アルコホーリクス・アノニマスのマニュアル (1)
前書き
この小冊子は、アルコホーリクス・アノニマスの新メンバーと、新メンバーのスポンサーのため実践的な手引き書として作られた。
第一章

ニューカマー〔新しい人〕へ: この小冊子は、ソブラエティ〔断酒〕を得るために何をすべきで、何をすべきでないかを実践的に説明するためのものだ。私たち編集者も、最初のうちはこのプログラムにかなり戸惑っていた。だからあなたが手探りで解決を捜していることはよく承知しているし、あなたがこれから進む道が少しでもスムーズになるように、そして混乱が少なくなるように、このパンフレットを提供する。
スポンサーへ: もしあなたがこれまで誰もAAに連れてきたことがないのならば、この小冊子は「ベイビー」に対するあなたの義務、患者たちを訪問する際のあなたの振る舞い方、その他の情報を提供してくれる。そのなかにはあなたが初めて知るものもあるかもしれない。
この小冊子だけでなく、大きな本すなわち『アルコホーリクス・アノニマス』、聖書、日々の読み物、このグループが発行している他の小冊子、その他の建設的な文献も併せて読むべきである。推薦図書のリストはこの小冊子の巻末にある。AAメンバーは、このマニュアルを将来の「ベイビー」にできるだけ早く――入院中の場合には特に――提供することが望ましい。
この小冊子は、合算すれば数百年間の飲酒と、その後の数十年間のソブラエティの経験をもとに執筆・編集された。すべての提案、すべての言葉は、厳しい経験に裏打ちされている。
編集者は、AAの霊的なあるいは宗教的な側面については敢えて説明していない。この取り組みのそうした面についてはスポンサーから説明を受けるべきだと考えられている。したがって、この小冊子は、ソーバー〔しらふ〕になることとソーバーを続けることの身体的側面だけを扱っている。
まず何よりも、病院の規則を注意深く守ることだ。私たちのこれまでの経験は、手に負えない患者やルールに従わない面会者が続くと、病院〔にアルコホーリクを入院させるという〕特権はすぐに取り消されてしまうことを示している。さらには、病院側はこの先あなたやあなたの患者とは一切関わりたくないと思うようになるだろう。
アルコホーリクス・アノニマスのメンバーの定義:アルコホーリクス・アノニマスのメンバーとは、この団体の作ったルールを〔自らに〕適用し、かつそれを遵守することによって、あらゆるアルコール飲料の使用を完全に断ったアルコホーリクである。ビール、ワイン、蒸留酒、その他のアルコール飲料を一滴でも故意に飲んだ瞬間、彼は自動的にアルコホーリクス・アノニマスのメンバーとしての地位を失う。
AAは、この先ずっと完全にソーバーでいたいと本気で願っていない酔っ払いをしらふにすることには関心がない。AAは、酒をやめてもすぐにまた飲んだくれに戻るつもりのアルコホーリクや、仕事や、妻や、社会的地位を失う不安を理由に、あるいは現実あるいは空想上のトラブルを解決したいというだけの目的で酒をやめたいアルコホーリクには興味がない。言い換えるなら、もし誰かがその人自身のために継続的なソブラエティを心から願い、自分はアルコールの持つ力の中に閉じ込められていると心の中で確信し、自分がアルコホーリクであることを認める意欲があるのなら、アルコホーリクス・アノニマスのメンバーたちは、その人を新しい、幸せで、満足した生き方へと導くために全力を尽くし、そのために何日もの時間を費やすだろう。
ニューカマーは、「私は自分のために、自分だけのためにこれを行っているのだ」と真摯に、無条件に自分に言い聞かせることがまったくもって不可欠である。アルコホーリクが、純粋に個人的に、自分だけのためという動機で酒をやめるのでない限り、長く酒をやめ続けることはできない。そのことは何百もの事例の経験によって証明されている。彼は数週間から数ヶ月は酒をやめることができるかもしれないが、その動機となる要素、通常はある種の恐れが消えた瞬間に、ソブラエティも消え去ることになる。
ニューカマーへ: あなたの人生はあなたのものだ。あなたの選択だ。自分がアルコホーリクであること、自分の人生が手に負えなくなってしまったことに納得できないのであれば、またアルコールを永遠に手放す準備ができていないのならば、これを読むのをやめて、アルコホーリクス・アノニマスのメンバーになることを諦めたほうが、すべての関係者のためになるだろう。
というのもあなたが納得できないというのなら、それはあなた自身の時間を無駄にするだけでなく、純粋にあなたを助けたいと思っている数多くの男女の時間を無駄にすることになるからである。
第二章
