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dependence:diagnostic:diagnostic_criteria_dsm_5

依存症の診断基準(DSM-5)

DSM-5に基づいたアルコール使用障害の診断基準について。

DSM-5に基づいたアルコール使用障害の基準

cf. 物質使用障害, アルコール使用障害

A.アルコールの問題となる使用様式で,臨床的に意味のある障害や苦痛が生じ,以下のうち少なくとも2つが,12ヶ月以内に起こることにより示される.

(1) アルコールを意図していたよりもしばしば大量に,または長期間にわたって使用する.→基準1
(2) アルコールの使用を減量または制限することに対する,持続的な欲求または努力の不成功がある.→基準2
(3) アルコールを得るために必要な活動,その使用,またはその作用から回復するのに多くの時間が費やされる.→基準3
(4) 渇望,つまりアルコール使用への強い欲求,または衝動.→渇望
(5) アルコールの反復的な使用の結果,職場,学校,または家庭における重要な役割の責任を果たすことができなくなる.→基準5
(6) アルコールの作用により,持続的,または反復的に社会的,対人的問題が起こり,悪化しているにもかかわらず,その使用を続ける.→基準6
(7) アルコールの使用のために,重要な社会的,職業的,または娯楽的活動を放棄,または縮小している.→基準7
(8) 身体的に危険な状況においてもアルコールの使用を反復する.→基準8
(9) 身体的または精神的問題が,持続的または反復的に起こり,悪化しているらしいと知っているにもかかわらず,アルコールの使用を続ける.→基準9
(10)耐性,以下のいずれかによって定義されるもの:→耐性
(a) 中毒または期待する効果に達するために,著しく増大した量のアルコールが必要
(b) 同じ量のアルコールの持続使用で効果が著しく減弱
(11)離脱,以下のいずれかによって明らかとなるもの:→離脱
(a) 特徴的なアルコール離脱症候群がある(アルコール離脱の基準AおよびBを参照).
(b) 離脱症状を軽減または回避するために,アルコール(またはベンゾジアゼピンのような密接に関連した物質)を摂取する.

該当すれば特定せよ
 寛解早期
 寛解持続
該当すれば特定せよ
 管理された環境下にある
現在の重症度を特定せよ
 305.00 (F10.10) 軽度:2~3項目の症状が存在する.
 303.90 (F10.20) 中等度:4~5項目の症状が存在する.
 303.90 (F10.20) 重度:6項目以上の症状が存在する.
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』1), pp.483-484

精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)

精神障害の診断と統計マニュアルDSM=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)は、アメリカ国内の精神保険の専門家(精神科医など)によって使われる精神障害(mental disorder)の標準的な分類。2000年に発表されたDSM-IV-TRが使われてきたが、2013年5月にアメリカ精神医学界の年次総会にてDSM-5が採択された。

 →DSM-5 (American Psychiatric Association)
 →精神障害の診断と統計マニュアル
 →『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』 (amazon.jp)
 →『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』 (amazon.jp)

診断カテゴリーより

この項の出典:
American Psychiatric Association(高橋三郎他訳)『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』amazon.jp, 医学書院, 2014

