12ステップのスタディ (14) 性関係の共同体のQ&A

第10回から四回にわたってSLAA・SAA・SA・SCA・SRAという五つの S-fellowships(性関係の共同体)を紹介してきました。今回はそのQ&Aです。

まず、この五つの団体の成立の時系列を図にしてみました。

Founding of S-fellowships
Book Icon is from vecteezy.com.

実線の矢印と人名は、ある共同体で回復した人たちが別の共同体の設立に関わったことを示します。NA・GA・DAなども含め多くの共同体の創始者がAAからの「ブリッジメンバー」でした。破線の矢印は何らかの協力や影響があったことを示します。SAから伸びている矢印は分派であることを表現しています。本のアイコンはその共同体の基本テキストがほぼ現在の形態で出版された年です。


Q: なぜ性問題については五つもの共同体が併存しているのでしょう?

A: その答えはシンプルではありません。

まず、1970年代後半に、SLAASAASAの三つが別個に始まりました。この三つは、どれがどれの分派であるということはなく、創始に際して影響を与えあったわけでもありません。

この三つが合流しなかった理由を明確に説明することはできません。どの共同体も特定の性行動だけを対象にしてはいませんが、SLAAは合意のある男女間のセックス(つまり不倫)、SAAは犯罪行為となり得る性行動を得意分野にしていると言えるでしょう。SLAA・SAAとSAの違いは、前二者が「プラン」タイプの回復の基準を採用しているのに対して、SAは全員に一律の基準を採用している点が異なります。そのような違いがあったことで、合流しないことのほうがメリットが大きかったと考えられます。

また、アイデンティフイケーション(同一だという認識)の問題もあろうかと思われます。痴漢や覗きやレイプといった犯罪行為を繰り返す人と、不倫を繰り返す人、ポルノ映像にハマっている人が、お互いに同一だという認識を持つのは意外と難しいことなのかもしれません。

SCASRAは、SAの分派であることを自ら明らかにしています。分離の理由はどちらの場合もSAの性的ソブラエティの基準に対する反発でした。しかし、SCAが「プラン」タイプの基準を採用したのに対して、SRAは一律の基準であることは維持しつつそれを同性婚や事実婚関係を含むように拡張した点で、分離後のプログラムの発展の道筋は異なりました。

無視できないのは、マスターベーションを認めるかどうか、同性間のセックスを認めるかどうか、法的な結婚ではないパートナー間でのセックスを認めるかどうか、について意見の一致が難しいことです。これらの意見の相違には個人の経験だけでなく、政治的理念や宗教的信条も関係しているため、一つにまとまることが難しいのだと思われます。


Q: SAは同性愛に反対しているのでしょうか?

A: 五つの性の共同体は、いずれも同性愛 に対して反対してはいません。SAでさえも、自分たちは同性でのセックスをしないと主張しているだけで、自分たち以外の性行動がどうあるべきかについては意見を述べない方針です。

SA以外の共同体は同性でのセックスを、異性とのセックスと同じに扱っています。SCAの創始者のビル・Lは、同性愛者であることに悩んでいたのではなく、ゲイであることを自分のアイデンティの一部として受け入れていました。彼が悩んでいたのは発展場に通って肉体だけの関係を求めるのをやめられないことでした。性的放縦に対する悩みは、相手が異性であっても同性であっても変わらないのでありましょう。

SAも同性愛者を拒絶しているわけではありません。SAメンバーの回復の体験記集の最も新しい版 Member Stories 2007 では、35のストーリーのうち10が同性を性の対象とした人たちのストーリーです。1) SAにも相当数の同性愛者が存在しているのは明らかです。彼らは同性に性的欲望を持つことをやめたいと願うからSAにいるのです。


Q: マスターベーションもやめなければならないのは厳しすぎませんか?

A: 僕もそう思いますが、そう思った人たちが「プラン」タイプの基準を考えたのでしょう。一方で、SAのロイのように「マスターベーションもやめなければその他の性の行動化もとまらなかった」という経験を持つ人たちが、マスターベーションをしないことを性的ソブラエティに含めました。


Q: 五つの共同体の関係性はどうなのでしょう?

A: 部外者である僕に分るはずもありませんが、一つだけ情報があります。1991年から Inter­fellowship Forum(共同体間フォーラム, IFFという会議が始まりました。これはSAAの発案で、すでにローカルレベルでは共同体間で協力が行われていたので、ゼネラルサービスのレベルで代表者が集まって協力する手段を探ろうというものでした。

このIFFについては、SCAがウェブに情報を公開していました。2) それによると、IFFはSAAの呼びかけで1991年に第1回が開かれ、SAA・SLAA・SCAが参加しました。第2回は5年後の1996年で、SAも加わりました。その後は毎年開かれ1998年からはSRAも加わりました。上記のページに速報や議事録が掲載されていましたが、2007年を最後に更新がありません。

一方 Inter-Fellowship Forum (sexrecoveryfellowships.org) というサイトは2010年代半ばに作られたようで、そこにはSCA・SLAA・SRA、さらにCOSAというSAAの家族グループがリストされています。SAAとSAは抜けています。このサイトも更新されていません。

Inter-Fellowship Forum という検索ワードで検索すると、SCAのニュースブログ (scanneronline­.org) に、2023年7月23日にIFFのミーティングが開催されたとあるのを見つけました。それによると、IFFはこの5年間休止状態で、SAAが再開の努力を続けているとあります。また、新たにSPAAが始まっているという情報がありました。


Q: SPAAはどんな団体なのですか?

