ビッグブックのスタディ (69) さらにアルコホリズムについて 4

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「やめる」という言葉の意味

前回は、私たちアルコホーリクは生涯酒をやめ続けるしかない、という話をしました。

ほどほどに飲むということができない人にとっては、要するにどうすればやめられるのかが問題だ。1)

飲酒中のアルコホーリクに関わった経験のある人は、「もう酒はやめる」と言ったアルコホーリクが、翌日も酒を飲んで酔っ払っている姿を見て、あの言葉は嘘だったのかと裏切られた気持ちになったことがあるでしょう。しかし、たいていの場合、本人はやめたいと思っていますし、(今日は飲んじゃったけど)明日こそ飲まないと心に決めているものなのです。ではなぜ、翌日も飲んでしまうのか。

飲んだ翌日には二日酔いの頭痛や目まいやけん怠感を感じ、その辛さから、もう飲まないという気持ちはさらに高まります。しかし、やがてその気持ちはひっくり返えされてしまいます。

体内でアルコールの分解が進むと二日酔いは治まっていきますが、それにかわって離脱症状(退薬症状)が起きてきます。離脱症状には個人差がありますが、アルコールの離脱の一日目は「インフルエンザに罹ったみたいな感じ」とよく言われます(熱は出ませんけど)。振戦やせん妄といった派手な離脱症状が出てくるのはもう少し時間が経ってからです。二日酔いには特効薬はありませんが、離脱症状にはよく効く薬があります。つまり酒を飲めばそうした症状はたちまち消失します。

アルコールの離脱症状
from アルコール依存症治療ナビ(日本新薬)

かくして、アルコホーリクは「もう酒はこれっきりにして、明日から飲まない」と決めたはずなのに、翌日も離脱症状の苦しさに負けて飲んでいるのです。断酒を始めるにはこのような困難を乗り越えなければなりません。しかしビッグブックにはこの困難については、すげない記述しかありません。「医師の意見」で入院して酒を切ることを勧めているのみです(pp.xxxiii (33), xxxv (35))。初期のアクロンやニューヨークのAAメンバーはほとんどが入院を経験しましたし、現代の日本でも、離脱がきつくてやめられないのなら、アルコール病棟に入院するのが無難な選択肢でありましょう。ともあれ、やめたい気持ちをひっくり返させるだけの力が離脱にはあるのです。

しかしながら、ビッグブックのこの「酒をやめる」という表現は、断酒を始めることを指しているわけでは。断酒を始めた後、それを続けていくことを指しています。なぜ酒をやめ続けることが難しい(あるいはできない)のでしょうか?

アルコール依存症についての医学書を読むと、振戦せん妄などの派手な離脱症状も1~4週間程度で終息すると書かれています。その後、退薬後情動障害とか遷延性退薬徴候(protracted withdrawal syndrome)と呼ばれる症状――具体的には焦燥感や怒りっぽさなどが数ヶ月残ります。2) これが断酒初期の精神的な不安定さを作り出しており、再飲酒の要因になっていることが多いと思われます。

アルコールの離脱症状
左の二つの山が前掲図の二つの山に相当する。3)

しかし、再飲酒はこの数ヶ月に限って起きるわけではなく、1年経っても、2年経っても起こりえます。その頃には離脱症状は消えてなくなっているのですから、そうした再飲酒の原因が離脱症状ではないことは明らかです。私たちはビッグブックを読んで、それが強迫観念によるものだということを学んできました。

ビッグブックが扱っているのは、断酒を生涯にわたって続けることの難しさです。ですから、「やめる」という表現を「やめ続ける」に置き換えて読むと、意味を取り違えることがありません。例えば、先ほどの続きの、

私たちの多くは、・・・永久にやめようという、とても強い願いがあった。それにもかかわらず、飲むのをやめることができなかった。私たちが知るかぎりの、これがアルコホリズムの不可解な特徴である。つまり、どんなにやめる必要があり、どんなにやめることを願っても、飲まずにはいられないのだ。4)

