12ステップのスタディ (9) OAの始まり Q&A
京都での Big Book Comes Alive! は56名のご参加を頂きまして、無事開催できました。ご来場頂いた皆さん、実行委員会の方々に感謝申し上げます。次は7月28日に茨城県牛久市で開催されます(ご案内はこちら)。
Amazonのアフィリエイトの5月の入金は561円でした。前回の残金2,317円+561円=2,878円を次回に繰り越します。
Q: アルコールや薬物は完全に断つことができるのに対し、食べることは完全にやめることはできません。OAでは回復のための基準をどう定義しているのでしょうか?
A: AAのソブラエティの概念と、OAのアブスティネンスの概念を比較してみましょう。
AAにおけるアルコホーリクのソブラエティとは、飲酒をやめることです。つまり、ソーバーな状態を保つためには、何でも自由に飲むことができるわけではなく、特定の飲料(アルコールを含むもの)は飲むことができません。なぜなら、アルコールが渇望の引き金を引いて、コントロールできない強迫的過剰飲酒をアルコホーリクにもたらすからです。しかしながら、人は水分を取らねば死んでしまいますから、何らかの飲料(アルコールを含まないもの)は飲まねばなりません。飲むことを完全にやめているわけではなく、飲めるものと飲めないものがあるのです。
OAにおけるオーバーイーターのアブスティネンスも同様に、強迫的過食をやめていることです。つまり、アブスティネンスの状態を保つためには、何でも自由に食べることができるわけではなく、特定の食べ物(トリガーフード・ビンジフード)は食べることができません。なぜなら、トリガーフードが渇望の引き金を引いて、コントロールできない強迫的過食をオーバーイーターにもたらすからです。しかしながら、人は栄養を取らねば死んでしまいますから、何らかの食料(トリガーフードを含まないもの)は食べねばなりません。食べることを完全にやめているわけではなく、食べられるものと食べられないものがあるのです。
このように並べてみれば、AAのソブラエティもOAのアブスティネンスも同じ概念であることが分かります。ただ、OAのアブスティネンスの概念を分かりにくくしているのは、AAがアルコールという全員に共通の単一の物質を対象にしているのに対し、OAの場合にはトリガーとなる食べ物が一人ひとり異なっており、しかも環境の変化や経時変化(加齢など)によってその範囲が変化しうることです。さらに、間食や食事の間の高カロリーの飲料摂取、トリガーフードでなくても大量に何かを食べることなども渇望を引き起こすことが経験的に知られています。
そのため、安全な範囲で食事を続けていくための食事計画(plan of eating, food plan)が重要になってきます。OAは一つの食事計画を全員で共有するアイデアは放棄したものの、一人ひとりが自分の食事計画を決めそれに従っていくことを推奨しており、そのためのガイド A New Plan of Eating: A Physical, Emotional, and Spiritual Journey を出版しています。1) それには、一日3回の食事、食事の間には何も食べず、それを「今日一日」の単位で続けていくという「3-0-1プラン」と呼ばれる標準的なプランが提案されています。またそれをもとに、不規則な働き方や長時間労働をしている人向けのヒントを含んでいます。2)
このパンフレットでは、トリガーフードになり得る食品として、ジャンクフード類(チョコレートやファーストフード、ポテトチップなど)、砂糖を多く含んだもの(デザート類、甘味飲料など)、脂肪を多く含んだもの(バター類やバターを使った菓子など)、小麦粉を多く使ったもの(パイ生地やある種のパスタなど)、砂糖・脂肪・小麦が混じったもの(ドーナツなど)、トリガーフードを含まなくても大量に食べること、ダイエットフードやシュガーフリーの食品、香辛料を使ったエスニックフード、特定の食感や特定の香りのもの(クリーミィだったり、油っぽかったりなど)が挙げられています。これらすべてが、全員にとってのトリガーフードというわけではなく、人によって何を食べると「もっと食べたくなる」のかは異なっているということです。
食事計画はスポンサーと相談して決めることが重要だとされていますが、何らかの疾患を持つ人は医師や管理栄養士などの医療専門職に相談することが強く推奨されています。
ただし、食事計画を定めてそれに従うことで過食行動を防いでいくことがアブスティネンスなのではなく、それはハイヤー・パワーの導きに自分をゆだねるため、すなわち12ステップによる霊的回復の前提となるものです(AAにおけるドライとソーバーの関係に相当)。また、12ステップによる内面の変化によって、食べ物へのとらわれ(obsession)が取り除かれ、食事計画に従うことがより容易になるとされています。つまり、身体的回復を支える食事計画と、感情的・霊的回復を支える12ステップは、相補的な関係にあると言えます。
また健康的な体重を達成し、それを維持していくのは、アブスティネンスの結果であって目的ではないことが強調されています。
Q: では回復しても普通に食事できるようにはならないのでしょうか?
