ビッグブックのスタディ (113) 行動に移す 5

今回はステップ8です。

ステップ8へ進む

ステップ8は「私たちが傷つけたすべての人の表を作り、その人たち全員に進んで埋め合わせをしようとする気持ちになった」(p.86)となっています。

キーワードが三つあります。最初は「傷つけた人たちの表」、次が「埋め合わせ」、そして最後が「しようとする気持ち(意欲)」です。

まず最も気になる埋め合わせとは何でしょうか? 原文の make amends を辞書で引いてみると:

to do something to correct a mistake that one has made or a bad situation that one has caused.1)


自分の犯した過ちや、自分の引き起こした悪い状況を正すために何かをする(拙訳)

とあり、一般的には「埋め合わせ」とか「償い」と訳されます。これはオックスフォード・グループのプログラムでは、そのものずばり restitution(償い)と表現されていました(p.xx, 第4回2) しかし、自己中心的なアルコホーリクは自分が償いをすることを想像しただけで嫌な気分になるものであり、それを避けようとします。そのことをビル・Wはよく理解していました。だから彼は12ステップを書くにあたって償いという言葉を避け、アルコホーリクが受け入れやすいように「埋め合わせ」という言葉で表現したのです。しかし、その内容が償いであることには変わりありません。

埋め合わせの具体的な方法はステップ9で詳しく述べられているので、ここでは取り上げません。

表と意欲

次に傷つけた人たちの表と(埋め合わせをする)意欲については、p.110にこうあります:

私たちが傷つけた人たちすべての表を私たちは手にしている。その人たちに埋め合わせをする気持ちになっている棚卸しをした時にこれを作り・・・3)

すでにステップ4と5で棚卸しをしたときに「傷つけた人たちの表」を作ってあり、その時に埋め合わせをする「意欲」も持つようになった、と述べています。

ステップ4で私たちは「傷つけた人たちの表」を作りました第108回。さらには、恨みの表や恐れの表の第一列に登場する人たちのなかにも、私たちが傷つけた人たちがいますし、もちろん性の表のなかにもいます。それぞれの表にそのことを書き足してあるでしょう。したがって、恨み・恐れ・性・性以外という四つの表のなかに、すでに傷つけた人たちがリストアップされているのです。

さらには、ステップ4で「自分の誤りを正そうという気になった」(p.98)、「自分が犯した過ちは埋め合わせをする気持ちがなくてはならない」(p.101)、「できるだけ過去を正す気持ちになっている」(p.103)とあるように、私たちはステップ4(および5)で埋め合わせする意欲を持つようになっているなのです。

表と意欲の両方の準備ができているのであれば、ステップ8でそれ以上やるべきことはありません。以上でお終いです。12あるステップの中で、ステップ8ほど説明が簡単なステップはありません。なにせ、ステップ8でやるべきことはすでにステップ4(と5)で済ませてあるのですから。

しかし実際には、表と意欲のどちらか、あるいは両方とも準備できていないことが多いものです。もし傷つけた人がリストアップできていないのであれば、それはステップ4・5で手抜きをしてしまったということですから、ステップ4・5まで戻ってその部分をやり直すしかありません。

意欲を持つ方法

ありがちなのは、埋め合わせをする気持ちになれない(意欲が持てない)というケースです。

「その人たち全員に」という条件がついていることも、意欲を持つハードルを高くしています。表の中には、埋め合わせする気持ちになれない相手もいるものです。自分がその人を傷つけたことは認めるものの、相手も同じぐらいこちらを傷つけていたり、相手の方がたくさんこちらを傷つけた場合には、その人たちに埋め合わせをする必要は無いように思えますし、埋め合わせをしたいとも思えません。そもそも絶対に会いたくない、ということだってあります。

そのように、絶対埋め合わせしたくない相手が表の中に含まれている場合には、「全員に進んで埋め合わせする気持ちになる」のは不可能に思えてきます。そうなると、「全員に」という条件が満たせないせいでステップ8から先に進めなくなってしまいます。

そこで、ジョー・マキューたちは、改めてステップ8の表を作るという方法を勧めています。それは、埋め合わせの相手を4つのリストに分類する、というやり方です。4) 5) 6) 7)

ステップ8の表

紙を一枚用意し、その一番上に、「今すぐ」「あとで」「たぶん」「できない」と書きます。これがステップ8の表です。

ステップ4で作った恨みや恐れの表で、自分が相手を傷つけたことを書き加えてある行第108回について、その第一列の名前をステップ8の表のいずれかの列に書き写します。性のリストからも同様に行います。性以外で傷つけた人の表の場合には(その定義上)第一列に書かれた名前はすべてこの表に書き写されることになるでしょう。

今すぐ(RIGHT NOW)の列には、すぐに埋め合わせをしたいと思える相手を書きます。あなたの回復を応援してくれている人や、あなたが好きな人たちです。同居している家族や、親しいAAのメンバーや、まだ付き合いのある友人たちがこの列に書き写されることになるでしょう。

