アルコホーリクス・アノニマスの基本コンセプト

ビル・W — 1944年5月、ニューヨーク州医師会の神経・精神部会の年次総会での講演から1)

アルコホーリクス・アノニマスは、かつてはアルコホーリクだった約12,000人の男女のインフォーマルな共同体であり、メンバーが集まって作ったグループはアメリカ・カナダの325の地域に存在しています。これらのグループの人数は半ダース[6人]から数百人まで様々です。最も古いメンバーは8年から10年近く酒をやめています。心から酒をやめたいと思った人たちの50%はすぐにやめられました。25%は何度か再飲酒した後にやめ、残りのほとんどにも改善が見られました。AAメンバーの半分は、酒飲みにならなかったならば、普通の生活をする正常な人たちであっただろうと思われます。残りの半分は、程度の差はあれ神経症になっていたであろうと思われます。2)

アルコホーリクス・アノニマス(一般にAAと呼ばれています)には、ただ一つの目的――ひとつの目的だけ――があります。それは「他のアルコホーリクもこの病気から回復するように手助けすること」です。

私たちに加わろうとするアルコホーリクに要求されるのは、良くなりたいという願望を持っていることだけです。申込書にサインする必要はなく、会費や入会金もなく、また医学的にも宗教的にも、特定の観点からの信念を要求されることもありません。グループとして私たちは論争の対象になる問題には一切関与しません。私たちは伝道者でもなければ、社会改革者でもありません。私たちは回復したアルコホーリクとして、良くなりたいと思っている人たちを手助けすることだけを目的としています。私たちは、他のアルコホーリクのために活動することが、私たち全員の断酒を維持するために非常に重要な役割を果たしていることを発見したからこそ、これを行っているのです。

「なぜAAは効果があるのか」とお尋ねになるでしょう。その質問に完全に答えることはできません。AAの技法の多くは、10年間の試行錯誤を経て採用されたもので、十分興味深い結果をもたらしてきました。ですが、私たちは素人(layman)として、それを説明する能力が自分たちにあるとは思っていません。私たちはただ自分たちが何をするのか、それがどのように見えるのか、そして私たちの視点から見て、自分たちに何が起きたのかを語ることができるだけです。

最初に明らかにしておかねばならないのは、AAは医学、精神医学、宗教の手法と、私たち自身の飲酒と回復の経験を元に、それらの概念を統合して作った、いわば「多機能家電」だということです。そこに未知の原理を見つけ出そうとしても無駄に終わるでしょう。私たちはただ単に、精神医学と宗教の古くから実績のある原理を、アルコホーリクが受け入れられる形に整え直しただけです。そして私たちは、この原理を自分自身や他の苦しむ人たちに適用することに熱中できる独特の団体を作ったのです。

さらには、私たちに与えられるべくして与えられた一つの強みを利用しようと懸命に努力してきました。その強みとは、もちろん回復した飲酒者としての個人的体験のことです。医師や聖職者たちが、骨が折れる治療や説得を行った後に、アルコホーリクが「あなたに私のことが分かるはずがない。ひどい酒飲みになったことがないあなたに、なにが分かるっていうんだ? それとも回復したアルコホーリクをここに連れてきて見せてくれ」となおも言い張って、もうお手上げだと諦めたことが、いったいどれだけあったでしょうか?

ところが、回復したアルコホーリクがまだ回復していないアルコホーリクに話すときには、そのような反論はめったに生じてきません。新しい人は、たった数分のうちに、自分が理解のある、気の合う相手と話していることを悟ります。回復したAAメンバーは、飲酒の駆け引きのあの手この手も、あらゆる正当化も知っているので、騙されることはありません。ですから、ありがちな防壁は音を立てて崩れ落ちます。どのようなセラピーにおいても必要不可欠な、昼の次に夜が来るのと同じぐらい確かな相互信頼が生まれるのです。そしてこの絶対的に必要とされるラポール がすぐに生じなかったとしても、その新しい人が他のAAメンバーたちと会うなかでそれが育っていくことはほぼ確実です。私たちの言葉で言うところの「意気投合」が起こるのです。