物質関連障害および嗜癖性障害群

Substance-Related and Addictive Disorders

 物質関連障害群は,10の異なる分類の薬物に及んでいる.アルコール;カフェイン;大麻;幻覚薬〔フェンシクリジン(または類似作用を有するアリルシクロへキシラミン)と,別に他の幻覚薬の一群〕;吸入剤;オピオイド;鎮静薬,睡眠薬,および抗不安薬;精神刺激薬(アンフェタミン型物質,コカイン,および他の精神刺激薬);タバコ;他の(または不明の)物質.これらの10の分類は,まったく異なっているのではない.すべての薬物は過剰に摂取されると,共通して脳の報酬系の直接的な活性化を引き起こしており,その報酬系は,行動の強化と記憶の生成に関与している.これらの物質は正常な活動が無視されるかもしれないほど強烈な報酬系の活性化を生み出す.適応的行動によって報酬系が活性化されるのではなく,乱用薬物が直接的に報酬経路を活性化するのである.薬物が報酬を生み出す薬理学的な機構は薬物の種類によって異なっているが,典型的には薬物は報酬系を活性化し,時には“ハイ”と呼ばれるほどの快楽の感情を生み出す.さらに,脳の抑制機構の障害を反映するような,より低い水準での自己制御しか有していない人では,特に物質使用障害が発現しやすいかもしれない.そのことは,人によっては物質使用障害の根本的原因が,現実の物質使用の発症よりかなり以前に行動の中に見いだされる可能性があることを示唆している.
 物質関連障害群に加えて,本章にはギャンブル障害も含まれている.このことは.ギャンブル行動が乱用薬物によって活性されるのと類似の報酬系を活性化させ,物質使用障害によって生じる行動上の症状と同等であるようにみえる症状を生じさせる,という証拠を反映している.インターネットゲームのような他の過剰な行動様式も記載されてきたが,その行動様式やその他の行動症候群についての研究では,それほど明らかではない.したがって,性嗜癖,運動嗜癖,買い物嗜癖などに下位分類される「行動嗜癖」と称される反復性行動の一群は除外されている.その理由は,現時点でこれらの行動群を精神疾患と認めるために必要な診断基準と経過記載を確立するには,他の専門家による評価を受けた証拠が不十分だからである.
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』2), p.473

DSM-IVの物質関連障害に対し、ギャンブルが加えられ「物質関連障害および嗜癖性障害群」となった。
下位分類として、以下の二つがある。
物質関連障害群(Substance-Related Disorders)
非物質関連障害群(Non-Substance-Related Disorders) — ギャンブル障害のみ

巻末の「今後の研究のための病態」の項目に、以下の二つがある。
・カフェイン使用障害(カフェイン依存)
・インターネットゲーム障害(Internet Gaming Disorder)

物質関連障害群

Substance-Related Disorders — 物質関連障害群は,10の異なる分類の薬物に及んでいる.

物質の分類に関連する診断
物質使用障害物質中毒物質離脱
アルコール × × ×
カフェイン × ×
大麻 × × ×
幻覚剤フェンシクリジン × ×
その他の幻覚剤 × ×
吸入剤 × × ×
オピオイド × × ×
鎮静剤,睡眠薬,または抗不安薬 × × ×
精神刺激薬 × × ×
タバコ × ×
その他(または不明) × × ×

注:×はDSM-5の中で認められている分類 『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』3), p.474

物質関連障害は2種類に分けられる。
物質使用障害(Substance Use Disorders) — 物質依存・物質乱用の区別はなくなった
物質誘発性障害(Substance-Induced Disorders) — 物質中毒・物質離脱など

DSM-IVからの変更:

  • 13カテゴリ→10カテゴリに整理された。
    • アンフェタミンとコカインが精神刺激薬に統合された。
    • 幻覚剤とフェンシクリジンが幻覚剤に統合され、フェンシクリジンとその他の幻覚剤という下位分類が設けられた。
    • 他物質とその他がその他(または不明)に統合された。
  • アヘン類→オピオイド(たぶん訳語変更)。
  • ニコチン→タバコ(名称変更)。
  • カフェイン離脱・大麻離脱・吸引剤離脱が加えられた。

DSM-IVでは、物質依存・物質乱用・物質中毒・物質離脱などについて、全物質に共通の診断基準が記述されていたが、DSM-5では物質別に診断基準が記述されている。ただし、ほとんどの項目が全物質に共通している。

物質使用障害群

Substance Use Disorders —

物質使用障害の本質的特徴は,物質に関連した重大な問題が生じているにもかかわらず,その人が物質を使用し続けることを示す,認知的,行動的,生理学的症状の一群である.

