ABOUT AA 3 AAについての一医師の見解 (AAと薬物)
1990年頃に翻訳出版されていた『About AA 専門家向けニューズレター』の第3号です。
ABOUT AA No.3 専門家向けニューズレター 1984年冬季号
1983年3月4~6日、サウスダコタ州スーフォールで開かれた、AA中西部地方フォーラムにて、AA常任理事会のノンアルコホーリック常任理事である、医学博士 Kenneth H. Williams 氏がAAに寄せる関心と信頼について感動的なスピーチを行ない、600人を越すフォーラム出席者から絶大な賞賛を浴びた。このWilliams博士のスピーチは「グレープバイン」9月号に掲載されたものであるが、アルコール中毒者及びAAと関わりを持つ専門分野の方々にとって重大な意義を持つものと思われるため、ここに再掲した。
一医師の考え
私はノンアルコホーリックであり、今日は話さなければならないという気持でいる。このフェローシップについて、私ははっきりした考え方を持っており、自分自身がこのフェローシップの一部であると感じることさえ、たびたびである。これはお許し頂きたいが、AAは私にとって重大な意義があり、それはきょうここに集まられた皆様全員にとってと同じぐらいのものなのである。
起ったことは奇蹟である。私は46才であるが、私は生れてから今日までの間に、われわれは、あの治療法が解らなかった病気からの回復について学び、そして経験してきた。あの病気から回復した方々が、今この会場にたくさん集まっておられる。われわれにはAAのフェローシップがある、それは全く奇蹟だといえよう。
きょう私が話したいと思っていることは、必ずしも多くの人には気にいられることではないかもしれない。だが、私個人としても、医学的な面からも、せめて話しておくべきことと感じている。私は多くの人に気にいられるために常任理事になったわけでなく、今話さなかったら、自分の任務を怠ることになるだろう。
私がみるところでは、現在このフェローシップには二つの大きな問題がある。一つはアルコール以外の疾患があるアルコール中毒者についてである。――まあ大半のアルコール中毒者にはそのような別の疾患がないことは確かなのだが。非常に多くの医師たちが犯している大きな誤りは、飲んでいるあるいは酒が切れたばかりのアルコール中毒者を診察して誤った診断を下すことである。患者の思考はまとまらない、不安感がある、眠れない、うつ状態である。分裂病のように見えることさえある。医者の側ではアルコール中毒についての尋ね方を知らず、アルコール中毒者の側では酒のことを医者に話したがらない。だから医者は、抑うつや不安や、あるいは不眠に対して処方せんを書く。恐るべき混乱! こういうことを日常、私は仕事の場で目にしており、まさに悩みの種である。これに対して、私にできることは全て行なってきたし、これからも続けていくつもりである。つまり、医者が患者に対して飲酒のことを尋ねるようにすること、アルコール中毒の診断に敏感になることである。アルコール中毒のほうが、精神分裂病や躁うつ病や、その他の精神疾患よりはるかにありふれたものなのである。
だが、アルコール中毒はいかなる精神疾患とも似かよい、またそう見えるものであるが、この事実を医者たちに認識させるには、依然として長い道のりがある。飲酒の問題から似かよった症状が現れるものである。アルコール中毒的飲酒はまた、他の多くの身体疾患も生み出し、もしくは身体疾患に似かよった症状を呈する――高血圧、心臓の問題、消化器系の問題等――。そこでアルコール中毒者は医者に行き、医者は問題を取り違え、治療を取り違える。アルコール中毒について医者を教育しようと努力している我々にとっては、このような誤診はむしろ医療領域の問題だといえよう。確かにこれは甚だ大きな問題であり、私はこれを過小評価するつもりはない。しかしながら、アルコール中毒者で同時に別の精神医学的な問題を持った者も、わずかなパーセンテージではあるが存在する。そのような人たちにとっては、一服の安定剤の投与が命を救うものとなるかもしれない。私がここでお願いしたいのは、AAメンバーが善意から新しい人に対して薬を捨ててしまうようアドバイスする前に、それを処方した医師に配慮して頂きたいということである。あるいは新しい人は他の医者のところへ相談にいくのも良いだろう。だが、AAにいる者はいかなる薬物も用いることはできないという考えは、AAメンバーが医者の役割をして、病気の人間に薬を捨てさせるという難題を引き起こすことになる。その言葉通り実行したために死んでしまった患者も、入院することになった患者も、個人的に私も何人か知っている。