A: それは「普通」の定義にもよるでしょう。健康的な一日3回の食事が普通の食生活だと考えるならば、それはOAで実現可能だと思われます。
OAは「いつでも好きなものを好きなだけ食べられて、それでいて過食に陥らない」という状態を実現するための集まりではないようです。それはAAが「普通に酒を飲めるようになる」という状態を実現するための集まりではないのと同じです。
Q: 好きな物が食べられなくなるのが回復の目標だなんて、可哀想なのではないでしょうか?
A: たしかに、可哀想なことだと言えます。ですから、好きな酒を飲まなくなるのが目標であるアル中や、好きなシャブをやめなくてはならないヤク中についても、同じように可哀想だと思っていただければ幸いです。好きな何かを諦めなければいけないのは辛いことですが、それが自由と幸せへの道であることもしばしばなのです。
Q: 健康的な体重とはどの範囲なのでしょう?
A: OAは「健康的な体重の計算式」などを示していません。単に、
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- 健康的な体重に向かっての進歩が見られないのであれば、食事計画を見直すか、食べ物に関して自分に正直になるべきである
- 健康的な体重とはファッショナブルな体重や自分がなりたい体重ではない
と述べているのみです。そして、自分にとっての健康的な体重は、医療専門職やスポンサーと話し合うべきことだとしています。3) 4)
Q: 過食だけでなく、拒食やその他の摂食行動についてはどうなのでしょうか?
A: OAでは過食(overeating)のほかに、拒食や過剰なエクササイズなども対象に挙げています。それは、拒食や過剰なエクササイズ、さらに嘔吐や下剤使用やチューイング(食べ物を口の中で噛んで吐き出す行為)などの食行動(food behaviors)には、背景に過食の問題が横たわっているという暗黙の前提があるものと思われます。
過食と拒食は正反対の行為のように思われますが、身体的・感情的側面は食事計画で、霊的な側面は12ステップで、その他スポンサーシップやミーティングという回復のプログラムは共通しているということなのでしょう。
Q: 実際にOAに行くと過食などが止まっていない人が多くて希望が持てないのですが?
A: 前回取り上げましたが、強迫的過食の場合には、アブスティネンスがなかなか獲得できなかったり、しばしば再発によるぶり返しが起きつつも、粘り強い取り組みによって最終的に安定した状態が実現されるというケースが多いように思われます。
であるならば、再発を起こす人や、それをきっかけに回復から離れてしまう人はAAやNAにもいますが、OAではその頻度が高くなるのも当然なのかもしれません。したがって、AA流の「ミーティングに通い続けることで症状が止まり、12ステッププログラムに取り組むことで再発が防げる」という単純な方法論をOAに持ち込まない方が賢明なのでしょう。過食などが止まっていない人たちかもしれませんが、一緒に粘り強く回復へと取り組む仲間だと思うべきではないでしょうか?
Q: OAのスポンシーの過食が止まらないのですが、どうすれば良いのでしょうか?
(OA以外の共同体(AAなど)のメンバーで、OAメンバーのスポンサーを務めている人からいただく質問)
A: 食事計画が役に立つと思います。何よりもスポンサーであるあなたが自分の食事計画を作り、それを実践してみましょう。そうすれば、それに厳密に従うことがいかに困難なことであるか理解できるでしょう。そうした逸脱や、時には新たなトリガーフードが見つかることで、自分の回復の不完全性に気がつくこともあるのではないかと思われます。ご自身の回復も紆余曲折があって時間がかかったことを思い起こしてくだされば、スポンシーの食行動がすぐに変わらないことに悩むのは、単なる寛容さの欠如であることが分かるでしょう。
OAの創始者ロザンヌ・Sは、長いぶり返しの年月のなかで、ステップ4の棚卸しを24回行ったそうです。5) あなたのスポンシーも、この先、10回、20回と棚卸しを行うことになるかも知れず、そしてあなたはその中の1回を担当するだけなのかもしれません。自分が最後のスポンサーとしてスポンシーの回復を実現する、という考えにこだわるのはやめましょう。回復はハイヤーパワーが実現してくれるものです。スポンサーはその補助をしているだけであり、与えられた役割を果たしていくことしかできないのだ、ということを胆に命じましょう。
Q: なぜロレーヌやOA-HOWのような厳格な一派が繰り返し登場するのでしょうか?