物質使用障害の重要な特徴は脳回路における潜在的な変化であって,この変化は解毒の後も続く場合があり,特に重度の障害の人にはそうである.こうした脳の変化が行動に与える影響は,個人が薬物に関連した刺激にさらされたときの反復性の再発や,薬物に対する強烈な渇望として明らかになるかもしれない.薬物のこうした持続的な影響は,長期にわたる治療的手段によって改善することがある.
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』4), p.475

物質使用障害

Substance Use Disorder —

物質に共通した診断基準を示したDSM-IVと異なり、DSM-5のマニュアルでは物質ごとに使用障害の診断基準が示されている。ここではそれらを統合して一つの物質使用障害の診断基準として表した。

A. 物質の問題となる使用様式で,臨床的に意味のある障害や苦痛が生じ,以下のうち少なくとも2つが,12ヶ月以内に起こることにより示される.
(1) 物質を意図していたよりもしばしば大量に,または長期間にわたって使用する.→基準1
(2) 物質の使用を減量または制限することに対する,持続的な欲求または努力の不成功がある.→基準2
(3) 物質を得るために必要な活動,その使用,またはその作用から回復するのに多くの時間が費やされる.→基準3
(4) 渇望,つまり物質使用への強い欲求,または衝動.
(5) 物質の反復的な使用の結果,職場,学校,または家庭における重要な役割の責任を果たすことができなくなる.→基準5
(6) 物質の作用により,持続的,または反復的に社会的,対人的問題が起こり,悪化しているにもかかわらず,その使用を続ける.→基準6
(7) 物質の使用のために,重要な社会的,職業的,または娯楽的活動を放棄,または縮小している.→基準7
(8) 身体的に危険な状況においても物質の使用を反復する.→基準8
(9) 身体的または精神的問題が,持続的または反復的に起こり,悪化しているらしいと知っているにもかかわらず,物質の使用を続ける.→基準9
(10)耐性,以下のいずれかによって定義されるもの:
(a) 中毒または期待する効果に達するために,著しく増大した量の物質が必要
(b) 同じ量の物質の持続使用で効果が著しく減弱
(11)離脱,以下のいずれかによって明らかとなるもの:
(a) 特徴的な物質離脱症候群がある.
(b) 離脱症状を軽減または回避するために,物質(または密接に関連した物質)を摂取する.

以下は、『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』5), pp.475-476より。

全体として,物質の使用障害の診断は,物質使用と関連した病的な行動様式に基づいている.まとまりを与えるよう,基準Aの個々の診断基準は,制御障害社会的障害危険な使用,そして薬理学的基準という4つの群にまとめられていると考えることができる.

制御障害物質使用に対する制御障害が最初の基準群である

基準1

その人は当初意図していたよりも,より多量にまたはより長期間,物質を使用するかも知れない.→ 旧基準3

基準2

その人は物質の使用を減量あるいは制御しようという希求を持続的に表明しているかもしれないし,使用量を減らしたり使用を中断しようという試みの度重なる失敗を報告するかも知れない. → 旧基準4

基準3

その人は非常に多くの時間を,物質の獲得,物質の使用,物質の作用からの回復に費やす場合がある.→ 旧基準5
より重度の物質使用障害の例では,その人の日常の活動の事実上すべてが,その物質を中心に展開している.

渇望

渇望(基準4)は,薬物に対する強烈な欲求または衝動となって現れ,それはいなかるときも出現することがあるが,特に出現しやすいのは,かつて薬物を獲得したり使用したりした環境においてである.渇望は古典的条件付けを伴うことが示されてきたが,脳内の特異的な報酬構造の活性化と関連している.ほかのことは何も考えられなくなるほどに薬物を摂取したいという強い衝動をこれまで経験したことがあるかどうかを尋ねることで,渇望は質問される.渇望は,差し迫った再発の徴候であるかもしれないので,現時点での渇望の有無は,しばしば治療転記の尺度として用いられる.→ 旧基準になし

