心の家路

ソブラエティのための道具90 (38)
90 tools for sobriety (38)

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2008/09/28 

90 TOOLS FOR SOBRIETY

ソブラエティのための道具 90

38) 他の人の変化の例を見て、自分も変わる勇気を見つけてごらん。
Find courage to change through the example of others who have.


「自助グループへ行けば、酒をやめている人は結構いっぱいいるかもしれないが、アルコール医療の現場では酒をやめられない人とばかり付き合っているんです。だって、酒をやめた人は病院には戻ってきませんから」

そんな話を病棟の看護師さんから聞いたことがあります。酒をやめられない人たちの面倒をみる仕事は、断酒の失敗例ばかり見せつけられる仕事でもあります。そんな日々が続くと、自分のやっていることはすべて無駄ではないかという疑念が生じ、やがて燃え尽きてしまう人も少なくないのだそうです。
自助グループへ来ると、成功例を見られるし、それが自分の担当した「どうしようもないアル中患者」だったりすればなおさら感じるものがある、という話でした。

だがそれは医療関係者に限ったことでなく、アルコホーリク本人だって同じだと思います。

世の中の90%以上の人は、アルコール依存症ではありませんから、酒をやめるのに何の苦労もいりません。少なくとも我慢すればやめられます。だから、依存症者が酒をやめるには我慢以上の何かが必要だとは理解してくれません。
依存症者は、そういう世の中で暮らしていますから、自分も酒をやめるなら我慢でやめなければならないし、他の人のように我慢でやめられると思ってしまいます。ところが病気ですから、いつかまた飲んでしまいます。「また飲む」のは病気の症状なのですが、本人も周りの人も、我慢が足りない、意志が弱いと思ってしまいます。そこで、さらに意志を強く持って・・という悪循環を何度も何度も繰り返します。

僕も同じことを繰り返し、しまいには「自分はどうやっても酒がやめられないのじゃないか」という虚無感が心の中に芽生えました。AAや断酒会という自助グループは、酒をやめられる人たちが行っているのであり、やめられない自分が行っても仕方ないと、行く前から諦めていました。

そんな僕も「AAに行かざるを得ない羽目」になり、AAミーティングに通っているうちに、メンバーの人たちは「酒がやめられない」僕と同じ人たちだと気がつきました。そして、我慢や意志の強さに頼らずに酒をやめているらしい。この人たちにやめられたのだから、自分にもできるはずだ、という希望が生まれました。
実例を見せられて、僕も変わる勇気をもらえたのです。いや実は、連中ひどく壊れたアル中さんばかりだったので、まだ症状の軽い僕なら楽勝だと思ったんですが、それは内緒です。

けれど、AAのエッセンスらしいところの「霊的(スピリチュアル)なこと」は、まるで理解できませんでした。

数年後のことです。
酒をやめた僕は、いろんなことが楽になっていました。しかし、それを「幸せ」とは言い切れないひっかかりがありました。「酒をやめて良かった、生きていて良かった」という言葉に、どこか嘘臭さを感じていました。酒をやめることも、生きることも、最終的には自分の意思であり、やっぱり我慢であると思っている部分がありました。そして、「もうこれ以上自分は良くならない(回復しない)」という諦めもありました。

そんなときに、あるAAメンバーに会いました。彼は「霊的に目覚めた男」でした。僕は彼を見て「いやーな印象」を持ちました。僕は何年もAAをやってきたのに、どうにも楽にならない部分が残っていました。なのに、彼はときたら数ヶ月で「目覚めた」と言っているのですから、僕の中に反感がむくむくと育ちました。

けれど、どこか彼にすがすがしさを感じたのも確かです。それまで僕が出てきたミーティングでは「ステップは難しくてわからない」という声が大多数でした。年数を経た仲間でも「ステップは苦しいし、楽にもならない」と平然と言う人がいました。ところが、彼は「ステップはわからなくても良い。ただやればいいだけ。やれば楽になる」と言い放ちました。
彼に特別な才能があるようには見えませんでした。環境も僕と大きく変わりませんでした。僕と彼との違いは、ただ「やったか、やらなかったか」だけでした。
いや実は、その人ひどく壊れたアル中さんだったので、まだ霊的な壊れ方の軽い僕なら楽勝だと思ったんですが、それは内緒です。まあそれはともかく・・・。

どうやら僕の場合、諦めという鎖をふりほどく勇気は、実例を見せられるまで湧き上がってこないようです。

神さま、私にお与え下さい・・・変えられるものは、変えていく勇気を・・・。

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