雑感(5) コロナ禍に思うこと
最初に事務連絡ですが、4月5日のBig Book スタディ in 松本は延期になりました(開催時期未定)。4月19日のBig Book スタディ in 愛媛は予定通り開催だそうです。→中止になりました。
また、4月1日から五週連続で水曜に開催される予定だったバック ・トゥ・ベーシック AAビギナーズ・ミーティングは、新型コロナ感染対策により会場(パルシティ江東)が使えなくなるため中止となりました。
暗い未来予測をする癖
僕は暗い予測をするタイプの人間で、悪い未来ばかり考えてしまいます。
例えば2年前には朝鮮半島で軍事衝突が起こることを心配していました。実際にはシンガポールで米朝首脳会談が行われて危機は回避されたわけですが、もし衝突が起きれば半島での死者数は数十万人と予想されていました。そうなっていたら、日本も多大な影響を受けたでしょう。首脳会談によって緊張は緩和されましたが、ミサイルはまだ発射され続けています。
当時戦争に備えて米海軍のコンフォートとマーシーという二隻の病院船 が日本に派遣されていましたが、現在はコロナ禍への対応でそれぞれニューヨークとロサンゼルスに派遣されています。
コロナ禍については、先の見通せない状況が続いています。これがどのように収束するのか、僕なりに「悪い」予測を立ててみます。
コロナはRNAウイルス
ウイルスにはDNAウイルス とRNAウイルス があります。DNAウイルスは遺伝子の変異が少ないという特徴があります。だからDNAウイルスの感染症である天然痘 に罹患して治った人は、免疫を獲得するので二度と天然痘にはかかりません。長期にわたって同じワクチンが使えたおかげで、人類は天然痘を根絶することができました。1)
一方RNAウイルスは、変異が頻繁に起こります。そのせいで、RNAウイルスの感染症であるインフルエンザでは、一度A型インフルエンザにかかって治っても、別の年にまたA型に罹患してしまいます。これは変異によって新型がたくさんできてくるので、ある型に対してできた免疫が、別の型には効かないからです。
ウイルスは基本的には一つの種のみに感染し、別の種には感染しません。例えば猫エイズ は人間や犬には感染しません。ところが、前述のように変異が頻繁に起こるので、ときどき種を超えて感染する新型が登場します。
例えば、2002年から03年にかけて流行したSARS のウイルスは(これもコロナウイルスですが)、元の宿主はコウモリでした。それが変異して人間にも感染するようになったわけです。このように種を超えて感染するウイルスはいくつもあります。
そして、種を超えて感染するようになったばかりのウイルスは、危険なものが多いのです。SARSの致死率 は1割、2012年に登場したMERS は3割です。またエボラ出血熱 の致死率は9割近くに達しています。
今回の新型コロナウイルスの致死率はまだ正確に分かりませんが、1%から10%の間でしょう。(感染が拡大しているときは、見かけの致死率は小さくなります。感染してから死亡するまでに時間差があり、その間に母数(患者数)が増えてしまうからです)。治療薬がある普通の季節性インフルエンザ の重症化率が0.1%程度、致死率はその何分の一である2)ことを考えれば、新型コロナウイルスの危険性は桁違いに高いです。
SARSのように封じ込めに成功できれば良かったのですが、新型コロナでは経済活動を優先させた結果、世界的な流行を招いてしまいました。
では、新型コロナは今後どんな経過を辿り、最終的にどのように収束するのでしょうか。未来を予言することはできませんが、僕なりの「暗い」予測を立ててみましょう。
新型コロナの今後を予測する
封じ込めに失敗した以上、人類は新型コロナウイルスと共存していくほかありません。最終的には人口の何割かは感染せざるを得ないでしょう。例えば人口の5割が感染し、致死率が5%なら、日本では300万人が死亡する計算になりますが、おそらくそんなにひどいことにはならないでしょう。
一つには、流行の拡大が進むと、ウイルスが弱毒化していく可能性が高いからです。RNAウイルスは変異しながら感染を広げていきますが、致死性が高い変異は(宿主が死んでしまうために)広がらず、結果として致死性の低い変異が広がることになります。時間の経過とともに、ウイルスの危険性は下がり、致死率は下がっていくと予想できます。
もう一つ、数年以内には治療薬が開発されると期待できるからです。弱毒化と治療薬の登場によって、新型コロナは将来はインフルエンザのような存在になっていくでしょう。つまり、冬になれば流行するけれど、それほど心配の要らない病気になると予測します。
ですが、そこまでの道のりは暗く長いものになるでしょう。各国のリーダーたちが、感染爆発 (日本語だとオーバーシュート、英語だとacceleration)を避けたがっているのは、重症患者の急増により医療機関がパンクすることを恐れているからです。実際に武漢やイタリアではそれが起き、重症化して病院に行っても治療を十分受けられない人が多く出ました。下のビデオは、スペインのマドリードの病院の様子(3月22日)です。椅子に座っている人たちは診察待ちではなく、入院するベッドが空かないために空きを待つ人びとです。
This video was shot on March 22 in the hospital of Leganes (Madrid).
