強迫観念
強迫観念 – obsession
AAにおいて、断酒中のアルコホーリクが再び（again）酒を飲むときの精神状態1)を指して使われる用語。とらわれと訳されている文献もある。2)
ビッグブックでは、この強迫観念が問題（ステップ1）の中核（crux）だとしている。3)
アルコホーリクの身体はアルコールに対して過敏反応（アレルギー反応）を起こすため、酒を飲むとやがてより多くの酒を求める強い欲求（渇望 ）が生じるようになり、結果として飲酒のコントロールを失ってしまう。そのことをアルコホーリクは自らの経験から（あるいは教育によって）学んでいるため、断酒を続けることを望んでいる。しかし、その望みに反して、最初の一杯の酒を飲ませる「狂気の考え」が支配的になり再飲酒に至ってしまう。その時の精神状態（mental state）を強迫観念と呼ぶ。4)
ビッグブックの第二章・第三章に詳述されている：
その時にはいつも頭の中で奇妙な現象が起こった。まともな考えと一緒に、最初の一杯を飲むための、気違いじみた、ばかげた理由づけがどうしても離れずにいた。健全な理由は、私たちを抑えることができなかった。狂気の考えにやられてしまうのだ。4)
But there was always the curious mental phenomenon that parallel with our sound reasoning there inevitably ran some insanely trivial excuse for taking the first drink. Our sound reasoning failed to hold us in check. The insane idea won out.5)
ジョー・マキュー（Joe McQ, 1928-2007）は、強迫観念を考え（idea）であると説明している：
他のどのような考えも圧倒してしまう強烈な考え6)
an idea that overshadows and overcomes all other ideas7)
強迫観念とは、他のすべての考えを打ち消して、事実でないことを信じさせるほど強力な考えのことである。8)
an obsession is any idea that overcomes all other ideas, and it is so stong that it can make you believe thing that aren’t true.9)
強迫観念とは事実とは異なること（e.g. 他の人と同じように飲める）をアルコホーリクに信じさせ、再飲酒をさせてしまう。これがアルコホーリクが断酒を続けることができない問題の本質である。強迫観念は精神の中で起こる現象であるがゆえに、本人の意志の力でこれを克服することはできない。12ステップでは、強迫観念を取り除けるのはハイヤ・パワーだけであるとしている。10)11)
アルコホーリクは、身体のアレルギーのために安全に飲酒できず、かつ精神の強迫観念のために断酒を続けることもできない。これを「アルコールに対して無力」と表現する。
強迫観念はアルコール以外の（薬物やギャンブルなどの）アディクションにも共通のものであり、また食べ物や共依存やACなどのグループの12ステップにおいても解決されるべき問題の本質として扱われている。すなわちあらゆる12ステップは強迫観念を解決するものである。8)
ビル・W は、身体のアレルギー（the allergy of the body）と精神の強迫観念（the obsession of the mind）は、ステップ1に取り組む上で絶対的に必要なキーワードであるとしており12)、ビッグブックだけでなく、12&12や『AA成年に達する』でも繰り返しこれらの用語を使っている。
強迫観念（obsession）という用語は、強迫性障害 （obsessive-compulsive disorder、強迫神経症）においても、本人の意に反して繰り返し起こる不合理な思考を指して使われている。
参照:
・ビル・Wに問う (2) 精神の強迫観念
・ビッグブックのスタディ(15) 医師の意見 6
・ビッグブックのスタディ(16) 医師の意見 7
・アレルギー
- the mental states that precede a relapse into drinking — AA, Alcoholics Anonymous: The Story of How Many Thousands of Men and Women Have Recovered from Alcoholism, AAWS, 2001, p.35[↩]
- 12&12[↩]
- BB, p.52[↩]
- BB, p.55.[↩][↩]
- AA, op. cit., p.37[↩]
- 無名（A Program for You翻訳チーム訳）『プログラム フォー ユー』, 萌文社（ジャパンマック）, 2011, p.47-48[↩]
- Anonymous, A Program for You: A Guide To the Big Book's Design for Living, Hazelden Publishing, 1991, p.39[↩]
- 無名, op. cit., p.49[↩][↩]
- Anonymous, op. cit., p.40[↩]
- BB, p.64[↩]
- 12&12, p.29[↩]
- AACA, p.19, p.102, pp.104-105, p.108, p.245[↩]