リニューアルにあたって

「心の家路」の旧サイトは2002年1月に始めました。サブタイトルは「アルコール依存症からの回復と自助グループの勧め」でした。

当時はNTTのフレッツISDNというサービスが始まった時期でした。定額でパソコンをネットに常時接続できるようになり、インターネットの利用者が急増していました。アルコール依存症の人たちも、個人のサイトを作ったり、掲示板サービスを使って交流を始めていて、その中には断酒継続を目指す人が集まって自助グループ的な役割を果たす掲示板もありました。

自宅のパソコンの前に居ながらにして、同病の人たちとやりとりできる。それが依存症の回復に役立つのなら良いことです。僕はITエンジニアでしたから、ITは活用すべきだと思っていました。ですが、そうした「断酒板」に出入りしながらも、実際に顔と顔を合わせるAAに属している身としては、ネットでの交流に物足りなさを感じ、リアルなグループの良さも伝えたいと思ったわけです。

そこで自分のサイトを作って情報発信を始めました。当時はサイトを作ったら、ディレクトリ型の検索サービスに登録されることが最も重要でした。Yahoo! Japanに登録申請を出したものの、あえなく却下されてしまいました。どうやったら登録してもらえるのか? 調べてみると、まず頻繁に更新されていたほうが有利らしいので、毎日更新する「日々雑記」というのを始めました。訪問者とやりとりする機能も必要だというので、掲示板を設置しました。そうした努力の結果、なんとか登録してもらえたのです。1)

「日々雑記」は数年間ほぼ毎日更新しました。ADSLや光ファイバーの時代になり、訪問者数が増えました。Googleでアルコール依存症と検索すると5位以内に常に表示され、当事者ばかりでなく、医療や福祉の関係者からも「楽しみに読んでます」とか「勉強になります」と言われるようになりました。

しかし読者が増えれば、気を遣わなければならない事柄も増えてきます。また、サイトを始めた頃のように単純な自助グループ礼賛を行う気にはなれなくなっていました。

AAのなかでも経験を積んでくると、いろいろなことに気づいてきます。

自助グループとは、当事者だけで構成されるグループのことで、そこには医療における医師(治療の提供者)と患者(治療の受け手)のような専門家対素人と非対称の関係ではなく、当事者対当事者という対称な関係が成り立っています。ですが、自助グループが拒んでいるのは専門家の存在ではなく、職業化(professionalism)です。つまり戒められているのは、自助グループで金を稼ぐことです。2) プロフェッショナルを「専門家」と訳すことが誤解の元でしょう。

 ✖ 専門家になってはいけない。素人でなければならない。
 ○ AAで金を稼いではならない。アマチュアでなければならない。

自助グループが成功していくためには、その中で専門性を持った当事者が育ち、活躍していくことが必要です。ところが、そこに目を向けず、専門性がなくても当事者が集まって話をしていれば、そこに不思議な効果が生じる仕組みだ・・・と思いたい人たちが結構たくさんいるのです。

もちろん、専門性が不要な場面はいくらでもあります。経験と研鑽を積んだ心理カウンセラーの面談に効果があるのは当然だとしても、素人の友達に悩み事を聞いてもらっただけで心が晴れたという経験は誰にでもあるでしょう。人間が交流し、そこに共感があれば、効果は生じうる。だからネットの断酒板のなかにも、多くの断酒者を輩出したものがあったわけです。

だからといって、自助グループに専門性が不要だという考えには同意できません。アメリカの小都市で始まったAAは八十数年後の現在も存続し、世界に200万人のメンバーを抱えるまでになりました。それが人間の交流と共感のみによって実現できたと考えるのは無理があります。AAには、何らかの専門的なプログラムと、それを伝達していくメカニズムが組み込まれていると考えるのが自然でしょう(実際その通りだし)。

そもそも、AAは自らを自助グループとは規定していないのです。自助グループというのは、外の人がAAに貼ったレッテルに過ぎません。

AAをAAたらしめているのは「12ステップ」ですから、自助グループのことよりも、12ステップについて情報発信をしていくべきなのだ! と思い至ったわけですが、悲しいかな、自分はまだまだ12ステップの本質が分っていないので、書きあぐねて筆が鈍っている・・というのが2007年ごろの状況でした。

次第に「日々雑記」の更新頻度が落ち、サイト本体も放置気味になりました。「ブログをやっているひいらぎさん」と呼ばれていたのが、「ブログをやっていた人」と過去の人になり、やがてブログは話題にならなくなりました。Googleでの検索順位は落ちて、もはや何ページめくっても出てきませんね。更新されず、スマートフォン対応でなく、SSLにも対応してないサイトなんて、そんなものでしょう。

インターネットの世界もずいぶん変わりました。mixiやTwitterやFacebookなどのSNSが登場し、掲示板のことを知らない人も増えました。競い合って更新されていたブログも、閉鎖されたり放置され、久しぶりに見たらブログサービス終了で消えていたものもありました。

この10年あまり、僕が何をしていたかというと、月給取りをしながら、AAにいそしみ、12ステップを深く知るために時間を使ってました。それなりの知識と経験を積めたと思っています。それは僕自身の回復の役に立ったし、いろんな場所、いろいろなやり方で、12ステップを伝える機会を与えられました。そのことにとても感謝しています。

そろそろネットで12ステップについて情報発信しようと考えて、WordPressとDokuWikiを使ってサイトを作り直し、「心の家路」というタイトルはそのままに、サブタイトルだけ「依存症と回復、12ステップのスタディ」と変えて、更新を再開することにしました。

いまの若い世代にとって、ネットに情報が見つからないものは存在していないのと同じです。なのに、日本語での12ステップの説明はネット上には少ない。このサイトが、12ステップを求める人にとって、気軽に接せられる情報源になってくれれば良いと思っています。

12ステップを知るということは、「アディクション」と「回復」について知るということでもあります。従来の診断基準では、依存症の対象になるのは薬物(アルコール含む)だけでした。ところが、アメリカ精神医学会が2013年に出版したDSM-53)では、ギャンブルが嗜癖性障害群の中に含められ、インターネットゲームが研究の対象に含められました。臨床現場では、性的嗜癖、浪費癖、盗癖を依存として扱う動きもあります。こうした対象の拡大によって、アディクションの概念は曖昧さが増し、その輪郭が不明瞭になってきています。

そうした医学の動向とは離れて、12ステップは80年以上変わっていません。ですから、12ステップの中に含まれる疾病の概念も変わっていません。そのシンプルな概念を学ぶことは、アディクションとは何かを考える上で助けになるはずです。また、現在では「回復」という言葉の意味するものは実に多様で、それゆえに曖昧なものになっています。ですが、12ステップを作った人たちが持っていた回復の概念は、シンプルで明確なものでした。そのこともお伝えしたい。

頻繁には更新できないけれど、長くおつきあい頂ければ幸いです。

(最初このエントリは常体(だ・である)で書いたんですが、敬体(です・ます)で書き直しました。それから、サイトを構築してサーバーにアップしたら、WordPressの遅いこと遅いこと。これも近々対策するつもりです)


  1. そんな苦労をして登録してもらったディレクトリ型検索ですが、もうサービスは終了しています。― 永沢 茂, ヤフー、ディレクトリ型検索サービス終了へ、2018年3月でINTERNET Watch, インプレス, 2017-6-29 []
  2. 伝統8:アルコホーリクス・アノニマスは、あくまでも職業化されずアマチュアでなければならない。 []
  3. APA, Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM-5) – (psychiatry.org), American Psychiatric Association []

2019-11-18日々雑記

Posted by ragi