ビッグブックのスタディ(8) 再版にあたって 5

今回は、AAがどのようにして一般社会に受け入れられていったか、です。

ビッグブックの「再版にあたって」p.xxiv (24)の後ろから3行目です:

・・・世間一般にもAAは急速に受け入れられるようになっていった。これには二つの大きな理由がある。一つはたくさんのメンバーが回復していったこと。もう一つは家族関係がもとに戻ったことだ。このことは、どこでも強い印象を広げた。1)

一般社会にAAが受け入れられた要因として、

 ① 多くのメンバーが回復した
 ② 家族関係がもとに戻った

の二つを挙げています。

一番目の「多くのメンバーの回復」については、この続きに説明があります:

・・・AAに加わって真剣に努力して取り組んだ人の半数は、すぐに飲酒がやめられて、飲まない生活を続けることができた。何度か再飲酒をしたがやめられた人は二十五パーセント残りの人もAAにつながっているかぎり、良いほうに変わり、いろいろな改善が見られた。ほんのちょっとAAミーティングに顔を出して、プログラムが気にくわないと決めつけて来なくなってしまった人は何千人もいたが、そのうちの約三分の二は、後になって戻ってきた。2)

この文章を分かりやすいように図にしてみました。

初期AAの回復率

まず、左の「AAに加わって真剣に努力して取り組んだ」群と、右の「ほんのちょっとAAミーティングに顔を出して、来なくなってしまった」群の二つに大きく分けます。

前者(左側の円グラフ)は、さらに三つに分けられます。AAですぐに酒をやめられた50%、何度か再飲酒した後でやめられた25%、AAに通いながらもやめられていない25%です。後者(右側の円グラフ)については、約3分の2が後になってAAに戻ってきたとありますね。

前者に「真剣に努力して取り組んだ」という限定条件がついていることが重要で、その意欲を持てない人々はミーティングから去って後者の群に吸収されていきます。前者と後者の比率(AAへの定着率)がどうだったのか、という情報はここにはありません。

左側の円グラフを根拠に「1940~50年代のAAの回復率は高かった」と言うことはできると思います。それに対して、現在のAAの回復率が低くなっているのかどうか。それについては、AAメンバーのアーサー・S(Arthur S. et al.)らが学術的な検討を行っています。

結論から述べてしまうと、現在のAAの回復率も十分に高いと言えます。ただし「AAに定着できていれば」という条件が付きます。AAに来なくなってしまった人たちを追跡調査することはできませんから、AAに定着している人たちだけを調べれば、その多くは安定して酒をやめていますから、回復率の数字は高くなります。そのことは昔も今も変わりありません。

今の日本のAAの課題は定着率の悪さ、言い換えれば脱落率の高さ、つまりニューカマー(新しく来た人)の多くが続かずにすぐに来なくなってしまうことではないでしょうか。依存症に限らず、治療脱落をどうやって防ぐかというのは、糖尿病やうつ病など慢性疾患全般の課題です。

すぐに来なくなってしまった人たちに、その理由を聞くと「ミーティングに意味や目的が感じられない」という類のことを言われます。

Sisyphus by Tiziano Vecellio
Sisyphus by Tiziano Vecellio, from Wikimedia Commons

ギリシャ神話に「シーシュポス の岩」という話があります。シーシュポスは大きな岩を山頂まで運ぶという罰を与えられます。だが、山頂近くまで運び上げると、岩は下まで転がり落ちてしまうのです。何度運び上げても結果は同じで、彼は何も達成できません。

AAミーティングに意味が感じられない人にとって、それはシーシュポスの岩と同じです。ただ岩と違って、AAからは自由に脱落できるので、多くの人が右側の円グラフに移っていくのでしょう。AAに定着できた私たちには、彼らがミーティングで味わう徒労感を推し量ることは難しいのかもしれません。

AAメンバーのワリー・P(Wally P., 1945-)は、ニューカマーと彼らの必要とする解決との間に障壁を作るべきではない、と主張しています。3) 具体的には、初期のAAのように、新しい人たちにはなるべく早く12ステップに取り組んでもらうべきだというのです。そうすれば、ミーティングの意味や目的が明確になり、脱落する人も減るのではないでしょうか。

次に、右側の円グラフについてです。当時は、AAに来なくなったニューカマーの3分の2は、後になってAAに戻ってきたと述べられています。おそらく現在の日本のAAはそこまで高い数値は出していないでしょう。AAを去った人たちの多くは二度とAAに来ません。そこを改善するにはどうしたら良いかを考えるべきだと思います。

具体的には、ステップ1の説明の中で「底付き」を扱うときに、このことにも触れる予定でいます。

上記のビッグブックの記述の信憑性や現在のAAの回復率について関心のある方のために、アーサー・Sらの論文を翻訳してあります。

さて、二番目の要因は「家族関係がもとに戻ったこと」とされています。家族関係の修復には、当然棚卸し(ステップ4・5)や埋め合わせ(ステップ8・9)が重要な役割を果たすわけで、当時のAAメンバーが前向きに12ステップに取り組んでいた様子がうかがえます。

ビッグブックは、まず自分の家の中で12ステップを使うことを勧めています(BB, pp.185-186)。

家庭と家庭の外のことで板挟みになったとき、家庭を犠牲にして、外のことを優先したほうが社会的評価が高くなる、という風潮が日本にはあります。だからなのか、12ステップを実践するときも、職場やAA内での取り組みが優先されて、家族関係が後回しになりがちです。

なぜ日本のAAは社会に広く受け入れられず、メンバー数も増えないのか。どうやったらもっと多くの人にメッセージを伝えられるのか・・・AAの中でそうした議論は常々行われていますが、広報活動、出版物、病院や刑務所などについてのトピックは出ても、「一人ひとりのメンバーが家族関係の修復に努める」ことがAAが広がる役に立つ、というポイントは見落とされています。

次で「再版にあたって」を終える予定です。


  1. BB, pp.xxiv (24)-xxv (25)  []
  2. BB, p.xxv (25)  []
  3. ワリー・P(ジャパンマック訳)『バック・トゥ・ベーシックス』, ジャパンマック, 2016, pp.195-196 []