あとで(LATER)には、「今すぐ」の列の人たちに対してほど積極的に埋め合わせをしたいとは思えないものの、一生埋め合わせしないでおくつもりはなく、「いつかは埋め合わせに行かなくてはならない」と思える人たちを書きます。

たぶん(MAYBE)には、埋め合わせするかどうか迷ってしまう相手を書きます。相手に対する恨みがまだ消えていなかったり、自分の側の罪悪感が強い場合には、この列に書くことになるでしょう。多くの人は、「いま」や「あとで」よりもこの列に書く人数が多くなるでしょう。

そして、できない(NEVER)の列には、何らかの理由で埋め合わせができない人たちを書きます。これまで述べてきたように、相手から酷く傷つけられた場合にはその恨みは強く残っていることがありますし、自分が相手を酷く傷つけた場合には強い罪悪感が残ります。どちらであれ、埋め合わせは到底できそうにないと感じるのであれば、この列に書きます。

また、相手が死んでしまっいる場合は、ステップ9の要求する「直接の」埋め合わせはできませんから、亡くなった人もこの「できない」の列に書くことになります。行方が分からず、連絡を取ることができない相手もいるでしょうし、こちらからの連絡を拒む人たちもいます。また埋め合わせすることが相手や他の人を傷つけてしまうために埋め合わせできない相手もいるでしょう。こうした人たちも「できない」のリストに入れざるを得ません。結果として、この「できない」の列が最も長くなった、というケースは珍しくありません。

そうやって、四つの棚卸表から、この表に名前を書き写していくことで、ステップ8の表ができあがります。

そして、まず「今すぐ」のリストにある人たちに埋め合わせを実行します(その具体的な方法はステップ9で説明します)。「今すぐ」の人たちは、すぐに埋め合わせしたいと思っている相手ですから、すぐに取りかかれるでしょう。そのなかでも最も簡単に思える人から取りかかるのが良いやり方です。

そして、「今すぐ」のリストにある人たちに次々に埋め合わせを行っていくと、それが終わる頃には、あら不思議、私たちは「あとで」に書かれた人たちにも埋め合わせをする意欲を持てるようになっています。実際に埋め合わせを行うことが、私たちの精神にそのような変化をもたらしてくれるのです。私たちは、埋め合わせするという行為を通じて、埋め合わせをすることの価値を実感することができ、それが私たちを変えてくれるのです。これは埋め合わせについて考えたり、ミーティングで話しているだけでは得られない効果です。

さらに「あとで」のリストの人たちに埋め合わせを終える頃には、「たぶん」のリストの人たちにも埋め合わせをする意欲が持てるようになっているでしょう。そして「たぶん」のリストの人たちへの埋め合わせが終わる頃には、「できない」のリストの人たちにも埋め合わせをしてみようという気持ちになれているでしょう。

「できない」のリストには二種類の人たちが含まれることになります。一つは、恨みや罪悪感の強さから到底埋め合わせする気になれない人たちです。これについては、これまで紹介してきたように「今すぐ」→「あとで」→「たぶん」の順に取り組むことで、恨みや罪悪感を乗り越える意欲を得るという方法で対処することができます。また、時間の経過が変化をもたらしてくれることもあります。あなた自身の回復の努力とハイヤーパワーの関与があなたに成長をもたらし、できなかった埋め合わせを可能にしてくれるのです。ただし前回説明したように、私たちは自分の回復のプロセスを自分でコントロールすることはできませんから、いつそれが可能になるのかを予測することはできません。

もう一つは、何らかの事情によって埋め合わせができない人たちです。これも時間の経過が変化をもたらしてくれることがあります。行方知れずだった人から連絡が来たり、私たちからの連絡を拒んでいた人がそれを許してくれるようになることもあります。誰かを傷つけるために埋め合わせができなかった場合にも、その事情が解消して埋め合わせができるようになることもあります。どれも確実にそうなるという保証はありませんから、私たちにできることは、埋め合わせする意欲を醸成しながら待つことだけです。

この表を使えば、最終的には全員に埋め合わせする意欲を持てるようになります。これは、ジョー・マキューらが考えたやり方ではなく、彼ら以前からAAに存在した実践的な方法です。

意欲とタイミング

前回、助長の故事を取り上げて意欲とタイミングについて説明しましたが、埋め合わせにおいても意欲とタイミングはとても重要な因子となります。

ほとんどのアルコホーリクは、ステップ2・3で提示される神という概念を嫌いますし、ステップ4・5の棚卸しも避けようとします。そして当然、ステップ8・9の埋め合わせも避けようとします。ところが、12ステップの文章を見た途端に、「早く埋め合わせがしたい」と発言する人もまれにいるのです。

なぜその人は、そんなに急いで埋め合わせをしたいのでしょうか? 一つには、その人が誰かを傷つけたことを自覚しているのは間違いありません。それはおそらく飲酒が原因であり、家族や親しい友人を裏切ったり、職場での評判が地に落ちてしまったりしているのでしょう。そのことを後悔し、一刻も早く人間関係を修復したいと願っているのです。

