アルコホーリクス・アノニマスのマニュアル (3)

AAアクロン第一グループが発行していた『アルコホーリクス・アノニマスのマニュアル』第1回第2回の続きです。

アルコホリズムの尺度

AA候補生は、自分が本当にアルコホーリクなのかどうか疑いを持っていることもある。アクロンのAAは、ジョンズ・ホプキンス大学 の精神科医が作成した尺度が、アルコホーリクが自分で判断するのに非常に役立つことを発見した。

あなたの候補生に以下の質問に答えてもらう。できるだけ正直に答えてもらうようにする。もしその人が一つでも「はい」と答えたならば、それは彼がアルコホーリクであり得るというはっきりとしたきざしである。もし二つ「はい」と答えたならば、彼はアルコホーリクである可能性が高い。もし彼が三つ以上「はい」と答えたならば、彼は間違いなくアルコホーリクであり、助けを必要としている。その質問は:

    1. 飲酒のせいで仕事を休むことはありませんか?
    2. 飲酒はあなたの家庭生活を不幸にしていませんか?
    3. あなたは人見知りで、人と一緒に過ごすために酒を飲んでいませんか?
    4. 飲酒はあなたの評判に悪影響を与えていませんか?
    5. 飲酒の結果、経済的困難に陥ったことはありませんか?
    6. 酒を飲む金のために、盗みをしたり、所有物を質に入れたり、「借金した」ことはありますか?
    7. 酒を飲むときに、より下流の人たちと付き合ったり、劣悪な環境に身を置いていませんか?
    8. 酒を飲んだとき、家族の幸福をないがしろにしていませんか?
    9. 酒を飲むようになってから、野心が減退していませんか?
    10. 毎日決まった時間になると飲みたくなりますか?
    11. 次の朝、酒を一杯飲みたくなりますか?
    12. 飲酒が原因で眠れなくなることはありますか?
    13. 酒を飲むようになってから、仕事の効率が下がっていませんか?
    14. 飲酒のせいであなたの仕事や事業が危機に陥っていませんか?
    15. 心配ごとや悩みごとから逃れるためにお酒を飲んでいませんか?
    16. 一人で飲みますか?
    17. 飲んだ結果、記憶がまったくなかったことがありますか?
    18. 医師から飲酒の治療を受けたことがありますか?
    19. 自分に自信をつけるためにお酒を飲みますか?
    20. 飲酒のことで入院したり、施設に入ったことがありますか?

その他のこと

ソーバー〔しらふ〕になったいま、あなたが家族や友人、他の人たちに迷惑をかけたことについて、あらゆる方法でつぐないをしたいと思うのは自然なことだ。あなたは仕事に戻りたいだろうし――まだ仕事があればだが――、金を稼ぎたい、そして差し迫った返済や、長年の、なかにはほとんど忘れかけていた負債を払ってしまいたいと願っているだろう。ともかく金――金を手に入れなくては、と思うだろう。金銭的なことだけでなく、様々な方法で償いを行いたいと願っているだろう。魔法の杖を一振りするだけで、これらすべてのことができるなら、あなたはきっとそうしたいだろう?

焦ってはいけない。これらのことすべてを一朝一夕にできるはずがない。だが、少しずつ、一歩ずつならできる。そうした事柄は、おそらくあなたが朝の黙想の時間にじっくり考えを巡らす際にしているように、ハイヤーパワーに委ねておけば大丈夫なのである。あなたが自分の役割を果たそうと心から決意するならば、それらのことはすべて解決されるだろう。

「力を捨てよ。そして、わたしこそ神であることを知れ」詩篇 46:10〕1)

あなたの人生で最も重要なのはソブラエティである。例外はない。あなたは、仕事や、家庭生活や、あるいは他の多くのことのどれかを優先すべきだと考えているかもしれない。しかし、考えてみなさい。もしあなたがソーバーにならず、ソーバーを続けることができなければ、仕事も、家族も、正気や人生さえも失いかねないことを。人生のすべてがソブラエティにかかっている、とあなたが納得したならば、ソーバーになり、ソーバーを続けられる可能性は格段に高くなる。他のことを優先すれば、チャンスを損なうだけだ。

あなたはこの世界であまり重要な存在ではない。もしあなたが仕事を失っても、もっと優秀な誰かがあなたの代わりをするだろう。あなたが死んだら、あなたの妻は短く喪に服すだろうが、そのあと再婚するだろう。子供たちは成長し、あなたは思い出に過ぎなくなる。結局のところ、あなたが酒をやめることで得をするのはあなただけなのだ。謙虚さを養うように努めなさい。自己誇大化は転落を早めるだけであることを忘れてはならない。

こっそり一杯か二杯飲んでも、誰にも知られなければごまかせると思っているなら、それは自分をごまかしているだけだということを忘れてはいけない。良心の呵責かしゃくに苦しむのはあなた自身なのだ。二日酔いになるのもあなた自身だ。そして、病院のベッドに戻るのもあなたなのだ。