A: 考えてみていただきたいのですが、上で説明したような、トリガーフードが一人ひとり違っているとか、しかも環境や時期によって変化しうるという考え方は、一部の人たち――臨機応変や個別対応が苦手な人たち――にとっては耐えられない曖昧さをもたらします。その曖昧さがもたらす不安に、厳格さをもって対抗しようと考えるのは自然なことではないでしょうか。また、再発には明確な原因がある(プログラムへの取り組みが不足している)と考えるAA的・NA的な思考をそのまま適用すれば、厳格さによって問題を解決しようというアイデアが浮かんでくるのもうなづけます。
その結果として、全員に共通したトリガーフード(小麦粉と砂糖を含む)を設定し、全員が同じ食事計画を共有するということに魅力を感じる人たちが登場するのでしょう。えてしてこういうタイプの人の方が、12ステップに取り組む姿勢は真面目であり、努力家でもあるものです。ただ、12ステップは努力で自分を変えていくプログラムではないので、勤勉さ・厳格さが回復にプラスに働くかどうかは、なんとも言えません。というのも、12ステップは、厳格さを突き詰めていくことよりも、むしろ現実世界が持っている曖昧さや不確実性を受け入れていくことを要求しているからです。
前回も述べましたが、厳格さを強調する人たちが共同体のなかに存在することは何ら問題ではありません。人によっては厳格さがその人の回復の役に立つことも十分あり得ます。しかし、自分たちだけが「正しい」と主張し始めるとその有効性が損なわれてしまうのです。
前回を書いた後、改めてOA-HOW/HOW-OAのサイトを見てみると、彼らは自分たちがOAの一部であると主張しているか、明示的に主張しないまでもあたかもそうであるかのように書いています。それに対してメインストリームのOA側が彼らをどう扱っているのかは分りません。
Q: 自分では気がついていないトリガーフードがあって、それを食べて過食に戻ったら、それはスリップなのでしょうか?
A: スリップなんでしょうけれども、AA・NA流の「ミーティングに通い続けることで症状が止まり、12ステッププログラムに取り組むことで再発が防げる」という単純な方法論にこだわらないことです。AAやNAは、アルコールや薬物の問題に対してはそのようなアプローチが有効だからそれを使っているだけです。だから継続したソブラエティやクリーンを重視し、それが始まった日をバースディと呼んで毎年祝ったりします。しかし、OAは食べ物の問題に対しては、そのような単純な方法論が必ずしも良い結果をもたらすとは限らない――回復は基本的に試行錯誤のプロセスであるという経験を積み重ねてきているものと思われます。
上に挙げた A New Plan of Eating には「不完全性を受け入れる」というセクションがあります。再発は起きて当然のことではないので、それを防ぐためのあらゆる努力が必要です。しかし、それでも時に食事計画からの逸脱は起こります。それを過剰に深刻に捉え、恥や罪悪感、自己嫌悪を感じることには何の価値もありません。スリップは、自分ではコントロールできない病気を抱え続けていることを再確認させてくれるものです。失敗から学び、またやり直せば良いのです。強迫的に食べることをやめられなかったとしても、それは失敗ではありません。失敗とは、もう一度やり直そうとしないことだ、というのです。
こうしてみると、OAにおける回復の理想的な姿というのは、AAやNAとは異なっていると思われます。AAやNAでは、安定したソブラエティやクリーンを長期間にわたって継続することが、輝かしい成功として評価される傾向があります。6) それに対してOAでは、むしろ失敗や逸脱を伴いつつも、粘り強く回復に取り組むことに最大の価値を認めているように思われます。ブラウンブック(Overeaters Anonymous)の冒頭に掲載されている創始者ロザンヌ・Sの “KEEP COMING BACK”(何度でも戻ってくるの意)という題名の体験記が、まさにそうしたストーリーになっています。
「ダレル・ロイヤルの手紙」もお読みいただけると幸いです。
Q: 私はOAのメンバーではなく別の共同体のメンバーですが、OAの人からスポンサーを頼まれました。私にもできるでしょうか?