それが起きるとすぐに、あなたがた医師が長いこと伝えようとしてきた本質を、その候補生に納得させるチャンスが私たちに与えられ、するとその問題飲酒者は私たちの共同体を彼自身が仲間のアルコホーリクと一緒に問題に取り組むのに適した場所だと見なすようになります。彼は何年ぶりかで、自分が理解され、また人の役に立てると感じるようになります。彼が他の人の回復を促進する役割を果たすとき、まさに比類の無い役立ち方ができるのです。外の世界が彼をどう見なしていようとも、彼は自分が良くなれることを知ります。なぜなら彼は、自分よりひどかったのに目標に到達できた何十もの事例に取り囲まれるからです。また自分とそっくりのケースもあって、そうした人たちの証言からは圧倒されるほどの圧力を受けるでしょう。彼がすぐに死にさえしなければ、やがて間違いなくバーリコーン[蒸留酒]が彼の中に静かな熱い炎を育て、そのせいで彼がこのジレンマから脱出しようと目指した出口はすべて塞がれてしまいます。さきほどのスピーカーが、AAが始まってからの3年間で75人の失敗例があったことを指摘しました。その後の7年間で、そうした事例のうち62人が私たちのところに戻ってきて、そのほとんどが良くなりました。その人たちは、もし戻らなければ死ぬか気が狂ってしまうと悟って戻ってきたと語りました。彼らは知る限りあらゆる方法を試し、お気に入りの言い訳も使い果たし、そして戻ってきて自ら取り組んだのです。これこそが、アルコホーリクに対して福音を説く必要が無い理由です。十分にAAに触れることができれば、そしてまだ正気が残ってさえすれば、彼らは戻ってきます。

要約しますと、アルコホーリクス・アノニマスのプログラムは、精神医学と宗教の両者から大きな寄与を得ています。私たちには、これらが回復の連鎖の中で長い間失われていた輪であるように思えます

    1. かつての飲酒者として、新しい人の信頼を得る、つまり「その人に伝送回線をつなぐ」ことのできる能力。
    2. かつての飲酒者による理解ある共同体(society)を提供し、新しい人がそこで、医学と宗教にもとづいたこの原理を自分自身や他の人にうまく適用できること。

ですから、私たちAAメンバーは、こうした原理を毎日使っているということについて、意外なほど意見が一致しています。では、医学と宗教がアルコホーリクに一般的に何を伝えているか簡単に比較してみましょう:

    1. 医学は言います:アルコホーリクは人格(personality)を変えなければならない。
      宗教は言います:アルコホーリクは霊的な目覚めを経て、根本から変わらなければならない。
    2. 医学は言います:患者は分析され、完全で正直な精神的カタルシス[浄化]が行われる必要がある。
      宗教は言います:アルコホーリクは「善悪の観念(conscience)」の吟味と告白――つまり道徳的な棚卸しと率直な議論をしなければならない。
    3. 医学は言います:深刻な「性格上の欠点」は正確な自己認識と生活の現実的な再調整によって取り除かれなければならない。
      宗教は言います:性格上の欠点(罪)は、より多くの正直さ、謙虚さ、無私、忍耐、寛容、愛などを身に付けることで、取り除くことができる。
    4. 医学は言います:アルコホーリクは人生から逃避しているのであり、不安と自分の福利への異常な関心の見本であり、「群れ[社会]」から引きこもっているのだ。
      宗教は言います:アルコホーリクの基本的な問題は自己中心性である。恐れと身勝手さでいっぱいで、彼は「兄弟愛」を忘れているのだ。
    5. 医学は言います:アルコホーリクは「人生に新たな興味を持たねばならず」、「群れ[社会]に戻らなければならない」。興味を持てる仕事を見つける必要があり、クラブ、社会活動、政党、あるいはアルコールの代わりになる趣味を見つけるべきである。
      宗教は言います:アルコホーリクは、「新しい愛情の表出方法」を、人の役に立つことと神に仕えることの愛を学ばねばならない。「それを見つけるために自分を捨て」ねばならず、教会に加わり、そこで奉仕することで自分を惜しまない心を見つけねばならない。なぜなら「行いのない信仰は死んでいる」のだから。

