ビッグブックのスタディ (56) 解決はある 9

さて、p.37の最後の行から、解決(ステップ2)の概論が始まります。

レビュー(おさらい)

その前に、解決についてこれまでにどんな情報が得られたのか、おさらいをしておきましょう。

シルクワース医師は「医師の意見」で、アルコホーリク霊的な変化(psychic change)が起これば回復できると述べています(p.xxxvi (36))。さらに、この霊的変化を起こすには、人間の力を超えた何かが必要であるようだと言っています。彼は医者なので、霊的(spiritual)や神(God)という言葉は使っていませんが、人間を超えた偉大な力の必要性については繰り返し述べています。

さらに第一章「ビルの物語」では、先に回復したエビー・Tが、ビル・Wに「自分にできなかったことを、神が彼のためにしてくれた」と単純明快に伝えました(p.17)。そしてビル自身も霊的な体験をし(p.20)、その後は生涯酒を飲むことはありませんでした。

それらの情報をまとめると、

    • アルコホーリクに霊的な変化が起これば回復できる。
    • その霊的変化は、自分で起こすことができず、ハイヤー・パワー(神)に起こしてもらわなければならない。

といった情報を、すでに私たちは得ているわけです。

解決とは何か

では、p.37の最終行からです。

 解決はある。1)


There is a solution.2)

「解決はある」という言葉の原文は「ここに一つの解決がある」という意味です。

AAはたくさんの解決手段を提供してくれるわけではありません。ビュッフェ スモーガスボード (バイキング形式)のように、様々な料理の中から、自分の食べたいものを選ぶ仕組みではありません。たった一種類の料理を提供する専門店のように、たった一つの解決を提供してくれるところです。

では、その解決とは何でしょうか?

私たちは誰も、目標に到達するのに必要な過程の作業を、つまり、自分を点検してみること、思い上がりを抑えること、短所を告白することなどを実行するのを好まなかった。3)

「目標に到達するのに必要な過程の作業」とは12ステップのことです。その作業には「自分を点検する」「思い上がりを押える」「短所の告白」などが含まれていると言っています。ここで挙げているのはステップ4・5の棚卸しのことでありましょう。

最初から「棚卸しをやりたい」と言うアルコホーリクは滅多にいません。ようやく棚卸しに対して前向きになったとしても、ステップ8・9の埋め合わせとなると、なんだかんだ理由をつけてやりたがらないものです。ましてや、祈りと黙想や、自分がスポンサーになって他のアルコホーリクの手助けをするなんてことは、やらすに済まそうと考えているのが普通です。

しかしそれをやって本当に成功している人たちを見て、これまで自分たちが生きてきた人生の希望のなさと無意味さがわかるようになった。4)


But we saw that it really worked in others, and we had come to believe in the hopelessness and futility of life as we had been living it.5)

it really worked in others は「それをやって本当に成功している」と意訳されています。it works という表現はAAでよく使われる表現です。it は12ステップ・プログラムのことです。work は「働く」という意味の言葉ですが、ここでは「効果をもたらす」といった意味になります。6) 薬を飲めば、その薬の効果が私たちの病気を良くしてくれるように、私たちが12ステップ・プログラムに取り組めば、プログラムが私たちの病気を良くしてくれる、という意味です。

プログラムがその人たちの中で実際に効果を示しているのを見て、自分がこのプログラムに取り組まなければ、このまま希望のない(hopelessness=絶望)、無益な人生を過ごすことになることを理解したわけです。

だから、問題をうまく解決している人たちから声をかけられたとき、私たちは、足もとに並べられた簡単な霊的な道具一式を手に取るよりほかなかった。4)

簡単な霊的な道具一式(the simple kit of spiritual tools)とは12ステップのことです。12ステップは道具(すなわち手段)なのです。では、私たちはその手段を使って、どんな目標に到達するのでしょうか?

そして私たちは楽園を見いだし、夢にも見なかった四次元の世界へと打ち上げられたのである。4)

これは、12ステップに取り組んだ結果として、彼らは霊的な体験をしたという意味です。

 偉大な事実とはこれだけである。他にない。つまり私たちは一人一人が深い魂の奥底にひびく体験をした。 そのことで、人生、友人、そして神の宇宙への私たちの態度に画期的な変化がもたらされた。いま、私たちの人生の中心にあるのは、創造主である神が奇跡としか言いようのない方法で私たちの中に入ってきたという、確かな真実である。自分たちでは決してできなかったことを、私たちのために神がやってくれているという確かな真実である。4)

深い魂の奥底にひびく体験、と訳されていますが、原文の deep and effective spiritual experiences の意味は「深く効果的な霊的体験」です。これはシルクワース医師が全面的な霊的変化と呼んだものと同じものを指しています。

ビッグブックが書かれた頃にAAに加わったメンバーには、12ステップに取り組まないという選択肢はありませんでした。全員が12ステップに取り組み、結果として全員が霊的体験(霊的な変化)を得ました。それによって、彼らの人生や、周りの人たちや、社会全体に対する態度に変化がもたらされた、と言っています。

解決は霊的体験をすること

ステップ1も2も事実である

さて、この段落には、事実と真実という言葉が出てきます(原文はどちらもfactファクト。その事実とは何でしょうか? それは、

    • 彼らは12ステップに取り組んで霊的体験をした。
    • それにより様々なことへの彼らの態度に変化が起きた。
    • 創造主(神)が、彼ら一人ひとりの人生(あるいは生命)の中心に奇跡的な方法で入ってきた。
    • 彼ら自身ができなかったことを、神が彼らのためにやってくれた。

それらすべてが彼らにとっての事実(真実)である、と言っています。このような変化が起きることを、ビル・Wは「存在の第四次元へ発射される」と表現しています(pp. 12, 38)

「ステップ1は事実ファクトであり、ステップ2も事実ファクトである」という表現がよく使われます。

アルコールに対して無力であるというのは、アルコホーリクにとっては事実です。否認しても、無視しても、その事実は消えてなくなりません。ステップ1はその事実を認めることを要求していますが、認めようと、認めまいと、ステップ1は事実なのです。

そして、霊的体験によって助かった人たちがいるということも事実なのです。あなたが霊的体験の実在性を信じなくても、霊的体験によって助かった人たちの存在が消えてなくなることはありません。ステップ2は、霊的体験によって助かることを信じることを要求しますが、信じようと、信じまいと、霊的体験によって助かった人たちがいることは事実なのです。

解決とは、霊的体験のことです。ビッグブックを書いたAAの初期メンバーたちは、12ステップに取り組むことで霊的体験を得ました。それが彼らが we are recovering (私たちは回復中だ)という現在進行形ではなく、we have recovered(私たちは回復した)と現在完了形で語っている理由です。(cf. 第2回

さて、「深い魂の奥底にひびく体験」のところには、アスタリスク(*)がついていて、側注に「詳しくは巻末の付録Ⅱを参照」とあります。そこで、次回は付録Ⅱに移ります。

今回のまとめ
  • ビッグブックを書いた初期のAAメンバーたちは、12ステップに取り組んで霊的体験を得た。
  • 解決とは、霊的体験のことである。
  • 霊的体験の実在を信じようと、信じまいと、霊的体験によって助かった人たちがいることは事実である。

  1. BB, p.37 []
  2. AA, Alcoholics Anonymous: The Story of How Many Thousands of Men and Women Have Recovered from Alcoholism, AAWS, 2001, p.25 []
  3. BB, pp.37-38 []
  4. BB, p.38 [] [] [] []
  5. AA, p.25 []
  6. it worksという言葉は第五章のタイトルにも使われている。 []