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Das Dilemma der Stachelschweine - 「心の家路」のブログ

「むちゃな飲み方をしたくなる」欲求とかかわる遺伝子を特定

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「むちゃな飲み方をしたくなる」欲求とかかわる遺伝子を特定
http://gigazine.net/news/20110302_binge_drinking_gene/魚拓

「Binge Drinking(ビンジドリンキング)」というのは、飲み始めて2時間で血中アルコール濃度0.8%(質量濃度)に達するような「むちゃ飲み」「大量飲酒」のことで、いわゆる「コール」がかかる学生の飲み会のようなペースの飲み方。「毎日コンスタントに飲む」「飲むのをやめると離脱症状が出る」というアルコール依存症とは違いますが、特に若い世代に多い「毎日は飲まなくても週1回仲間と大騒ぎして二日酔いになるほど飲む」というような「ビンジドリンキング」の習慣は深刻な健康リスクとなり得るうえ、交通事故や犯罪などにもつながりかねません。

メリーランド大学医学校の研究により、この「ビンジドリンキング」にかかわる2つの遺伝子が特定され、飲酒問題への新たなアプローチにつながると期待されています。

詳細は以下から。

University of Maryland School of Medicine Study Identifies Genes Associated With Binge Drinking
http://somvweb.som.umaryland.edu/absolutenm/templates/?a=1468魚拓

アメリカでは現在、飲酒人口の30%が「飲み過ぎる」習慣を持ち、年間7万5000人が「過度の飲酒」が直接的・間接的な死因となって死亡しているそうです。

アルコール依存の治療法としてはアメリカではNaltrexoneやAcamprosateといった「渇望」をおさえるための薬のほか、離脱症状を抑えるためにジアゼパムやクロルジアゼポキシドといった抗不安薬が処方されるケースが多いとのことですが、抗不安薬は断酒による不安感などを抑える効果があるもののアルコールへの「渇望」を抑えることはできず、抗不安薬自体に依存性があるという問題もあります。遺伝子治療は現在の薬物療法や心理療法にかわる新たなアプローチとなり得ると期待されていますが、それにはまずターゲットとする遺伝子の特定が必要です。

University of Maryland School of MedicineのHarry June教授らは、「ビンジドリンキング」の習慣をつけたラットの脳のGABA受容体とTLR4(Toll様受容体4)という2つのレセプターを操作することで、「選択的かつ大幅な」ビンジドリンキングの減少(2週間にわたりアルコールへの興味を失う)を確認したそうです。論文はProceedings of the National Academy of Sciences誌に掲載されています。

GABA受容体は神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)と結合するタンパク質で、GABAに反応しニューロン活動を抑制する抑制性受容体として働きます。アルコールはこのGABA受容体と反応するアゴニストであるため、お酒を飲んだときの「落ち着いた気分」や「多幸感」をもたらし、これが「報酬」となり大量飲酒を助長するのです。

TLR4は、これまで主に脳の神経炎症にかかわる先天性の免疫受容体だと考えられ、脳で炎症の修復に関与する小膠細胞と結びつけられてきました。このTLR4と大量飲酒の関係が明るみに出たのは今回の研究が初めてで、TLR4はGABA受容体の神経伝達において重要な役割を担っているのではないかと示唆されるそうです。

では具体的にどうやって実験を行ったかというと、June教授は同大学の薬理学・実験治療学・微生物学・免疫学の教授Laure Aurelian博士の協力を得て、ヘルペスバイラルベクター(不活性化した単純ヘルペスウイルスにsiRNAを組み込んだもの)に特定の遺伝子情報を運ばせ「酒飲み」のラットの脳へ直接送り込み遺伝子発現を抑制するという手法をとりました。

まずGABA受容体の中でもGABRA2(GABAA受容体α2)というサブユニットの発現を抑制するベクターを扁桃体の中枢神経に送り込んだところ、GABRA2の抑制およびGABAA受容体密度の低下とTLR4の抑制が見られるとともにラットのビンジドリンキングは抑制され、TLR4の発現を抑制するベクターでも同様に酒を飲まなくなる効果が見られたそうです。どちらのベクターでもショ糖摂取量には影響はありませんでした。一方、GABRA2・TLR4どちらのベクターも腹側淡蒼球へ送り込んだ場合は飲酒抑制効果は見られなかったとのこと。

今回の結果を受けて、ヘロイン中毒の治療に使われるメタドンのように、近い将来GABA受容体やTLR4に働きかける薬物が人間のアルコール依存の治療に使われるようになる可能性があるようです。また、ビンジドリンキングにおけるTLR4の働きをさらに調査し、その結果次第でGABA受容体とTLR4の双方もしくはTLR4のみをターゲットとした新たな治療法が登場することが期待されています。

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