アルコホーリクス・アノニマスのマニュアル (2)

AAアクロン第一グループが発行していた『アルコホーリクス・アノニマスのマニュアル』第1回の続きです。

第四章

ニューカマーへ: あなたは現在入院中だろう。でないならば、おそらく働きながらソブラエティを始めるという「困難な道」でアルコホーリクス・アノニマスのメンバーになる方法を学んでいるところだろう。

これからあなたには多くの訪問者がやってくるだろう。彼らは一人で、あるいは二人一組でやってくる。彼らは早朝から深夜まで、あらゆる時間帯にやってくる可能性がある。あなたにとって好ましい人もいれば不愉快な人もいるだろうし、バカにしか見えない人も、愚かで狂信的な、正気とは思えない人もいるだろう。なかには「あなたとそっくり」なストーリーを語ってくれる人もいるかもしれない。だが、これだけは憶えておいてほしい――彼らの話を一分たりとも聞き逃してはならない。

彼らは全員元飲んだくれであり、また全員があなたを助けようとしている。あなたを訪問する人たちは、まさにあなたが現在直面している問題を抱えている。その一部の人たちに比べれば、あなたの抱えるいくつかの問題はまだ軽微なレベルだろう。だがすべての訪問者に共通していることが一つある――それはアルコールの問題である。訪問者のなかには、酒をやめて一週間という人もいれば、五年経ったという人もいる。いずれにせよまだ彼らはアルコールの問題を抱えていて、もし彼らがしらふで生きるためのルールを一つでも破ったならば、明日にはあなたのいる病院の別のベッドを占めているかもしれないのだ。

アルコホーリクス・アノニマスは、これらのルールを忠実に守る人には100パーセント効果がある。

手抜きをしようとする者は、気がつくと以前の飲んだくれの状態に戻っているのである。

あなたを訪問する人は、わざわざ自分の時間を割いて、そうでなければ自宅や映画館などで過ごせる楽しい夜を犠牲にしてあなたを訪問しているのである。彼がそれを行う動機は二つある。一つは、あなたを訪問することで、自分に少しでも多くの「飲まないための保険」をかけようという利己的なものであり、もう一つは、新しい生き方がもたらしてくれた平和と幸福を伝えたいという純粋な気持ちである。また彼はこうすることで借りを返してもいる――誰かを助けることで、自分をソブラエティへの道へと導いてくれた人たちに報いているのだ。

訪問者たちが、ほんの数日前か数ヶ月前には、あなたが寝ているのと同じベッドを使っていたことを常に心にとどめておいてほしい。

そしてここで、この冊子の冒頭でそれはしないと約束したのではあるが、アルコホーリクス・アノニマスの霊的な側面についてのヒントを与えることになりそうだ。あなたはハイヤーパワーを信じるようにと言われるだろう。まずはあなたの訪問者を信じてほしい。彼は正直である。嘘はついていない。彼はあなたに品物を売りつけようとはしない。AAは売るものではなく、与えるものだ。ソブラエティを達成するために何をしなければならないかを彼があなたに言ったら、それを信じなさい。

彼の存在そのもの、彼が現れたことが、AAプログラムが本当に効果を持っていることを証明しているはずだ。彼は援助の手を差し伸べているだけで、何の見返りも求めていない。彼が誰であろうと、何を言おうと、彼の話を注意深く礼儀正しく聞きなさい。アルコールで混乱したあなたの頭では、一時間の会話のなかで彼が言ったことをすべて吸収することはできないかもしれないが、彼が去った後、あなたは彼が言ったいくつかの事を思い起こすことになるだろう。それらのことについて良く考えて欲しい。そのいくつかの事があなたに救いをもたらすかもしれない。AAではしばしば「雷がどこに落ちるのかは誰にも分らない」と言う。思いがけないところからアイデアの芽が見つけるかもしれない。その一つのアイデアがあなたの人生全体の方向性を決定づけ、まったく新しい哲学の始まりとなるかもしれない。だから、訪問者が誰であろうと、何を言っていようとも、それに注意深く耳を傾けることだ。

