ビル・Wに問う (3) なぜAAは効果があるのか?

『ビルに訊く』改め『ビル・Wに問う』の第3回です。


3Q:なぜAAは効果があるのか?

3A:その質問に完全に答えることはできません。AAの技法の多くは、十年間の試行錯誤を経て採用されたもので、十分興味深い結果をもたらしてきました。ですが、私たちは素人(layman)として、それを説明する能力が自分たちにあるとは思っていません。私たちはただ自分たちが何をするのか、それがどのように見えるのか、そして私たちの視点から見て、自分たちに何が起きたのかを語ることができるだけです。

最初に明らかにしておかねばならないのは、AAは医学、精神医学、宗教の手法と、私たち自身の飲酒と回復の経験を元に、それらを組み合わせて作った、いわば「多機能家電」だということです。そこに未知の原理を見つけ出そうとしても無駄に終わるでしょう。私たちはただ単に、精神医学と宗教の古くから実績のある原理を、アルコホーリクが受け入れられる形に整え直しただけです。そして私たちは、この原理を自分自身や他の苦しむ人たちに適用することに熱中できる独特の団体を作ったのです。

さらには、私たちに与えられるべくして与えられた一つの強みを利用しようと懸命に努力してきました。その強みとは、もちろん回復した飲酒者としての個人的体験のことです。医師や聖職者たちが、徹底的な治療や説得を行った後に、アルコホーリクが「あなたに私のことが分かるはずがない。ひどい酒飲みになったことがないあなたに、一体なにが分かるっていうんだ? それとも回復したアルコホーリクを連れてきて見せてくれ」となおも言い張って、もうお手上げだと諦めたことが、いったいどれだけあったでしょうか?

ところが、回復したアルコホーリクがまだ回復していないアルコホーリクに話すときには、そのような反論はめったに生じてきません。新しい人は、たった数分のうちに、自分が理解のある、気の合う相手と話していることを悟ります。回復したAAメンバーは、飲酒の駆け引きのあの手この手も、あらゆる正当化も知っているので、騙されることはありません。ですから、ありがちな防壁は音を立てて崩れ落ちます。どのようなセラピーにおいても必要不可欠な、昼の次に夜が来るのと同じぐらい確かな相互信頼が生まれるのです。そしてこの絶対的に必要とされるラポールがすぐに生じなかったとしても、その新しい人が他のAAメンバーたちと会うなかでそれが育っていくことはほぼ確実です。私たちの言葉で言うところの「意気投合」が起こるのです。

それが起きるとすぐに、あなたがた医師が長いこと伝えようとしてきた本質を、その候補生に納得させるチャンスが私たちに与えられ、するとその問題飲酒者は私たちの共同体を彼自身が仲間のアルコホーリクと一緒に問題に取り組むのに適した場所だと見なすようになります。彼は何年ぶりかで、自分が理解され、また人の役に立てると感じるようになります。彼が他の人の回復を促進する役割を果たすとき、まさに比類の無い役立ち方ができるのです。外の世界が彼をどう見なしていようとも、彼は自分が良くなれることを知ります。なぜなら彼は、自分よりひどかったのに目標に到達できた何十もの事例に取り囲まれるからです。また自分とそっくりのケースもあって、そうした人たちの証言からは圧倒されるほどの圧力を受けるでしょう。彼がすぐに死にさえしなければ、やがて間違いなくジョン・バーリコーン1)が彼の中に静かな熱い炎を育て、そのせいで彼がこのジレンマから脱出しようと目指した出口はすべて塞がれてしまいます。さきほどのスピーカーが、AAが始まってからの3年間で75人の失敗例があったことを指摘しました。私たちが完全に諦めた人たちです。その後の7年間で、そのうち62人が私たちのところに戻ってきて、そのほとんどが良くなりました。その人たちは、もし戻らなければ死ぬか気が狂ってしまうと悟って戻ってきたと語りました。彼らは知る限りあらゆる方法を試し、お気に入りの言い訳も使い果たし、戻ってきて自ら取り組んだのです。これこそが、アルコホーリクに福音を説く必要が無い理由です。いったん十分にAAに触れることができれば、そしてまだ正気が残っていさえすれば、彼らは戻ってきます。

要約しますと、アルコホーリクス・アノニマスのプログラムは、精神医学と宗教の両者から大きな寄与を得ています。これらは、私たちにとっては、回復という鎖において長く失われていた環でした。

  1. かつての飲酒者として、新しい人の信頼を得る、つまり「その人に伝送回線をつなぐ」ことのできる能力。
  2. かつての飲酒者による理解ある共同体を提供し、新しい人がそこで、医学と宗教にもとづいたこの原理を自分自身や他の人にうまく適用できること。

ですから、私たちAAメンバーは、こうした原理を毎日使っているということについて、意外なほど意見が一致しています。(ニューヨーク州医学ジャーナル第44巻、1944年8月15日)2)


もう一つの回答。

3A:表面的にはAAはとても単純な仕組みですが、その核心は深遠なる謎です。何千人もの人から(飲酒への)強迫観念を取り除いたのは、偉大なる力の働きであることはまったく疑いがありません。その強迫観念が、私たちの第四の医学的問題3)の根源であり、大昔から無数の人々の命を奪ってきたのです。(ニューヨーク州医学ジャーナル第50巻、1950年7月号)


  1. ウィスキーのこと。 []
  2. 1944年5月、ニューヨーク州医学会神経精神部会の年次総会でのビルの講演の抜粋。 []
  3. アルコール問題を指す。現在のアメリカにおけるアルコール関連死の推定数は年間88,000人で、死因の第3位である――NIAAA, Alcohol Facts and Statistics, NIAAA, 2020. []

2020-07-07ビル・Wに問う,日々雑記

Posted by ragi