このように、宗教と医学はまったく一致しているように見えます。しかし、ある一つの点でこの二つは異なっています。医師は、アルコホーリクに対し、内在する困難点を指摘した上で、それを再調整するプログラムを指示します。そして彼はこう言うでしょう。「さあ、回復するには何をしなければならないか理解しましたね。これからはもう私を頼らないで。自分を頼りにしていくしかありません。あなたが自分でやるんです」と。

明らかに、この医師の目標は、患者を自立させ、100パーセントではないにせよ、おおむね自分自身を頼りにするようにすることです。

だが、宗教はこうした試みはしません。自分を信じるだけでは十分でないと、ノン・アルコホーリクに対してさえ言います。聖職者は、私たちはハイヤー・パワー――神を見つけて、それを頼らなくてはならないと言います。祈るように助言し、私たちのすべてを司っている神に揺るぎない信頼を寄せるようにと率直に勧めます。それによってのみ、私たちは自分の力を越えた力を見いだすことができるのです。

ですから、主な違いはこう考えれば納得いくはずです。医師はこう言います。自分自身を知り、強くあれと。そうすれば人生に直面することができる。

宗教はこう言います。汝を知れ。神の力を求めよ。そうすれば真の自由が得られると。

アルコホーリクス・アノニマスに来た新しい人は、どちらの方法も選ぶことができます。その人が提案された12のステップから「霊的な観点」を取り除いたとしても、回復するためには、正直、寛容、さらに他の人と一緒に取り組むことを、全面的に信頼しなければなりません。ですが、実に興味深いことは、このシンプルなアプローチに開かれた心で取り組んだ人には常に信仰がもたらされるということです。そして、その間もその人は飲まずにいます。とはいうものの、もし12ステップの霊的な内容を積極的に否定してしまうと、そうした人たちが断酒を続ける事はほとんどできません。それが私たちAAのあらゆる場所での経験です。私たちが霊性を強調するのは、ともかく私たちはそれなしでは回復できないことを経験から知ったからなのです。

12のステップ
12のステップの引用

要約すると、これらのステップは、シンプルに次のことを意味します:

    1. アルコホリズムを認めること
    2. 性格の分析とカタルシス[浄化]
    3. 人間関係の調整
    4. 何らかのハイヤー・パワーへの依存
    5. 他のアルコホーリクへ働きかける

最も強く指摘したいのは、これらの原理を遵守することがAAのメンバーシップの条件ではないということです。[アルコール]問題を抱えていると認めるアルコホーリクは、どれほどこのプログラムに異議を唱えていようともAAメンバーです。私たちの経験によれば、このプログラムのすべては提案に過ぎません。アルコホーリクは、最初はスピリチュアルな要素に異議を唱えているでしょうが、開かれた心を持つことと、とりあえずはその人の属するAAグループをその人を越えた偉大な力としておくように、と勧められます。このニューカマー[新しい人]は、そうした条件の下で人格の変化を経験し始めますが、その速さと深さは、それが自己実現と自己規律によって起きたとするのでは十分に説明することができません。アルコールへの強迫観念が消えるだけでなく、その人は自分が恐れや、恨みや、劣等感から自由になっていることに気づきます。そうした変化はほぼ自動的に起きてくるようです。そこでその人は、これは自分より偉大な力の働きかけによるものに違いないと結論づけます。ここまでくれば、彼は自分の神の概念を形成し始めます。日常生活の中で新しい信仰が実際に機能し、本当に結果を出すということを通じて[神の]概念を発展させ、その概念への信頼を養っていきます。

これはほとんどのAAメンバーが霊的体験について語るときに言っていることです。彼らの信念によれば、ある種のパーソナリティの変化は、宇宙の創造的精神の助けとその存在なしには起こりえなかったというのです。

平均的なAAメンバーの場合には、霊的スピリチュアルな意味での信仰に気づくまで何ヶ月もかかるかもしれません。ですが、1年以上経過しても、自身の変化のすべてが自分自身の通常の力が起こした心理的現象であると考え続けるAAメンバーを、私はほとんど見たことがありません。私たちのメンバーのほとんどが、聖職者の言う神の概念には賛同できないかも知れませんが、自分が積極的に依存することができる――自分のためになってくれる――自分自身の神の概念を発展させたとあなたに言うでしょう。

