人生が手に負えなくなっていた

人生が手に負えなくなっていた — our lives had become unmanageable

生活(あるいは人生)アルコホリズムの悪影響が及んでいること。

日本のAAでは原文の our lives had become unmanageable を以下のように訳してきた:

ビッグブック訳文
1979日本語初版生きていくことがどうにもならなくなった
2000日本語第二版思い通りに生きていけなくなっていた
2024日本語第四版人生が手に負えなくなっていた

このように訳文が変わっても、その意味は変わっていない。

ビッグブックの第一章「ビルの物語」の前半部(pp.1-12)には、ビル・Wがアルコホリズムによって飲酒のコントロールを失ったことで、彼の生活や人生の様々な領域に飲酒の悪影響が及んだ――すなわち「life が unmanageable になった」――様子が述べられている。

その領域とは、彼の家族関係(夫婦関係)、仕事あるいは収入、財産、社会的な信用、友人関係、心身の健康、趣味、将来の計画などであり、彼はそれらを守ろうとしながら、それらを傷つけ、失い、失ったものを再獲得しても、また失っている。

精神疾患の診断基準精神障害の診断と統計マニュアル には、疾患によって「社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の重大な障害」が生じているという表記がしばしば登場するが、「思い通りに生きていけない」もこれと同様の機能の障害とみなすことができる。

AAのアルコホリズムの疾病概念では、この病気は進行性で予測可能な自然経過を取るとされているため、この病気の初期には悪影響(機能の障害)が限定的で軽微なものであったとしても、その進行とともに、影響を受ける領域は拡大し、深刻化していくことが予測される。

ステップ1は「私たちはアルコールに対し無力であり、思い通りに生きていけなくなっていた(we were powerless over alcohol – that our lives had become unmanageable)」としており、アルコールに対して無力であることが、人生が手に負えなくなったこと(人生の各領域への悪影響や機能障害)の原因であることが明示されており、逆ではない(思い通りに生きていけないためにアルコホーリクになったのではない)。

ビッグブックの87ページでは、ほぼ同じ表現(we were alcoholic and could not manage our own lives)を「私たちはアルコホーリクであり、自分の人生が手に負えなくなった」と訳している。

なお、AA以外の12ステップ共同体では、AAのかつての訳文である「生きていくことがどうにもならなくなった」や「思い通りに生きていけなくなっていた」を採用しているところもある。

参照:
ビッグブックのスタディ (34) ビルの物語 5
ビッグブックのスタディ (35) ビルの物語 6

同義語:
思い通りに生きていけなくなっていた, 思い通りに生きていけない, 生きていくことがどうにもならなくなった, 生きていくことがどうにもならない
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2025-03-06

Posted by ragi