ABOUT AA 5 AAにつながる若い世代の増加
1990年頃に翻訳出版されていた『About AA 専門家向けニューズレター』の第5号です。
ABOUT AA No.5 専門家向けニューズレター 1986年冬号
フェローシップの将来に目を向けて
23歳の人がAAにやって来ることなど滅多になく、「アルコール中毒者になるには若すぎる」と考えられた頃のことは今や遠い昔の話である。アメリカ及びカナダにおける1983年度のAAメンバー調査結果によれば、このフェローシップに占める若年層(31歳以下)の割合は20%という新最高記録を示している。1980年の調査結果が15%であったのと比べれば著しい増加である。なおそのうえに3%は21歳以下である。
若年層のAAへの流入は徐々に起ってきた現象ではない。3年毎に行われるこの調査が初めて手掛けられた1968年から1977年にいたるまで、若年層の割合は常に7%であった。そしてその後、3倍近くにまではねあがったのである。
この調査でさらに明らかになったことは、31歳以下のメンバーのなかでは、アルコールと同時に他の薬物依存も併わせ持つ人が、1983年で男性58%、女性は64%もいることである。(ちなみに全メンバーのなかで両方併わせ持つ人の割合は31%)。21歳以下になると――今回初めて分離して調査が行われた――この数字は男子74%、女子78%となっている。
若年層の特殊なニーズに対応していくことがAAにとって今、重要である。このフェローシップがその要求に応じるためにとっている方法の一部を、ここに紹介する。
- 常任理事会広報委員会が作成したスポット・アナウンス三種が、あらかじめ選択された1500以上のラジオ局から現在流されている。これらは台本なしで、若いAAメンバーたちが、このプログラムが自分にとってどういう意味を持つのか自由に語っているのを録音したものである。それぞれのメッセージの最後には、ある若いAAメンバーが造ったことばが入る:「アルコール中毒は病気さ。トシじゃないよ」
- すでに以前から放送されていたスポット・アナウンスにも現在、ティーン・エイジャーのAAメンバーの話を組み入れている。「アルコホーリクス・アノニマスからのメッセージです。わたしが生まれ育ったのは、ごく普通の町の、ごく普通の家だったわ。突然、何もかもが狂ってしまって、あまりにもいろいろなことが変ってしまったの。自分の気特をだれにも話せなかった。ただ怖くて、そしてひとりばっちだった。そして、お酒を飲み始め、クスリもやるようになったの。とにかく自分の現実に向き合いたくなかったんだわ。AAのことも知っていたけど、わたしはそんなトシじゃないと思っていたもの。でもそれが間違いだってことに気付いたの。もしあなたもお酒でこまっているなら、わたしたちに電話をしてみて。AA――うまくいくわ。1) 番号は電話帳で調べてね」
- 文書委員会2)では若い人向けの既存のAAの資料やパンフレット類――「ティーン・エイジャーへのメッセージ」「若い世代とAA」そして劇画風の「若すぎるから?」(訳注.いずれも日本語版はない)3)――の有効性を検討しており、新しいものが必要かどうか決定するところである。
- 矯正施設委員会ではパンフ「個室の住人」4)に基づいたビデオをつくっている。
- 若い世代についての特別記事用の資料が1985年6月にマスコミ関係に発表された。これは20代はじめから半ばまでの4名の男女の飲酒歴を要約するとともに、彼らがどうやってAAで希望と、支援と、そして快適なソブラエティーを得たかを述べている。この発表の中でも「アルコール中毒は病気であり、年令とは関係ない」というテーマを繰り返しており、そして「AAは共通の問題を分かちあい、お互いに耳を傾け、お互いに手助けしていきたいという人々の……」ということを明記している。
これらのプロジェクトはほんの始まりにしかすぎない。われわれがすべきことははっきりしている。若い世代の人たちがしらふの生き方を求めて――生きること、そのものを求めてくることも多いが――このプログラムにたどりついて来たとき、同じなんだという感じをつかめるような方法で、AAの手が彼らに確実にさし伸べられるようにしていくことである。われわれはあらゆる分野の専門家の意見や支援を喜んで受け入れていきたい。
犯罪による拘留のギャップを埋めるには
「自分が成人して32年ものあいだ、自分の領域の全くお門違いのところであれこれ努力していたことが、今の私には分かる」。ノン・アルコホーリックの常任理事でテキサス州矯正局で長期にわたり長官を務めてきたジム・エステルJr.5)は11月に開催されたAA常任理事会のミーティングでこのような意見を述べた。「アルコール中毒の問題は、刑務所の扉を閉じた後ではなく、収容される以前に伝えられるべきものである」と。
