心の家路
書評 『ビッグブックのスポンサーシップ』
依存症から回復する12ステップガイド (CARRY THIS MESSAGE)

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2013/01/22

●書評

●ビッグブックのスポンサーシップ
 
――依存症から回復する12ステップ・ガイド――
CARRY THIS MESSAGE
ジョー・マキュー著
翻訳・発行:依存症からの回復研究会
B5版188P
1,500円
『ビッグブックのスポンサーシップ』僕もたかだか10年ちょっとのソブラエティをいただいただけで「オールド・タイマー」なんて呼ばれてしまうのですが、本来オールド・タイマーとは、昔風(オールド・タイム)のやり方を知っている人のことで、20年・30年の時間は必要でしょう。

ジョー・マキューは、もはや伝説とも言える「ジョー・アンド・チャーリーのビッグブック・スタディ」のセミナーを継続的に開いたひとりです。彼自身、30年以上もアルコール依存症の治療施設を運営してきたのにもかかわらず、彼は現在のAAの停滞・衰退は、治療施設の影響だと主張します。

治療施設の大半は、28日間の入所期間中にAAの12のステップに取り組むのを基本としています。入所中にどこまでステップを進めるか(ステップ4まで、5まで、8までなど)は、施設によって違いますが、ある程度ステップを実行した後になってから退所してAAに通い出したのです。その結果どうなったのか? 本来、新しい人にステップを伝える役割は、AAスポンサーやAAグループのものでした。それが治療施設によって代行された結果、AAはステップを伝える能力を失ってしまいました。AAスポンサーの役割は新しい人を治療施設に連れて行くことに変わってしまい、ステップを12まで行うメンバーは半数以下になりました。そしてアメリカ政府が治療施設に対する補助金を削減し、治療施設の数が減り始めると、今度はAAメンバー数の減少が始まったのです。以前はAAに来た人の半数が回復していたのに、その率は5%ほどにまで下がってしまいました。

ジョー・マキューは、治療施設を悪として扱う愚を避けます。問題は治療施設の存在ではなく、AAがステップを新しい人に伝える能力を失ってしまったことだと彼は主張します。そして彼は、彼の持っている経験、つまり彼がAAにつながった頃、AAが高い効果を上げていた頃に、彼がスポンサーから受け取ったやり方を現在の僕らに伝えようとしています。

彼はAAのフェローシップ(仲間の交流)が持っている力を否定しません。共感の人間関係は、人に力を与えてくれます。しかしそれはどんな集まりでも持っている力にすぎない、もう一つAA本来の力に気づきなさいと彼は訴えます。それはステップによって人間が変わる力です。

僕は、新しい人の頭がすっきりするまで1年待ってからステップを提案するとか、ステップを一巡するのに3年間を目安とする習慣には、「それは新しい人の苦しみを長引かせるだけでしかない」と思います。ステップには弾みがあり、ステップが次のステップへとドミノ倒しのように連鎖しく勢いがあります。ジョー・マキューは、その弾みを大事にするプログラムを「リカバリー・ダイナミクス・プログラム(RDP)」と名付けました。現在ではRDPを取り入れた治療施設は百を超えています。またAAではビッグブック学習のミーティングが開かれ、AAミーティングの前後にコーヒーショップでビッグブックを分かち合うスポンサーシップが日常のものとなっています。

もちろんその功績をすべてジョー・マキューに帰するのはフェアではありません。そこには無名のヒーローが多数介在したはずです。また、たとえばワリー・Pは、AAオフィスの書庫から1950年代に行われていた教室形式でのビッグブック学習とスポンサーシップを再発見し、『バック・トゥー・ベーシックス』(基本に返れ)という本を出版しました。批判は受けつつも、バック・トゥー・ベーシックスのミーティングは北米全体へ、さらに各国へと広がっています。

このように、AAが停滞しメンバー減少の危機が訪れたとき、AAを愛するメンバーたちはもう一度AAのスピリチュアルな魅力を取り戻そうと努力を始めました。それを「原点回帰」と呼ぶのも、「基本に返る」と呼ぶのも、あるいは「ビッグブック原理主義」と揶揄するのも自由ですが、全体的な潮流が、ビッグブックを道具として使い、スポンサーからスポンシーへとステップを伝えていくことへと回帰しているのは確かです。

