12ステップのスタディ (20) ACと共依存についてのQ&A
今回はアダルトチルドレン(AC)と共依存に関するQ&Aです。
Q) アダルトチルドレン(AC)とはどんな概念なのでしょうか?
A) ACは二つの概念の組み合わせです。
一つは、アルコホーリクその他の機能不全の家庭環境で育ったことで感情的な傷を負っていることです。ACは過酷な家庭環境で経験することになった激しい感情を誰にもケアしてもらえず、かといって自分でもケアできず、それを奧へと押し込める(stuffing)ことで心の平静を保ってきました(ランドリーリストの10)。トニー・Aはこれを凍り付いた感情(frozen feeling)とも表現しています。ACは過去の感情だけでなく、現在の自分の感情も回避する名人になっており、その結果自分自身に対する認識が不正確なものになっています。この感情の抑圧が、ACの12ステップグループにおいてトラウマやPTSDと呼ばれるものの中核です。これについてはACは純然たる被害者だと言えます。ACのミーティングでは過去の苛烈な感情を分かち合い、再体験することで、そのトラウマが癒されていくという手法を採用しています(第17回・第18回)。この感情の再体験はACの回復プログラムを特徴づけるものだと言えます。
もう一つは、ランドリーリストによって描写される性格特性です。これは元々はアルコホーリクである親と、パラ・アルコホーリックであるもう一方の親が持っていた特徴を、養育過程を通じて受け継いだものです。これを「私たちは親たちと同じになった」とか「親を内面化・内在化させた」と表現します。そして、アルコホーリクがAAで、その配偶者がアラノンで12ステップに取り組むように、ACも同じ12ステップに取り組むことで回復できるとされています。ただし、12ステップはそれに取り組む人が純然たる被害者でいることを許してくれません。それはAAやアラノンのステップだけでなく、ACのステップについても言えることです。(第17回)
この感情の再体験も、自らの加害者性に向き合うことも、ACにとっては容易なことではなく、回復には長い期間にわたる取り組みが必要になります。
Q: 共依存とはどんな概念なのでしょうか?
A: CoDAでは、共依存を、他者をコントロールしたり操作しようとする試みであり、それがうまくいかないときには人や状況を避けようとする試みだと定義しています。1) また、それは通常幼少期の経験と訓練によって身に付けたものだとしています。2)
Q: ACは共依存者なのですか?
A: 答えはイエスです。ACAのビッグレッドブックは、ACという概念と共依存という概念にはある程度共通性があると述べています。ACムーブメントを始めた人たち(トニー・Aら)が使っていたパラ・アルコホーリックという言葉が、1980年以降は共依存者という言葉に変わりました。つまり、ACは共依存者でもあるのです。
ランドリーリストの14の特徴が示しているのは、本当の意味では人を愛することができない人格です。それは人や状況を自分の望み通りにコントロールし操作しようとする人の特徴でもあります。アダルトチャイルドが愛とか親密さだと思っているものは、実際には共依存的なコントロールなのです。3)
Q: ACのグループはトラウマやPTSDを扱うところだと聞いたことがありますが?
A) 上述のように、彼らは抑圧された感情や、サバイバルの中で身に付けてしまった感情を抑圧する無意識的な癖をトラウマやPTSDと呼んでいます。それは医学的なPTSDの概念と(重なるところはありますが)同じではありません。ACA共同体も、その他の団体も、自分たちが医学的な基準でのPTSDを「治せる」とは主張していません。そのことを理解する必要があります。ACの分野に限らずどの12ステップ共同体も必要であればプロフェッショナルの支援を受けることをメンバーに推奨しており、ACの共同体も例外ではありません(つまり自分たちには手に負えないものがあると認めているのです)。
日本ではPTSDの治療資源が不足していますが、ACのグループはその不足を補うためのものではありません(医学の補完や代替ではない)。
ACの抱えるトラウマが医学的なPTSDの要件を満たさないものだったとしても、そこに悩みや苦しみが存在しているのは事実です。むしろ医学がそれを治療の対象にしてこなかったからこそ、ACのグループが成立したと言えるでしょう。
Q: 日本のACODAやACAはトラウマやPTSDに関心が無く、ACA(日本ではACoA)はトラウマやPTDに焦点を当てているという違いがあるのでは?
