アルコホリズム
アルコホリズム — alcoholism
アルコール症、アルコール中毒とほぼ同義。アルコール依存症やアルコール使用障害はアルコホリズムより対象とする範囲が広い。
大別して二つの意味に使われている。
1)(疾患の有無や種類によらず)害のある大量の飲酒
2)現在ではアルコール依存症と呼ばれる慢性疾患の一類型
アルコホリズムという言葉を作ったのはスウェーデンの医師マグヌス・フス(Magnus Huss, 1807-90)で、彼は1849年に出版した alcoholismus chronicus(慢性アルコール中毒)で、蒸留酒の多飲による神経組織の変化と社会的機能の中断について述べ、これを alcoholisme(アルコーリスム)と名付けた。ismeという語尾は「中毒」という意味である。1)
この言葉が英語に訳され alcoholism(アルコホリズム)という言葉になり、やがて2)の意味で使われるようになっていった。2) AAが登場する以前は、inebrietyという言葉が一般的だったという。3)
疾患としてのアルコホリズムは、飲酒のコントロールの喪失を特徴とする。コントロールの喪失には、飲酒量の調整能力の低下に加えて、飲み始めるとやめられなくなる(inability to stop drinking once it is begin:停酒不能)と、酒を断ち続けることができない(inability to refrain from drinking:自制不能、断酒不能)という二つの症状がある。4) AAでは、調整能力の低下はアルコールに対する身体的アレルギー反応、断酒不能は精神の強迫観念によるものと説明している。どちらも、12ステップのステップ1の重要な要素であり、これらが社会的障害につながると説明している。5) (cf. コントロールの喪失 、断酒不能 )
アルコホリズムは、1950年代にはWHO(世界保健機構 )およびAPA(アメリカ精神医学会 )の疾病分類に掲載され、疾病として確立した。日本でも慢性アルコール中毒という病名が用いられた。だが、社会全般には1)の意味での使用も拡がり、病気への理解が広まったわけではなかった。「アル中」という言葉は蔑みの意味を帯びたため、使用を避け、アルコール症という病名も提唱された。(cf. 依存症の診断基準)
1975年にWHOは、「アルコホリズムという用語は非常に漠然と使われるようになってきた語であるために、その意味を限定しようとするのは無駄な試みであろう」として、アルコホリズムではなくアルコール依存症候群と呼ぶべきと勧告した。6) その後、診断基準が改定され、アルコール依存症という病名に変わった。(cf.
アルコホリズムからアルコール依存症候群へ)
日本のAAでは alcoholism の訳語としてアルコール中毒を用いてきたが、依存症という言葉が一般化するにつれて、古い言葉を使っているという批判も起きてきた。しかしながら、アルコール依存症という言葉を使うことも適切ではないため、1990年代の議論を経て、アルコホリズムというカタカナ語を用いることになった。(alcoholicについては、アルコール中毒者からアルコホーリクへと変えた)。
アルコール依存症の医学的な診断基準には、前述のコントロールの喪失(自己統制の困難)のほかに、耐性、離脱、強い欲求、社会的障害が含まれており、これらの一部が当てはまれば診断が下せるようになっている。したがって、AAのアルコホリズムの概念と医学のアルコール依存症の概念は同一ではない(医学の概念のほうが広い)。
AAの概念では、アルコホーリクは正常な飲酒には戻れない。だが、標本数の多い社会調査において、面接調査により診断基準に従った判断を行った結果、過去にアルコール依存だったと見なされたサンプルのなかで2割近くが低リスク飲酒に戻っているという結果も出ている。7) こうした差異が生じてくる原因の一つとして、AAが用いるアルコホリズムの基準と、医学が用いる診断基準の違いが考えられる。アルコール依存症と診断された人のすべてがAAの対象となるわけではない。(cf. ビッグブックのスタディ 第23回)
アルコール依存症にあてはまらない有害な飲酒をアルコール乱用(abuse)と呼ぶ。
参照:
・ビッグブックのスタディ (23) 医師の意見 14
・ビッグブックのスタディ (26) 医師の意見 17
・ビッグブックのスタディ (52) 解決はある 5
アルコール・ドラッグ用語集:
・アルコール症(alcoholism)
・依存症候群
・乱用
外部リンク:
・アルコール依存症(脳科学辞典)
・アルコール健康障害対策(厚生労働省)
- ジャン=シャルル・スールニア(本多文彦監訳)『アルコール中毒の歴史』, 法政大学出版局, 1996, 第四章.[↩]
- マーク・ケラー/マイリ・マコーミック(津久江一郎訳)『アルコール辞典 改定第二版』, 診断と治療社, 1987, pp.48-49.[↩]
- ウィリアム・L・ホワイト『米国アディクション列伝』, ジャパンマック, 2007, p.xvii.[↩]
- ケラー/マコーミック, pp.249-250.[↩]
- BB, 「医師の意見」および第二章・第三章.[↩]
- ケラー/マコーミック, pp.36-37.[↩]
- Deborah A. Dawson, et al., Recovery from DSM‐IV alcohol dependence: United States, 2001-2002, Alcohol Res Health, 2006, 29(2) pp.131–142.[↩]
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