ビッグブックのスタディ(9) 再版にあたって 6

67人に一人

ビッグブックの「再版にあたって」の最終回。p.xxvi (26)の1行目途中から:

世界には数百万人の顕在、潜在のアルコホーリクがいる。問題の大きさを考えれば、私たちはまだ表面をほんの少しかすったにすぎない。いろいろな可能性があると思うが、私たちはアルコール問題のほんの一部分に触れることしかできないだろう。アルコホーリクの治療について、私たちが独占権を持っていないこともはっきりしている。1)

第2版が出版された1955年時点での推定AAメンバー数は約10万人でした。その20年前にビル・Wドクター・ボブの二人で始めたことを考えれば、驚異的な増加と言えます。

「世界には数百万人の・・・アルコホーリクがいる」とありますが、実際にどれぐらいいるのでしょうか。WHO世界保健機関 Global status report on alcohol and health 2018 という白書を見てみます。

そのp.72に地域ごとのアルコール依存症(下の棒グラフの青い部分と有害な使用赤い部分の有病率のグラフがあります。2)

Prevalence (in %) of alcohol use disorders (AUDs) among persons 15+ years, by WHO region and the world, 2016

地域分けは左から、アフリカ、南北アメリカ、中東、ヨーロッパ、アジア南部、西太平洋(カンボジアから東の国)です。アルコール依存症の「本場」はアメリカとヨーロッパだということが分かります。中東で少ないのは飲酒を禁じているイスラム教の影響でしょう。一番右側のWorldの青い部分の数字は2.6です。つまり、2016年時点で世界の15歳以上人口の2.6%がアルコール依存症というわけです。

世界の人口を調べるのは簡単ですが、「15歳以上」という限定条件がつくと結構面倒です。調べるのにかなり苦労しましたが、国連人口基金(UNFPA)世界人口白書のデータクエリで調べてみると、2016年の世界の15才以上人口は55.2億人という答が出ました。

その2.6%ですから、55.2億人×0.026=1.4億人。つまり、世界のアルコール依存症者数は1.4億人です。・・・日本の人口より多いじゃないか。

世界のAAメンバー数の推計は、AAWSが毎年発表していますが、それによれば2016年時点でのメンバー数は210万人です。3)

1.4億人:210万人 = 67:1

全世界のアル中のうち、67人に一人がAAメンバーになっていると推測されます。だから、「私たちはアルコール問題のほんの一部分に触れることしかできないだろう」というのは、極めて現実的な物言いです。

治療の手段はAAだけではない

その上で、ビル・Wは「アルコホーリクの治療について、私たちが独占権を持っていないこともはっきりしている」と述べています。

アルコホーリクを治療できるのはAAだけだとか、12ステップが唯一の手段だとはAAは主張して

ビッグブックで明確に述べられている以上、「治療の手段はAAだけではない」というのがAAの公式なポジションです。

12ステップじゃないとダメだとか、自助グループが唯一の手段だと言う人もいますが、そういう主張を耳にすると「実に危なっかしい」と僕は思います。

ビルは、AAを始めた頃は「ナンバーワンになりたいという願望」が強かったと告白しています。4) そんな彼もビッグブックの第2版を出す頃には、現実的なものの見方ができるようになり、自分が全体の中の一部にすぎないという意識を持てていたからこそ、上のような文章が書けたわけでしょう。

だから、12ステップや自助グループが他の手段より優れていると公の場で主張する人を見ると、その人は自分の中にある我欲を意識しているのだろうかと少々気にかかるのです。

ビルはこういう言葉も残しています:

アルコホーリクス・アノニマスが万能薬であると思いこむことも、たとえアルコホリズムに関してであっても、それは誤ったプライドの産物に違いありません。5)

日本のアルコール依存症者数は?

さて、前掲のGlobal status reportのp.316には、日本のアルコール依存症の有病率があります。2016年時点で、15歳以上の男性の2.1%、女性の0.2%、両性合わせて1.1%がアルコール依存症となっています。

総務省統計局の人口推計で調べると、2016年時点での15歳以上の人口は、男性が5,345万人、女性が5,732万人です。6)

これらを元に計算すると、日本には男性112万人、女性11万人のアルコール依存症者がいるという結果になりました。

ちなみに何年の数字だか分かりませんが、日本のAAのメンバー数は約5,700人です。7)

断酒会は、(ちょっと古いですが)2015年の全日本断酒連盟の会員数が7,688人8)

厚生労働省が3年おきに行っている「患者調査」においては、アルコール依存症で医療機関での治療を受けている人は約4万人で推移している、とあります。9)

ほんの一部分に触れることしかできていないのは、AAに限った話ではなく、断酒会も、医療も事情は同じなのでありましょう。先ほどの続きです:

・・・ではあるが、私たちはただただ願う。まだ解決を見つけていない人が本書の中に答えを見いだし、新しい自由への道を、私たちと一緒に歩き始めてくれることを……。1)

一部の人の助けにしかなれないことは分かりきっているものの、まだ解決を見いだしていない人のために、ビッグブックに12ステップのメッセージをこめて送り出しているのであります。

今回のまとめ
  • AAや12ステップ以外にも回復の手段はある、というのがAAの公式の見解。

「再版にあたって」は6回も使ってしまいました。長々とおつきあいありがとうございます。これでやっと次からステップ1に取りかかれます。


  1. BB, p.xxvi (26)  [] []
  2. WHO, Global status report on alcohol and health 2018, World Health Organization, 2018, p.72 []
  3. AA, SMF-132 – Estimates Worldwide AA Individual and Group Membership (aa.org), AAWS, 2019 []
  4. AACA, p.97 []
  5. AACA, p.347 []
  6. 総務省統計局, 『人口推計-平成28年1月報-』人口推計 (stat.go.jp)  []
  7. AA日本ゼネラルサービス, 「アルコホーリクス・アノニマス(AA)とは」 – AA日本ゼネラルサービス (aajapan.org)  []
  8. 全日本断酒連盟, 『2016年版 躍進する全断連』, 全日本断酒連盟, p.3 []
  9. 『アルコール健康障害対策推進基本計画 平成28年5月』アルコール健康障害対策 (mhlw.go.jp), 厚生労働省, 2016, p.2 []

2020-02-17ビッグブックのスタディ,日々雑記

Posted by ragi