A) それは完全な誤解です。上述のようにACのグループではトラウマやPTSDという用語を感情の抑圧を指して使っています。そして、日本で成立したACグループが使っている『ACのための12のステップ』でも、感情の抑圧については十分に取り上げられており、トラウマという言葉も使われています。その点では日本のACODAやACAと、ACoAに違いはありません。
むしろ、感情の再体験という手法を用いたミーティングが行われているかどうかは、共同体の違いではなく、個々のグループの事情に大きく左右されるようです。
トニー・Aは、効果の高いACミーティングを行うためには参加人数のコントロールが必要だと述べています。参加人数が多すぎると、感情を分かち合うことが難しくなりミーティングの効果が薄れます。そこで彼は、人数が多い場合は、数人ずつのサブグループに分割して分かち合いを行うことを提案しています。4)
僕はAAでも、地方の、人数が少なく、参加者が固定されていて、ある程度の信頼関係が成立しているミーティングでは感情の再体験による癒しが起きるのを目にしてきました(ただし15年以上前のことですが)。もちろんそれは、話す方にとっても聞く方にとっても楽な体験ではありませんでしたが。それに対して、都市部のミーティングやオンラインのミーティングでは、人数が多かったり参加者の入れ替わりが多いために、そのような効果は期待できません。
ただ、ミーティングの状況よりも、ミーティングで過去の激しい感情が分かち合われることで、参加者の心か軽くなるのではなく、むしろ不安定で辛い気持ちになるが、そこに癒しが起こるという共通の理解がなされていることや、参加者が苛烈な感情を分かち合う意欲を持っていることが重要に思います。あるとき、都内のAAミーティングにACの人が招かれてスピーカーをしていましたが、聞いているAAメンバーの顔は不機嫌で、終わった後も無理解が原因の不満が表明されていました。せっかく話していただいたのに効果がなく、やはりミーティングの手法に対する理解が最も重要だと思いました。
このように条件さえ整えばAAやNAなどでもACの問題の解決が実現されていますし、逆にACのグループだからと言って必ず条件が整っているとも言えないのが現実です。
Q: ACoAの文化とACoDの文化はどう違うのでしょうか?
A) ACoDの文化でも感情の抑圧は取り上げられていますし、ランドリーリストとほぼ同じ特徴のリスト(ロン・Hたちの本では「ACに共通する感情と行動」)が使われています。したがって、大きな差は無いと言えるでしょう。
ただし、ACがランドリーリストの特徴を手放せずにいるのは、ACoAの文化では自らがパラ・アルコホーリック(親と同じ)になったからだと説明されるのに対し、ACoDの文化では共依存は人間関係の嗜癖である(ACは人間関係のなんらかの行動に嗜癖している)と捉える点が異なっています。これは1980年代にプロフェッショナルたちの間で共依存を人間関係の嗜癖と捉える考えが広まった影響を受けたものです。
自らが親と同じになったと認めるにせよ、共依存という人間関係の嗜癖者になったと認めるにせよ、ステップ1はACにとって易しい課題ではなく、そのハードルを乗り越えるのに苦労する人は少なくないようです。
Q: 第17回の疑問にはどういう答えが出たのでしょうか?