ひるがえって日本の状況を見てみると、二千数百人までは順調に増えたAAメンバー数も、その後の十数年は漸増あるいは停滞にとどまり、ようやく四千に届いたかどうかと言われるぐらいです。日本AAの創始者の一人、ピーター神父がステップすべてを経験し、伝えるべき明確なステップを持っていたことは間違いありません。それはビッグブック日本語版の個人の物語を読めばわかります。日本AAも始まりは確かにスピリチュアルなものだったに違いありません。

しかし、後年AAをのぞきに来たピーター神父の同僚が「AAからすっかり霊的なものが失われていて幻滅した」とつぶやいたと伝えられます。

AAの現在の停滞は、ステップを行うメンバーが減り、新しい人にステップを伝える能力が失われたからだと、僕は断言します(個人的意見ですからきっぱり言います)。ステップ12までどころか、ステップ4の棚卸しすら行わないメンバーが当たり前になりました。そして「仲間の交流」のフェローシップにばかり熱心な人が増えました。

AAメンバーが増えないのは、多くの飲んでいるアルコホーリクがAAを知らないからで、もっとAAを広報すれば良いという議論があります。それはその通りですが、もう一つの視点があります。多くの人がAAのドアを開けて入ってきますが、同じぐらい多くの人がいつの間にかミーティング場から消えてしまいます。また2〜3年はAAにとどまるものの、その後去ってしまうメンバーも少なくありません。それは現在の日本AAに「ひきつける魅力」がないからでしょう。

新しい人は、ただ飲んでいないだけの人には魅力を感じません。ステップを経験し、スピリチュアルに目覚め、生きる喜びを感じることが「ひきつける魅力」です。AAメンバーが伝えていくべき「このメッセージ」とは、スピリチュアルな目覚めと、そこへいたる手段であるステップのやり方です。この本の翻訳出版ばかりでなく、さまざまな「原点回帰」の試みが日本のAAでも盛んになってきたことを、大変頼もしく思っています。

ジョー・マキューのメッセージが「AAの正しいやり方」だとは主張できません。AAの本来のメッセージは、ビッグブックや『12のステップと12の伝統』に書かれています。しかし、それを読んで具体的なステップの方法が思い浮かんだ人は少ないのではないでしょうか。
ジョー・マキューの本の内容は秩序だって明快であり、方法は具体的、実践的で、スポンサーにもスポンシーにもわかりやすく書かれています。ハウ・ツーが書かれた攻略本と言ってもいいでしょう。もしあなたが、これからAAのスポンサーをやろうとして迷いがあるなら、あるいはAAに長くいてもう一度ステップをやり直そうと思っているなら、はたまたAAにちょっと嫌気がさし始めているなら、これがまさにお勧めの一冊です。
また、アルコール以外の依存症の方にもぜひお勧めします。

この本は著者ジョー・マキューによる経験と力と希望の分かち合い、つまり個人の本で、いわゆるAAの本(評議会承認出版物)とは違います。AAから出版されているわけではありません。だからこそ日本での出版を行ってくれた「依存症からの回復研究会」に感謝を表したいと思います。翻訳はこなれていて読みやすく、年配の人にも若い人にも親しみやすいと思います。
現在は同会から自費出版の形でしか手に入りませんが、そのうちいろいろなところで入手可能になるでしょう。書籍としての完成度は、自費出版の域を超えています。

僕のようなぺーぺーの声ではなく、昔風のやり方を知る本当のオールド・タイマーの声に耳を傾けてほしいと願っています。ステップを12まで通して経験し、AAをスピリチュアルに目覚めた人たちの共同体(大文字のFellowship)へと変えていきましょう。

入手先など: 以下のリンク先は「心の家路」の一部ではなく、「依存症からの回復研究会」のページです。
  1. 来年出版されるという『私たちが踏んだステップ(THE STEPS WE TOOK)』にも期待しています。
  2. 著者ジョー・マキューの姿勢は決してビッグブック一辺倒ではなく、この本の中では『12のステップと12の伝統』もふんだんに使われています。

最終更新:2008/08/07