ビッグブックのスタディ(12) 医師の意見 3

身体のアレルギー

前回は、私たちアルコホーリクは、正常な人(ノンアルコホーリク)とは違いがあること。その違いとは、飲酒をコントロールできないこと。コントロールできないのには(精神的な要因ばかりでなく)身体的な要因がある、という話でした。

シルクワース医師は、アルコホーリクがアルコールに対して身体的なアレルギー反応を起こす、という学説を発表しました。その論文は「アレルギーの徴候としてのアルコホリズム」というタイトルでした。1) (下訳はできているので、そのうちこのブログに載せようと思います)

アレルギーという言葉は、ビッグブックでは「医師の意見」にしか登場しませんが、その後の『12のステップと12の伝統』『AA成年に達する』といったAA文献でも使われている、とても重要なキーワードです。この言葉を無視してステップ1はできません。

重要なキーワードアレルギー

ところが、このアレルギーというキーワードは、理解が難しい言葉でもあります。なぜかというと、私たちには「アレルギーは免疫 によるもの」という予備知識があり、しかも「依存症は免疫の病気ではない」という知識もあるために、矛盾した情報によって混乱し、ビッグブックにはいい加減な情報が書かれていると思ってしまうからです。

正しく理解するためには、アレルギーという言葉が、シルクワース医師が論文を書いた時代にどういう意味で使われていたかを知らねばなりません。

アレルギーの意味

Clemens von Pirquet
— from The Fascinating History and Discovery of Allergies2)

アレルギーという言葉は、オーストリアの小児科医でウィーン大学の教授だったクレメンス・フォン・ピルケClemens von Pirquet, 1874-1929)が1906年に論文に発表したのが最初です。

20世紀の初めまでには、すでにロベルト・コッホ 北里柴三郎 によって免疫が発見され、またシャルル・ロベール・リシェ アナフィラキシー という過敏症を発見していました。

ピルケは免疫と過敏症を統合した概念としてアレルギー(allergy)という言葉を作りました。ギリシャ語のἄλλοςアロス(allos=変じた)ἔργονエルゴン(ergo=能力)を組み合わせた造語で、「変化した反応能力」という意味です。それが時代が下るにつれて過敏症だけを指して使われるようになりましたが、元来は

外来性の物質に対して、生体がそれまでと違った反応性を示す

ことを意味しました。3)

平たく言うと、身体の外から何かの物質――食べ物とか化学物質――が入りこんだとき、それまでとは違った反応が起こることです。

変わってしまった反応

例えば、花粉症 はアレルギーの一種ですが、幼い頃から花粉症だったという人は少なく、多くは思春期や大人になってから発症します。花粉という物質が鼻や目の粘膜から体内に入ったとき、それまでとは違った反応(鼻水とか)が起こります。甲殻類(エビやカニ)とか小麦のアレルギーの人も、子供の頃はそれらを美味しく食べられたという人も多いのです。食べ物が体内に入ったときに、それまでと違う反応(アナフィラキシーとか)が起きて、救急車で運ばれるように変わってしまったわけです。・・カニが大好きだったのに、もう食べられないなんて(涙)。

たいていのアルコホーリクは、若い頃は普通に酒が飲めていた時期があります。やがてアルコールを体内に入れたときに、それまでと違う反応が起きるようになり、飲む量がコントロールできなくなってしまったのです。その結果、「もう酒を飲んではいけません」と言われることに。・・お酒が大好きだったのに、もう飲めないなんて(涙)。

というわけで、免疫の過剰反応という狭義のアレルギーではなく、元来の意味でのアレルギーという用語の使い方を踏まえて読めば、シルクワース医師の学説は、私たちアルコホーリクにとって納得できるものになります。

アレルギーは身体的なもの

シルクワース医師は論文の中で血清学的(serological)という言葉を使っています。どうやら彼はアルコホリズムが免疫異常だとマジで考えていたフシがあります。彼の主張のその部分は、現在では支持する人はいないでしょう。しかし同時に彼は、体質的(constitutional)という言葉も使っていて、飲酒をコントロールできないのには精神・心理的な要因ばかりでなく、身体的な要因があると主張しました。

彼の理論(theory)――理論と訳すよりは、学説あるいは仮説と訳した方が適切な気がしますが――彼の学説について、門外漢であるAAメンバーは学術的な議論には加わるつもりはありませんでした。大事なことは、彼の学説がアルコホーリクの経験を説明できたということです。

・・・それ以外には説明のしようがない多くのことが、この理論で説明されるからだ。4)