A) 順番に、
- ACA共同体は、ACの12ステップ共同体としては最初に成立したものである
最初に成立したのはアラノンACで、ACoAムーブメント(およびACA共同体)はアラノンACから分流してできあがりました。
- ACoAムーブメントとACA共同体は同一のものである
1984年にカリフォルニアで成立したACA共同体はACoAムーブメントの一部を占めていたに過ぎず、他にもACの共同体やグループは存在していました。
- アラノンACが存在するのは、ACA共同体がアラノンに影響を及ぼしたから
これは逆で、アラノンACがあったからこそ、ACA/ACoAが誕生したと言えます。
- ACA共同体の創始者はトニー・Aという人物である
トニーはACoAムーブメント全体のオリジネーターではあるものの、ACA共同体の創始者ではありません。彼はACAには参加していませんでした。
- 現在のACA共同体の使っている「問題」や「解決」はトニー・Aが書いたものであり、ACA共同体は創始者の考えを忠実に受け継いでいる。
12ステップ共同体において、創始者が特別な存在と見なされるのは良くあることです。特別な存在が書いた文書だから特別な価値があると見なされることも少なくありません。そういう意味では、ACA共同体はトニーを特別視し、彼の書いたものに特別な価値を与えています。ただしACAは長い歴史の中でプログラムに様々なものを付け加えており、すべてがトニー由来というわけではありません。ランドリーリストはトニーが書いたものですが、「問題」はカリフォルニアのジャック・Eがランドリーリストを元に書いたもので、「解決」もおそらくトニー・Aが書いたものとは別のものになっていると思われます。
Q: なぜACA共同体は歴史を修正したのでしょうか?
A) 1990年代の再建時に、他の共同体やグループと合同し、それらを包摂することがが必要になったためだと考えられます。カリフォルニアでの共同体創設の歴史を封印し、トニー・Aを創始者として歴史を書き直すことがこの合同と包摂に役に立ったのでしょう。何かを隠蔽することによって期待通りの結果を得ようとするのは、ACのお家芸(つまり親から受け継いだ手法)です。
ただし、アラノンACの分派であることを伏せたのは別の理由があると思います。それは分派というものが背負う負の歴史だと言えます。AAもオックスフォード・グループからの分派でしたが、そのことを基本テキストであるビッグブックに掲載したのは1955年の第二版で、それは分離が生じてから16~18年後でした。SCAはSAの分派ですが、そのことが明確になる創始者ビル・Lのストーリーを基本テキストに掲載したのは2002年で、これは分離の20年後でした(第13回)。
これは、分派が自らが分派であることを公に認められるようになるには、ある程度の時間と成熟が必要だということを示しているように思われます。将来ACA共同体が十分に成熟したときには、ビッグレッドブックの歴史の記述が史実に従って修正され、1990年代の再建の苦労も描かれるのかもしれません。ぜひそれを読んでみたいものです。だた、そうなるまでにはまだしばらく時間がかかりそうです。
Q: アディクションとACの両方の問題を持っている人は、どちらを先に解決すべきでしょうか?
A) ビッグレッドブックはその巻頭に「医師の意見」を掲載しており、そこでアディクションを持ったACの回復の基本方針が説明されています。それによると、アディクションを持ったACの場合には、まずその嗜癖をある程度の時間をかけて安定化させる必要があり、それを第一段階と呼んでいます。そうしないと、嗜癖の問題がACの問題に焦点をあてたり、次の段階のワークをする邪魔となってしまうからです。このプロセスには数ヶ月から数年かかるとしています。嗜癖の問題を持たない人は、いきなり第二段階・第三段階へ、すなわちACの課題に取り組むことが可能になります。5)
トニー・Aも、感情に焦点を当てたミーティングによってトラウマに癒しをもたらしたり、12ステップによって変化を得るには、依存性のある物質(アルコールなど)の利用や、強迫性のある行動(ギャンブルなど)が邪魔になり、嗜癖を続けながらACのプログラムから恩恵を受けることはできないと断言しています。というのも、嗜癖はACが感情を回避するために使う最も手っ取り早い手段だからです。彼は、大麻を吸ってからACのミーティングに来る人たちに対して、辛い感情を経験するのが嫌なら、そもそもACのミーティングに来なければよい、と警告しています。6)
というわけで、まずアディクションのケアを行い、ソーバーやクリーンが十分安定してからACの問題に取り組む、というのがACA共同体の基本的方針となっていると言えるでしょう。ですから、アディクションとACの両方の問題を持っている人は、まずAAやNAなどで2~3年程度のソブラエティやクリーンを得てから、ACの共同体に参加するというのが最善のルートとなります。
現実にACのグループから、酒や薬物の問題があるのにACのグループに来てしまった人たちが、当然ACのプログラムから効果は得られず、かといって本人はアディクションを認めないのでAAやNAなどには行こうともせず、にっちもさっちも行かない手詰まり状態になっている、という話が聞かれるのは定番になっています。
Q: ACのためにはAAとは違った12ステップが必要なのでしょうか?