第二の問題である、アルコールと薬物との複合依存(クロス・アディクション)は更に重大だといえる。ここで述べておかなければならないが、このフォーラムで私が学びとった最大のものの一つは、AAメンバーたちがこの問題のためにこのフェローシップが破壊されているという危ぐで、心底苦慮していると感じとったことである。クロス・アディクションはまさに初期の頃からAAでは論争の的になっている。歴史的にみてもこれはもちろん間違いない事実だが、Dr.ボブもビルもアルコール以外の薬物や薬剤を用いていた。彼らがどの程度の量を用いたかはどの文書にも載っていないが、Dr.ボブもビルもクロス・アディクトだったと、今日多くの人たちが断言できるだろう。ビルはそれらを「goofballs」(睡眠剤・麻薬の俗語)と呼んでいた。Dr.ボブに関していえば、彼も多くのアルコール中毒の医者と同様、あらゆる種類の薬剤を引き出しや医者用のカバンにしっかり収め、自分用にどんな薬でも「処方」できた。今日莫大な数にのぼるアルコール中毒の医者たちは、他の薬が禁断症状を治療し、アルコールの代用になりうることに気づいている。これらの錠剤の多くを固形アルコールと認識して差しつかえない。
もちろんDr.ボブもビルも相当な飲酒歴を持っていたし、彼らが最も好んだ薬物はアルコールであった。しかしながらもし彼らが今も生きており、そして飲み続け、薬物を今も用いているとしたら、恐らく酒ばかりか、他の薬物ももっと用いていただろうと考えざるを得ない。入手の機会は、はるかに増大しているからである。
AAの第一の目的は飲まないで生きる(しらふで生きる)ことである。いわゆる医者の「軽い精神安定剤(マイナー・トランキライザー)」や、その他おびただしい数の薬剤や街で売っている薬物を用いながら、飲まないで生きられるようになった人を、私はまだ一人も見たことがない。事実、私は医者としての見解から言っておかなければならないが(医学書もある程度までは私を支持してくれるものと思っているが)、睡眠剤を用いている者はしらふではない。マリファナを吸っている者はしらふではない。アルコールは鎮静剤である。用いると足元がふらつき、呂律が回らなくなるというような、人体に及ぼす作用が非常に似通っている鎮静剤が、アルコールの他にも何種かあり、用いたものがどの鎮静剤であるかは――アルコールかそれ以外のものかは――だれにも判断できない。
私はアルコール中毒にかかっているたくさんの人を診ている。彼らは飲むとブラックアウトを起す。飲酒に対してコントロールが利かない。つまり、いったん飲み始めたら飲む量をコントロールしつづけることができない。飲むとすさまじいほどの問題を伴う。家庭問題、仕事上の問題、健康上の問題が伴う。彼らはアルコール中毒者である。たまにしか酔っぱらわなかった者もいれば、かなりの量を飲んでいた者もいるだろうが、だが私は彼らがアルコール中毒者だと考える、少なくとも特定の医学的基準によれば。私は彼らがアルコール中毒者であると診断できる。彼らは同時にアルコール以外のものにも溺れているかもしれない。だが、私はその病気の基盤にはアルコール中毒があると考えている。