日本ではアルコールは合法薬物であり、時と場所と量を守れば、飲酒を非難されることはありません。問題視されるのはたいてい飲み過ぎによるもの――つまり量の問題です。周囲から酒の飲み過ぎを注意されたり、酒によるトラブルが増えてくると、本人は酒の量を抑えようという努力をするものです。

本人は「酒を飲むのが悪いわけじゃない。飲み過ぎなければいいんだ」という理屈ですし、酒飲みの中には実際に酒量を減らせる人もいるのです。

だが、アルコホーリクの場合には、様々な手段を用いて酒の量を抑えようとしても、そうしたコントロールはいつか破綻し、ふたたび酒による失敗を招いてしまいます。失敗を繰り返すうちに、コントロールする努力を放棄する人もいますが、たいていは「他の人たちと同じように飲もうとして、つらすぎるくらいつらい努力をたっぷりと、長い間繰り返した」BB, pp.46-47)という経験をしてます。そして、どうして昔のように飲むことができなくなってしまったのかという疑問を持つようになります 5) が、誰も納得できる答を与えてくれません。

しかし、初期のAAメンバーは、アルコホーリクが飲みたくて飲むのではなく、身体的反応に駆られて飲むというシルクワース医師の説に深く納得できました。それによって彼らは、それまで続けていた「なんとか上手に酒を飲んでやろう」という努力を、回復のための努力へと振り向けることができたのです。彼のアレルギー説は科学的に立証されたものではなく、現在となっては単なる「医学的なメタファー 」にすぎませんが、何より回復の役に立つという有用性を備えています。プラグマティズム的観点からすれば、有用性こそが大事です。

AAが現在でもアレルギー説をビッグブックの巻頭に掲載しているのは意味のあることなのです。

わきみち 伝聞情報ですが、アメリカのAAメンバーに聞いたところでは、アメリカのアディクション専門医は「AAがアレルギーという概念を使っている」ことは常識として知っており、その概念の有用性を高く評価してくれるそうです。ところが、日本の依存症の専門医は、アレルギーという言葉を聞くと「依存症はアレルギーなんかじゃない」とまるでAAのビギナーみたいな反応を示すか、「だからAAは非科学的なんだ」とぶつぶつ言います。
こうした状況を改善するにはどうしたらいいか? それは、僕らAAメンバーが「アレルギー」という言葉をたくさん使って、日本の依存症専門医たちをしていくしかない、と思っています(笑)。

ところで、アレルギーは過敏症と訳されます。僕はAAにつながった頃、仲間から「アル中は過敏症だ」と教えられました。しかし、それ以上の情報はなかったので、何がどのように過敏症なのか分かりませんでした。

そこで、「自分は何に過敏なのか」と自問自答してみると、自分が他の人からどう思われているか、自分の能力がどう評価されているか気になって仕方なく、周囲の人の言動に過敏に反応していることを「過敏症」と呼んで差し支えないのじゃないか・・と思い至り、ミーティングの分かち合いでもそんな話をしていました。でもこれって、精神的・心理的なな過剰反応のことです。

その数年後、高速バスで移動中にビッグブックの解説書を読んでいて、過敏症とは身体的アレルギー反応のことを指すのだと知り、それまでの自分の勘違いに気づきました。あまりの気恥ずかしさに赤面し、バスの座席の中で身をよじって悶えたのを覚えています。隣の座席の人がビビってましたね。・・・まあ、人生とはそのような恥の連続なのです。6)

今回のまとめ
  • アレルギーという言葉は、身体の外から何らかの物質――食べ物とか化学物質――が入りこんだとき、それまでとは違った反応が起こること。
  • アルコホーリクは、普通に酒が飲めた時期があったが、やがて身体にアルコールを入れたときの反応が変わってしまい、飲む量がコントロールできなくなっている。
  • アレルギーという概念を受け入れることで、なんとか上手に酒を飲もうという努力を、やめる努力へと変えることができる。

アレルギーについては2通目の手紙の中でさらに取り上げます。


  1. William. D. Silkworth, “Alcoholism as a manifestation of allergy” Medical Record, March 17, 1937 []
  2. The Fascinating History and Discovery of Allergies, Home Air Quality Guides []
  3. 『世界大百科事典』平凡社, 2014 — コトバンクにて確認 []
  4. BB, p.xxxiii (33)  []
  5. Joe McQ. and Charlie P., Joe & Charlie: The Big Book Comes Alive, 2014, p.4 []
  6. (2020-2-24追記)感情的過敏症については12&12のpp.162-163で言及されているのを見つけました。 []