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2016年02月26日(金) 多くの回復を作り出すことの意味

 最近は日々雑記の更新も間遠くなり、「ブログをやっているひいらぎさん」ではなく「ブログをやっていたひいらぎさん」と呼ばれるようになりました。

 僕が東京の依存症回復施設で働くようになったのをご存じの方も多いと思います。「二つの帽子をかぶり分ける」(※)ために、施設のことを取り上げるのは避けますが、支援の仕事は生産性が悪いということをつくづく感じています。平たく言うと、忙しいわりに利益が少ない業種だということですね。雑記の更新頻度が極端に落ちたのは、仕事とAAで時間とエネルギーを使い果たしているからです。それでもこうして雑記を書こうと思ったのはなぜか。

(※ プロとしてアルコホリズムに関わっていたとしても、AAメンバーとしての活動はあくまで非職業的なものであることを明確にすること)

 それは、長野でサラリーマンとして働きながらAAメンバーをやっていた頃と、現在では、地理的な位置、社会的な立場、職業的な違いがあるので、新しい視点から依存症を見ることになった。それについてネットでも発信してみようと考えました。

 とはいえ、変わらないこともあります。僕は相変わらず週に一回AAの会場を開け、10人あまりの参加者と一緒にミーティングをやり、その他に週に二晩ぐらいスポンシーとビッグブックの読み合わせをしたり、棚卸しを聞いたりしています。そして時々日曜日にはイベントにでかけている。そんな日々のなかで考えたことです。本題に入りましょう。

 元コメディアンの田代まさし、元プロ野球選手の清原和博、この二人が薬物問題を抱えていることは多くの人が知っているでしょう。田代氏は薬物依存であることを公けにして施設のスタッフとして活動されている。清原氏は自らを薬物依存とは公けにはしていないようですが、伝えられている情報を総合すれば依存症である可能性は高い。僕は同じ依存症者として、お二人の回復が順調に続くように願っています。

 田代氏の講演を何度か聴かせていただきましたが、人を笑わせて和やかにする才能には感心します。それは彼が前半生で努力して身につけたものなのでしょう。さて、例えば将来、彼がテレビのバラエティ番組にタレントとして出演する可能性はあるでしょうか(氏自身がそれを望むかどうか別として)。あるいは、清原氏は野球選手としてあれだけの実績を残した人ですから、将来どこかのプロ野球球団でコーチや監督を務めることはあり得るでしょうか。今の日本社会ではどちらの可能性もゼロに等しい。せっかくの才能が無駄になるのは残念なことです。

 「心の家路」のサイトを始めた頃、「依存症」をキーワードとしてニュースを検索し、一覧表示するページを作りました。するとアメリカの有名人が自らの依存症を公けにして治療に励むという記事がたくさん表示されました。AAの英語版月刊誌にはAA以外のことを取り上げた記事も毎月載りますが、数年前の記事に政府機関が行った一般の人へのアンケート結果が掲載されていました。そのなかに「アルコールや薬物の依存から回復中の人と友だちになれるか?」という項目があり、実に7割以上の人が「友だちになっても良い」と答えていました。

 アメリカにおいては依存症であることを隠すより、むしろ明らかにして治療に取り組む姿勢を示した方がメリットがある。さらに、病気が克服できれば仕事を続けていける。そういったことを許容する社会になっていることがうかがわれます。日米のこの違いはなんとしたことか。それは依存症という病気に対する認識の違い、偏見の有無でしょう。

 アメリカは、(依存症に限らず)人生に降りかかった何らかの困難を克服したストーリーが美談として賞賛される傾向はあると思います。ベストセラーのランキングにはそんな自伝がよく混じっています。対するに日本は、輝く者が地に落ちれば、それを皆で叩く、という世の中になっている気がします(しかもその傾向が強まっているんじゃないかと)。そんな国柄の違いを踏まえても、社会の病気に対する理解度の違いが大きいことは明瞭です。

 先日ある新聞社の記者さんから取材を受けたときにも、こ話をし、その上で「例えば清原が将来ジャイアンツの監督にという記事が書けるか」という少々意地の悪い質問をぶつけてみました。その方は率直に「例えそう書いたとしても、どこかから横やりが入って決して記事にはならないだろう」と答えてくれました。報道機関には「ニュースという商品」を売る商売の側面があります。客の望まない商品を売りつけることはできないのですから、その新聞社が悪いわけではありません。日本の社会が変わらなければ、そうは書けないのです。

 おそらく「マーシーも清原も犯罪を犯したんだから、拒絶されて当然だ」と言う人もいるに違いありません。お二人とも違法薬物の所持や使用の罪科で有罪判決を受け、一方は服役もしています。それについては、覚醒剤の使用の罪は「被害者のいない犯罪」と呼ばれていることも考慮していただきたい。法律が何かを禁止するのは、誰か(の権利)を守るためです。どの法律が誰を守っているか、考えてみれば分かるはずです。覚醒剤や麻薬の取締法は少なくとも薬物依存症者本人を守ってはくれない。禁止したからって再使用は防げないし、懲罰を与えることはしばしば治療の妨げにしかなりません。

 覚醒剤や麻薬の取締法は、依存症にならない大多数の人々の福利を守っているが、依存症者の役には立ってはいないのが現実です(まあ取り締まるための法律ですからね)。人は軽い気持ちでクスリに手を出しますが、依存症になろうと望んでなるわけではないのです。

 話を元に戻して、依存症という病気に対する無理解や偏見は、当事者にとってありがたくないことです。羞恥の気持ちが、治療や回復資源に繋がるのを年単位で送らせ、予後を悪くします。社会復帰にも妨げになります。では、そんな世の中を変えていくにはどうしたら良いのでしょうか。

 一つのアイデアは、無理解や偏見を取り除くために「啓発活動をする」というものです。実際に啓発活動に取り組んでいる人たちがいて、その熱意と努力には頭の下がる思いです。僕もそうした活動にはできる限りの協力はしようと思います。ですが、僕自身は啓発活動の先頭に立とうという気持ちは薄い。それはなぜか。

 アメリカのAAや依存症の歴史を見ると、アメリカも以前は依存症への偏見が強い社会だったことがわかります。それが変化したきっかけは、AAやその他の機関が依存症からの回復者を大量に作り出したことです。もちろん、啓発活動が大きな役割を果たしたことは間違いないでしょうが、啓発活動だけで社会を変えることはできないはずです。なぜなら、人は身近に存在を覚知することにしか関心を寄せないものです。回復した人がたくさん存在しなければ、理解が進みようがありません。

 だったら僕は回復ということに焦点を当ててやっていきたい、と思うようになりました。社会を変えることが僕の目的ではなく、回復というものが増えていった結果として社会が変わってくれれば、それはそれで有り難いし、自分もより安全になれる。だから、たくさんの回復が作り出せることが大切ではないか。それが当事者が当事者として活動する指向性だ、というのが最近の考えです。


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