オピオイド拮抗薬ナルトレキソン、アルコール依存症の治療効果はプラセボ並み
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/hotnews/archives/160499.html (魚拓)
2001.12.17
比較的重症のアルコール依存症患者を対象とした臨床試験で、1995年から米国でアルコール依存症治療薬として使われているナルトレキソンに、プラセボと同程度の治療効果しかないことがわかった。米国には約800万人のアルコール依存症患者がいるが、ナルトレキソンは服薬コンプライアンスの高い治療薬として頻用されており、今回の試験結果は医療現場に大きな影響を及ぼしそうだ。研究結果は、New England Journal of Medicine(NEJM)誌12月13日号に掲載された。
ナルトレキソンは、オピオイドのμ受容体に対する拮抗薬。アルコール依存症の原因の一つとなる飲酒の"報酬効果"をブロックし、飲酒に伴う高揚感などを失わせることで、断酒を続けやすくする効果があるとされる。
米国退役軍人Connecticutヘルスケアシステム・退役軍人アルコール研究センター部門のJohn H. Krystal氏らは、ナルトレキソンがプラセボよりも断酒継続効果が高いとする報告が出された後、追加で行われた複数の臨床試験で、「示唆されたほどの効果はない」との報告が出されている点に着目。各地の退役軍人医療センター15カ所と共同で、ナルトレキソンとプラセボとを比較する大規模試験を行った。
試験の対象となったのは、15医療センターでアルコール依存症の治療を受けており、試験登録時に断酒が継続できている退役軍人3372人。Krystal氏らは、カウンセリングなど他の治療法によるばらつきが出ないよう、各センターから30~50人ずつ患者を抽出。総計627人を無作為に3群に分け、ナルトレキソンの短期服用、長期服用とプラセボ服用とで、断酒の継続期間などに違いが出るかどうかを調べた。
対象患者の平均年齢は約49歳で、ほぼ全員が男性。白人が約6割、黒人が約3割を占めた。アルコール依存症歴は長く、平均23歳から継続的な飲酒を始め、30歳頃に飲酒が止められなくなっている。また、パートナーと同居しているのは全体の3分の1で、残りは別居、別離または独身であり、家庭環境的にも断酒が困難な患者が比較的多かった。
研究グループは、ナルトレキソンを12カ月服用した「長期服用群」(209人)と、ナルトレキソンを当初3カ月服用、残りの9カ月はプラセボを服用した「短期服用群」(209人)、プラセボを12カ月服用した「プラセボ群」(209人)とを比較した。すると、13週目の評価では、ナルトレキソン群(長期服用群+短期服用群)とプラセボ群との間で、断酒期間に違いがみられなかった。52週目の評価でも、ナルトレキソン群(長期服用群)とプラセボ群(短期服用群+プラセボ群)とで、飲酒日数や1日の飲酒量に有意差はなかった。
次に研究グループは、断酒の継続や、飲酒再開後の飲酒日数などに影響を与える因子を解析した。その結果、医療センターで行われる個人カウンセリングへの参加頻度や、地域のアルコール依存症自助グループ(アル・アノン)への参加率と、断酒の継続日数などとの間に有意な相関がみられた。また、ナルトレキソンあるいはプラセボの「服薬コンプライアンス」が良い人では、飲酒再開後の1日の飲酒量が有意に少なかった。しかし、こうした効果はナルトレキソンを服薬したかどうかには特に関係がなかったという。
Krystal氏らは、断酒に対する効果と、カウンセリングや自助グループへの参加率、服薬コンプライアンスとの相関は、「断酒への意欲が高い」との共通項を反映するもので、因果関係ではない可能性があると指摘。その上で、少なくとも「慢性で重症のアルコール依存症男性に対しては、ナルトレキソンの効果は認められない」とし、こうした患者に対する同薬の処方は勧められないとした。
この論文のタイトルは、「Naltrexone in the Treatment of Alcohol Dependence」。アブストラクトは、こちらまで。
http://content.nejm.org/cgi/content/short/345/24/1734
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