雑感 (11) コロナ時代の対面式ミーティングをどう行うか

Box 459から

Box 459 は、アメリカの AA GSO が毎年4回出しているニューズレターです。今週初めに2020年秋号が発行されました。12ページある誌面のほとんどは、新型コロナウイルスの影響を受けるAAの現状報告です。その中で、ゼネラル・サービス・オフィス(GSO)所長のグレッグ・T(Greg T.)は、AAはこの困難の時期を越えて生き残るだけでなく、むしろ発展するだろうと予想しています。グループやメンバーは、AAの草創期の試行錯誤を鏡に映すかのように、この困難な時代にこれまでのサービスのあり方を変えて行く時期が来ていると理解している、と言うのです。とても勇気づけられる言葉です。

ニューヨーク州とカリフォルニア州の死者の推移
ニューヨーク州とカリフォルニア州の死者の推移, from Coronavirus tracked (FInancial Times)

ニューヨーク州では、4月には連日700人以上の死者が出ていましたが、7月以降は10人以下に減少しています。(一方、西海岸のカリフォルニア州では、夏の第2波のほうが深刻で、毎日100人以上の死者が続いています)。このグラフを見ると、東京はここまで激化せずにすんで本当に良かったと思います。

ある程度状況の落ち着いてきたニューヨークなどの地域では、オンラインに移行していたAAミーティングを、対面式のミーティングに戻す動きがでてきています。記事の中から、その動きについての経験を分かち合う部分を翻訳して紹介します。依然としてコロナ禍の出口が見えてこないなかで、どうやって対面式のミーティングを安全に行っていくのか、オンラインと対面式でグループが分裂してしまわないようにする配慮や、両者を組み合わせた「ハイブリッド・ミーティング」についての記事になっています。

バック・トゥ・ザ・フューチャー(AA未来に戻る)
from Box 459 – Vol 66, No. 3, Fall 2020, (aa.org), pp.3-4

AAミーティングの大部分がオンラインに移行してから5ヶ月が経過しました。現在、GSOのウェブサイトのミーティングガイドには、1,000件以上のバーチャル・ミーティングが掲載されています。そして最近は、この傾向を反転させる動きが見られ、そうした変化によってミーティング(の数)と同じぐらい多くの質問が寄せられています。GSOが受け取る連絡のなかで最も多いものの一つが、AAグループの主体性(訳注:伝統4)に関わるものです。借りている教会や会場が再開されたからといって、必ずしも物理的なAAミーティングを再開させる必要はありません。しかしながら、通常の活動に復帰することを熱望するグループも多く、そうしたグループでは復帰に向けた計画を立てつつあります。オンラインに留まるか、それともAAグループを再開させるかを考慮する上で、時に相反する二つの検討事項があります――それは安全性と一体性です。

多くのAAグループがテクノロジーに頼って必要を満たしてきました。メンバーの中にはオンラインミーティングに抵抗感を持っている人もおり、利用できる数少ない対面式のミーティングに出席したり、書籍を使ったり、電話を使って共同体とつながりを保っていました。一方で、物理的なミーティングをオンラインミーティングで置き換えることが容易だった人たちは、特定の地域における集団感染やウィルスの急増、蔓延が懸念されるため、まだ生の部屋(でのミーティング)に戻ろうとは思っていません。この二つの集団は、途中で生じる可能性のある混乱や傷ついた感情を解決して、最終的に一緒に戻ってくる必要があります。それにはAAの伝統をしっかり遵守するだけではない、繊細さと外交的対応が必要になります。伝統1(全体の福利)と伝統5(ただ一つの目的)は、すべてのグループが同じようなストレスを経験しているという慰めと同じように、戻る道での手引きガイドとして役に立つでしょう。AAグループがどのように機能するかという事柄については、各グループは自律的であるでしょうが、心の問題については、私たちは一人ではありません。

再開を検討するために集まったワークショップや委員会は、何らかの意思決定が下される前に、徹底した議論を行うことが最大の成果をもたらすことを発見しました。いくつかのグループが実践している手順を説明したガイドラインがたくさんあるので、ここでその本質エッセンスを紹介します。ほとんどのグループは、まず、未解決の問題によって提示される、グループの一体性に対する共通の課題を特定することが不可欠だと考えています。詳細で思慮深いレポートとガイドは、物事を円滑に進める上でとても役に立ちます。またメンバーが部屋(でのミーティング)に戻ろうとするときに、落ち着きと信頼のレベルを保つためには、解決指向ソリューション・オリエンテッドであることが最も重要です。

ニューヨークで毎週複数回のミーティングを開いているAAグループが、次のようなガイドラインを提案しています。この提案を書くにあたって、メンバーは連邦疾病予防管理センター(CDC)のガイドライン、ニューヨーク州およびニューヨーク市の手順書、AAのGSOのガイドライン、AAのニューヨークインターグループの資料、エリア49(ニューヨーク州南部地域)の大綱、報道された多くの記事を調査しました。これらの基準は、移行期間中も必要を満たすためにオンラインミーティングが継続され、それにより可用性と安全性のバランスが保たれるという理解に基づいて設定されました。彼らはまた、すべてのガイドラインは新型コロナウィルスパンデミックの状況の変化に応じて調整される可能性があることを強調しています。彼らの最も実用的な提案の一部を次に示します。

