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Das Dilemma der Stachelschweine - 「心の家路」のブログ

「偽物」と分かっていても、治療に効果発揮する偽薬

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「偽物」と分かっていても、治療に効果発揮する偽薬
http://jp.wsj.com/Life-Style/node_369992

 「パラセボ(偽薬)効果」と聞くと、その偽薬が効くと信じるが故に得られる気分的な高まりを思い浮かべることが多い。だが、最近の研究では、つかの間の気分の高まり以上のものがパラセボから得られることが分かってきた。

 最近の研究で、自身の体や健康状態に関するある種の見方や思い込みが、病状の改善につながり、食欲や脳化学物質や視力の変化にまでつながる可能性があることが示され、心と体が深く結びついていることが浮き彫りになった。

 この場合、摂取するのがパラセボであり、「本当の」治療ではないと分かっていても関係がないようだ。ある研究では、有効成分を含まない砂糖の薬を飲むと告げられた被験者にも、強いパラセボ効果が見られた。

 パラセボは実際の臨床診療でも使われる場合がある。英国の医学会報で発表された2008年の調査では、700人近い内科医とリウマチ専門医にアンケートを行い、その約半分がパラセボを定期的に処方すると答えた。最もよく使われるパラセボは市販の痛み止めとビタミン剤だ。砂糖でできた薬や食塩注射を使うと答えた医師はわずかだった。米国医師会によると、扱いにくい患者をなだめるためだけにパラセボを処方することはできず、患者に通知して同意を得なければ使うことはできない。

 研究者はパラセボ効果をさらに探求し、効果を増減させる方法を解明したいとしている。体重やメタボリズムに関係する健康状態を改善するうえでは、より強力で長続きするパラセボ効果があれば有用かもしれない。

 エール大学院生のアリア・クラム氏とハーバード大学のエレン・ランガー心理学教授が行い、2007年にサイコロジカル・サイエンス誌に掲載された研究によると、ホテルの客室係は、仕事がよい運動になると聞かされると、4週間後には体重や血圧、体脂肪が大きく減少した。同じ仕事をしながらも、運動については聞かされなかった従業員では体重に変化はなかった。両グループとも食事や運動量は変わっていなかった。

 昨年、ヘルス・サイコロジー誌に発表された別の研究では、個人の食欲やグレリンと呼ばれる消化管ペプチドの生成に対して、人の物の見方がどのように影響するかが示された。グレリンは食後に得る満足感に関係しており、体が食べ物を必要している時には上昇し、カロリーが摂取されると減少して、もう空腹ではなく、食べ物を探す必要はないと体に伝える。

 しかし調査では、グレリンのレベルは、実際にどれだけのカロリーを摂取したかではなく、どれだけ摂取したと告げられるかに左右されることが示された。これから飲もうとするミルクセーキが620キロカロリーで「過剰」であると告げられた被験者は、脳が満足感を認識し、同じミルクセーキが120キロカロリーで「適度」なものであると言われた被験者よりも、グレリンのレベルが低下した。

 クラム氏によると、この結果は、ダイエット食品を食べるとなぜ満足感が得られないのかを、心理学的に説明するという。「ダイエット食品を食べる場合、体に対して十分には食べないと伝えることになる」

 うつ病や片頭痛、パーキンソン病などに関する研究では、砂糖でできた薬や偽手術、偽はり治療といった効力のないとされている処置でも、大きな効果をもたらすことが発見されている。サイエンス誌に2001年に発表された研究では、パーキンソン病の症状を改善するうえで、パラセボが本当の治療と同等の効果を発揮することが示された。パラセボは実際に、パーキンソン病の治療に有効とされている神経伝達物質のドーパミンを大量に誘発した。

 ハーバード大学のパラセボ研究プログラムのディレクターであるテッド・カプチュク氏らは、パラセボが効果を発揮するためには、必ずしも患者をだます必要はないことを示した。同氏らは、過敏性大腸症候群の患者80人に対して、パラセボを与えるか、何の治療も施さなかった。パラセボを与えられたグループは、薬が効力のない物質で作られ、「心身の自己回復プロセス」を通じて症状が改善するという研究結果があることを示された。患者は、パラセボの効果を信じる必要はないが、ともかく薬を飲むように言われた。3週間が経過した後、パラセボを摂取した患者は苦痛が軽減し、一部の症状が大きく改善、生活の質がいくぶん向上したと報告した。

 なぜパラセボは、真の治療ではないと知らされた後でも効果を発揮するのか。カプチュク氏は、期待感がその一因だと言う。また、前向きな環境に置かれ、革新的なアプローチと薬を飲むという日々の儀式が、変化に対して開かれた心を作り出すのではないかという。

 カプチュク氏は「現在のところ、パラセボは病気の生態を根本から変えるのではなく、患者が病気を経験し反応する方法を変えるのではないかと考えている」と話している。

記者: Shirley S. Wang

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