A: 「ビッグブックのスタディ」の連載は、AAの12ステップについて読者が一定程度の理解に到達できることを目的にしていました。この「12ステップのスタディ」は、いくつかの共同体のテキストを読み比べることで、それらの12ステップが共通して持っている基本的な構造を明らかにすることを狙っています。その基本構造をつかんでいれば、共同体の境界を越えてスポンサーシップを成立させること(e.g. AAメンバーがOAやACの人のスポンサーを務めること)が可能であることを示すという目的があります。それは、すでに行われているそのようなスポンサーシップが成功していることの説明にもなるでしょう。
しかし、各共同体の回復プログラムの間には差異も生じているのも事実です。その差異を理解しておくことも、共同体の境界を越えたスポンサーシップを行う際に必要なことです。そして、AAの12ステップを理解するためにはAAの成立の歴史を辿る必要があったように、差異を理解するためには、各共同体の歴史を知る必要があると判断して、そのために回数を使っています。
実際のところ、各共同体の間で大きな差が生じているのは、12ステップ・プログラム以外の部分です。つまり違いがあるのは霊的ではない部分のプログラムです。OAの食事計画はその一つの例です。他にもGAで財務的な収支のバランスを取るための「プレッシャー・リリーフ」というプログラムや、ACのグループのインナーチャイルドワークが挙げられます。こうした非霊的な、その共同体固有のプログラムは、そこで経験を積んだメンバーだけが持つ専門的スキルだと言えます。
なので、共同体の境界を越えてスポンサーシップを行う際には、相手の共同体固有のプログラムは(基本的には)提供できないと考えるべきでしょう。もちろん、世の中には何でも小器用にこなせる人がいるのも事実ですが、過剰な自信は持たない方が無難です。ですから、スポンサーシップの中身は、霊的なプログラム(12ステップ)と、ミーティングの参加の仕方や他のメンバーとのつきあい方などの全般的な相談に限っておくほうが良いだろうと思います。
それでも、固有の部分のサポートを頼まれることもあるかもしれません。それを引受けようという場合には、スポンサーも同じプログラム(この例で言えば食事計画)を一緒にやってみるべきではないかと思います。スポンサーシップは治療者・被治療者の関係ではなく、ともに同じプログラムに取り組む者同士が行うものですが、そのなかで両者ともに未経験で師弟関係が成り立たないのなら、せめて同時にプログラムに取り組んでみるというのが誠実な態度ではないでしょうか。
Q: OAに限らず食べ物の問題を持つ人が女性に偏っているのはなぜでしょうか?
A: 前々回・前回と取り上げた Beyond Our Wildest Dreams でも、そこに登場するのは女性ばかりで、男性は明らかに少数派です。OAメンバーの話を聞いても、実際に男女比は女性に大きく偏っているそうです。しかし、OAは男女で回復の方法が異なっているとは主張していません。である以上、偏りの原因について論じるのは回復の役に立つ努力ではないのでしょう。ですから、ここではその話は避けることにします。(病因と回復の阻害要因の違いについては[BBS#72][BBS#79][BBS#102])。
Q: 私は若い頃に過食症(あるいは拒食症)だった時期があります。その経験を生かしてOAの人のスポンサーをしてあげたいと思うのですが、それは良いことでしょうか?
A: 僕はOAのメンバーではありませんが、その立場から考えても、賛成できません。やめておいた方が良いでしょう。というのも、このような質問をしてくる人の多くは、現在は特に食事計画などを使っておらず、普通の人たちと変わらない食事をしているからです。それはつまり、かつてあなたが抱えていた問題は、OAの人たちの抱えている問題とは違うことを意味します。前提となる条件もゴールも異なるのですから、あなたが拒食症や過食症から回復した経験がOAの人たちに直接役に立つことはないでしょう。
こう考えてみてください。若い頃には無茶な酒の飲み方をしていたが、中年になった現在は適量の酒を楽しんでいる、という人は世の中にたくさんいます。[BBS#23] その人たちが「自分の経験を生かしてAAの人のスポンサーをして彼らが酒をやめる助けになりたい」と言っても、無理であることは容易に想像できるでしょう。あなたがやろうと考えたことは、これと同じです。
しかし、もしあなたがいずれかの12ステップ共同体(AAやNAやGAなど)で12ステップによる回復の経験をお持ちならば、その経験を生かしてOAの人のスポンサーをすることは可能でしょう。
次回からは性の問題を扱うグループの創始についてのシリーズとなります。
- OA, A New Plan of Eating: A Physical, Emotional, and Spiritual Journey, OA, 2021.[↩]
- 食事計画については Where Do I Start? というビギナー向けのパンフレットにも記述があり、自動翻訳を頼ったようで翻訳の質は良くないが日本語訳も用意されている — OA, Where Do I Start? Everything a Newcomer Needs to Know — Overeaters Anonymous (oa.org), 2022 — 日本語版。[↩]
- ibid., p.9.[↩]
- A New Plan of Eating の巻末に健康的な体重とそれに近づいたときの注意事項がある。[↩]
- OA, Overeaters Anonymous third edition, OA, 2014, p.20.[↩]
- もちろんそうした評価軸に対する批判もAA内部に存在する。[↩]
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