そればかりか、他の薬物乱用の問題とアルコール中毒が合併するような、類似した生化学的径路が本当にあるのかもしれない。これは非常に新しい研究分野ではあるが、恐らく共通の生化学的径路があろうかと思われる。そのために中毒(耽溺)作用を受けている脳は、アルコールもバルビツール系睡眠薬も、精神安定剤も、その他の化学的にはアルコールとあまり密接な関連がない薬物でさえも、判別がつかないのかもしれない。あるいは言い方を変えれば化学的径路は同じであり、それをひき起す共通のカギがあるのかもしれない。アルコール中毒も、アルコール以外の鎮静剤に対する耽溺も麻薬に対する耽溺であっても、脳の化学反応に目を向けるなら多くの点から同じ病気だと言えるかもしれないのである。AAのメンバーになるために要求されることは、酒をやめたいという願望だけである。1)この言葉を私はたびたび思いおこしている。私が診た人がアルコール中毒だと私が考えるなら、その人に他の薬物を用いた経験があろうが、無かろうが、それがほんのわずかだろうが、大量だろうが、生き続けるつもりであるなら、酒をやめなければならないことを私は認識している。私はその人たちにAAを紹介するためできる限りのことをする。なぜならそれにより彼らの命は救われると私は考えているし、彼らにとって私が知っている限りで最も役立つものだからである。
私の住む地域にも、アルコール以外の薬物もかなり経験したアルコール中毒者を、他のグループよりも多く受け入れている個々のグループがある。私はできる限り、クロス・アディクトのアルコール中毒者たちをこれらのミーティングに差し向け、アルコール中毒者のこの特殊なタイプについてウマが合ってやっていける臨時のスポンサーを探してあげている。将来にわたり、この問題は一層大きくなると思うが、個々のグループレベルで解決されるだろう。その解答を私は知らない。だがこういう状況については「伝統4」2)を当てはめていくことを私は強く支持する。
私はこのフォーラムに出席している人々に深い感銘を受けている。いかなる薬物も全く用いたことのない一部のメンバーたちの感情も理解しているつもりである。つまり、洒ビンに入った液体の薬物であるアルコールだけを専門に用いてきた人たち、そして、今や治療センターから大量にやって来る人たちと、注射を打った話や……マリファナを吸った話や……シンナーを吸った話を一緒にできない人たちの感情を……。「昔からの人」も一緒に話すことができない。だがこれらの新しい人たちの多くはアルコール中毒という同じ病気にかかっていることを、私は忘れてはならない。そしてサポートを受けられるグループを彼らが見い出せることを、私は心から願っている。現在多くの地域で、ナーコテイックス・アノニマス、ピルズ・アノニマス、ピル・アディクト・アノニマスのメンバーシップが増え続けている。私の地域では、これらのAA以外の自助グループはすべて、AAメンバーがスタートさせている。それらのミーティングに行ってみれば、そこに出席している中核層は同時にAAメンバーでもある。ミーティングは非常によく似ており、どのミーティングに出ているのか分らなくなることさえ時にはある。だから私は、AAはここでは祖先ともいうべきもので、AA以外の自助グループの発展を、少なくとも各個人のレベルで、強力に支援しているものと考えている。そして、これらの自助グループは、多くの人々にとって、その回復のかなめとなっている、と私は考えている。
私には何の解答もないが、現在私が考えていることを話せて、気持がすっきりした。このフェローシップとその人々に私は多大の信頼を持っている。われわれが話して、話して、話し続け、そしてよく読み、一緒にやり続けるならば、われわれはみな同じ目的を持っていることが、そして人々がこの病気から回復することをわれわれはみな望んでいることが、明確になるものと思っている。われわれの国ではそれを必要としている。われわれの家族もそれを必要としている。われわれは皆、この病気により、これほど多くの犠牲を払ってきた。だから私は援助するため、あらゆる努力をして関わっていきたいという気特が与えられた。
About A.A. a newsletter for professional men and women
Winter 1984 “A Physician’s Viewpoint on Alcoholics Anonymous”
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