理性と直観
ステップ2は、人間の理性 (理性)には限界があることをを認めることを要求します。では、理性の限界を超えた先は何を頼れば良いのかというと、ステップ11で inspiration や intuitive を頼るべきだと説明しています。それはつまり超自然 的存在からもたらされる直観(直感や霊感と訳されている)です。
このことは、12ステップが直観的認識を理性(論理的推論)より上位に置いていることを示しています。これは12ステップ特有のものではなく、多くの宗教が理性(論理的思考)の限界を受け入れ、超自然的な知恵を頼るように教えています。中世のキリスト教においてその理論付けを行なったのがギリシャ哲学 に源流を持つスコラ学 でした。
18世紀の哲学者イマヌエル・カント (1724-1804)は(それまで知性と呼ばれてきた)直感の存在を否定し、理性を最上位に置きました。1) カントは道徳を宗教から独立させ、理性によって道徳的に生きることができると説きました。
同じ時期に広まった啓蒙思想 は、人間は教育によって理性を正しく働かせることができるようになり、理性によって人は自律的に生きることができるという思想です。啓蒙思想以降の産業革命や科学の進展や民主的政治の広がりは、人間の理性が無限の可能性を持つことを人々に期待させました。啓蒙思想は理性の限界を取り払う思想となったのです。
啓蒙思想家たちは、理性の解放が人間に幸福をもたらすと考えていたわけですが、実際に実現したのは欲望中心の社会であったと言えます。欲望社会の一つの頂点が黄金の20年代 と呼ばれた1920年代のアメリカであり、それは株価の大暴落によって突然終わり、人々は世界恐慌 に長く苦しむことになりました。
AAが誕生したのは、そのように啓蒙思想の限界が明らかになった時代でした。ビル・Wたちはさらにアルコホリズムの理性で解決できないという個人的苦境にも置かれていました。彼らはカール・ユングやウィリアム・ジェームズの思想に触れることにより、宗教的なものに救いを求め、実際にオックスフォード・グループで救われました。
12ステップはそのような経験をもとに作られているため、理性の限界を受け入れ超自然的な存在に解決を求めていくプログラムになっています。カント以前の、直観的認識(霊感)を最上位に置いた認識論を採用しているのです。
被参照記事:
・ビッグブックのスタディ (85) 私たち不可知論者は 12
- 知性は概念を変更されて、理性の下に置かれることになった。[↩]
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