ビッグブックのスタディ (54) 解決はある 7

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さて、ビッグブックの第二章のp.34からは、身体のアレルギー精神の強迫観念についての説明があります。シルクワース医師が「医師の意見」で説明した話を、AAメンバーの言葉で繰り返しています。

身体のアレルギー

・・・どんな種類のアルコールであれ、少しでも身体に入ったら最後、肉体と精神の両方に何かが起こり、飲まずにはいられなくなってしまうこともまた確かである。どんなアルコホーリクもこの体験を豊富に持っていて、このことを立証してくれている。1)

これは身体のアレルギーについて述べています。アレルギーと渇望については、第12回第14回で説明しました。

精神の強迫観念

 しかし、もしもアルコホーリクが最初の一杯を口にしなければ、そうして、恐ろしい悪循環が始まらなければ、いままで書いてきた観察は実際的でない、的外れなものに終わる。だから今度は、問題は身体ではなく精神に向けられる2)


These observations would be academic and pointless if our friend never took the first drink, thereby setting the terrible cycle in motion. Therefore, the main problem of the alcoholic centers in his mind, rather than in his body.3)

アルコホーリクが最初の一杯の酒を飲んで、アレルギー反応の引き金を引かなければ、身体的な渇望が起こることはなく、飲み過ぎてトラブルを起こすこともありません。つまり、身体のアレルギーは「酒を飲まない」ことで解決可能です(とはいえ、この病気は飲まないでいることができないわけですが)

the main problem of the alcoholic centers in his mind, rather than in his body. は「問題は身体ではなく精神に向けられる」と訳されていますが、これでは原意が十分に伝わらないでしょう。「アルコホーリクは、身体的な問題ではなく、精神的な問題によって再飲酒する」、という意味です。身体的な渇望によってスリップするのではなく、あくまで強迫観念によってスリップするのです。(強迫観念については、第15回で説明しました)。

再飲酒した人に「どうして飲んだのか」と尋ねてみれば、何かの理由を答えてくれるでしょう。しかし、再飲酒の結果として起きたトラブルを考えれば、その理由は周囲が納得できるものではありません。なぜならそれは、頭痛がするので、その頭痛を感じないようにハンマーで自分の頭を叩くのと同じ理屈だからです(事態を悪化させるだけであり、筋の通った説明になっていない)

「自分でもなぜその最初の一杯に手を出したのかわからない」というのが真実です。アルコホーリクは自分なりに再飲酒の理由を思い定めている場合もありますが、つきつめて考えると、それが言い訳でしかないことは自分でも分かっているのです。ひとたびこの病気にしっかり捕まえられてしまうと、ただ困惑し、途方に暮れるばかりになってしまうのです(「誰にも理解できない人間になる」というのは珍訳ですね)

 真実を知っている人はほとんどいない。家族や友人は、ふつうでないことをうすうす感じてはいるものの、いつの日か彼らが無気力から立ち上がって、意志の力を使い始めることを期待して待っているのだ。

 もし彼が本物のアルコホーリクなら、そんな日は決して来ないというのが悲しい真実だ。4)

ここでも「本物のアルコホーリク(real alcoholic)」という言葉が使われています。第52回で述べたように、もしその人が単なる大酒飲み(hard drinker)ならば、意思の力できっぱりと酒をやめて、二度と飲まなくなる日が来るかも知れません。しかし、本物のアルコホーリクにはそれは期待できないのです。いっとき断酒して周囲に期待を持たせてくれたとしても、その期待をあっさり裏切ってまた飲んだくれてしまいます(意思の力を使って断酒するのだが、強迫観念によって再飲酒してしまう)

どのアルコホーリクも酒を飲み続けているある時に、どんなにやめようと強く決意しても全くどうにもならなくなる状態に入ってしまう。そしてふつう、この悲劇的な状況は、それが疑われるずっと前に起こっているのだ。4)

気がついたときには、もう決して飲まないと本人が強く願っていても、再飲酒してしまうという泥沼的状況に陥っているのです。――(ビッグブックなどのAAのテキストで使われる「酒がやめられない」という表現は、飲み続けているという意味ではなく、断酒していても再飲酒してしまうことを指しているのです)。

 まだ理由ははっきりしていないのだが、ほとんどのアルコホーリクは飲酒についての選択能力を失ってしまっている。いわゆる意志の力というものも、事実上、存在しなくなる。たった一週間前の、あるいはひと月前の飲酒が自分にもたらした苦悩と屈辱の記憶を思い出して意識にのぼらせることさえもどうしてもできなくなってしまう。だから私たちは最初の一杯に対してまったく無防備になる。4)

これは、精神の強迫観念を説明しています。もちろん、アルコホーリクが常に強迫観念に襲われっぱなしというわけではありません。アルコホーリクも、何週間か何ヶ月か、時には何年も酒をやめ続けることがあります。意思の力によって断酒を続けることはある程度可能だからです。

しかし、いつか強迫観念が起きる瞬間がやってきます。それはアルコホーリクが、「過去の飲酒のもたらした苦悩と屈辱を思い出して意識できなくなる瞬間」であり、「最初の一杯に対して無防備になる瞬間」です。その時に、アルコホーリクはあっさりと最初の一杯に手を出し、身体のアレルギーの引き金を引いて、飲んだくれに戻ってしまいます。そして、なぜ飲んでしまったのか理由を探してみても、前述のように十分な理由は本人にも思いつかないのです。