きっとあなたは、こんな問題を抱えているのは世界中で自分一人だけだと思ってきただろう。自分のような苦境に立たされている人が他にいるとは思えないはずだ。

そんな考えは忘れなさい! あなたの問題は、歴史の始まりにまで遡ることができる〔ずっと昔からあった問題だ〕。すでに忘れ去られてしまったどこかの勇敢な人物が、ブドウの果汁から心地良い飲み物ができ、それが心地良い結果をもたらすことを発見した。おそらくその同じ人物が、大量に飲んだ挙げ句に、ブドウの飲み物に対する欲求を抑えきれなくなっていることに突然気づいたに違いない。そして彼は、今あなたがいるのと同じ苦境――不健康で、心配で、恐れで気が狂いそうで、極度に喉が乾いている――に立たされていることに気づいたはずなのだ。

あなたの訪問者も、かつては自分だけが飲酒の問題を抱えていると感じていたが、数え切れない人たちが同じ悩みを抱えていると知り、酒をやめることを決意したのだ。

彼はまた、自分の悩みを暗い秘密の隠し場所から持ち出し、昼間の清らかな光にさらしただけで、そうした悩みはもう半分克服されたも同然になることを知った。そして、それはあなたにとっても同じことだ。問題を表に出せば、それが消えてしまうことにあなたは驚くことになるだろう。

〔この治療は〕何度も繰り返すことはできない。だから注意深く耳を傾け、じっくりと考えることだ。

第五章

いま、あなたは一人でいる。あなたがもし腸チフスで病院に入ったのなら、治ることを何よりも願うはずだ。だから慢性アルコホリズムで入院したときも、すぐに死ぬ病気ではないにしてもこれも同じように致命的な病気なのだから、何よりも病気を克服することを願うべきだ。そして、これが致命的な病気であるのは確かなことである。精神病院は慢性アルコホーリクでいっぱいだ。そして、どこの地域の死亡統計資料も、深刻なアルコホリズム〔という死因〕のファイルで溢れかえっている。

これはあなたの人生で最も重大な時期なのだ。退院したら、早すぎる墓場やクッション付きの病室へと向かうアルコホーリクの道を再び歩き出すこともできるし、予想を超えた幸せな人生に向かって上向きに歩み始めることもできる。

選ぶのはあなただし、あなたにしか選べない。あなたの新しい友人たちが、あなたを飲まないように見張ってくれるわけではない。彼らにはその時間もないし、そうする意志もない。彼らはあなたを助けるために信じられないほどのこともしてくれるが、何ごとにも限度はある。

病院を出ればすぐに、あなたは自分のことは自分で決めなくてはならなくなる。聖書は私たちに、「第一のことを第一に」するように教えている。アルコールは明らかにあなたの人生にとって第一のことである。だから、それを克服することに集中しなさい。

あなたは自分の家で酒を切ってしらふになることもできたかもしれない。その場合、あなたの新しい友人たちは、あなたに会いにあなたのリビングルームを訪れることになったはずだ。しかしあなたが家に居ると、ラジオ、暖炉、壊れた網戸、ドラッグストアへの散歩、家族の用事など――非常に多くのものごとがあなたの注意をらしてしまうだろう。こうしたことのひとつひとつが、あなたの人生で最も重要なこと、生死を左右すること、つまり完全かつ終わりのないソブラエティのことを忘れさせてしまう。だからあなたは入院しているのである。ここには考える時間があり、本を読む時間があり、過去と現在の自分の人生を検証し、将来どうあり得るかを考える時間がある。そして、あわてて退院しないことだ。それはあなたのスポンサーが一番よく知っている。少なくともプログラムの初歩的な理解ができるまで、病院にとどまるべきだ。

