ビッグブックのスタディ (3) 初版に寄せて 2
ゴシック(太字)になってない!
前回は、「私たちアルコホーリクス・アノニマスは、絶望的に思えた精神と肉体の状態から回復している者たちの、百人を越える集まりである」の部分を取り上げました。
今回は、その次の文です:
私たちがどのように回復したかを、まさにそれがあったとおりにほかのアルコホーリクに伝えることが、本書の目的である。1)
To show other alcoholics precisely how we have recovered is the main purpose of this book.2)
precisely how we have recovered の部分がイタリック体 (斜体)になっていることに注目してください。ビッグブックにはイタリック体になっている箇所があちこちにあり、日本語版ではゴシック体 になっています。ゴシック体で強調されているところは「ここは大事だ」という意味です。ですが、この部分は原文がイタリックなのに、日本語でゴシック体になっていません。書体指定のミスが修正されずに十年以上そのままになっています。正しくは、
私たちがどのように回復したかを、まさにそれがあったとおりにほかのアルコホーリクに伝えることが、本書の目的である。
ビッグブックはhowの本
このイタリックの部分に how という言葉があり、「どのように」と翻訳されています。how という言葉を英和辞典で引くと「どんな方法で」とか「どんなやり方で」という意味だと載っています。
と言われます。どうやって回復したら良いのか、その「方法」を示すのがこの本の目的です。(その方法は12ステップ)。
ビッグブックは why の本ではありません。「なぜ」という疑問には答えてくれません。あなたは、自分がなぜアルコホリズム(あるいは依存症)という病気になったのか、という疑問を持っているかもしれません。もちろん、多くの酒を飲んだことが理由の一つに間違いありませんが、しかしあなたよりもっと多くの酒を飲んでいるのに、アルコホリズムにならない人もいます。となると、大量飲酒は「なぜ私がアルコホリズムになったのか?」という疑問の答えにはなりません。
ACの人は「なぜ私がACになったのか?」という疑問を持つことがあります。それは、育った家庭環境の影響、親の問題の影響を受けたからというのがその理由ですが、しかしながらこういう説明は「では私はなぜあの親の元に生まれなければならなかったのか?」という疑問の答えにはなりません。
ビッグブック(あるいは12ステップ)は、こうした「なぜ」という疑問には答えてくれません。どうやったら回復できるのかという「方法」を教えてくれるだけです。
AAのプログラムは、アルコホリズムという病気の原因を科学的に探求しようとはしません。回復を促すようにメンバーたちが納得できる比喩的な真実を提供してくれるだけです。依存症の病因はまだまだ明らかになっていませんから、原因よりも解決に焦点を当てるのは良い戦略だと思います。
「初版に寄せて」の残りの部分は、彼らが個人名を名乗らず、無名(アノニマス)を選んだ理由が述べられており、xxxviii (18)ページの真ん中の段落は、AAという集まりの性質を描写しています。
- ビッグブックは how の本であり、私たちに回復の方法を教えてくれる。
前回取り上げた、英語の現在完了形について、SlideShare に良いスライドがあったので紹介しておきます。
次回は「再版に当たって」に進み、ビッグブックができあがった歴史を辿ります。
- BB, p.xvii (17).[↩]
- AA, Alcoholics Anonymous: The Story of How Many Thousands of Men and Women Have Recovered from Alcoholism, AAWS, 2001, p.xiii.[↩]
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