ビル・Wの医学会での講演三題

これは、AAのパンフレット P-6 – Three Talks to Medical Societies by Bill W., Co-founder of A.A. の翻訳です。1) このパンフレットは1949年に Alcoholism the Illness というタイトルで出版され、以後改定されつつ頒布が続けられてきましたが、現在は入手不能になっています(それがどのような事情によるものなのかは不明)。

AAの共同創始者であり精神的リーダーであったビル・Wが、AAの始まりと成長基本コンセプト共同体の特徴について語っている内容は、AAを理解する上でたいへん役立つため、翻訳してここに収録することにしました(対訳はWikiにあります)。

なお、三つの論説はすべて医学誌に掲載されたものですが、パンフレットに収録する際にその一部が割愛されています。ここでは、割愛・変更された部分も収録しており、当該部分は灰色のバックグラウンドで示してあります。また、この三つをすべてこのページに収めるには長すぎるため、それぞれ独立したページに収録しています。

ビル・Wの医学会での講演三題
Three Talks to Medical Societies by Bill W., Co-founder of A.A.

AAが医学から受けた恩義

アルコホリズムからの回復のプログラムであるアルコホーリクス・アノニマスは、1935年の創始の時から医学会の多くの会員から援助と激励を受けてきた。

加えて、AAが成長するにつれ、一般開業医や専門医からなる多くの団体が、深刻な健康問題に対するAAのユニークなアプローチに寄せる関心はますます増大している。

以下に抜粋した三つの論説のうち、最初の二つは、主要な医学会の公式な集会でAAプログラムについて詳細を発表したものであり、もう一つは私たちの共同体の最近の成長の概要についてである。この三つはいずれもAAの主要な協力相手の一つである医学の分野において、AAへの理解の広がりを示すマイルストーンである。すべての発表は、AAの共同創始者であるビル・Wが行った。
*ビル・Wは1971年1月24日に死去した。

最も新しい論説は、このパンフレットの最初に掲載したもので、1958年4月にニューヨーク市アルコホリズム医学会(New York City Medical Society on Alcoholism2)で発表したものだ。次いで、1944年5月にニューヨーク州医学会(Medical Society of New York 3)年次総会の神経精神部会で行った講演を掲載した。三つめは、1949年5月にアメリカ精神医学会 (APA)の第105回年次総会で行った発表の抜粋を掲載した。これは最初に American Journal of Psychiatry の1949年11月号に掲載されたものの再録である。

以下の論説中で述べられている意見は、もっぱらAAにおける経験を示すことを意図したものであり、発表を行った医学会がこれらを支持していることを意味するものではない。

アルコホーリクス・アノニマス、その始まりと成長

ビル・W ―― 1958年4月28日、ニューヨーク市アルコホリズム医学会での発表

14年前、私はニューヨーク州医学会の年次総会で論文を読み上げました(「アルコホーリクス・アノニマスの基本コンセプト」参照)。それは私たちアルコホーリクス・アノニマスにとって歴史的な出来事でした。アメリカの主要な医師会が私たちの共同体に好意的な関心を寄せてくださったのは、それが初めてでした。当時の医師たちはさらに私たちに関心を寄せ、諸手を挙げて私たちを迎え入れ、ジャーナルに私たちのAAの説明を掲載してくださいました。その1944年の論文のコピーは全世界に一万部以上ばら撒かれ、あらゆる場所の医師にAAの価値を納得させました。そうした先見の明のある、惜しみない行動が、無数のアルコホーリクとその家族にとってどれほどの意味を持ったかは、まさに神のみぞ知ることです。

同じように寛大な気持ちで私を今夜ここに呼んでくださったニューヨーク市アルコホリズム医学会の皆さんに心から感謝します。あわせまして、私たちのメンバーである国内外の約7,000のグループにいる回復したアルコホーリクからの永遠の感謝とご挨拶を申し上げます。
 * 2010年にはグループ数は115,770以上、メンバー数は200万人を超えた。

おそらく、AAの手法とその結果を理解する良い方法は、その始まりを少し見てみることです――その時、医学と宗教が私たちと親切なパートナーシップを結んでくださいました。そのパートナーシップが、その後の私たちの成功の礎となったのです。

誰かがアルコホーリクス・アノニマスを発明したわけではありません。AAは医学と宗教からきた原理と考え方を統合(synthesis)したものです。私たちアルコホーリクはそれらの形を私たちの共同体特有の用途に合わせ、効果的に働くように整え直しただけです。私たちが貢献したことは、回復という鎖におけるミッシングリンク (の発見)であり、それは現在も意義深く、また将来を約束するものです。

アルコホリズムについての声明

アルコホリズムについての声明

アメリカ医師会は、アルコホリズムを生物学的、心理学的、社会学的な要素を持つ複雑な疾患であることを確認し、その影響を受ける人たちのために医学の責任を認識している。本会は、アルコホリズムには複数の形態があり、それぞれの患者は個別的、包括的な方法で評価され、治療される必要があることを認識する。

アメリカ医師会(American Medical Association) 評議会 1971年

アルコホリズムは病気なのか?

アルコホリズムは病気なのか?