ご婦人方へ: もし私たちがこの小冊子で女性を軽んじているように見えたとしても、それは意図的なものではない。私たちは便宜上「彼」という男性代名詞を使っているだけだ。私たちはアルコールが人を区別しないことを十分に理解している。〔アルコホリズムは〕年齢、性別、貧富を問わない。最上のスコッチで飲んだくれた大富豪も、一番の安酒で酔っ払った貧乏人も、病院のベッドや側溝に横たわるときには双子の兄弟のようにそっくりだ。女性の飲んだくれと男性の飲んだくれの唯一の違いは、前者のほうがやや配慮と礼儀をもって扱われる可能性が高いというだけだ――もっとも、そうされるに値する〔飲んだくれの〕女性は滅多にいないが。このパンフレットに書かれているすべての言葉は、男性だけでなく女性にも当てはまる。――編集者一同
第三章
スポンサーへの助言: 初めてニューカマーを病院に入院させたり、この新しい生き方を説明しようとする人へ: あなたはその男についての全責任を負わねばならない。彼はあなたを信頼しており、そうでなければ入院に応じるはずがない。具体的なものであれ、漠然としたものであれ、あなたが彼と交わした約束はすべて果たさなければならない。守れない約束はするべきではない。彼がソーバーになれば仕事に復帰できると請け合うのは簡単だ。しかし、確実にそうなるという確信がない限り、そのような約束をしてはならない。経済的な援助を行う準備があなたにできている時を除いて、その約束はすべきではない。彼が入院費を払えるかどうか分らないならば、あなたがその経済的責任を負う覚悟がない限り、彼を入院させてはならない。
彼のところへ〔AAから〕訪問者たちが来ているかどうか確かめるのは、間違いなくあなたの役目であり、あなた自身もひんぱんに彼を訪問しなければならない。入院させたのに放置すれば、当然彼はあなたへの信頼を失い、「誰も自分のことを気にかけてくれない」という態度を取るようになって、あなたの中途半端な努力は水の泡になるだろう。
これは彼の人生において非常に重要な時期になる。彼はあなたに勇気、希望、慰め、導きを求める。彼は過去を恐れており、未来を不安に思っている。そしてあなたが彼のことをほんの少しでもなおざりにすれば、彼は恨みと自己憐憫でいっぱいになるという精神状態にあるのだ。あなたは、この世界で最も価値のある財産を握っているのだ――それはこの仲間の未来である。彼の人生を自分の人生と同じように大事に扱いなさい。あなたは文字通り、彼の人生に責任を負っているのだ。何よりも無理に入院させてはならない。彼を酔わせて、前後不覚のときに放り込むのも良くない。意識が戻ったときに、自分がどこに居るのか、どうやってそこに来たのか疑問に思うはずだ。それでは、彼は続かないだろう。
あなたは、その男性が酒をやめたいと心から願っているかどうかを判断できるはずだ。その判断を使う。それをしなければ、あなたは無駄に自分の頭を石の壁にぶつけながら、なぜ自分の「ベイビー」はしらふでいられないのか頭を悩ますことになるだろう。あなた自身の経験を思い出してみるといい。あなたは、自分が酒のせいでひどく具合が悪くなったときに、その苦しみから逃れるためなら何でもすると思っていたことを思い出せるだろうが、だがその時永久に酒をやめたいなんてちっとも思っていなかったことも何度でも思い出せるはずだ。アルコホーリクはまだ健康を取り戻さないうちから、病気の原因となった行為を繰り返すように仕向けられている。肺炎に罹ったことのある人は、意図的にもう一度肺炎になりたいと思ったりはしない。しかしアルコホーリクは、一時的に健康になる期間があっても、故意に何度も何度も病気の状態に戻っていく。
その患者に適切な文献を提供するように心がけなければならない。AAのビッグブック、このパンフレット、他の入手可能なパンフレット、聖書、その他あなたを助けてくれたものは何でもだ。本書を何度も読み直すことが賢明であることやその必要性を彼に理解させよう。AAについて学べば学ぶほど、彼の回復への道は易しくなる。
ニューカマーについてよく知ることで、あなたのAAの友人たちの中で誰が彼にとって一番良い話ができ、一番良い影響を与えられるかを判断する。AAにはあらゆるタイプの人がいるので、あなたがどんな人を入院させたとしても、その人の役に立てる人は何十人もいる。あなたが電話を1時間かけ続ければ、〔彼を〕訪問してくれる人たちが見つかるだろう。偶然に頼ってはならない〔成り行き任せにしてはいけない〕。ふらりと立ち寄ってくれるメンバーもいるかもしれないが、あなたが20本、30本の電話をかけることでこの課題は解決し、不確実性は取り除かれるだろう。訪問者たちを召喚するのはあなたの責任だ。
