雑感(4) ドクターについて・ステップはなぜ過去形か

ドクターについて(◯◯博士と◯◯医師)

ビッグブックには、Dr. Silkworthドクター・シルクワースとかDr. Jungドクター・ユングのように、名前にDr.ドクター という肩書きがついている人たちが登場します。これをなんと訳すべきか悩みました。

肩書きの Dr. は、博士 (博士号を持つ人たち)を指します。だから、本来であれば「シルクワース博士」「ユング博士」と訳すのが正しいのです。1)

しかしながら『心の家路』では、「シルクワース医師」「ユング医師」と訳しています。それはなぜか。

ぶっちゃけ、現在の日本では肩書きとして博士を使うケースは珍しいです。肩書きはおおむね職位が使われます。さらに、アルコホリズムという病気を扱っているだけに、AAの本に出てくるドクターたちは、ほぼ全員が医師 です。そこで、◯◯博士と訳すより◯◯医師と訳した方が日本語として自然だろうと考えたからです。

アメリカでは医者は全員博士号を持っています。四年制の大学でリベラル・アーツ を学んだ後で、さらに四年制のメディカル・スクール (専門職大学院)を卒業し、その上で国家試験に合格してやっと医師になれます。なので、医師=博士なわけです。ドクター・ボブもそうです。カール・ユング はスイスの人ですが、スイスの大学で学位を得ていました。

イギリス連邦諸国や日本では制度が違っていて、専門職大学院を経る必要はなく、大学の医学部を卒業して国家試験に合格することで医師になれるので、博士号を持っていないお医者さんもたくさんいます。なかには、医者として働きながら論文を書いて博士号を取る人たちもいます。

医学以外の博士も世の中にはいるわけですが、上に書いたような理由でAAの文献にはほとんど登場しません(例外はサム・シューメイカーですが、彼は Rev. という聖職者 の尊称がつくので、「シューメイカー師」と訳されます)。

AAの文献は Dr. を◯◯博士を訳しています。一方、僕の文章は◯◯医師と訳しています。そんなわけで『心の家路』には、◯◯博士と◯◯医師という表現が混在することになりました。そのせいで、むしろ分かりづらくなってしまったかもしれません。

AAバック・トゥ・ベーシックスでも同じことになっています。(実はそちらに寄せられた質問)

ちなみに中国には、博士の上に院士というタイトルがあるそうですが、こちらは政治的な色彩が強いようですね。

12ステップはなぜ過去形で書かれているのか

ところで、12のステップ*は過去形 で書かれています。伝統概念現在形 で書かれているのとは明らかに違っています。それはなぜか。

ビッグブックはAAの最初の約100人がどうやって回復したかを伝える本です(cf. 第1回第2回)。彼らは「すでに回復した(we have recovered)」と述べていて、自分たちがどうやって回復したのかを、12ステップという形にして読者に教えてくれます。

12ステップは彼らの経験を語ったものだから、過去形で書かれているのです。12ステップは「あなたは~すべきだ」「◯◯しなさい」という言葉で書かれてはおらず、「私たちはこうやったのだ」という言葉で書かれています。私たちは・・認めた/私たちは・・信じるようになった/私たちは・・・決心した/私たちは・・・表を作った、というふうに。

そして、あなたも回復したかったら、私たちがやったのと同じことをやってみませんか? と誘っているわけです。12ステップには「あなたは~すべきだ」という強制のニュアンスはありません

私たちに12ステップに取り組むように強制してくるのは、アルコール、あるいはアルコホリズムという病気です。決して12ステップそのものに強制力があるわけではありません。

僕は別に12ステップや回復のオーソリティではありませんが、ご質問がある方はメールかTwitter(@kokoro_no_ieji)経由でお寄せ下さいませ。


  1. ただし日本のAAでは慣例的に「ドクター・ボブ」という固有名詞を使っており、ボブ博士とは訳しません。 []

2020-03-05その他,日々雑記12ステップ

Posted by ragi