心の家路

ソブラエティのための道具90 (42)
90 tools for sobriety (42)

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2009/11/12 

90 TOOLS FOR SOBRIETY

ソブラエティのための道具 90

42) アルコールが「巧妙で、不可解で、強力なもの」であることを忘れないように。
Remember alcohol is - cunning, baffiling and powerful.


私たちが相手にしているのはアルコール−巧妙で、不可解で、強力なもの−であることを、忘れないでほしい。それは、助けなしには手に余るものなのだ。(AA p.85)

AAに通い出して2〜3年の僕は、ミーティングでこんなことをしゃべっていました。

「僕は将来スリップ(再飲酒)することがあっても、その時はまたAAのミーティングに通って酒をやめます」

本気でそう言っていたのです。何度失敗しても再挑戦するその意気込みやよし、といったところですが、現実はそのもくろみ通りにならないことを後になって知ります。

AAでも断酒会でも5年ほど続けて通っている人なら分かると思います。最初は熱心に通っていた人が、様々な事情からグループと次第に疎遠になり、1〜2年もするとまるで顔を見せなくなってしまいます。そうやってグループを離れた人がすぐに再飲酒するとは限らず、数ヶ月、時には数年しらふの生活を続けることもあります。その中には一生を無事に過ごす人もいるでしょうが、多くの人は再発を体験します。

グループを去った人たちのうち、どれだけの人が帰ってきたでしょう。再発後すぐに帰ってくる人もいますが、年単位、十年以上ブランクができる人もいます。そして、永遠に戻ってこない人もいます。どうしてそうなるのでしょう?

しらふの時にどんなに断酒に対する意識が高かったとしても、再飲酒してエチルアルコールが脳に達した瞬間から、その人の考え方は断酒を始める前へと逆戻りします。戻ってこない人たちに聞いてみると、「あんなに一生懸命AAをやったのに、最後には飲んでしまった。AAは自分には役に立たない」、「皆に合わせる顔がない」と、とても否定的なことを言います。どうやら飲まない期間が長い人ほどAAに戻りづらく感じるようです。

しかし、僕もそうだったように「失敗してもやり直す」という気持ちは真剣そのもので、それを責められるのは心外かもしれません。しかし、その思いの裏側には「自分は断酒できない連中や失敗する連中とは違う」という優秀意識が隠れているものです。ここにいて酒をやめている自分と、まだ酒がやめられない(あるいは再発して戻ってこない)人たちとの違いは何でしょう? それは優れている・劣っているの違いではなく、単に運が良いか悪いかの違いにすぎないのです。立場が逆転する可能性は常にあります。

自分だって再発したら戻ってこれるとは限らない。そのまま死ぬまで酒がやめられないかもしれない。つまり「今度飲んだら死ぬかもしれない」。去って戻ってこない人の姿からその事実を学ぶことができなければ、今の自分のソブラエティ(飲まないで生きること)を本当に大切にすることはできないでしょう。

だから僕はスポンサーから言われたように、「もし自分はやる気があり、真剣だから、スリップしてもここに戻ってこられると考えているのなら、その考えを捨てたほうがいい」と、後から来る仲間に伝えています。今度飲んだら死ぬまで飲み続けるかもしれない。幸運で得たものだからこそ、今回のソブラエティを大事にするしかない、と。

真剣に酒をやめたい気持ちですら、再飲酒の原因を作ってしまう。アルコールとは実に「巧妙で、不可解で、強力(パワフル)なもの」です。

けれどアルコールはただの物質で、本来なんのパワーもありません。私たちの心が、巧妙で、不可解で、そしてパワーレス(無力)なのです。

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