SPAA logo
from SPAA Pamphlet

A: セックス・アンド・ポルノ・アディクト・アノニマスSex and Porn Addict Anonymous (spaa-recovery.org), SPAAは2019年頃に始まり、2023年時点で400人のメンバーがいるそうです。対面のミーティングはアメリカ国内のいくつかの州に10ヶ所ほどあるだけですが、オンラインのミーティングが毎日早朝から夜半過ぎまで途切れずに行われています。オンラインの活動の方が活発なのが、新型コロナの時期に成長した新団体らしさを感じます。

SPAAのソブラエティの定義は「プラン」タイプと全員一律タイプを組み合わせたものです。基本的にSAの定義を継承していて、SAがセックスは男女の婚姻関係に限るとしている部分を、committed relationship(性別を問わずほぼ婚姻と同様と見なせる関係)に変えています。それだけでなく、ポルノを見ることと、彼らが edging(エッジング)と呼ぶ行為をやめることです。

エッジング行為の例としては、ポルノではないが性的興奮を誘う写真や映像を見たり、それを求めてウェブやSNSを見ること。パートナーに圧力をかけて性行為を強要すること。パートナーの嫉妬心を煽るために他の人と親密なふりをすること。パートナーと破局したときのための次の候補者リストを作ること。公共の場所で魅力的な人の体の一部を見つめたり、後をつけたりすること。かつて見たポルノ映像やかつての性行為を頭の中で呼び起こすこと。魅力的な人と出会った時に、自分にパートナーがいる事実を都合良く忘れること、などが挙げられています。

何がエッジング行為なのかは、メンバー一人ひとり違うとしています。その点では、エッジングについては全員一律ではなく「プラン」タイプになっています。ただし、エッジング行為はスリップに含まれます(そこはSAAの境界行動とは違うところです)。3)


Q: いろいろな団体のいろいろな基準があって混乱します

A: 性の多様性Sexual diversityという言葉がありますが、六つの S-fellowships からは性的ソブラエティの多様性が学べると言えそうです。表にしてみました:

共同体ソブラエティの基準男女の
配偶者間
事実婚や
同性パートナ
マスターベーションアノレキシア概念その他
SLAAプランプランの内容による有り
SAAプランプランの内容による有り
SA一律××
SCAプランプランの内容による
SRA一律×
SPAA一律+
プラン
××エッジング
×ポルノ視聴

僕としては、最初に全員一律の基準を設定する団体(SA)があって、その後「プラン」タイプの団体が増えていったのではないかと想像していたのですが、そうではなく、一律の基準を使いマスターベーションも慎む団体がSCA後も誕生しているところが、性の問題の複雑さを表しているように思われます。(どの団体が最も早くから「プラン」を使い出したのかは議論の余地があります。SCAは当初からメンバーがそれぞれの基準を使っていたとしていますが、SLAAやSAAがいつごろからボトムライン行動や三つの円を使い出したのかは明確ではありません)

メンバー数を公表しているのはSLAAだけなので、数値による比較はできませんが、ミーティングリストを見る限りではSLAAとSAAが規模が大きな団体であることから、数的には「プラン」タイプが優勢だと言えそうです。


Q: 日本ではなぜSAとSCAしかないのでしょうか?

A: (SLAAもありますが、それはともかく)

単に知らないからではないでしょうか? 僕自身、今回調べてみるまで、SA・SCA・SLAAの存在しか知りませんでした。しかも、SCAが「プラン」タイプである事は知っていましたが、SAやSLAAの使っている基準については詳しくは知りませんでした。ですから、性の問題を抱えた人にとっても、自分に適した共同体を選ぶための情報が十分に得られない状態になっていると思われます。

日本に存在しない共同体についてはさらに情報が少なく、言語の壁もあり、日本でその最初のメンバーになってグループを始動させていくのはハードルが高いことです。

ただ、日本でも性犯罪を繰り返す人への(病院とか施設ではない)コミュニティレベルでの支援システムが求められていることは確かだと思います。それについて最もふさわしいであろうSAAが日本に存在しないのは残念な気がします。

次はACと共依存にグループについてですが、その前に、これまでの情報を整理する回をはさみます。


  1. SA, Member Stories 2007, SA Literature.[]
  2. Interfellowship Forum (sca-recovery.org), 以前は公開されていたが、現在はリンク先がメンバーでないと読めなくなっている。[]
  3. SPAA, What is Edging? (spaa-recovery.org), SPAA Literature, 2020.[]

12ステップのスタディ,日々雑記

Posted by ragi