    • 部屋に椅子をX脚だけ置き、常時X人だけがその部屋に滞在できる(Xの数は、椅子間の距離を2メートル以上離し、部屋の大きさによって調整する)。
    • マスクを常時着用する。マスクの着用を拒む人は部屋に入るべきではない。入室時にマスクを持っていない人たちのために、グループはマスクを提供する努力をすべきである。
    • 化粧室(トイレ)は閉鎖し、使用禁止とする。
    • 現金を集めない。伝統7による献金は、PayPalなどのデジタルな方法で行う。
    • ニューヨーク州およびニューヨーク市によって接触追跡が行われる際の要請に応じるため、参加者の氏名(ファーストネームとイニシャル)と電話番号のリストをチェアパーソンが保持し、14日後に破棄する。
    • 出版物の共同使用(貸し出し)をしない。
    • グループはメンバーが消毒に使えるようにスプレー式の消毒薬を用意し、ミーティングとミーティングの間に消毒液を補充しておくべきである。
    • 消防法による最大収容人数の制限(への対処)と同様に、グループメンバーは、他のミーティングを見つける手助けをしたり、どうしてもその部屋に入りたいという必要や欲求を燃やしている人のために自分の席を提供してあげるなどによって、人数が溢れる可能性に対処する必要がある。
    • オンラインのウェブプラットフォームと接続することで「ハイブリッド化」する選択肢を用意すべきである(そのようなグループの良心がある場合)。
    • 新型コロナウイルスの危険性の高い人たちに対するリスクを強調したアナウンスを、すべてのミーティングで読み上げるべきである。

エリア48(ニューヨーク州ハドソン・モホーク・バークシャー)の作成した推奨事項はほぼ同じですが、ホスピタリティ・出版物・ニューカマー・サービスの役割の新設あるいは変更に焦点を合わせた事項をいくつか追加しています。

    • ホスピタリティ(飲食物の提供)は一時中止すべき。メンバーは自分の飲み物を持参しても良いし、あるいは指名された一人がマスクと手袋をして一対一でコーヒーを注ぐというやり方もある。
    • メンバーは自分の本を持参すべき(他の人に渡さない)。そして出版物はすべて消毒すべき。
    • 「ビギナーズ・パック」――あらかじめ印刷したメンバーの名前と電話番号のリスト、パンフレットや初心者向けの資料をすべて消毒し、ビニールの袋に入れて、ビギナーのために用意しておくべきである。
    • グループは「スピリチュアル・サニタイザー」のような安全係、バーチャル・ミーティングやハイブリッド・ミーティングを維持する技術係のようなサービスの新しい役割を作ることを検討しても良い。歓迎係の役割は、伝統7(訳注:献金)のカードやグループの慣習を書いた紙、主要なメンバーの名前と電話番号のリストの手渡しを含むように改訂するべきだろう。チェアパーソンやセクレタリの役割は、接触追跡用のリストの取り扱いを含むように改訂されるだろう。

ハイブリッド・ミーティングは、対面式に参加しているメンバーとバーチャルに参加しているメンバーの両方に同時に届くので、グループをゆっくりと一つに戻すための最も実用的な手段のようです。

    • ハイブリッド・ミーティングの場にいるメンバーが不快に感じた場合、その人がスマートホンを持っている場合には、外に出て、あるいは自分の車に戻って、続けるという選択肢がある――ニューカマーへの配慮。
    • 多くのグループでは、追加のコンピューターだけでなく、音響・ビデオ・アンプの装置が必要になるだろう。
    • チェアパーソンが二人必要になるだろう。一人は対面式のミーティング側で、もう一人はオンラインミーティング側で。
    • カメラに写りたくない人が利用できるように、ブラックアウトエリア(非中継区域)を用意すべきである。

ハイブリッド・ミーティングを行ってきたグループは、全体的なガイドラインとして、誰もが――特にテクノロジーそのものやテクノロジーの使用に慣れていない人が、このミーティングで安心して過ごせるように努力すべきであることを学びました。そのようなケースに対しては、普段に増しての忍耐が不可欠です。

複数のノートパソコン、タブレット、スマートホン、Bluetoothデバイス、音響システム、Wi-Fiホットスポット、そしてビデオスクリーンなどを使ったハイブリッド・ミーティングの設定方法は、実に様々です。またオンラインのプラットホームも様々なものが利用できます。グループは、物理的な会場、使用できる機材、どのように変化の実現を進めていくかというグループの良心に従って、自分たちの好きなようにミーティングのハイブリッド化を進めることができます。