その患者に、訪問者たちは表敬訪問に来ているのではないことを理解させよう。彼らの話すことは薬のようなものだ。話してくれることはすべて注意深く聞き、訪問者が帰った後、そのことについて熟考するように促そう。
その患者が退院しても、あなたの役割は終わらない。彼が正しいスタートを切れるようにすることは、彼に対してだけでなくあなた自身に対する義務でもある。
その人の最初のミーティングに同行する。あなたが次の患者を訪ねるときには、彼も一緒に連れて行くようにする。他の患者たちがいるときに、彼に電話をかける。折に触れて彼の家に立ち寄るようにし、できるだけ頻繁に彼に電話をする。彼が作った新しい友人〔AAメンバー〕を訪問するように促そう。彼に助言し、アドバイスをする。入院患者であったときの彼は、それによってある程度人を魅了していたのである。多くの訪問者が彼を訪れ、彼の時間は埋まっていた。しかし、彼が退院した今、その魅力は消え去った。彼はおそらく孤独になるはずだ。なのに彼は臆病であり、新しい友人との交わりを求めていないであろう。
この時期が非常に危険な時期であることは、これまでの経験が証明している。だから、あなたの役目は終わっていない。彼が自分で道を見つけられるようになるまでは、最初に彼を訪問したときと同じように彼に関心を払おう。
そのニューカマーがあなたを頼りにしているのと同じぐらい、あなたも彼を頼っていることを忘れないように。だから自分の責任を放棄してはならない。それは決して終わらないのだ。「二人ならば良い道連れだが、三人になれば旅は台無し」という古い諺を思い出してほしい。もし患者に一人以上の面会者がすでに来ていることがわかったら、その部屋には入らないほうが良い。アルコホーリクが入院する理由は二つだけだ――それは酒をやめるためと、酒をやめ続ける方法を学ぶためだ。前者は容易いことだ。アルコールを断てば、人は必ず酒をやめられるからだ。だから本当に大切なのは、どうやって酒をやめ続けるかを学ぶことだ。経験上、患者を含めて三人以上が一つの部屋に集まると、話題はワールドシリーズ、政治、酔っ払いについての笑い話、そして「私のほうがもっと飲んだ」という話になってしまいがちだ。
そのような話は、その患者の時間と金を無駄にしてしまう。彼は、あなたがどうやって酒をやめ続けているかを当然知りたがっているだろうが、部屋に人があふれていれば、彼はあなたに注意を向けることができなくなる。
他の訪問者がいるときにどうしても入室しなければならないときは、静かに控えめに入室する。隅に座って、他の訪問者が話を終えるまで黙っている。もし彼があなたから何かコメントが欲しくなれば、彼のほうからそれを求めてくるだろう。
もう一言。その患者への面会は、アルコホーリクス・アノニマスのメンバーに限定することが望ましい。彼が入院する前に、彼の妻や家族と内密に話をしておく。彼を信頼できる人たちに任せること、それと彼の家族や友人に近づかないようにお願いしているのは親切心からであることを説明しておく。〔彼に面会するAAメンバーのなかでも〕新しいメンバーは全般的にややシャイである。病室に女性〔患者の奥さん〕がいると、「寛いだ気分」になれなくなる。古参の人には気にならないだろうが、新しいメンバーは知らず知らずのうち〔伝えるべき〕貴重なメッセージを口に出せなくなってしまうこともあるのだ。
〔次回に続きます〕
- その五冊は A Manual for Alcoholics Anonymous, A Guide to the 12 Steps of Alcoholics Anonymous, AA Speakers Manual, Second reader for Alcohol Anonymous, Spiritual Milestones in Alcoholics Anonymous である。[↩]
- http://www.barefootsworld.net — 2009年にベアフット・ボブが亡くなった後しばらくこのサイトは閉鎖されていた。その後何者かによって追悼文とともに復活したが、2018年にドメイン名の有効期限が切れ、現在はドメインパーキングされている。[↩]
- ネット上には、ベアフット・ボブのWordファイルをグレン・C(Glenn F. Chesnut, 1939-2020)がPDFファイルに成型し、彼が教鞭を執っていたインディアナ大学サイスベンド校のサイト(www.iusb.edu/~gchesnut 現在は消失)に掲載していたものがあちこちにみつかる。[↩]
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コメント一覧
これは、興味深いマニュアルですね。
続きを読むのが楽しみです。
ありがとうございます。