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依存症の診断基準(ICD-10)

国際疾病分類(ICD-10)の診断ガイドラインに基づいたアルコール依存症(依存症候群)の診断基準について。

ICD-10に基づいたアルコール依存症の診断基準

過去1年間のある期間に、次の項目のうち3つ以上がともに存在した場合:

(a)アルコールを飲みたいという強い欲望あるいは強迫感。
(b)飲酒の開始、終了、あるいは飲酒量に関して、その飲酒行動を統制することが困難。
(c)飲酒を中止もしくは減量したときの生理学的離脱状態。
(d)はじめはより少量で得られたアルコールの効果を得るために、飲酒量をふやさなければならないような耐性の証拠。
(e)飲酒のために、それにかわる楽しみや興味を次第に無視するようになり、飲酒せざるをえない時間や、その効果からの回復に要する時間が延長する。
(f)明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、いぜんとして飲酒する。

※これは、依存症候群(F1x.2)の診断ガイドラインを元に、「物質」をアルコールに、「物質使用」を飲酒に置き換えるなどして筆者が作成したものである。

国際疾病分類(ICD-10)

国際疾病分類(ICD=International Classification of Diseases)は、世界保健機関(WHO)の定める伝染病、健康管理、臨床利用を目的とした標準的な診断分類である。現在の第10版(ICD-10)は1990年のWHO総会にて承認され、1994年より加盟国で使われている。第11版は2019年にWHO総会にて承認され、2022年に発効する予定である。

 →International Classification of Diseases (ICD) (World Health Organization)
 →疾病及び関連保健問題の国際統計分類

正式名称は “International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems”(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)。

ICDの基本原則は、全ての疾病、傷害等を網羅している「網羅性」と、分類同士の重複がない「排他性」です。これらの基本原則により、ICDを用いることで全ての傷病名を分類することが可能となるため、死因統計や疾病統計などへの使用に適していると言えます。 「疾病、傷害及び死因の統計分類の正しい理解と普及に向けて(ICD-10(2013年版)準拠)」1), p.1

すべての疾病、障害等は、ICD-10のどれか一つの項目に分類される。

疾病、傷害及び死因の統計分類

日本では、ICD-10に準拠した統計分類として、「疾病、傷害及び死因の統計分類」が定められている。

統計法:
第二十八条 総務大臣は、政令で定めるところにより、統計基準を定めなければならない。
第二条9 この法律において「統計基準」とは、公的統計の作成に際し、その統一性又は総合性を確保するための技術的な基準をいう。 統計法(平成十九年法律第五十三号)(e-gov.go.jp)

統計用途

ICD-10は日本では統計分類として告示で規定され、その詳細は、統計情報部の発行する「疾病、傷害および死因統計分類提要」によります。 「疾病、傷害及び死因の統計分類の正しい理解と普及に向けて(ICD-10(2013年版)準拠)」2), p.8

日本ではICD-10は統計に用いることのみが総務省告示によって決められている。カルテ病名・レセプト傷病名の設定には関与しない(カルテ・レセプトに記載される病名(臨床病名)はICD-10のものに限らない)。電子カルテおよび電子的な診療報酬請求のために厚生労働省が作成した標準病名マスターはICD-10に対応している。

 →「疾病、傷害及び死因の統計分類」 (厚生労働省)

精神および行動の障害(F00-F99)

精神および行動の障害(Mental and behaviouiral disorders)は第5章であり、診断カテゴリーの第1桁にFの文字が割り当てられている。

臨床記述と診断ガイドラインより

この項の出典: 『ICD-10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン―』3), pp.81-

精神作用物質使用による精神および行動の障害(F10-F19)

ICD-10では精神作用物質(医学的に処方された物であるかいなかを問わない)の使用によって生じた障害(disorder)をF1xにまとめている。精神作用物質を10種に分類して3桁目に割り当てている。4桁目以下は物質によらず共通である。

F1. 精神作用物質使用による精神および行動の障害
Mental and behavioural disorders due to psychoactlve substance use

第3桁
F10.アルコール使用による精神および行動の障害
F11.アヘン類使用による精神および行動の障害
F12.大麻類使用による精神および行動の障害
F13.鎮静剤あるいは睡眠剤使用による精神および行動の障害
F14.コカイン使用による精神および行動の障害
F15.カフェインを含む他の精神刺激剤使用による精神および行動の障害
F16.幻覚剤使用による精神および行動の障害
F17.タバコ使用による精神および行動の障害
F18.揮発性溶剤使用による精神および行動の障害
F19.多剤使用および他の精神作用物質使用による精神および行動の障害
第4桁
F1x.0急性中毒
F1x.1有害な使用
F1x.2依存症候群
F1x.3離脱症状
F1x.4せん妄をともなう離脱症状
F1x.5精神病性障害
F1x.6健忘症候群
F1x.7残遺性障害および遅発性の精神病性障害
F1x.8他の精神及び行動の傷害
F1x.9特定不能の精神及び行動の傷害

