ビル・Wに問う (34) カール・ユングの寄与

『ビル・Wに問う』の第34回です。


Q34:カール・ユング博士はAAにどんな寄与をしてくれたのでしょうか?

A34:AAの最初の起源について知る人はほとんどいません。それはおよそ30年前にある精神科医の診察室でのことでした。精神医学の偉大な先駆者であるカール・ユング博士が、一人のアルコホーリクに話をしました。起きたことは、おおよそこんなことだったようです:

その患者は有名なアメリカの実業家で、典型的なアルコホーリクの道筋を辿っていました。合衆国中の可能性のありそうな医師、精神科医をすべて巡り、最後の手段としてユング博士のところへ行きました。ユング博士は彼を1年間治療し、その患者――ここではR氏と呼びましょう――は、自分の飲酒への強迫衝動の下に隠れされた原因が見つかり、それが取り除かれたのだからと自信を持ちました。それにかかわらず、ユング博士の治療から離れてしばらくすると、彼はまた酩酊してしまったのです。

彼は真っ暗な絶望の中で、ユング博士にところに戻りました。ことの真相を尋ねて、聞かされたのです。おおむねユング博士はこう言ったようです。「君がここに来てしばらくしてから、君が回復可能なレアケースの一人に違いないと信じ続けてきたのだ。だが今は率直に認めなければならない。神経症が君のようにひどくなったケースでは、どんな優れた精神医学をもってしても回復したケースを見たことがないのだ。これまで医師たちは君のために最善を尽くしてきたが、それがいまの君の置かれた状況だ」

R氏の絶望はますます深くなりました。彼は尋ねました。「例外はないのですか、本当に私は一巻の終わりなのですか?」

博士は答えました。「そうだね、若干の例外はある。だが滅多にないことだ。ときどき、あちこちの場所で、アルコホーリクがいわゆる決定的な霊的体験を経験している。それはいままでの情緒が大きく変わって、新しくなるといったことのようだ。ずっと持っていた人生への考えや情緒や態度が突然取り除かれて、それに代わる新しい考えと、生きていく動機が支配し始める。事実、私は君の情緒が変わるように努力してきたのだが。私の用いた方法は様々なタイプの神経症患者でうまくいっているが、君のようになってしまったアルコホーリクには一度もうまくいったことがないのだ」

この患者は食い下がりました。「ですが、私は信心深いのです。信仰を捨てていません」

これに対しては、ユング博士はこう答えました。「ありきたりな宗教的信仰では足りないのだ。私の話しているのは、言ってみれば、全面的転換(transforming)の体験、回心(conversion)の体験だ。私が君に勧められるのは、どこでも君が選んだ宗教的な環境に身を置いて、自分が絶望(的立場)に置かれていることを受け入れ、何であれ君がいると信じる神に君自身をかけてみることだ。君に突然全面的転換の体験がやってくるかもしれない。やってみるしかない――それが君の唯一の出口なのだから」このように、偉大で、かつ謙虚な医師は言いました。

将来のAAメンバーにとって、これはテンピンのストライクでした。科学はR氏がほぼ絶望的だと宣言しました。ユング博士の言葉は彼をとても深いところから打ちのめし、エゴの収縮をもたらしました。この最奥での収縮(deflation at depth)は、こんにちのAAの基礎的な原理でもあります。私たちにとって、それが最初に起きたのは、ユング博士の診察室だったのです。

この患者、R氏は宗教的なつながりと環境を得るために当時のオックスフォード・グループを選びました。ひどく打ちのめされ、自分ではほとんどどうすることもできないなかで、彼はそのグループで活動を始めました。そして彼自身驚いたことに、そしてとても喜ばしいことに、飲酒への強迫観念から解放されたのです。

アメリカに戻ったR氏は、私の古い学友である慢性アルコホーリクと出会いました。この友人は、その名前をエビーと言いますが、州立病院に収容されるところでした。これが、もう一つの重要な構成要素が加わった接合の瞬間でした。アルコホーリクであるR氏が、同じくアルコホーリクで同じ苦しみを味わっているエビーに、話を始めました。これによって、同じだという奥深い認識(identification at depth)が生まれました。これが二番目の主要な原理です。R氏は、この同じだという認識を橋として、医学的見地から判断しても、精神医学的に見ても、ほとんどのアルコホーリクは絶望的であるというユング博士の意見を伝えました。それから彼はエビーをオックスフォード・グループに連れて行くと、わが友人はそこですぐに酒をやめたのです。(ニューヨーク市アルコホリズム医学会、1958年4月28日)

このR氏は、ビッグブックの第二章pp.39-42に「あるアメリカの実業家」として登場するローランド・ハザードである。ローランドが、オックスフォード・グループに加わった後に、エビー・Tを助けたことが、AAが始まるきっかけとなった。しかしローランド自身がAAに加わることはなかった。

ビル・Wに問う,日々雑記

Posted by ragi