精神の強迫観念とは、正常な思考ができなくなった状態です。普段とは違う病的な精神状態が、異常な行動(再飲酒という自己破壊的な行動)を取らせるのです。異常な精神状態という意味では「狂気」と呼ぶのにふさわしいです。

大事なことは、この狂気は、最初の一杯を飲んだ後ではなく、飲む前に起きてくる(pp. 52, 54-56)ことです。そして、いつこの強迫観念が起きてくるかは予測できません。再飲酒した人の多くは、防御を十分に固めていたはずだったのに「気を抜いて」「油断して」飲んでしまったと言います。意思の力による防御に限界があるのは確かです。

再飲酒すると、アルコホーリクはそれを恥ずかしい失敗と捉えて落ち込みます。しかし、そもそも強迫観念は、本物のアルコホーリクには決して打ち勝てない相手なのです。どうやっても勝てない、という完全な敗北を認めることが必要なのです。

 アルコホーリクの傾向がある人にこうした考えが定着すると、もはや誰の力でもどうすることもできないし、監禁でもしないかぎり、死ぬか永久に気が狂うかしかなくなる。この寒々とした不気味な事実は、歴史が始まって以来数多くのアルコホーリクによって確認されている。もし神の恵みがなかったならば、さらに幾千幾万もの実例があったはずだ。それほどに、多くの人がやめたくてもやめられないのである。5)

強迫観念が起きてくるようになると、アルコホーリクを救うことは誰にもできなくなります。もはや誰の力でもどうすることもできない(beyond human aid=人の助けが及ばない)ということは、同じアルコホーリクの仲間(共同体)の力を持ってしても、その人の再飲酒を防ぐことはできない、ということです。

「もし神の恵みがなかったならば」(But for the grace of God)という言葉は、日本のAAでは人気がありませんが、「今日一日(One day at a time)」や「気楽にやろう(Easy does it)」と同じぐらい有名なAAのスローガンの一つです。

もし神の恵みがなかったならば、いまでもアルコホリズムの結末は死か狂気しかなかったはずだ・・・ということは逆に、今やアルコホーリクは神の恵みによって助かるようになっている、という意味です。つまり、これがステップ2へのつなぎになります。

あらゆる強迫観念は似ている

AAの12ステップは、あくまでアルコホリズムを解決するための手段です。しかしアルコール以外の問題に12ステップを使う多くのグループが生れ、活動を続けています。ジョー・マキューらは『プログラム フォー ユー』で、こう述べています:

 これまでアルコールヘの強迫観念について述べたが、世の中にはいろいろな種類の強迫観念があり、多くの人が苦しんでいる。強迫観念とは、他のすべての考えを打ち消して、事実でないことを信じさせるほど強力な考えのことである。6)

そして、食べ物に対して強迫観念を持っている人たち、ギャンブルへの強迫観念のある人たち、人の飲酒をやめさせることに強迫観念を持つ人たちを例に、その人たちが自己破壊的行動を繰り返すという点でアルコホーリクととてもよく似ていることを説明しています。さらに:

 つまり、すべての強迫観念は非常によく似ているということである。私たちがアルコールに対してアレルギ一体質を持っているということは、さほど重要ではない。重要なことは、私たちの精神の中にある強迫観念である。そして、どんな種類の強迫観念であろうと、回復する唯一の方法は精神を通してである。7)

ジョー・マキューは『回復のステップ』や『ビッグブックのスポンサーシップ』という著書においても、様々な強迫観念(狂気)の共通性について述べています。8) 9)

つまり、様々な12ステップがありますが、どの12ステップでもステップ1の本質は共通しているのです。問題は私たちの精神の強迫観念であり、酒の問題でも、他の人の問題でもないのです。自分の精神の中にあって、いつ起きてくるかわからない強迫観念こそが、12ステップで解決する問題の核心なのです。

今回のまとめ
  • アルコホーリクのスリップ(再飲酒)は、身体的渇望によって起こるのではなく、精神の強迫観念によって引き起こされる。
  • アルコホーリクは、自分でもなぜその最初の一杯を飲んだのか分からない。
  • 精神の強迫観念とは、正常な思考ができなくなった状態であり、普段とは違う異常な思考が、異常な行動(再飲酒という自己破壊的行動)を取らせる。「狂気」と呼ぶのにふさわしい。
  • 強迫観念に打ち勝つことはできない。
  • アルコール・薬物以外にも、食べ物やギャンブルや、誰かの酒をやめさせようとすることなど、様々なことに強迫観念を持つ人たちがいて、それぞれに12ステップのグループを作っている。
  • 自分の精神の中にあり、いつ起きてくるかわからない強迫観念こそが、12ステップで解決する問題の核心である。

  1. BB, p.34 []
  2. BB, p.35 []
  3. AA, Alcoholics Anonymous: The Story of How Many Thousands of Men and Women Have Recovered from Alcoholism, AAWS, 2001, p.23 []
  4. BB, p.36 [] [] []
  5. BB, p.37 []
  6. 無名(A Program for You翻訳チーム訳)『プログラム フォー ユー』, 萌文社(ジャパンマック), 2011, p.49 []
  7. ibid, p.51 []
  8. ジョー・マキュー(依存症からの回復研究会訳)『回復の「ステップ」』, 依存症からの回復研究会, 2008, pp.15-17 []
  9. ジョー・マキュー(依存症からの回復研究会訳)『ビッグブックのスポンサーシップ』, 依存症からの回復研究会, 2007, pp.42-43 []