これはAAの歴史においても、また世界の歴史においても、前例のない時代です。新型コロナウイルスのパンデミックの早い時期に、ジュディス・H(Judith H.)AAグレープバイン誌の7月号にこう書いています。「私たちはソブラエティのためにお互いを必要としている。ビルとドクター・ボブは、85年前にそのことを発見した。二人の飲んだくれは顔を合わせてこう言った「今日だけは飲まない」…この二人は私たちに、どんなときでも飲まずに過ごせるプログラムを残してくれた――戦争の時も、ハリケーンや竜巻のときでも、あらゆる種類の激変――個人的なものでも、世界的なものでも、そしてもちろん今回も」

これらは、私たちがかつて経験し愛したあのミーティングへ、ゆっくりと穏やかに戻っていくにあたって考慮すべき、思慮深い言葉です。感謝と謙虚さを持ちながら、すべてのアルコホーリクに配慮しつつ、注意深く、しかし固い決意で、これらの段階を踏んでいきましょう。私たちがアルコホーリクス・アノニマスで、どのように生きるかを学んだのと同じやり方で――一日ずつ確実に(one day at a time)

解説

いくつか付け加えておきます。AAにおけるガイドラインは、規約やルールではなく、自分(たち)で考えて決めていくうえでの判断材料として提供されています。ですから、必ずこのとおりにしなければならない、という類のものではありません。また、ニューヨークの経験が日本のあらゆる場所にそのまま当てはめることもないでしょう。しかしながら、経験者がその経験を分かち合うことで、無用な試行錯誤を省くためのものでもあり、ガイドラインを無視して失敗する人たちは、忠告を無視して再飲酒してしまう人たちと同じように暖かく見守られてしまいます。

握手やハグを慎むことは書いてありませんが、言わずもがなのことなのかもしれません。翻訳していて気がついたのは、物のやりとりを徹底して排除していることです。コーヒーなどの飲食物の提供をやめ、ミーティングで使う書籍類は各自が持参するようにして、献金も現金で集めず電子的な手段にするように勧めています。ニューカマーに渡すパンフレットなどはそうもいかないので、消毒したパッケージで用意しておけということですね。

ニューヨークは公共の場所は基本的に禁煙なので、このガイドラインにはタバコのことは書いてありませんが、日本でならば(室内だけでなく)ミーティング会場周辺も含めて禁煙にすべきでしょう。喫煙所でマスクを外してタバコを吸い、吸い殻を置いていくのでは、他での努力が意味なくなってしまいますから。

予備のマスクや消毒液の補充をグループ側ですべきだ、というのもトラブル防止のためには、そのほうが良いという経験からくるものなのではないかと思います。

アメリカのAAグループでは、グループの主要メンバーの名前と電話番号のリストを作って共有しているところが多く、それをニューカマーにも渡しています。それはミーティング以外でもメンバーに連絡が取れるようにするためです。(僕のホームグループでもメンバーの連絡先は共有しています)。そういう意味では、私たちは決して無名アノニマスではありません(アノニミティというのは、あくまでAAの外に対してのことです)。そのリストをニューカマーに渡していないのであれば、今回の話の対象にはなりません。

濃厚接触の追跡調査のために、ミーティングに参加した人の名前と電話番号のリストを毎回作るのは、日本でも行われ始めていて、この習慣は広がると思われます。

アメリカでは消防法の規制がずいぶん前から厳しくなっていて、部屋の定員以上の人数を入れることができません。このため遅くミーティングに行くと、満員で参加できないということが起こります。そうした人のために他の会場を紹介するなどのノウハウが積み重ねられていると思われます。今回も、ソーシャル・ディスタンスの確保のために、部屋の定員の半分以下で運用せざるを得ませんが、そこにもそのノウハウが使われているようです。

当面は部屋の定員の半分以下しか使えない状態が続くと思われるので、その間は対面式のミーティングだけでなく、オンラインミーティングを併用し、またハイブリッドミーティングにすることでその期間を過ごすかない、というのが各ガイドラインに共通の理解です。

サービス活動のための集会で、対面式とオンラインを組み合わせた例は聞きましたが、レギュラーのAAのミーティングをハイブリッド化したケースは聞いたことがありません。しかしながら、すでに病院メッセージはハイブリッド化している例もあります。これは病院というかなり閉鎖的な空間にAAメンバーがウィルスを持ち込んでしまうのを防ぐのに有用です。この新型コロナがなかなか解決できずに長引くようであれば、国内のAAミーティングのハイブリッド化が始まるのかも知れません。

オンラインミーティングが広がったことによって、AAメンバーの全国的な、あるいは国際的な交流が盛んになりました。これは特にメンバー数の少ない地方に住んでいる人にとって、大きな機会を与えています。地理的な制約は、もはやメンバーが顔を合わせる妨げにはならないことを、多くの人が知りました。一方で、同じ空気を共有する対面式のミーティングの良さも再認識されています。この後のAAは、この二つそれぞれの良さを引き出していくでしょう。その意味で、コロナが過ぎれば元に戻るのではなく、新しい未来に向かって進んでいくはずです。

その他,日々雑記

Posted by ragi