という文章は、

私たちの多くは、・・・永久にやめ続けようという、とても強い願いがあった。それにもかかわらず、再飲酒してしまった。私たちが知るかぎりの、これがアルコホリズムの不可解な特徴である。つまり、どんなにやめ続ける必要があり、どんなにやめ続けることを願っても、いつかは飲まずにはいられなくなるのだ。

と読み替えてみれば良いのです。

不可解(baffling)とは、理解できないために人を当惑させるという意味です。アルコホーリクは、自分でもなぜ飲んでしまったのか分からずに当惑しているのです。適当な言い訳を思いついている場合もありますが、突き詰めて考えてみると、そんな言い訳は意味を成さないことは本人もちゃんとわかっているものです(cf, p.35)。そもそも、それは理解できるはずがないことです、なぜなら、再飲酒の瞬間、私たちアルコホーリクの精神は強迫観念が引き起こした狂気に支配されているからです。

飲んでしまった後で、アルコホーリクは「やっぱり飲むんじゃなかった」と後悔します(つまり、アルコホーリクは飲むと正気に戻るわけだ)。後になって、なぜあの時飲んでしまったのかと理由を考えてみても、狂った自分の精神が導き出した結論を、正気に戻った精神が合理的に説明できるはずはないのです。

やめ続けたいという強い願いを持っていても

その人が霊的でない方法でやめられるかどうかは、飲む飲まないの選択がどのくらいできなくなっているかにかかっている。4)

アルコールに依存する人たちは全員が意思の力で酒をやめ続けることができない、とはAAは主張していません。本物のアルコホーリクたちも、かつては自分の力で酒をやめられた時期があったはずですが、その頃にはやめようとは思わずに飲み続けていました。やめる気になればいつでもやめられる、と思っていたのに、いざやめてみようとしたら、自分がやめ続ける能力を失っていることに気がついて驚いたわけです。そうなる前の段階の人ならば、自分の力で酒をやめらる可能性はあるでしょう。実際、世の中には自分の力で酒をやめ続けている人はたくさんいるはずです。ただ、私たち本物のアルコホーリクにはそんなことはできないので、霊的な方法に頼らざるを得なくなったのです(cf. 第52回

本物のアルコホーリクになると、「永久にやめ続けようという、とても強い願い」を持っていたとしても、再飲酒してしまいます。事情をよく知らない人は、再飲酒は本人の意志の結果だから、この人には酒をやめる気は無かったのだと判断してしまいがちです。特に家族の人は「本人にやめる気がない」とおっしゃることが多いのですが、実際にはご本人はやめ続けたいと思っているものなのです(少なくともそういう気持ちがまったくない人は珍しい)。だから、スリップが分かったときに、「やっぱりこの人にはやめる気が無かったんだ」と考えてしまうのは、家族の強迫観念(狂気)だと言えます。

始めることと続けることの違い

今回は、「やめる」という言葉は生涯酒をやめ続けることを意味していること、そして、それができずに途中で飲んでしまうのは、やめる気が無いからではなく、やめ続けたいという強い気持ちを持っていてもやはり飲んでしまうのだ、という話をしました。改めて説明する必要はなかったかもしれません。断酒を始めることと、断酒を続けることには、それぞれ違った困難があるのですが、どちらも「やめる」という言葉で表現されるので、混乱を呼ぶことがあります。その整理のための回でした。

今回のまとめ
  • 酒を[やめる」という言葉は、ここでは断酒を始めることではなく、断酒を続けることを指している。
  • 断酒を始めることと、続けることには、それぞれ違った困難があり、ビッグブックは続けることの困難を扱っている。

  1. BB, p.51 []
  2. 小宮山徳太郎「アルコール離脱症状の病態と治療」, 洲脇寛他編『アルコール依存の生物学』, 学会出版センター, 1994, pp.89-106. []
  3. loc cit. []
  4. BB, p.51 [] []