私たちAAメンバーは、私たちのこの霊的体験を人びとがどう捉えるかについては、ほぼ関心がありません。私たちにとっては、それはほとんどのアルコホーリクが自分には決して起こりえないと断言していた回心(conversion)そのもののように思えます。実際、私はそれをそう呼ぶべきだと信じ始めています。なぜなら、私たちの良き友であるハリー・ティーボウ博士Harry Tiebout, 1896-1966)がこの部屋のそこに座っているのが分かっているからです。ご存じかも知れませんが、彼は最近、自分の専門学会であるアメリカ精神医学会で、私たちAAメンバーが得るものは回心であると、本当に発表した精神科医です。そして、もし偉大な心理学者であるウィリアム・ジェームズ の魂に相談することができたなら、彼は間違いなく有名な著書『宗教体験の諸相』を見ろと言うでしょうし、その本では「教育による霊的体験や回心」を通じた人格の変化について様々な探求がされています。この神秘的なプロセスが何であれ、それはうまく機能しているようです。そして、精神病院か葬儀屋に行き着く道を歩んでいる私たちにとって、何であれ機能するものは、すべてとても良いものに見えます。
 * ティーボウ博士は1966年に亡くなった。

皆さんの職業の高名な方々が、私たちの12ステップが良い治療だと公式に発言してくださり、私はとても幸せです。どの宗派の聖職者も、自分たちはよい宗教だとおっしゃりますが、もちろん私たちAAも実際に機能しているという点では彼らと同じであります。今日ここにいらっしゃるすべての医師が、この幸せな合意を共有できることを願っています。AAの初期の頃、私たちアルコホーリクは科学と宗教を分断している「無人の地」のようなものに迷い込んだように思えました。しかし、すべては変わりました。AAは現在、両方の概念が共通して集まれる場になっています。

そうです、アルコホーリクス・アノニマスは協働事業なのです。すべてのケースは医師である皆さんによる身体的治療を必要とします。私たちは精神科医とひんぱんに協力していますから、精神科医が患者に、私たちができないことを行い、私たちが言えないことを言う場面にしばしば遭遇します。また逆に、彼らは、彼らが恐れて踏み入ることができない領域に、時には私たち元アルコホーリクが踏み込んでいけるという事実を利用できます。私たちは公立・私立を問わず全国の病院や療養所と接触しています。これもひとえに、皆さんの多くの著名な機関からのご支援の賜物であり、そのことに深く感謝しています。アルコホーリクに働きかける機会はすべてを意味します。特に私たちにとってそれは人生そのものです。他の人を助けることによって自分自身の悩みを忘れる機会がなければ、私たちはきっと滅びるでしょう。そのことこそまさにAAの中核であり、私たちの生命線なのです。

また私たちは医学書から別のページを抜き出して、それを実用に使っています。私たちは、アルコホリズムは複雑な病気であること、そして異常な飲酒は人生に対する個人的な不適合の症状であることを、皆さんから学びました。アルコホーリクは全般的に傷つきやすく、感情的に未熟で、他者にも自分にも誇大な要求をする傾向があること、たいていの私たちは完璧さという夢の理想が「破れ果てて」いること、その夢の実現に失敗した傷つきやすい私たちは、酒を飲むことで冷たい現実から逃避し、その逃避の習慣がやがて強迫観念に変わってしまったこと。そして皆さんがおっしゃっているとおり、飲酒への強迫的欲求[強迫観念]は巧妙に強力なので、それによってどのような大きな厄災がもたらされるにしても、死にかけたり、狂気に至る可能性があっても、ほとんどの場合に、それを押しとどめることはできないこと、私たちは古くから存在してきたアルコホリズムのジレンマの犠牲者であること、私たちの強迫観念は私たちに飲み続けることを強い、私たちの増大しつつある身体的過敏性は私たちを狂気や死に追いやることを、私たちは学びました。