AAにおいても同様だが、アメリカの刑務所でも若年齢化が目立っているという。この状況を『国家の恥』だと評して、彼は最近のアメリカ司法省発表の報告書に言及している。それによると、アルコール中毒関連で刑務所に入っているひとの割合がアメリカでは75%から80%に及んでおり、そのなかでも多くの犯罪が17歳から27歳の男性によって引き起こされているという。
「最も若いアルコール中毒者でも自分の酒の問題を認めるものだ、という事実を、われわれは伝えていかなければならない。それをわれわれが早急にやっていればそれだけ、これらの若いひとたちの留置にかけるわれわれの税金も少なくてすむし、苦しむひとの数も少なくてすむだろう」。エステルはそこに集まったAAメンバーたちにこう語った。
昨春行なわれた、第35回ゼネラル・サービス評議会の席上でもエステルは厳しい警告を発している。「今日、アメリカの刑務所では45万人、カナダでは2万5千人の成人が収容されている。この数字を、5年前には30万人が拘留されていたという事実と結びつけて考えれば、5年後の予測はどうなるだろうか? 50年後は? このフェローシップにいるわれわれにとってこれからの50年間は、もしわれわれがこのチャレンジを受けとめていくなら、北アメリカにいる最悪の状態で苦しんでいるアルコール中毒者にもAAの手が到達できるようにするための、使命を果たす期間とすることができるのである」
エスカレートしつつあるこの問題を早急に解決する方法は何もないことを強調したうえで、エステルはいくつかの提案をした。もっと数多くのAAメンバーが刑務所やデトックス(解毒)センターに関与していくこと、手一杯の仕事を抱えていてわれわれの支援を必要としている保護監察官と協力的な関係を結んでいくこと、治療センターや地方裁判所から紹介を受けてAAにやって来たひとたちに積極的に対応していくこと、などである。最後に「現在、刑務所、監獄、少年鑑別所に閉じ込められているフェローシップの将来の一部」とのAAのかかわりを一新することが必要である、と力説した。
若いメンバーは言う……
「わたしは22歳です。もう若くはありません。もうティーン・エイジャーのアルコール中毒者ではないんですから。わたしが育ったのは中西部の小さな町で12歳のときにお酒とクスリを始めました。13歳のときネバダに移り、そしてウィスコンシン州のマディソンでソブラエティーを得たのが15歳のときです。そのときAAに古くからいる人にこう言われました。『君は若すぎる。アラティーンに行ったら』 だから今どこにわたしがいるのか確かめたほどでした。」
こう話しているのはダラで、彼女はニューヨーク市のホテル・ルーズベルトで11月に開催された常任理事会の、「AAのなかの若い世代」というテーマで開かれたミーティングで討論するため招かれた3名のメンバーの1人である。
「最初はわたしも自分の年のことで何か壁があるように思っていました。でも今はAAのなかならどこへ行っても、みんなと同じなんだって感じられるようになっています。それでもやっぱり、まだ否認が残っていることはまっさきに認めます。つい最近、わたしたちのグループに15歳の子がやってきました。そのときわたしはこう思ったのです。『このひとがアルコール中毒者ですって?』」こう彼女は続けた。
ダラにとって、彼女の若い人たちのグループは次のようなものであった。「わたしのソブラエティーのなかで初めて、自分も同じ年ごろの仲間のひとりなんだと感じることができました。わたし自身の話をその人たちから聴き、それがソブラエティーを続ける力になりました」
やはり若いAAメンバーのラリー・Yもまた、1976年から若い人たちのグループのなかで積極的に活動を続けているが、彼は「ぼくたちはほかのスペシャル・グループ*1とは違う点がある。例えば女性はずっと女性だし、医者は大体がずっと医者のままだと思う。でも若い人たちには違った特徴がある。つまり、おとなになり、普通のAAメンバーになり、さらには『古い人』にもなりうることだ。若い人がなぜスペシャルかといえばそれは若者がAAの将来だからだ」と話している。
三人目のスピーカーのジムは特に次のことを強調している。つまり、若い人のグループは徹底的にAAの枠組みの中で活動していること、その目的の単一性を厳密に守っていること、である。若い世代のニーズを満たすうえでのAA出版物の有効性については、彼の意見では「他の薬物を使っているアルコール中毒者についてもっと明確にする必要がある。医療者が薬物依存について習得したことに、われわれは歩調を合わせてこなかった」ということである。