社会的障害社会的障害が診断基準の第2群である

基準5

物質使用を繰り返した結果,職場,学校,または家庭で果たすべき重要な役割責任を果たすことができなくなることがある.→ 旧基準6

基準6

物質の作用によって引き起こされたり悪化したりした,社会上のまたは対人関係上の問題が,持続したり,繰り返されたりしてもなお,その人は物質使用を続けるかもしれない.→ 旧基準7

基準7

物質使用の結果,重要な社会的,職業的あるいは娯楽的な活動が放棄されたり,縮小されるかもしれない.→ 旧基準6

危険な使用物質の危険な使用が診断基準の第3群である

基準8

これは,身体的に危険な状況で物質を繰り返し使用するという形をとる場合がある.→ 旧基準になし

基準9

持続的または反復性の身体的または精神的な問題が物質によって引き起こされた,あるいは悪化したらしいとわかっていても,その人は物質使用を続けることがある(基準9).→ 旧基準になし
この基準を評価する際の鍵となる論点は,問題が存在する問題が存在することではなく,物質が引き起こす困難にもかかわらず,物質を用いることをやめることができないということである.

薬理学的基準薬理な基準が最後の一群である

耐性

耐性 (基準10)は,望むような効果を得るために必要的な物質の量が著明に増大するか,または通常量を摂取した際の効果が著明に減弱するかのいずれかによって示される.耐性が出現する度合いは個人や物質によってさまざまであるし,また中枢神経系への効果の多様さとも関連していることがある.例えば,おのおのの物質によって,呼吸抑制への耐性と,鎮静および協調運動への耐性は,別々の比率で出現するかもしれない.耐性を病歴だけから判定するのは難しいことがあり,検査所見が有用であるかもしれない(例:物質の血中濃度が高いのに中毒の所見がほとんど認められない場合は,耐性が形成されているだろうと考えられる).耐性は,特定の物質の効果に関する初期の感受性についての個体差とは区別さされなければならない.例えば,3,4杯飲酒する場合に,初回飲酒者でほとんど中毒の徴候を示さない者ももいるが,同じくらいの体重で飲酒歴をもつ人で,発語が不明瞭になり,協調運動障害を示す者もいる。→ 旧基準1

離脱

離脱(基準11)は,物質を長期にわたって大量に摂取していた人において,血中あるいは組織内の物質の濃度が減少したときに生じる症候である.離脱症状が出現した後,その人は症状を和らげるためにその物質を使用しようとする傾向がある.離脱症状は物質の分類によって大きく相違しているので,物質の分類ごとに別々の離脱症状の基準が作られている.顕著で通常は容易に評価できる離脱の生理学的徴候が,アルコール,オピオイド,鎮静薬,睡眠薬,および抗不安薬に共通してみられる.精神刺激薬(アンフェタミンとコカイン)の場合は,タバコや大麻の場合と同様に離脱症状がしばしば出現するが,それほど明確ではない場合がある.フェンシクリジン,他の幻覚薬,および吸入剤を繰り返して使用した後には,人間では著明な離脱は報告されていない.したがって,この基準はこれらの物質については含まれない.耐性も離脱も物質使用障害の診断にとって必須ではない.しかし,大部分の分類の物質で,離脱の既往はより重篤な臨床経過(つまり,物質使用障害のより早期の発症,より高用量の物質摂取,より多くの物質関連問題)と関連している.→ 旧基準2
処方された医薬品(例:オピオイド鎮痛薬,鎮静剤,精神刺激薬)による適切な医学的治療が行われている間に出現した耐性と離脱の症状は,物質使用障害を診断する際には,特別には考慮に入れ**ない**.医学的治療が行われている間に生じる,正常の予想される薬理学的な耐性と離脱は,それらが唯一の現存する症状である場合でさえ,「噂癖」という誤った診断が下されてきたことが知らている.医学的治療の結果として生じる症候しか認められない人には(すなわち,医薬品が処方通りに摂取された場合やに,医療の一部として生じる耐性や離脱),そうした症状のみに基づいて診断をくだすべきではない.しかし,処方された医薬品が不適切に用いられる場合もある.物質使用障害が正確に診断できるのは,強迫的な薬物探索行動といった他の症状が存在してる場合である.

