな気がしています。

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