ここで質問があり、若い人の会議が開催されたホテルから騒音やらあと片付けの点で苦情が出なかったかたずねられたが、「われわれが騒々しいと思った人は確かにいただろう」ジムはこう認めたうえで「だがそれは何ものにも縛られないスピリチュアリティだったと考えたい」と結んだ。
若い人のグループはその対象と意図を明確にしている
若い人のグループとAA青年国際評議会(ICYPAA)が発表した「事実、対象、目的」という報告によると、若い人のグループが初めてスタートしたのは1945年、ロスアンゼルスとフィラデルフィアで、ICYPAAができたのは1957年だということである。
1986年5月にマイアミで開催される年次評議会には2千人以上ものメンバーの出席が見込まれている。AAメンバーのラリー・Yは「もし委員会に若い世代の代議員が数多くいなかったら、どこの都市でも評議会など開催できなかっただろう。若い人たちがAAのサービス構成のなかの要素となることをわれわれは願っている」と述べている。
若いメンバーたちは現在、12番目のステップ(メッセージ)活動、病院・施設、広報、全体サービス、その他のあらゆる局面のサービスにかかわりをもって活動している。初めてAAにやってきたひとたちも、日常生活にAAの原理をあてはめ、そしてAAのサービスに参加していけば、「永続きする居心地のよい集りを持てる」ことを同年令の若者たちから教えられていく。
AAの目的はただ一つであること
アルコールに加えて薬物依存もある若年層が数多くこのプログラムにつながるようになるにつれて、「複合依存」6)に関して、またAAの生き方との関連について、専門家のあいだでも、AAメンバーのあいだでも賛否両論が戦わされることがしばしばである。
AAの姿勢は常に明確である。われわれは相手がだれであろうとアルコール中毒の診断はしない。われわれはそれをそのひと個人に、また専門家にゆだねている。多くのAAメンバーは結局は自ら選んで自分をアルコール中毒者だといっているものの、これはこのフェローシップに属する条件ではない。
第35回ゼネラル・サービス評議会において、パンフレット「専門家へのメッセージ」と「How AA Members Cooperate」に次のような文を挿入することが推奨された:「AAのメンバーになるために要求されることは酒をやめたいという願望だけである。もしその人がこの点について確信がないなら、オープンAAミーティングに出てみたらいいだろう。もしその人が、飲酒は問題ではないと確信しているなら、別のところに援助を求めたほうがいいだろう」
アルコール中毒の定義と、AAを手本にしてつくられた自助グループ*2の急増をめぐっての数々の難題を考える時、AAの共同創始者であるビル・W.が約30年も前に書いた次のような言葉(AA Comes of Age)が今日を予言しているように思える:
「人々の中には、アルコホーリクス・アノニマスは、霊的めざめを世界中に伝えてゆく新たな先兵となるかもしれない、と予言する人々もいます。この友人たちのことばは寛容と誠意から出たものではありますが、しかし、このような賛辞と予言は、もし私たちがこれがAAの真の目的であると信じるようになり、そしてそれに従ってふるまい始めるならば、それは頭を酔わせる飲みものとなるであろうことを、思い返さなければなりません。それゆえAAは、そのただ一つの目的、まだ苦しんでいるアルコール中毒者にメッセージを運ぶという、ただ一つの目的を、用心深く守ってゆくことでしょう。神が私たちに、一つの分野でうまくやれるようにしてくれだからといって、自分たちが万人に救いの恩恵を運ぶ使命を授けられていると考えるような、思い上がりには誘惑されないようにしたいものです。
「一方では私たちは、決して閉ざされた団体にはならないようにしたいと思います。世の中のために私たちの経験が役に立つことがあれば、それを決して拒まず、ひとりひとりが人間の営みのあらゆる分野の要請に留意し、何か良いことができるなら、それらのことにAAの経験と精神を投入しようではありませんか」7)
(*1 訳注:AAのなかには、通常のAAグループ以外にもスペシャルグループと称して、女性メンバーのみ、あるいは弁護士とか医師といった特定の職業を持つメンバーのみに参加を限定した特別グループがある。
*2 訳注:Narcotics Anonymous, Overeaters Anonymous, Gamblers Anonymous 等々)
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Winter 1986 “More Young People Come to A.A. and Stay”
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