科学の徒である皆さんの口から発せられたこれらの事実が、AAメンバーによってもう一人のアルコホーリクに注がれると、彼らは深く打ちのめされます。まさに打ち砕く効果があるのです。神経過敏なその人は、膨らませたエゴと入り組んだ自己正当化によって、劣等感という基礎の上に自給自足の生き方を確立しようとしてきましたが、それが外に流れ出し始めます。時にそうした収縮は、熱い火かき棒を近づけたおもちゃの風船の崩壊のように起きることもあります。ですが、この収縮こそ、私たちAAメンバーが求めているものです。収縮が始まらなければ、それによって[正しい]自己認識ができなければ、私たちはどこにも行き着けない、というのが私たちの普遍的な経験です。アルコホーリクがアルコホリズムを「自分の力で」乗り越えることができるという妄想や、いつかは紳士のように飲めるようになるという妄想を、打ち砕けば砕くほど、私たちはより成功できるのです。

実際のところ、私たちはAAメンバーが言うところの「底つき」を引き起こすために、「危機」を作り出すことを狙っています。もちろん、皆さんにとってこれはとても回りくどいやり方であることは承知しています。私たちは刑を宣告したり、こうしなければならないとアルコホーリクに言ったりは決してしません。私たちはその人がアルコホーリクだとも言いません。私たち自身のケースの深刻さと関連付けて、自分で結論を出すように任せるのです。しかし、その人が自分はアルコホーリクだという事実と、そしてさらに自分が無力で、助けなしには回復できないという事実を受け入れたなら、この戦いは半分勝ったようなものです。AAメンバーが言うように、その人は「針にかかった」のです。彼は心理的な万力に捕まってしまったのです。その万力のあごが最初にその人をしっかり捕らえていなかった場合には、ほぼ必ずさらなる飲酒が、その人が「もうたくさんだ」と叫ぶところまでネジを巻き上げていきます。そして私たちが言うように、その人は「態度を軟化させます[聞き分けが良くなります]」 これによって、その人は、飲酒を止めることができる何かあるいは誰かに完全に依存する状態にまで小さくなります。その人はガン患者とまったく同じ精神状態にあります。ガン患者は、あなたたち科学の人たちがガンに対して行うことに絶望的に依存しているのです。さらに良いことに、その人は「優しく合理的」になり、死に臨んだ人にしかできないほどに心が開きます。

このような条件の下でなら、AAプログラムが提示するスピリチュアルな意味合いを受け入れることは、理屈っぽい人たちにとっても決して難しくはありません。AAメンバーのおよそ半数は、かつては不可知論者あるいは無神論者でした。このことは、私たちは宗教的な影響を受けやすい人にだけ効果があるという考えを払拭してくれます。「狐の穴には無神論者はいない」という有名な言葉をご存じでしょう。ほとんどのアルコホーリクもそうです。彼らがAAにやって来ると、すぐに「大型爆弾」の直撃をくらって、物の見方も、態度も、性格も根本的な変化を始めるのです。

これらは、これまで私たちが得てきた成功を、部分的に説明してくれる基本的な要因のいくつかです。私は時間の許す限り、私たちが一緒に過ごす人生の、私たちのミーティングの、私たちの社会的側面の、かつての私たちは誰も知らなかったこの変わらぬ友情の親密さを少しでも皆さんに垣間見せることができたらと願っています。何万人もが戦争に加わり軍務に就いたなかで、多くのAAメンバーが――もはやAAグループにさえ依存することなく――現実と向き合えている自分を発見しました。私たちはアラスカでもインドでも神を頼りにすることができ、弱さから強さが生まれることを発見しました。ハイヤー・パワーへの依存の果実を味わった者だけが、個人の自由、人間のスピリットの自由の真の意味を完全に理解できるのではないでしょうか。