重症度

物質使用障害は,その重症度が軽度から重度まで幅広く起こり,重症度は満たされた症状基準の数に基づいて評価される.重症度の一般的な評価として,2つないし3つの症状が当てはまれば軽度,4つないし5つの症状が当てはまれば中等度,6つないしそれ以上の症状が当てはまれば重度の物質障害と考える.

嗜癖

嗜癖という言葉は,多くの国で,物質の強迫的で習慣的な使用に関連した重篤な問題を記載するために一般的に用いられているが,この分類では診断用語としては使用されていないことに注意すること.より中立的な用語としての物質使用障害が,軽度の場合から慢性的に再発し強迫的な薬物摂取を伴うような重度の状態まで,この障害の広い範囲を記載するのに用いられる.嗜癖という言葉を用いてより極端な症状を記載する臨床家もいるが,この言葉は公式のDSM-5の物質使用障害の診断用語からは除外されている.その理由は,この語の定義が不明確であり,潜在的に否定的な意味を内包しているからである. 『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』6), p.477

参考:Substance Use Disorder

A. A problematic pattern of substance use leading to clinically significant impairment or distress, as manifested by at least two of the following, occurring within a 12-month period:
(1) Substance is often taken in larger amounts and/or over a longer period than the patient intended.
(2) Persistent attempts or one or more unsuccessful efforts made to cut down or control substance use.
(3) A great deal of time is spent in activities necessary to obtain the substance, use the substance, or recover from effects.
(4) Craving or strong desire or urge to use the substance.
(5) Recurrent substance use resulting in a failure to fulfill major role obligations at work, school, or home.
(6) Continued substance use despite having persistent or recurrent social or interpersonal problem caused or exacerbated by the effects of the substance.
(7) Important social, occupational or recreational activities given up or reduced because of substance use.
(8) Recurrent substance use in situations in which it is physically hazardous.
(9) Substance use is continued despite knowledge of having a persistent or recurrent physical or psychological problem that is likely to have been caused or exacerbated by the substance.
(10)Tolerance, as defined by either of the following:
(a) Markedly increased amounts of the substance in order to achieve intoxication or desired effect;
(b) Markedly diminished effect with continued use of the same amount;
(11)Withdrawal, as manifested by either of the following:
(a) The characteristic withdrawal syndrome for the substance;
(b) The same (or a closely related) substance is taken to relieve or avoid withdrawal symptoms;

物質誘発性障害群

Substance-Induced Disorders —

物質誘発性障害群の全体的カテゴリーには,中毒,離脱,他の物質・医薬品誘発性精神疾患が含まれる.

物質中毒

Substance Intoxication —

基本的特徴は,最近物質を摂取したことによる可逆的な物質特異的症候群の出現である(基準A).中毒による臨床的に意味のある問題行動あるいは心理的変化(例:好争性,気分の不安定性,判断の障害)は,中枢神経系に対する物質の生理学的影響に起因しており,物質の使用中,あるいは使用後まもなく出現する(基準B).症状は,他の医学的疾患に起因しておらず,他の精神疾患ではうまく説明されない(基準D).物質中毒は物質使用障害の人々には共通に認められるが,物質使用障害のない人にもしばしば出現する.このカテゴリーはタバコには適用されない『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』7), p.478

物質離脱

Substance Withdrawal —

基本的な特徴は,それぞれの物質に特異的な問題行動上の変化の出現であり,生理学的,認知的な付随現象を有しているが,それは大量の長期にわたる物質使用の中断あるいは減量に起因している(基準A).それぞれの物質に特異的な症候群は,臨床的に意味のある苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こす(基準C).症状は,他の医学的疾患によるものではなく,他の精神疾患によってうまく説明されるものでもない(基準D).離脱は通常,しかし常にではないが,物質使用障害に関連している.離脱のある人のほとんどは,症状の軽減のために物質を再び使用したい衝動をもっている. 『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』8), p.478