たった一杯の酒がたちまちトラブルにつながることを、常に心に留めておくように。一日酒をやめただけであっても、一ヵ月、一年、十年やめていようとも、一杯の酒が必ず大量の飲酒や連続飲酒へとつながるのだ。二杯目でもなく五杯目でも20杯目でもない、最初の一杯がトラブルの原因なのだ。

そして憶えておいてほしいのは、あなたがAAに取り組めば取り組むほど、このトレーニングに励めば励むほど、最初の一杯を飲む確率は低くなるということだ。

これは二人のボクサーのようなものだ。もし彼らが同じ体重、同じ強さ、同じ実力の持ち主で、一方だけが忠実にトレーニングに励み、もう一方はナイトクラブやバーで時間を過ごしていたら、トレーニングをした方が勝者になるのは間違いない。だから、ミーティングへの出席をロードワークとし、ニューカマーを助けることをスパーリングとシャドーボクシングとし、読書と黙想と明晰な思考をジムワークとすれば、ジョン・バーリコーン〔ウィスキーを擬人化した呼称〕にノックアウトされることを恐れる必要はない。

「だから明日のことまで思い悩むな。明日のことは明日自らが思い悩む。その日の苦労は、その日だけで十分である」マタイによる福音書 6:34〔新共同訳〕

この言葉は山上の垂訓 イエスが山の上から弟子たちに語った教え〕から引用したものである。シンプルに言えば、今日だけに生きるという意味だ。昨日のことは忘れ、明日を思い悩まない。あなたは一度に一日しか生きられないのだから、それをうまくできれば、ほとんど思い悩むことはないだろう。酒をやめるためにこれまでに考案された方法のなかで、最も容易で実践的な方法のひとつが、一日ごとの計画、24時間プランである。

24時間を酒を飲まずに過ごすことは可能だ。あなたはそのことは知っている。24時間の断酒だったら何度もやったことがあるはずだ。よろしい。だから、これからも一日ずつしらふで過ごすのだ。朝起きたら、今日一日は酒を飲まないと心に決める。それを少し助けてくださいと、大いなる力に祈る。誰かに飲みに誘われたら、またの機会にする。明日は飲むかもしれないと言えば良い。そして、夜ベッドに入って、自分がしらふのままでいるのに気がついたら、あなたを助けてくれた偉大な力に感謝の言葉を少しだけ言うようにする。

翌日も同じことを繰り返す。その次の日も。そうして気がつけば、一週間、一ヶ月、一年とソーバーを続けていることになる。一日ずつしか酒をやめていないのに、そうなれるのだ。

断酒に期限を設けると、あなたはその日を楽しみにしてしまって、毎日が重荷になる。あなたは焦燥感を燃えたぎらせることになる。けれど、ゴールを設定しなければ、すべてのことはスッキリと片付いてしまう。まるで奇蹟のように。

この一日ずつのプランを試してみなさい

医療関係者は、アルコホーリクは、少なくとも一つの点で、全員がよく似ていると言うだろう。それは感情的に未熟だという点だ。

つまり、アルコホーリクは大人の考え方を学んでいないのである。

夜、ベッドで寝ていた子供が、壁に映った影におびえ、布団の中に頭を隠す。

大人は同じ影を見て、その影には理にかなった原因があることを知る。彼は街灯を見て、次にベッドの支柱を見て、なにが影を作り出したかを理解する。彼は子供ができないこと――考えることをしただけだ。そして考えることによって恐れが生じることを防いだ。

物事を考え抜くことを学ばなければならない。考えるならば、結論が出るまで考え抜くのだ。

酒が飲みたくなったときには、飲んだら何が起きるのか、自分のために論理的に考え抜きなさい。真剣にその結果を考えることができれば、あなたはその戦いに勝つことができるだろう。

なんと、あなたは違うと! 自分はアルコホーリクではない、と思っているわけだ!

そのような考えのために道を外れて、深みにはまっていったAAメンバーの数は、他のすべての理由を合わせたのと同じぐらい多い。

スポンサーから聞いたり、ミーティングで聞いたりした症状がすべてあなたにもあるのなら、あなたはアルコホーリクであり、他のアルコホーリクと違いはない、それは確実だ。

しかし、それを辛いやり方――酒を飲んでみる実験で確かめるという間違いは犯さないほうがよい。それはあなたにとって苦しい経験にしかならず、ただ自分が他のアルコホーリクと何も違わないことが確かめられるだけなのだから。

ミーティングではリーダーを批判してはいけない。彼は彼自身の問題を抱えており、それを解決するために最善を尽くしているのだから。あなたは立ち上がって、短く話をすることで、彼の役に立とう。彼はあなたの親切と心遣いに感謝するだろう。

他の人のやり方を批判してはいけない。不思議な話かもしれないが、ソブラエティを続けて年を重ねるにつれて、あなたの考えが変わってくることもある。ニューヨークからシカゴに向かう道は何十とあるが、どの道を通ってもシカゴに到着することを心に留めておこう。