そうです、今朝ここにいる皆さんは、私たちAAが皆さんにどれだけ恩義を感じているか、どれだけ皆さんに借りがあるのか、どれだけ未だに皆さんを頼っているのか、理解していただかなければなりません。私たちは、皆さんが提供して下さった弾薬を、皆さんの素人助手として、皆さんの砲兵隊としてそれを使っているのです。ここで私は皆さんに見ていただくために、パーソナリティの変化をもたらす要因についての私たちの見解を、そして私たちの分析・カタルシス・再調整の方法を公開しました。私たちの人生に対する新しい切実な関心について、少しでもご覧に入れようとしてきました。この共同体においては、男と女がお互いを理解し、私たちの偉大な目的の前に自己の不満の声は消え、このなかで私たちは忍耐、寛容、正直、謙虚と奉仕を十分に学び、それによってかつての私たちの支配者――狂気、恨み、満たされることのない力への夢を、制圧することができるのです。

しかしながら、私たちのパートナーである宗教に敬意を払わずして、この話を終えるわけにはいきません。医学と同様に、宗教も不可欠なものです。この医学の聖堂において、私が最後の言葉に宗教をあてたとしてもそれを間違って解釈されないと願っております。

「神さま、私にお与え下さい。自分に変えられないものを受け入れる落ち着きを。変えられるものは変えていく勇気を。そして二つのものを見分ける賢さを」

お問い合わせおよびAA書籍のご注文は、ニューヨーク州ニューヨーク市グランドセントラル・アネックス私書箱459号 アルコホーリク財団までお寄せ下さい。

討議

カービー・コリアー博士

ロチェスター(故人)(Dr. G. Kirby Collier, 1879-1954)

私がアルコホーリクス・アノニマスを調査した理由は、通常広く認められた精神医学的手法による私たちの努力が、慢性アルコホーリクの治療においてどれほど効果が無かったかを実感したからです。私は一人のAAメンバーの同伴を得て、ニューヨークのミーティングに参加する特権を与えられ、またAAの哲学についてウィルソン氏と議論する機会を得ました。私が感銘を受けたのは、第一に出会ったメンバーたちの正直さと誠実さでした。第二に、幅広い社会宗教的背景と、その持つ意味でした――それは主に自己について、自分の能力とその非効率性について、そしてその人か受け入れているかどうかに関わらずすべての人類が認める不可解な力についての認識です。地元に戻った私は、全員が20年から25年間慢性アルコホーリクである3人に、私が理解していた限りにおいて事態を伝えた上で、グループを組織するように頼みました。この3人は他の人たちに連絡を取り、その中の一人の小さなアパートで最初のミーティングを開きました。人数が増え、彼らは私にミーティング会場についての相談をもちかけました。明らかな理由から、YMCA、公共の図書館、教会のホール、教区の家は除外して、町の中心部にある大きなホテルの一室を勧めました。これがうまくいきまして、毎週日曜日の午後と水曜日の夜にミーティングが開かれています。最初の3人のグループは500人以上と接触し、そのうち60パーセントが活動的なメンバーになって、酒への耽溺から自由になって1年から2年経っています。

私たちの市では、3年ほど前からアルコールに関する協議会が開かれています。この集まりは、精神科医やソーシャルワーカーなどで構成され、毎月集まって話し合いをしています。この会合でAAメンバーが2回話をしまして、結果として、2人のAAメンバーはこの評議会のメンバーになりました。AAメンバーたちは様々な集まりで話をするように頻繁に頼まれますが、これまでどんな集まりでも自ら立ち上がって話したことがない、公の場で話したことがない人の話を聞くのは実に興味深いことです。ロチェスターでは、若い人たちによるミーティングに特に関心が集まっています。私が感じたのは、AAグループはAAの人たちのためのグループであるからこそ、彼らの哲学に基づき、彼ら自身の指揮によってこそ最高の結果が得られるということです。どんな治療法であれ、哲学的手続きであれ、それが50から60パーセントの回復率を証明できるものなら、私たちの検討に値するはずです。1943年5月にミシガン州デトロイトで開かれたアメリカ精神医学会において読まれた論文でティーボウがこう述べています。「おそらくオープンマインドな科学者として、自分たちの仕事の分野における他の人びとの努力を賢明かつ仔細に見ることは、必要不可欠です。私たちは、自分が思っているより大きな目隠しを着けているかもしれないのです」

フォスター・ケネディ医学博士

神経学者、ニューヨーク市(故人)Robert Foster Kennedy, 1884-1952)