『ICD-10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン―』4), pp.81-89

すべての4桁分類コードがあらゆる物質に当てはまるものではないことに注意すべきである。5)

参考
 →ICD-10 Version for 2010: Mental and behavioural disorders due to psychoactive substance use (F10-F19) (WHO)
 →The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders: (WHO)
   Clinical descriptions and diagnostic guidelines [pdf]
   Diagnostic criteria for research [pdf]

急性中毒(F1x.0)

Acute Intoxication — cf. DSM-IV 物質中毒, 303.80 アルコール中毒

アルコールあるいは精神作用物質の投与に続いて,意識水準,認知,知覚,感情か行動,あるいは他の精神生理的な機能と反応の障害が一過性に生じた状態.(持続的な場合には精神病性障害(F1x.5)という診断を優先すべきである).

薬物による中毒<poisoning>はT36-50に分類する。※ 中毒(intoxicationintoxication)には、 ①酔うこと(inebriation)②中毒(poisoning)の意味がある。6)

有害な使用(F1x.1)

Harmful use — cf. DSM-IV 物質乱用

健康に害を及ぼす精神作用物質使用パターン.その障害は身体的なもの(自らの注射によって肝炎になる場合のように)であったり,精神的なもの(たとえば,大量飲酒後の二次的なうつ病性障害のエピソード)であったりする.
診断ガイドライン
診断には,使用者の精神的あるいは身体的な健康に実際に害が起きていことが必要である.

DSM-IVの物質乱用が社会的問題を基準に加えているのに対し、ICD-10の有害な使用は医学的な問題だけを基準としている。

依存症候群(F1x.2)

Dependence syndrome — cf. DSM-IV 物質依存

ある物質あるいはある種の物質使用が,その人にとって以前にはより大きな価値をもっていた他の行動より,はるかに優先するようになる一群の生理的,行動的・認知的現象.依存症候群の中心となる記述的特徴は,精神作用物質(医学的に処方されたものであってもなくても),アルコールあるいはタバコを使用したいという欲望(しばしば強く,時に抵抗できない)である.
ある期間物質を禁断したあと再使用すると,非依存者よりも早くこの症候群の他の特徴が再出現するという証拠がある.

診断ガイドライン
 依存の確定診断は,通常過去1年間のある期間,次の項目のうち3つ以上がともに存在した場合にのみくだすべきである.

(a)物質を摂取したいという強い欲望あるいは強迫感.
(b)物質使用の開始,終了,あるいは使用量に関して,その物質摂取行動を統制することが困難.
(c)物質使用を中止もしくは減量したときの生理学的離脱状態(F1x.3とF1x.4を参照).その物質に特徴的な離脱症候群の出現や,離脱症状を軽減するか避ける意図で同じ物質(もしくは近縁の物質)を使用することが証拠となる.
(d)はじめはより少量で得られたその精神作用物質の効果を得るために,使用量をふやさなければならないような耐性の証拠(この顕著な例は,アルコールとアヘンの依存者に認められる.彼らは,耐性のない使用者には耐えられないか,あるいは致死的な量を毎日摂取することがある).
(e)精神作用物質使用のために,それにかわる楽しみや興味を次第に無視するようになり,その物質を摂取せざるをえない時間や,その効果からの回復に要する時間が延長する.
(f)明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず,いぜんとして物質を使用する.たとえば,過度の飲酒による肝臓障害,ある期間物質を大量使用した結果としての抑うつ気分状態,薬物に関連した認知機能の障害などの害.使用者がその害の性質と大きさに実際に気づいていることを(予測にしろ)確定するよう努力しなければならない.

 精神作用物質使用のパターンの個人的な幅が狭くなることが特徴として記述されている(たとえば,適切な飲酒行動を求める社会的束縛を無視して,平日でも週末でもアルコールを飲む傾向).

 精神作用物質を使用していること,あるいは特定の物質使用の欲求が存在することが依存症候群の本質的な特徴である.薬物使用への衝動に対する自覚は,物質の使用をやめようとしたり制御しようとするときに最も一般的に認められるものである.以下の場合はこの診断は除外される.たとえば,鎮痛のためにアヘン類薬剤を投与され,それが投与されないとアヘン類離脱状態の徴候を示すが,しかし薬物を使用し続けたいという欲求をもたぬ外科患者.

 依存症候群は特別な物質(たとえば,タバコやジアゼパム),ある種の物質(たとえば,アヘンおよびアヘン様物質),あるいは広い範囲のさまざまな物質によって起こりうるものである(利用しうる薬物ならどんなものでも使用したいという衝動を常に感じ,禁断のさいには苦悩,激越,および/または離脱状態の身体的徴候を示す人びとにみられるように).