何を急いでいるのか? おそらくあなたは、このプログラムのコツを自分が望んだ速さで身に付けられていないと感じているのだろう。そんなことは忘れなさい。あなたは何年もかけて現在の状態に至ったはずなのだ。だから一朝一夕に完治することは期待できない。このプログラムの全体をたった一日で把握することもできない。今までそんなことができた人は一人もいなかったし、だからあなたにもそんなことはまったく期待できない。最も初期からいるメンバーでさえ、ほぼ毎日、しらふの生き方について何かしら新しいことを学んでいるのだ。「焦らずにじっくりやれ〔気楽にやろう〕」という古いことわざがある。これはどんなアルコホーリクにとっても考える価値がある標語だと言える。子供は低学年で足し算と引き算を学ぶ。代数の問題に取り組むのは、高校生になってからだ。ソブラエティも同じで、一つひとつ順を追って学んでいくしかない。何か分からないことがあったら、〔AAの〕新しい友人たちに質問してみるか、それでだめならそのことは取りあえず忘れてしまいなさい。あなたがプログラム全体を十分に理解できるようになるのは、そんなに遠い先のことではない。だから、そこを目指して「焦らずにじっくりやろう」

AAプログラムは、一般的な意味での「治療法」ではない。アルコホリズムの「治療法」は、完全な断酒以外にない。アルコホーリクは二度と普通の酒飲みには戻れないことは間違いなく証明されている。けれどこの病気を食い止めることはできる。また、あなたの飲みたい欲求がどれぐらいでおさまるかは別問題だ。それは、あなたが人生に対する根本的な見方をどれだけ早く変えられるかにかかっている。あなたのものの見方が良い方向に変わるにつれて、欲求も次第に感じられなくなり、やがてほとんど消えてなくなるだろう。それに数週間かかるかもかもしれないし、数ヶ月かかるかもしれない。AAのプログラムの中で、あなたがどれだけ誠実に、どれだけ多く他の人たちと関わっていくかが、その期間の長さを決定するだろう。

このパンフレットの最初の方で、親族を病院から遠ざけるようにとアドバイスした。その理由も説明した。しかし、患者が退院した後であれば、妻や夫、その他の近親者を[AAの]ミーティングに連れてくることは[有益]であろう。そうすることで、彼らはこのプログラムをより明確に理解し、再適応の期間中、より的確に、より緊密に協力してくれるようになるだろう。

食事と休養は、アルコホーリクのリハビリテーション〔社会復帰〕に重要な役割を果たす。多くの場合、私たちは肉体的に自分を痛めつけ、不適切な食べ物を食べ、アルコールの助けを借りて眠った。酒を飲んでいた頃は、腹を満たせて安いという理由で、チリコンカン やハンバーガーを食べていた。ウイスキーを買うお金を増やすために、良い食べ物を犠牲にしてきた。私たちは古いジョークの反対で「パンを買ってどうするんだ? 家にはウィスキーが一滴もないのに!」という生きた見本だった。休養についても同じだった。私たちは酔い潰れて眠った。私たちは街灯を消して歩道に寝転がる連中の一員だった。

今では私たちは、規則正しい時間にバランスのとれた食事を摂り、酒や睡眠薬の不健康な助けを借りずに適切な長さの睡眠をとることが賢明だとわかっている。ビタミンB1 (チアミン塩酸塩)またはビタミンB群 は、私たちの神経を安定させ、ビタミン不足を解消するのに役立つ。新鮮な野菜や果物も助けになるだろう。

実際、医師に相談し、できるならば完全な健康診断を受けることが賢明な行動だ。あなたの主治医は、ビタミンの投与をし、バランスの取れた食事と睡眠を取るようにアドバイスするだろう。

このアドバイスの理由はシンプルだ。私たちは栄養や睡眠が足りないと、イライラしたり神経質になったりする。そのような状態では、私たちの怒りは制御不能になるし、私たちの感情は簡単に傷つくようになり、私たちは古い危険な思考プロセスに戻ってしまう――「ああ、もういいや。酔っ払ってしまえ!」

AAのメンバーの多くは、長い期間のソブラエティを続けていても、炭水化物を追加して食べることが有効だと感じている。アルコールは体内で糖に変わるので、私たちがアルコールを断つと体は糖を強く求めるようになる。これがしばしば神経質という形で現れるのだ。

ポケットにキャンディーを入れて持ち歩くと良い。家にも置いておく。デザートを食べる。たまにアイスクリームソーダや麦芽糖ミルクを飲んでみよう。それが神経を落ち着かせて、問題を解決してくれることに気づくだろう。

次回に続きます〕


  1. 訳注:「まず、私たちは自分が神のように振る舞うことをやめなくてはならなかった」ビッグブック, p.90.[]

2025-03-16資料,日々雑記

Posted by ragi