本当に感動的で雄弁な講演を聴きました。その行動にも事実にも感動しました

アルコールへの熱望を治したことのある人のほうが、同じ呪いに苦しんだ経験のない医師よりも、アルコホリズムを治す力がずっと強いことは疑いありません。

医師がいかに同情的かつ忍耐強く患者に接しても、その患者は自分が見下されていると感じるか、あるいはそう思い込み、あるいは十二人の小予言者[旧約聖書の預言者]のひとりに怒鳴られているかのように感じるのです。

このアルコホーリクス・アノニマスという組織は、人類の知る二つの偉大な源に力を求めています。それは宗教と、トロッター3)が「群居本能」と呼んだ仲間と関係を作るための本能です。

マシュー・アーノルド4)は、宗教的信仰を、自分を越えた偉大な力が義をもたらすという信念であり、また様々な宗教的経験とも呼ばれるある種の霊的な転換を通じて得られる有用性の感覚だと説明しました。

病人が、今もなお病んでいる人、かつて病んでいた人、よくなりつつある人と交流することで、治癒へと向かう治療的暗示を得て、社会の中でけ者にされているという感覚を取り除き、自らの深い内側にある力を利用できることが、この堅牢で有益な運動体の成長によって示されました。この運動は、それだけでなく、すべての治癒した飲んだくれを、病人への伝道者にするという、高い情緒的な原動力を備えています。

私が思うに、私たち医師は、アルコールが抜けた後に、アルコールが残した精神的結果を置き換えるのにふさわしい情緒的な駆動力を持った活動を、回復中の患者のために見つけることがなかなかできずにいました。

この人たちは、聖なる熱情に満たされて成長し、そして彼らのまさにこの熱意が、次の人が治るまでの間、この宣教者たちを安定させるのです。

私たちの医師は、この偉大な治療的武器の真価を認識しなければなりません。そうしなければ、私たちは感情的貧困を問われ、山をも動かす信仰を葬ったことで責めを受けることになるでしょう。それなしでは、医学はほとんど何もなしえないのですから。

ハリー・ティーボウ博士

コネチカット州グリーンウィッチ(故人)Harry Tiebout, 1896-1966)

私の最初のAAとの接触は5年前、私が1年以上治療していたある患者が、AAの影響を受けて比較的短時間に酒をやめたときで、その後少なくとも4年間は完全な断酒が続いています。その時は、自分の精一杯の努力が失敗したのに、AAはうまくいったことに戸惑い、少し憤りを感じていました。その後も患者を送り続け、いまでは状況は逆転しています。AAが効果を示さないときに、私は戸惑い、少し憤りを感じるのです。

私は精神科医として、私の専門分野とAAとの関係をじっくり考えてみて、ひとつの結論に達しました。すなわち、しばしば医師の大切な仕事は、患者が何らかの治療ないし外部の助けを受け入れるように、その準備をすることにあるということです。私はいま、精神科医の仕事は、AAのプログラムの働きと同じように、患者の内面にある抵抗を打ち砕き、さらにその奧にあるものが開花するようにすることだと考えています。

この点について、私はアルコホーリクではない患者にも同じ開花が起こりうることを指摘したいと思います。そして現時点で私がウィルソン氏とAAに感じている恩義を記録しておきたいと思います。私の姿勢について言うならば、私自身の治療の実践をより知的で意味のあるものにする理解を与えてくれたのですから。いまの私は、患者自身の内的資源をより信頼するようになっています。


  1. William G. Wilson, Basic concepts of Alcoholics Anonymous – N.Y. State journal of medicine, Vol. 44, Aug. 1944[]
  2. 灰色のバッグラウンドは、AAパンフレットに収録される際に割愛・改変された箇所を示す。[]
  3. Wilfred Trotter, 1872-1939, イギリスの外科医・神経外科医。社会心理学の研究者として知られ、1916年の Instincts of the Herd in Peace and War(平和と戦争における群衆の諸本能)が群集心理の古典的テキストとして知られている。[]
  4. Matthew Arnold, 1822-1888, イギリスの詩人・批評家。[]

2021-08-07

Posted by ragi