アルコール使用障害群

Alcohol Use Disorders —

アルコール使用障害

Alcohol Use Disorder — 基準はこちらを参照。

 305.00 軽度 — (F10.10)
 303.90 中等度— (F10.20)
 303.90 重度— (F10.20)

経過

アルコール使用障害は,さまざまな経過をとるが,それは寛解と再発の期間によって特徴づけられている.断酒の決心は,しばしば危機への反応としてなされ,数週間またはそれ以上の禁酒がなされ,その後,制限されたまたは問題のない飲酒か限られた期間続くことが多い. しかし,いったんアルコール摂取が再開されると,消費か急激に高まり,重大な問題が再び生じる可能性が高い.
治療を受けにくる人達が典型的に長年にわたる重度のアルコール関連問題を抱えているという事実から,しばしばアルコ一ル使用障害が手に負えない障害であるというと誤って認識されている.しかし,これらの最も重度の症例はこの障害をもつ人のほんの一部にすぎず,典型的なアルコール使用障害の予後ははるかに良い. 『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』9), p.486

303.00 アルコール中毒

Alcohol Intoxication —

A最近のアルコール摂取.
B臨床的に意味のある不適応性の行動的または心理学的変化(例:不適切な性的または攻撃的行動,気分の不安定,判断能力の低下)が,アルコール摂取中または摂取後すぐに発現する.
C以下の徴候または症状のうち1つ(またはそれ以上)が,アルコール使用中または使用後すぐに発現する.
 (1) ろれつの回らない会話
 (2) 協調運動障害
 (3) 不安定歩行
 (4) 眼振
 (5) 注意あるいは記憶の低下
 (6) 昏迷あるいは昏睡
Dその徴候または症状は,他の医学的疾患によるものではなく,他の物質の中毒を含む他の精神疾患では旨く説明できない.

『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』10), pp.489-490

291.81 アルコール離脱

Alcohol Withdrawal —

A大量かつ長期間にわたっていたアルコール使用の中止(または減量).
B以下のうち2つ(あるいはそれ以上)が,基準Aで記載されたアルコール使用の中止(または減量)の後,数時間~数日以内に発現する.
 (1) 自律神経過活動(例:発汗または100/分以上の脈拍数)
 (2) 手指振戦の増加
 (3) 不眠
 (4) 嘔気または嘔吐
 (5) 一過性の視覚性,触覚性,または聴覚性の幻覚または錯覚
 (6) 精神運動興奮
 (7) 不安
 (8) 全般性硬直間代発作
C基準Bの症候または症状は,臨床的に意味のある苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている.
Dその徴候または症状は,多の医学的疾患によるものではなく,多の物質による中毒または離脱を含む多の精神疾患では旨く説明できない.

『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』11), p.492

非物質関連障害群

Non-Substance-Related Disorders —

312.31 ギャンブル障害

Gambling Disorder — (F63.0)

A. 臨床的に意味のある機能障害あるいは苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題賭博行動で,その人が過去12ヶ月間に以下のうち4つ(またはそれ以上)を示している.
(1)興奮を得たいがために,掛け金の額を増やして賭博をする要求.
(2)賭博をするのを中断したり,または中止したりすると落ち着かなくなる.またはいらだつ.
(3)賭博をするのを制限する,減らす,または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある.
(4)しばしば賭博に心を奪われている(例:過去の賭博体験を再体験すること、ハンディをつけること,または次の賭けの計画を立てること,賭博をするための金銭を得る方法を考えること,を絶えず考えている).
(5)苦痛の気分(例:無気力,罪悪感,不安,抑うつ)のときに、賭博をすることが多い.
(6)賭博で金をすった後,別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(失った金を“深追い”する).
(7)賭博へののめり込みを隠すために、嘘をつく.
(8)賭博のために,重要な人間関係,仕事,教育,または職業上の機会を危険にさらし,または失ったことがある.
(9)賭博によって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために,他人に金を出してくれるように頼む.
B. その賭博行動は,躁病エピソードではうまく説明されない.