アメリカ医師会、国際保健機関、および他の多くの専門家グループがアルコホリズムを疾病だと見なしている。司法と立法府もまたこれを疾病として認識している

いくつかの機関は、アルコホリズムが根底にある情緒的問題の表出にすぎないという捉え方を変えずにいる。他に、それを何らかの病気の前駆症状として始まるもので、それ自体が治療を必要とすると見なしている機関もある。

アメリカ医師会のアルコホリズム・薬物依存委員会は、アルコホリズムをアルコールへの没頭とその消費のコントロールの喪失が存在する病気として、また、人の健康を害し、その人が働き、他の人と良好な関係を築く能力を妨げる薬物依存症の一種として定義している。

通常アルコホーリクは大量に飲み、ひんぱんに酔う。しかしながら量や頻度は一つの徴候に過ぎない。アルコホーリクの中には、実際には一部の社交的飲酒者より飲酒量が少ない人もいるが、そのことが彼らの基礎的状態を変更したり、深刻さを減らしたりするわけではない。重要な要素は、アルコールという薬物に対するコントロールの喪失と渇望である。

身体的な障害や、生活(人生)への適応の困難は、この病気の結果として生じるばかりでなく、それらはこの病気の発症に寄与している可能性がある。一人での飲酒や早朝からの飲酒は、アルコホリズムの徴候であり得るが、常にそれらの徴候が存在するとは限らない。

同様に、ドヤ街に住んでいること、無責任になることなど、アルコホリズムの根本であると一般に見なされている行動は、この疾患に限定されるものでも、必ずしもその一部でもない。実際には、経済的に成功した職業人で構成されるアルコホーリクの階級は、わが国において最大の、そしておそらくは最も著しく見過ごされているグループの一つであろう。

パンフレット The Illness Called Alcoholism アメリカ医師会(アルコホリズム・薬物依存委員会、精神保健協議会、健康教育部会)より

アルコホーリクス・アノニマスの基本コンセプト

ビル・W — 1944年5月、ニューヨーク州医師会の神経・精神部会の年次総会での講演から

アルコホーリクス・アノニマスには、ただ一つの目的――ひとつの目的だけ――があります。それは「他のアルコホーリクもこの病気から回復するように手助けすること」です。

私たちに加わろうとするアルコホーリクに要求されるのは、良くなりたいという願望を持っていることだけです。申込書にサインする必要はなく、会費や入会金もなく、また医学的にも宗教的にも、特定の観点からの信念を要求されることもありません。グループとして私たちは論争の対象になる問題には一切関与しません。私たちは伝道者でもなければ、社会改革者でもありません。私たちは回復したアルコホーリクとして、良くなりたいと思っている人たちを手助けすることだけを目的としています。私たちは、他のアルコホーリクのために活動することが、私たち全員の断酒を維持するために非常に重要な役割を果たしていることを発見したからこそ、これを行っているのです。

「なぜAAは効果があるのか」とお尋ねになるでしょう。その質問に完全に答えることはできません。AAの技法の多くは、10年間の試行錯誤を経て採用されたもので、十分興味深い結果をもたらしてきました。ですが、私たちは素人(layman)として、それを説明する能力が自分たちにあるとは思っていません。私たちはただ自分たちが何をするのか、それがどのように見えるのか、そして私たちの視点から見て、自分たちに何が起きたのかを語ることができるだけです。

最初に明らかにしておかねばならないのは、AAは医学、精神医学、宗教の手法と、私たち自身の飲酒と回復の経験を元に、それらの概念を統合して作った、いわば「多機能家電」だということです。そこに未知の原理を見つけ出そうとしても無駄に終わるでしょう。私たちはただ単に、精神医学と宗教の古くから実績のある原理を、アルコホーリクが受け入れられる形に整え直しただけです。そして私たちは、この原理を自分自身や他の苦しむ人たちに適用することに熱中できる独特の団体を作ったのです。

医学の権威はAAをどう見ているか?4)

1967年、アメリカ医師会は、AAのメンバーになることがアルコホリズムの治療として今もなお最も効果的な手段であると述べ、アルコホリズムの著名な権威であり、全米アルコホリズム協議会の医療ディレクターであるルース・フォックス博士5)の言葉を引用した:「何千ものグループと、そこで回復した30万人(現在は200万人以上)のアルコホーリクからして、AAは疑いなく他のすべてを合わせたより多くのケースに手を差しのべています。それを受け入れることができ、そして実際に受け入れる患者にとって、AAは必要とされる唯一の治療法かもしれません」

「私は、AAが行っている仕事、その精神、お互いに助け合うという本質的な哲学に最大限の敬意を払っています。何らかの関連があるところでは、それが公のものであれ私的なものであれ、どんな機会も逃さずに私の支持を表明することにしています」
カール・メニンガー、医学博士、メニンガー財団6)

「おそらく、アルコホリズムのリハビリテーションにおける最も効果的な治療法は、その人個人とその家族に親和性のある人生哲学、自分自身を理解することを学んだ後にのみ得られる夢中になれる自分の中の信仰、そして同じような経験を持つ他者との密接な交わりであろうと思われます。医師がアルコホーリクス・アノニマスと協力することは、患者にこれらのものを提供する手段となります」
マービン・A・ブロック、医学博士、アメリカ医師会アルコホリズム薬物依存委員会メンバー7)

アルコホーリクス・アノニマスの共同体


  1. AA, Three Talks to Medical Societies by Bill W., Co-Founder of Alcoholics Anonymous, AAWS []
  2. 現在は The New York Society of Addiction Medicine. []
  3. Medical Society of the State of New York. []
  4. AAパンフレット『保健医療関係者の皆様へ―社会資源としてのAA―』も参照 []
  5. Ruth Fox(-1989)、精神科医、1954年にAmerican Medical Society on Alcoholism and Other Drug Dependenciesを設立。 []
  6. Karl Menninger(1893-1990)、精神科医。 []
  7. Marvin A. Block (-1989)、ニューヨーク大学バッファロー校元教授。 []

2021-07-22

Posted by ragi