— Fre.Adri (@Fred_Adri) March 23, 2020
The hallways and waiting rooms are packed with COVID-19 patients. And the Spanish PM Pedro Sanchez informed: “the worst is yet to come”.#COVID19 #coronavirus #StayHomeSaveLives #corona pic.twitter.com/BoLwpyoQxV
日本の急性期病棟のベッドは常に8、9割が埋まっており、新型コロナ患者を受け入れるキャパシティは大きくありません。それを超えて受け入れてしまうと、他の病気の人たちの治療ができなくなってしまいます。武漢で突貫工事で病院を作ったり(火神山医院 )、スペインで展示会場にベッドを並べて病院にしたのも、キャパシティを増やすためです。キャパシティ不足が起きると、災害時のようにトリアージ を行うしかなくなり、致死率が上がり、他の病気の死者も増えてしまいます。現にイタリアではそのような医療崩壊が起きました。
また、普通のインフルエンザでもそうですが、高齢者のほうが重症化率・致死率とも高くなります。高齢者施設で集団感染が起きると悲惨なことになりかねません。スペインでは介護施設で人手が足りなくなり、亡くなった人がベッド上に放置されているというニュースがありました。
いつまで続くのか
感染拡大の速度を落とすには、人と人の接触を減らすしかありません。だから、どこの国でも、集会を止めろ、外出を控えろ、学校は閉じろ、仕事は自宅でテレワークにしろと言うわけです。しかし、余りそれを徹底させると、今度は消費が落ち込んで、不景気になってしまいます。いつまでも皆が自宅で蟄居を続けているわけにもいきません。
ある程度の経済活動を行いながら、地域的な感染拡大の徴候が見られたら、この前の北海道のように外出自粛の要請が行われ、収束すれば解除される。拡大が止まらなければ、その地域からの移動を制限して他の地域に飛び火するのを避ける・・・という戦略が採られることになるでしょう。国際的な移動制限はすでに行われていますが、今後は国内でも実施される可能性があります。
ある日突然、都道府県知事が、3週間の集会・外出の自粛と学校の休校を宣言し、それでも治まらなければ域外への移動を制限される、解除されても、次にいつ制限されるか分からないという・・・息苦しい生活になりそうです。
外出制限・移動制限の場合に仕事はどうなるのか、という疑問もあるでしょうが、それも感染の拡大次第と言えます。これまでのように感染拡大がある程度押さえ込めていれば「テレワーク推奨と言いながら、満員電車はそのまま」というレベルが維持されるでしょうが、いったん感染拡大に火がつくとイタリア北部やニューヨークのように「サプライチェーンに関わる事業以外は操業停止」という処置が行われ、多くの製造業・サービス業は休業を余儀なくされる可能性があります。そうならないための自粛要請というです。
医療崩壊を起こさないように感染拡大のペースを下げ、しかもそれが人口の何割かが感染するまで続くとなれば、相当な長丁場になることが予想されます。風邪やインフルエンザは高温多湿になると流行が収まりますし、SARSは7月に終息宣言が出されました。しかし、MERSは夏になっても収束せず通年化し、現在でも収束できていません。今回の新型コロナウイルスは、南半球のオーストラリアや南米でも感染が広がっており、日本が夏になったからとて流行が下火になるとは思えません。新型コロナウイルスも通年化し、年単位で続いていくことでしょう。
トンネルの暗さに慣れた方が
僕の「暗い」予想とは、これが年単位で続くということです。早く終息して欲しいと願う気持ちは誰も同じでしょう。ですが、その気持ちが強すぎると、いつまでも抜けられない暗いトンネルに心が疲弊してしまいます。むしろ、長く続くと覚悟を決めた方が、トンネルの暗さに慣れるというものではないでしょうか。
もちろん僕の予測は暗すぎる傾向があります。実際には朝鮮半島で戦争は起きませんでした(今のところ起きていないというだけかも)。そもそも僕は感染症の専門家ではありませんから、正確な予測などできません(まあ、専門家ですら予測できない事態と言えるのでしょうが)。
今回の新型コロナウイルスは、夏の暑さで収束するかも知れません。治療薬が意外と早くできるかもしれません。弱毒化が急速に進むかも知れません。そういう幸運に恵まれなかったとしても、数年後には事態が沈静化することは十分に期待できます。あのスペインかぜ だって収束したのですから。
大切なことは、「現状を数週間(あるいは数ヶ月)我慢すれば、以前のような日常が戻ってくる」と考えるのではなく、今のような状況がずっと続くと捉えて、その状況の中でいかに自分が生きていくか、将来の幸せをどうやって掴んだら良いかを考えることだと思っているのです。
- 天然痘ウイルスはアメリカとロシアの研究所の2ヶ所のみに保管されている。[↩]
- 清水則夫『インフルエンザってそんなに怖いの?- 香港風邪・スペイン風邪・新型・鳥』東京医科歯科大学難治疾患研究所市民公開講座 ―最先端生命科学講座シリーズ 第1回―, 2011[↩]
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