該当すれば特定せよ
 挿話性
 持続性
該当すれば特定せよ
 寛解早期
 寛解持続
現在の重症度を特定せよ
 軽度 4~5項目の基準に当てはまる.
 中等度 6~7項目の基準に当てはまる.
 重度 8~9項目の基準に当てはまる.

注:物質の摂取を伴わないいくつかの行動状態は物質関連障害群に類似しているが,ただ1つの障害,つまりギャンブル障害はこの項に含まれる十分なデータがある.
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』12), pp.578-579

重症度

重症度は当てはまる基準の数に基づく.軽度ギャンブル障害の人は基準の4~5項目だけを示し,最も良く当てはまる基準は,通常,賭博に心を奪われることと失った金の“深追い”に関連したものである.中等度ギャンブル障害の人は基準のより多くを示す(すなわち、6~7項目).最重度のギャンブル障害の人は基準のすべてまたは9項目のうちほとんどを示す(すなわち、8~9項目).賭博のために対人関係や職業上の機会を危険にさらすこと,賭博で失った金を出してくれるように他人に頼むことは,典型的には最も当てはまることの少ない基準で,より重度のギャンブル障害の人の中で最もよく見られる.

診断的特徴

ギャンブル障害の基本的特徴は,本人,家族,および/または職務の遂行を破壊する,持続的で反復的な不適応賭博行為である(基準A).
“失った金を深追いする”傾向が強まり,1回または一連の損害を取り戻そうとするために(しばしば高額の掛け金やより大きな危険性を伴う)賭博を続けたいという切迫した欲求が生じるようになる.そうした人は賭博に関する自分なりの戦略を捨てて,失った物すべてを一度に取り戻そうとすることがある.賭博者の多くは短期間は“深追い”をすることがあるが,頻回にそしてしばしば長期間の“深追い”をすることがギャンブル障害に特徴的なものである(基準A6).
こうした人は,賭博へののめり込みを隠すために,家族,治療者,または他の人達に嘘をつくことがある.これらの例には,賭博をする金を得るために行う偽造,詐欺,窃盗,または横領のような非合法な行為の隠蔽をも含むかも知れないが,しかしそれにとどまらない(基準A7).
または賭博によって引き起こされた絶望的な経済状態に対して,家族や他人に援助を求める“保釈”行動を取るかも知れない(基準A9).

アルコール・薬物以外の嗜癖的行動

アルコール・薬物以外の嗜癖的行動がDSM-IVでどのように分類されているか。

  • パラフィリア障害群 — Paraphilic Disorders
    • 302.82 (F65.3) 窃視障害 — Voyeuristic Disorder
    • 302.4 (F65.2) 露出障害 — Exhibitionistic Disorder
    • 302.89 (F65.81) 窃触障害 — Frotteuristic Disorder
    • 302.2 (F65.4) 小児性愛障害 — Pedophilic Disorder
  • 食行動障害および摂食障害群 — Feeding and Eating Disorders
    • 307.1 ( . ) 神経性やせ症/神経性無食欲症 — Anorexia Nervosa
    • 307.51 (F50.2) 神経性過食症/神経性大食症 — Bulimia Nervosa
  • 秩序破壊型・衝動制御・素行症群 — Disruptive, Impulse-Control, and Conduct Disorders
    • 312.33 (F63.1) 放火症 — Pyromania
    • 312.32 (F63.2) 窃盗症 — Kleptomania

関連項目

外部リンク

1) , 2) , 3) , 4) , 5) , 6) , 7) , 8) , 9) , 10) , 11) , 12)
American Psychiatric Association(高橋三郎他訳)『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』amazon.jp, 医学書院, 2014
dependence/diagnostic/diagnostic_criteria_dsm_5.txt · 最終更新: 2020/06/04 by ひいらぎ