五つの短い章からなる自叙伝
第1章
私は通りを歩く。
歩道に深い穴がある。
私は落っこちる。
私はどうしたらいいのかわからない、・・・どうしようもない。
これは私の間違いじゃない。
出方がわかるまでものすごく時間がかかる。
第2章
私は同じ通りを歩く。
歩道に深い穴がある。
私はそれを見ないふりをして、
またまた落っこちる。
また同じ場所にいるのが信じられない。
でも、これは私の間違いじゃない。
やはり出るのにずいぶん時間がかかる。
第3章
私は同じ通りを歩く。
歩道に深い穴がある。
それがあるのが見える。
それでも私は落っこちる、・・・これは私の習癖だ。
私の目は開いている。
自分がどこにいるのかわかる。
これは私のしたことだ。
すぐそこからでる。
第4章
私は同じ通りを歩く。
歩道に深い穴がある。
私はそれを避けて通る。
第5章
私は別の通りを歩く。
作/ポーシャ・ネルソン 訳/深沢道子 1)
AUTOBIOGRAPHY IN FIVE SHORT CHAPTERS
CHAPTER ONE
I walk down the street.
There is a deep hole in the sidewalk.
I fall in.
I am lost … I am helpless.
It isn’t my fault.
It takes me forever to find a way out.
CHAPTER TWO
I walk down the same street.
There is a deep hole in the sidewalk.
I pretend I don’t see it.
I fall in again.
I can’t believe I am in the same place.
But, it isn’t my fault.
It still takes a long time to get out.
CHAPTER THREE
I walk down the same street.
There is a deep hole in the sidewalk.
I still fall in … it’s a habit … but,
I see it is there.
my eyes are open.
I know where I am.
It is my fault.
I get out immediately.
CHAPTER FOUR
I walk down the same street.
There is a deep hole in the sidewalk.
I walk around it.
CHAPTER FIVE
I walk down another street.
by Portia Nelson 2)
付記
ポーシャ・ネルソン(Portia Nelson, 1920-2001)は多才な女性だったようです。まずは女優として『サウンド・オブ・ミュージック』ほか数々の映画に出演し、テレビ番組でも長年レギュラーを務めました。同時に作家、作詞・作曲家、絵描き、写真家でもありました。
書籍 There’s a hole in my sidewalk: the romance of self-discovery は1977年に出版され、後にポーシャ自身の作詞・作曲・振付けによってミュージカルとしてマンハッタンで上演されました。1988年に再版され人気を博すものの、やがて入手困難となり、冒頭の詩『五つの短い章からなる自叙伝』のみが世界中に広がりました。
現在、この詩は主に交流分析 (TA)3)をやる人たちに特に好まれているらしく、ネットで検索すると、深沢道子 (1935-2013)という交流分析の方の手による翻訳が主に見つかります。それをそのまま使わせて頂きました。
書籍
人物
(初掲載:2007-10-28)
- イアン・スチュアート他(深沢道子訳)『TA TODAY―最新・交流分析入門』, 実務教育出版, 1991.[↩]
- Portia Nelson, There’s a hole in my sidewalk: the romance of self-discovery, Beyond Words Publishing, 1993.[↩]
- 交流分析(Transactional Analysis):1950年代にアメリカの精神科医、エリック・バーン博士によって創始された、精神分析に基礎を置く力動的視点を持つ心理学。―― 交流分析とは – 日本交流分析学会 (js-ta.jp), 2017/11/10[↩]
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