付録F 正当な恨みも

ジョー・マキューとチャーリー・Pの Big Book Comes Alive! より、正当な恨みについての彼らの説明を紹介します。文中で言及されている「とらわれからの解放」(Freedom From Bondage)は、ウィン・C・L(Wynn C. L.)の物語で、英語版ビッグブックの第二版から第四版に収録されています(日本語訳は『アルコホーリクス・アノニマス 回復の物語 Vol.3 』に収録されましたが、現在品切れ再版未定となっています)1)


 「・・・でも相手が私たちにしたことはどうなるんだ? それについてはどうすればいいんだ? 子供の頃に私たちを傷つけた相手はどうするんだ? 結婚生活の中で私たちのせいじゃないのに私たちを傷つけた相手のことはどうなるのだ? そういう恨みは正当じゃないのか?」 私の考えでは、正当な恨みであっても私たちはその恨みのせいで飲んでしまうでしょう

 正当な恨みも、正当でない恨みと同じように、私たちと神との関係を邪魔します。

 あなたが正当な恨みを頭の中で繰り返せば、その相手が誰であれ、理由が何であれ、その恨みはやがてあなたの考えを支配するでしょう。恨みの相手に考えが支配されるようになれば、あなたの判断(決心)も支配されます。その相手に人生が支配されてしまいます。相手にあなたを殺す力を与えてしまいます。なぜなら、あなたにもう一度飲ませる力を相手に与えてしまうからです。あなたが持っている恨みがどんな恨みか私は問題にしません。それが身体的な虐待であっても、精神的な虐待であっても、性的な虐待であっても関係ありません。AAの中にいればいつも性的虐待の話を聞かされます。そういう話はたいてい若い女性に集中しています。でも私はお伝えしておきます。男性についても同じことが言えます。私はいままで何人の男性のステップ5を聞いたか忘れてしまいましたが、ほとんどすべての男性は、背景にこの類のことを抱えています。女性だけではありません、男性もです。もしあなたがこの類の(正当な)恨みを持っていて、そのせいで飲んでしまうかもしれないと十分分かっていながらも、まだその恨みから抜け出せないなら、その恨みをこの表に書き出して、よく見てみるべきです。私たちは何をしてきたでしょう。おそらく私たちはそれを自己弁護と(自己)正当化に使って来ました。私たちがするべきことをしない理由付けにしたか、もっと大事なことは、すべきでないことをしている理由付けや正当化に使って来たことです。この世で最もすごい言い訳は、

 「もしあの人(たち)があんなことをしなかったら、今の私はこうじゃなかったはずなのに」

 自分を犠牲者にするというやつです。

 AAにはこれが入る余地はありません。私たちは全員大人です。私たちの身の上に過去に何が起こったとしても、そのことに今の自分をコントロールさせるべきではない、ということを知るべき時なのです。そう(自分を犠牲者に)してしまう理由は自己弁護と、自己正当化のためだけなのですから。

 この本に出てきた女性「とらわれからの解放」)を見てみましょう。

 彼女は教育を受けられなかったことで母親を恨んでいました。でも、本当にそうしたければ教育を受けることもできたはずです。

 彼女は結婚生活の失敗を自己正当化していました。でも、お母さんが彼女の結婚生活に何かしたわけじゃありません。

 彼女はアルコホリズムも母親のせいにしていました。でも、お母さんが彼女をアルコホリズムにしたわけじゃありません。彼女がアルコホーリクになったのは、彼女がウィスキーを飲んだからです。彼女が飲み過ぎたのでアルコホーリクになったのです。

 私が考えるに、今こそ私たちは、自分が何を考え、どう感じるかについて自分に責任があることを知るべきです。私たちは今自分がすることに責任があります。お母さんやお父さんや他の人たちはもう責任を負ってくれません。私たちの子供の頃にはその人たちに責任があったでしょうが、でも私たちはもう小さな子供ではありません。5年前、10年前、15年前、20年前にその人たちが私を傷つけたのがまったく道理にかなわないことだったならば、その後の人生の毎日、私を傷つけさせるのも同じ(ように道理にかなわない)ことです。でも、私がその人たちを恨んでいれば、そうさせてしまうです。私はその人たちに殺されてしまうのです。私が何をしたのか、(悪循環の)その始まりには私は何もしてなかった? でも、第4列を見てみましょう。私たちは自分に不正直で、真実を見ようとしませんでした。(拙訳。強調は原文のまま)
Joe & Charlie: The Big Book Comes Alive より2)


  1. ウィン・C・L(Wynn C. L.)は1947年にカリフォルニアでAAに加わった。その後の数年間で、南カリフォルニアの80以上の病院や刑務所でAAのミーティングを始めた。当時はそれはAAのするべきことだとは見なされておらず、他のAAメンバーからは批判の対象にされたという。彼女は、アルコホリズムはより深い苦しみの症状であり、彼女の困難は飲酒を始めるずっと前から始まっていたと考えていた。彼女はフロリダで生れたが、幼い頃に両親が離婚し祖母に育てられた。この共通した経験が、彼女とビル・Wのあいだに親密な友情が結ばれた理由の一つだとされている。「とらわれからの解放」の文末に登場する「ある偉大な人」はビル・Wだという説もあるが確証はない。母親は奔放な生活をするために彼女を置いて出ていき、祖母は極度の貧困のなかで彼女を育てた。腸チフスに罹り90日間生死をさ迷った結果、すべての髪の毛と歯を失ったが、16才頃に健康を回復すると、美しい赤毛も元に戻り、彼女は「魔性の女」として人生を切り開き始めた。AAに来る前に4回の結婚と離婚を経験し、彼女の理想と現実のこのギャップを埋めたのがアルコールだった。アルコールは彼女の一時的に解決してくれたように思えたが、やがて生活は崩壊し、病院と刑務所での生活が続くようになった。彼女が自分のストーリーを書いたときにはAAですでに8年が過ぎており、人生は劇的に変わっていた。彼女と5番目の夫ジャック(Jack P.)はAAで人気のあるスピーカーとなった。後に離婚するものの二人とも亡くなるまでソブラエティを保った。ウィンとジャックについては、ジャックの連れ子キャロライン・シー(Carolyn See)がその著書 Dreaming, Hard Luck and Good Times in America, University of California Press, 1996 で触れている — Wynn C. L. – California, Silkworth.net (silkworth.net). []
  2. Joe McQ. and Charlie P., Joe & Charlie: The Big Book Comes Alive, 2014, pp.112-113 []

2024-02-19

Posted by ragi