 〈含〉慢性アルコール症
    渇酒症(dipsomania)
    薬物嗜癖

 依存症候群の診断は,さらに以下のような5桁のコードによって特定することができる.

  • F1x.20  現在中断しているもの
    • F1x.200 Early remission (早期寛解)
    • F1x.201 Partial remission (部分寛解)
    • F1x.202 Full remission (完全寛解)
  • F1x.21  現在中断しているが,保護された環境にいるもの(たとえば,病院,治療共同体,刑務所など)
  • F1x.22  現在臨床指導によって中断を持続しているもの,あるいは置換療法下にあるもの(コントロールされた依存)(たとえば,メサドン,ニコチンガムあるいはニコチンパッチ)
  • F1x.23  現在中断しているが嫌悪剤あるいは阻止剤による治療下にあるもの(たとえば,ナルトレキソンあるいいはジサルフィラム)
  • F1x.24  現在物質を使用しているもの(依存中)
  • F1x.25  持続的使用
  • F1x.26  挿間的使用(渇酒症)

『ICD-10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン―』7), pp.87-88

離脱状態(F1x.3)

Withdrawal state — cf. DSM-IV 物質離脱, アルコール離脱

ある物質を,反復し,通常は長期に,および/または大量に使用したあとで,その物質から完全あるいは不完全に離脱することによって起き,さまざまな症状と重症度からなる症候群である.

参考:Dependence syndrome

Diagnostic guidelines
A definite diagnosis of dependence should usually be made only if three or more of the following have been present together at some time during the previous year:

(a)a strong desire or sense of compulsion to take the substance;
(b)difficulties in controlling substance-taking behaviour in terms of its onset, termination, or levels of use;
(c)a physiological withdrawal state (see F1x.3 and F1x.4) when substance use has ceased or been reduced, as evidenced by: the characteristic withdrawal syndrome for the substance; or use of the same (or a closely related) substance with the intention of relieving or avoiding withdrawal symptoms;
(d)evidence of tolerance, such that increased doses of the psychoactive substances are required in order to achieve effects originally produced by lower doses (clear examples of this are found in alcohol- and opiate-dependent individuals who may take daily doses sufficient to incapacitate or kill nontolerant users);
(e)progressive neglect of alternative pleasures or interests because of psychoactive substance use, increased amount of time necessary to obtain or take the substance or to recover from its effects;
(f)persisting with substance use despite clear evidence of overtly harmful consequences, such as harm to the liver through excessive drinking, depressive mood states consequent to periods of heavy substance use, or drug-related impairment of cognitive functioning; efforts should be made to determine that the user was actually, or could be expected to be, aware of the nature and extent of the harm.
  • F1x.20 Currently abstinent
  • F1x.21 Currently abstinent, but in a protected environment (e.g. in hospital, in a therapeutic community, in prison, etc.)
  • F1x.22 Currently on a clinically supervised maintenance or replacement regime [controlled dependence] (e.g. with methadone; nicotine gum or nicotine patch)
  • F1x.23 Currently abstinent, but receiving treatment with aversive or blocking drugs (e.g. naltrexone or disulfiram)
  • F1x.24 Currently using the substance [active dependence]
  • F1x.25 Continuous use
  • F1x.26 Episodic use [dipsomani]

The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders: Clinical descriptions and diagnostic guidelines8), pp.75-77

精神作用物質(アルコール・薬物)以外の嗜癖的行動

精神作用物質(アルコール・薬物)以外の嗜癖的行動がICD-10でどのように分類されているか。

  • F5 生理的障害および身体的要因に関連した行動傷害
    • F50 摂食障害(無食欲症・大食症など) - anorexia nervosa
      • F50.0 神経性無食欲症 - Anorexia nervosa
      • F50.1 非定型神経性無食欲症 - Atypical anorexia nervosa
      • F50.2 神経性大食症 - Bulimia nervosa
      • F50.3 非定型神経性大食症 - Atypical bulimia nervosa
  • F6 成人の人格及び行動の傷害
    • F63 習慣及び衝動の障害
      • F63.0 病的賭博 - Pathological gambling
      • F63.1 病的放火(放火癖)- Pathological fire-setting [pyromania]
      • F63.2 病的窃盗(窃盗癖)- Pathological stealing [kleptomania]
      • F63.3 抜毛症(抜毛癖) - Trichotillomania
      • F63.8 他の習慣及び衝動の障害
    • F65 性嗜好障害
      • F65.2 露出症 - Exhibitionism
      • F65.3 窃視症 - Voyeurism
      • F65.4 小児性愛 - Pedophilia
      • F65.8 他の性嗜好障害 - さわり魔的行為(frotteurism)を含む

関連項目

外部リンク

dependence/diagnostic/diagnostic_criteria_icd_10.txt · 最終更新: 2020/05/21 by ひいらぎ