思い通りに生きていけない
思い通りに生きていけない — our lives had become unmanageable
生活(あるいは人生)にアルコホリズムの悪影響が及んでいること。
ビッグブックの第一章「ビルの物語」の前半部(pp.1-12)には、ビル・Wがアルコールに対するアレルギー(渇望現象)と強迫観念によって飲酒のコントロールを失ったことで、彼の生活や人生の様々な領域に悪影響が及んだ――すなわち「life が unmanageable になった」――様子が述べられている。
その領域とは、彼の家族関係(夫婦関係)、仕事あるいは収入、財産、社会的な信用、友人関係、心身の健康、趣味、将来の計画などであり、彼はそれらを守ろうとしながら、それらを傷つけ、失い、失ったものを再獲得しても、また失っている。
精神疾患の診断基準(精神障害の診断と統計マニュアル )には、疾患によって「社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の重大な障害」が生じているという表記がしばしば登場するが、「思い通りに生きていけない」もこれと同様の機能の障害とみなすことができる。
AAのアルコホリズムの疾病概念では、この病気は進行性で予測可能な自然経過を取るとされているため、この病気の初期には悪影響(機能の障害)が限定的で軽微なものであったとしても、その進行とともに、影響を受ける領域は拡大し、深刻化していくことが予測される。
ステップ1は「私たちはアルコールに対し無力であり、思い通りに生きていけなくなっていた(we were powerless over alcohol – that our lives had become unmanageable)」としており、アルコールに対して無力であることが、思い通りに生きていけないこと(人生の各領域への悪影響や機能障害)の原因であることが明示されており、逆ではない(思い通りに生きていけないためにアルコホーリクになったのではない)。
ビッグブックの87ページでは、ほぼ同じ表現(we were alcoholic and could not manage our own lives)を「私たちはアルコホーリクであり、自分の人生が手に負えなくなった」と訳している。
なお、AAではかつてこの部分を「生きていくことがどうにもならなくなった」と訳していたために、AA以外の12ステップ共同体ではこちらの訳を使用しているところもあるが、意味は同じである。
参照:
・ビッグブックのスタディ (34) ビルの物語 5
・ビッグブックのスタディ (35) ビルの物語 6
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