あなたがもう何年も開いていない聖書がある。それをよく読むと良い。開かれた心で読むならば、きっと驚くようなことが見つかるだろう。あなたは自分のために書かれたと確信する文章に出会うことはずだ。山上の垂訓 マタイによる福音書 5節、6節、7節)を読みなさい。聖パウロ の霊感に満ちた愛についてのエッセイ(コリントの信徒への手紙一 13節)を読みなさい。ヤコブの手紙 を読みなさい。詩篇 第23篇と第91篇を読みなさい。これらの読み物はどれも短いものだが、とても重要だ。

『アルコホーリクス・アノニマス』をもう一度読んでみる。あなた自身のことが書かれているのが分るはずだ。この本はあなたにとって第二の聖書になるだろう。あなたを訪問してくる人たちから他に読むべき本を勧めてもらいなさい。

分らないことがあったら質問しなさい。訪問者の誰かがその答えを知っているだろう。スポンサーに12ステップについて説明してもらう。もし、彼がステップにあまり詳しくないようなら――おそらく彼はこの取り組みを始めて間もないのだろう――誰か他の人に聞いてみる。12ステップは、この冊子の後ろに載せてある。

AAではあなたは立ち止まることはできない。着実に前進するか、ずるずると後退するかのどちらかだ。最も古いメンバーである創始者たちでさえ、ほとんど毎日新しいことを学んでいる。

ソブラエティを探し求めるにあたって、学びすぎるということは決してない。

第六章

さあ、あなたは退院することになった。この時までに、あなたはAAに従っていくのか、それともあなたが人生と呼んでいた以前のあの苦痛の中に戻るのか、もう選んでいるはずだ。あなたは身体的にはソーバーになり、元気になってきている。少し震えが残っているかもしれないが、それもすぐに消えるだろう。しかしあなたがこの状態に至るのには長い時間がかかったのだから、数時間や数日でこの状態から抜け出すことはできないと考えるべきだ。

もう一度大酒を飲めば良い気分になれるだろうが、別の計画――ソブラエティを試すのも悪くはないだろう。

あなたはアルコホーリクス・アノニマスに参加することに決めただろうか? 大変よろしい。決して後悔はしないはずだ。

まず、あなたの毎日のパターンを新しくしよう。一日を「静かな時間」1)から始めるようにする。それについてはスポンサーが説明してくれる。『ザ・アッパー・ルーム』メソジスト の日々の祈りの本〕を読むか、自分にとってベストだと思う本を読む。今日一日神の助力を求める短い祈りを唱える。あなたは日々の仕事をこなし、同僚たちは、あなたの澄んだ瞳や、幽霊に取り憑かれたようなかつての表情が消えたこと、過去の埋め合わせをしようとする意欲に驚くことだろう。あなたのスポンサーはあなたに会いに来たり、電話をかけてくれるだろう。AAグループのミーティングもある。一も二もなく、ミーティングには参加するように。病気と町の外への出張すること以外は、ミーティングを休む理由にはならない。あなたが新しい患者を訪問するのも良い。それを先延ばしにしてはいけない。きっとあなたは訪問することの魅力に気づくだろうし、それによって気の合う仲間が見つかることもある。それは、ソブラエティへの道を進んでいるあなた自身をさらに後押ししてくれるだろう。そして一日の終わりに、今日一日のソブラエティに対して感謝とお礼の短い祈りを捧げる。きっとあなたは充実した、建設的な一日を過ごせたことだろう。そのことにあなたは感謝するにちがいない。

あなたは新しい患者に話すことが何もないと感じているだろうか? 語るべきストーリーを持たない? そんなはずはない! あなたは少なくとも一日、あるいは一週間酒をやめている。明らかに、その短い期間であっても飲まないでいるために、あなたは何かをしたはずだ。それがあなたが〔話すべき〕ストーリーだ。そして信じがたい話かもしれないが、その患者はあなたが自分と同じ初心者だとは気づかないだろう。あなたには伝えたいことが間違いなくあるはずだ。そして、訪問を重ねるごとに、自分の話がしやすくなったことに気づくだろうし、相手の助けになるように話をする能力に自信が持てるようになる。ソブラエティのために励めば励むほど、ソブラエティを続けるのは容易になる。