A) この連載のためにACの12ステップの文献を丹念に読みましたが、ACは「AAと同じタイプの12ステップを行う必要は無い」という主張はどこにも見当たりませんでした。むしろ、その必要を前提とした上で、「それだけでは足りない」という主張が行われています。
トニーが The Laundry List で提案したACoAの新しい12ステップは、その全体がステップ1に相当するものです。トニーは自分の提案したステップに取り組んだ後で、標準的な12ステップに取り組むことを否定していません(従って実質的に24ステップへと倍増している)。ビッグレッドブックも、12ステップと並ぶ回復の手段としてインナーチャイルドワークを提示しています。
このように、AAと同じタイプの12ステップを行うことを前提として、しかしそれだけでは足りないという主張が行われるのは、ACの回復がそれだけ大変であり、そこを少しでも容易にするために何かを加えようと考えた結果なのでしょう。一方で、アラノンACは、AAと同じ12ステップを使い、それで十分という立場を堅持しています。性の問題の共同体がいくつか存在してそれぞれに考え方が違ったように、ACの分野でも共同体ごとに考え方の違いが見られる、というわけです。
一部のACの人たちが「AAと同じタイプの12ステップを行う必要は無い」と主張しているのは、自分が棚卸しや埋め合わせに取り組みたくない、取り組んでいないことを正当化するための言い訳を述べているだけですから、それに惑わされないように気をつけてください。そう主張している人たちも何年後か、十何年後にはステップに取り組んでいるかもしれません。回復に時間がかかる人たちもいるのです。
ACのグループと他の12ステップグループとの違いは12ステップにあるのではなく、感情を再体験するというミーティングの手法にあります(第17回・第18回)。現在でもAAで嗜癖の問題がある程度安定した人たちがACの問題に取り組むためにACグループに参加する動きは続いていますが、AAでの分かち合いの手法をそのままACのグループに持ち込んではいけないのでしょう。
Q: ACの回復に何が必要だと思いますか?
A) 自分が父親と母親(あるいはそれに代わる養親)の持っている多くの特徴を受け継いでいると認めることが回復の始まりでしょう。そのために、トニー・Aの書いたランドリーリスト(ロン・Hたちの本では「ACに共通する感情と行動」)は大変有用だと思います。あなたがアダルトチルドレンであれば14の項目の半分以上は当てはまるでしょうし、それらは両親が持っていた特徴でもあることが分るでしょう。トニー・Aらはそれを自分たちがパラ・アルコホーリック(疑似アル中)になったと表現しました。あなたにとっては不本意なことかもしれませんが、あなたは親そっくりの人格をもった親のコピーなのです。その現実を認められた人(ステップ1ができた人)は回復の順調なスタートを切れますし、自分は疑似アル中ではないとか、親と同じにはなっていないという否認の態度でいる人は、12ステップに取り組んだとしても続かないものです。ステップ1の「~の影響に対して無力だ」というのは、親と同じ人格にはなりたくなかった(そのために努力もしたが)が、結局親と同じになってしまったという意味なのです。
次回からステップ1の解説を始めます。
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