ヤマアラシのジレンマ

Das Dilemma der Stachelschweine - 「心の家路」のブログ

しらふで生きる酒を断ち見えるものとは

酒を飲めるが、あえて飲まないという人が増えている。米国では「ソバーキュリアス(飲まないことを好む)」という。なぜ人は酒と距離を取り始めたのか。

苦闘書いた本人気

作家の町田康さん(58)は約30年間、ほぼ毎日飲んできた酒を、2015年末に断った。昨年秋には「濁酒地獄」から抜け出した苦闘の日々をコミカルに書いたエッセー「しらふで生きる」(幻冬舎) を発表。これが9刷3万8千部と売れている。担当編集者は読者カードの感想などから、「お酒をやめたい人がこんなに多いんだと実感した」という。

断酒は、どう生きるかという人生哲学と切り離せない。町田さんは、「常識を疑いたい」という思いから出発した。「正月だから普通飲むでしょうとか、そういう常識を疑ってみたかった」

酒をやめたことで、創作の際の複雑な思考もより粘り頭くできるようになったほか、犬や猫の世話や部犀の掃除といった「雑事」も楽しく感じられるようになったという。「あくまでも体感ですが」

快楽より効率重視

近年、アルコール離れは進んでいる。国税庁の調べでは、酒類の消費量は1996年度の約966万キロリットルから17年度の約837万キロリットルまで低下。厚生労働省の調査では、「ほとんど飲まない・飲めない」人の割合は07年と17年を比べると、20代男性が約4割から約5割、30代男性が約3割から約4割へ増えた。週3日以上飲酒する「飲酒習慣」のある人は20代男性で97年に31%いたが、17年には16%まで下がった。

米国でも、80年以降に生まれたミレニアル世代を中心に酒を飲まない生き方に注目が集まる。

ニッセイ基礎研究所の久我尚子・主任研究員は「ミレニアル世代は効率を重視する傾向が強い。酒による快楽と、費やされる時間やお金の大きさ、自己を制御できなくなるデメリットなどを比較し、コストパフォーマンスが低い娯楽と判断しているのでは」とみる。

ベストセラー「ぼくたちに、もうモノは必要ない。」で物を持たない生き方「ミニマリズム」のブームを起こした元編集者の佐々木典士さん(40)も3年前に酒を断った。早起きがしやすくなり、午前5時からヨガや執筆をする規則正しい生活を送ってきた。「激減した喫煙者のように、飲酒をする人は末来には少数派になっていく」と佐々木さんはみる。

仕事に専念したいという理由で酒を断つ人もいる。日本電産の創業者で会長の永守重信さん(75)は大のビール好きだったが、45歳で断酒した。「断酒を続けており健康です」(広報部)という。

やめるコツも提案

ストレス発散などで飲みたい時にはどうしたらいいのか。町田さんは「自分を普通以下のアホ」と捉え直す「認識改造」を提案する。酒を飲む理由の―つに、「このえらいオレがなんで報われぬのか」という不満の解消があるため、最初から「自分は普通以下のアホ」と考えることで不満を持たないようにできる、というのだ。

「いや自分は普通以上に賢い」と思う人も、「普通」の水準を高めに設定すれば、「普通以下のアホ」と謙虚になることができ、うっぷんもたまらなくなる。そして究極的には「他人と比較すること自体をやめる」のがいいという。(赤田康和)

お酒を飲まない人が増えている背景は?

  • 健康志向の高まり
  • 低成長時代ゆえの節約志向
  • 自己管理欲求の高まり
  • 飲みニケーションの価値の低下


ニッセイ基礎研究所の久我尚子主任研究員の分析による

朝日新聞 2020年2月11日(水)

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