スポンサーがあなたを最初のミーティングに連れて行くだろう。それはあなたにとって新しい、刺激になる体験になるはずだ。あなたはかつて経験したことがない平和で満ち足りた雰囲気を見つけるだろう。

何回かミーティングに出席した後には、立ち上がって何かを言うのがあなたの義務になるだろう。あなたには何か言いたいことがあるはずだ。たとえそれが、自分を助けてくれたグループへの感謝の気持ちを表すためだけであっても。何ヶ月も経たないうちに、あなたはミーティングのリード役を頼まれるだろう。言い訳をして引受けるのを先延ばしにしてはならない。これもこのプログラムの一部なのだから。あなたが人前で話をすることに自信が持てなかったとしても、あなたは友人に囲まれていて、その友人たちも元飲んだくれであることを忘れないように。

〔AAでの〕新しい友人たちと連絡を取るようにする。電話をかける。彼らの自宅や職場に立ち寄るようにする。アルコホーリクの仲間に対してはドアは常に開かれている。

やがて、あなたは新たなスリル〔感動と興奮〕を味わうことになる――それは誰かを助けるというスリルだ。新しいAAメンバーが進歩していくのを見ることほど満足できることはこの世にはない。初めて病院のベッドにいる彼を見たとき、彼はヒゲを剃っておらず、目は血走っていて、薄汚れていて、話すことは支離滅裂だったかもしれない。おそらく次の日には彼はヒゲを剃って、すこしきれいになっただろう。さらに次の日には彼の目は明るくなり、顔に生気が戻ってくる。彼はもっと知的に話すようになる。退院して、仕事に行くようになり、新しい服を買う。そして一ヶ月後には、彼が最初に病院で会った廃人と同じ人だとは認識できないほどになる。そんな感動を与えてくれるウィスキーはこの世にはない。

何よりも「このルールを守る」ことを忘れないでほしい。それに従っている限り、あなたは揺るぎない地盤の上にいる。しかし、少しでもそこから逸脱いつだつすれば、あなたはもろくなってしまう。

ニューカマーへ: あなたは自分がAAという機械の中で最も重要な歯車の一つであることを忘れないで欲しい。新しいメンバーの活動なくして、現在のようなAAの発展はあり得なかった。あなたは新鮮な情熱と、十字軍 の熱狂を持ってこの活動にたずさわるだろう。この新しい人生の祝福をあらゆる人と分かち合いたいと思うだろう。あなたは他の人を助けるためにたゆまぬ努力を続けるだろう。それが素晴らしい熱意というものだ。それをできるだけ長く大切にして欲しい。

あなたの新鮮な情熱がいつまでも続くことはたぶんない。しかし、最初の情熱が冷めて行くにつれ、それがより深い理解、より深い共感、より完全な知識に取って代わられていくことに気づくだろう。あなたはゆくゆくはAAの〔経験豊富な〕「長老」となり、その知識を活かして、新しいメンバーだけでなく、メンバーになって一年以上経ってもまだ複雑な問題を抱えている人たちを助けることができるようになるだろう。だからこそあなたは新しいメンバーとして、遠慮なくあなたの問題を現在の「長老」たちにぶつけてみてほしい。彼らはあなたの頭の痛い問題を解決したり、痛みを和らげたりできるかもしれない。

そしていま、あなたはこの冊子の第三章に戻って読む準備ができた。なぜならあなたは、人間と神の両方の助けを切実に必要としている哀れむべき他のアルコホーリクを手助けする準備ができたからだ。

あなたに神の祝福と守りが与えられますように。

次回に続きます〕


  1. 訳注:祈りと黙想の実践。決まったやり方があるわけではないが、アクロンで行われていた「神の意志を知るには」が、ワリー・Pの『バック・トゥ・ベーシックス AAビギナーズ・ミーティング』で紹介されている — B2B[]

2025-03-16資料,日々雑記

Posted by ragi