ビッグブックのスタディ (2) 初版に寄せて 1
「絶望的」という重要なキーワード
「初版に寄せて」に取り掛かりましょう。xvii (17) xx (20)ページの冒頭はこうなっています。
私たちアルコホーリクス・アノニマスは、絶望的に思えた精神と肉体の状態から回復している者たちの、百人を越える集まりである。1)
We, of Alcoholics Anonymous, are more than one hundred men and women who have recovered from a seemingly hopeless state of mind and body.2)
ビッグブックが出版されたとき、AAのメンバー数はおよそ100人になっていたことが分かります。しかし、この一文には、もっと重要なことが書かれています。彼らはアルコホリズムを「絶望的な状態」と表現しました。この絶望的(hopeless)という言葉は、とても重要なキーワードです。
前回も問題・解決・行動というキーワードを提示しました。このようなキーワードとその意味をつかんでいくと、12ステップを理解しやすくなります。
ステップ1には無力という言葉があります。もとの英語は powerless ですが、実はビッグブックには powerless という言葉は一回しか出てきません。3) さらに、ビッグブックは「無力とはこういう意味だ」という説明がありません。
ですが、この先を読んでいけば、
であることが明確になってきます。つまりステップ1の「無力を認める」とは、自分のこの先の人生の絶望性(hopelessness)を認めることです。
ビル・Wはこんな文章も書いています:
AA’s first step was derived largely from my own physician, Dr. Silkworth, and my sponsor Ebby and his friend, from Dr. Jung of Zurich. I refer to the medical hopelessness of alcoholism—our ‘powerlessness’ over alcohol.4)
AAのステップ1は、その多くを、私の主治医であるシルクワース医師、そしてスポンサーのエビーや彼の友人、さらにはチューリッヒのユング医師に由来している。私が言っているのは、アルコホリズムが医学的に絶望であること――それが私たちのアルコールに対する「無力」ということだ。(拙訳, cf. ビル・Wに問う (7) オックスフォード・グループについて)
ユング医師は患者であるローランド・ハザードに「君のように状態になった人で、これまで回復した人は一人も見たことがない」と絶望的な宣告をしました(BB, p.40)。シルクワース医師も、ビル・Wの妻ロイスに、あなたの夫は1年以内に死ぬか発狂するでしょう、と絶望的な宣告をしました。そしてそれはビルの耳にも入りました(BB, p.11)。
残念なことに、医学はアルコホリズムを治すことはできません。そのことはビッグブックが書かれた80年前も今も同じです。アルコホーリクを正常な飲酒に戻すこともできなければ、再飲酒を防げるようにもできません。なにも医療をディスっているわけではなく、現実を述べているのです。
AAのメッセージ、12ステップのメッセージは「希望のメッセージだ」と言われますが、希望だけを語ることはできません。光あるところには必ず影があるのですし、影があってこその光です。希望を語るためには、まず絶望を語らねばなりません。
回復中ではなく、回復した人たち
また、この文章では、彼らは自分たちが「回復している」と述べていますが、元の英語は have recovered となってます。・・・英語の現在完了形って覚えてますでしょうか? have + 過去分詞ってやつですが。中学3年生の時に英語の授業で習ってるはずなんですけど・・・まあいいです、英語の授業やってるんじゃありませんから。
とまれ、彼らは we are recovering(私たちはいま回復中です)と現在進行形で語るのではなく、we have recovered(私たちはもう回復しちゃったもんね)と現在完了形で語っています。
つまり彼らは、過去には絶望的な状態に置かれていたけれど、今はその状態からは脱出できている、と述べていて、どうやって脱出したのかを私たちにこの先で教えてくれるのです。
- 無力(powerless) = 絶望(hopeless)
- 彼らは we have recovered(私たちはもう回復した)と現在完了形で語っている。
「初版に寄せて」次回も続きます。
最近のコメント