言い換えるならば、その人は、自分の周りが傷ついた人間関係ばかりであることや、自分の評判が地に落ちていることに耐えられず、「早く楽になりたい」がために、埋め合わせをすることでその苦しさから脱出することを願っているのです。

もっと言えば、その人は、自分が周りから「悪い人」と見なされていることに我慢ができないのです。人を傷つけて人間関係を壊す人を善良と見なすことはできません(つまり「悪い人」ということ)。しかし、その人は自分を善良だという幻想(あるいは妄想)にしがみついています。本来善良な自分が、酒が原因で人々を傷つけ、迷惑をかけ、結果として悪い人と見なされるようになってしまったことが不本意で、その「誤解」を解いて善良な人間だという評判を取り戻したいというのが、その人の真意なのです。

そう考えてみると、その人は人を傷つけたことについて後悔してはいるのでしょうが、その後悔よりも、自分が「悪い人」と見なされることになった結果についての後悔のほうがずっと大きいのです。

第98回で見たように、私たち人間には自分の評判を高く保ちたいという承認の欲求があります。それは共存本能の一部であり、誰もがその欲を持っているのです。してみれば、埋め合わせしたいという意欲も、実は「自分の誤りを正す」という目的ではなく、自分の欲を満たすための意欲に過ぎないということもしばしばあるのです。

それは、このようにAAに来た途端に「早く埋め合わせがしたい」と発言する人たちばかりでなく、順番にステップに取り組んでステップ8・9に到達した人でも、自分が善良な人間だという評判の回復と人間関係の修復を目的に埋め合わせに取り組んでしまうという間違いを犯してしまうことを意味しています。

第六章にはステップ5から11までの7つのステップの解説が詰め込まれています。当然一つひとつのステップの説明は短くなりますが、そのなかでもステップ9には約10ページも割かれています。しかし、そのどこを読んでも、(埋め合わせの結果として評判や人間関係が修復されたという記述はあるものの)、埋め合わせの目的が評判の回復と人間関係の修復だとは書かれていません。目的は「過去を正すためにできるだけのことをする」(p.112)8) ことだとシンプルに説明されています。目的を勘違いしてはいけません。

ショー全体を取り仕切りたがる役者

110ページでは埋め合わせをこう説明しています:

強情で片意地に生き何でも自分で取り仕切ろうとしてきた結果としてまってしまった残がいを取り除くのだ。3)


We attempt to sweep away the debris which has accumulated out of our effort to live on self-will and run the show ourselves.9)

自分の意志に従って生き、ショー全体を取り仕切ろうとしてきた結果として、残骸がたまってしまったので、それを掃除するのだ、と述べています。その残骸は、自分と他の人たちにあってその関係を邪魔しているのでは。自分と内なる神の間にあって、神との関係を邪魔しているのです。私たちはステップ4から9で自分自身の大掃除を行っています(p.92., 第102回が、捨てるべきゴミは常に自分の内側にあるのです(p.112に「私たちは道路の自分の側の掃除をする」と述べられているのも、障害物は相手との間にではなく自分の中にあることを述べている)

人生(生活・生命)の三つの次元(構成要素)

埋め合わせをしても、相手がこちらのことを憎み続けたり、人間関係が修復されないこともしばしばあります。だが、そのような埋め合わせが失敗なのではありません。ビッグブックが「私たちは自分の意思を示したのだし、できることはやった。それ以上はいまさらどうにもならないことなのだ」(p.112)と言っているとおり、すべきことをしたのであれば、それ以上のことはできないし、する必要もありません。それは、掃除の目的が、私たちと神との関係を修復するためのものであって、人間関係を修復したり、相手のこちらに対する評価を変えてもらうためではないからです。(もちろん、結果としてそうなるのであれば、それにこしたことはありませんが、それが目的ではありません)。

ステップ4で棚卸表を書き、ステップ5でスポンサーと一緒にそれを検討したならば、自分が誰をどのように傷つけたかという情報が得られます。それは決して知って嬉しい情報ではありません。なぜなら、それは自分が神のように完全な人間ではないこと、また善良な人間ですらないことを教えてくれるからです。だが、それで良いのです。なぜなら、神が人間を不完全な存在として作ったからです。この世の中に完全な人間は一人もいません。ですから自分を不完全な人間の一人だと認めようではありませんか。――12ステップは人間を善なる存在だとは教えていません。むしろ簡単に悪へと流されやすいからこそ、常に導かれるべきだとしています。導いてもらうために、私たちは過去を正そうとしているのです。

わきみち人間は完全な存在ではないと表現するとき、英語では not perfect とか imperfect という言葉を使います。それは完璧ではなく、欠けたところがあるという意味です。なのにアル中は自分がパーフェクトな存在であるとか、いまにそうなれるという妄想に囚われているので、その妄想を打ち破らなくてはならないのです。

ところで、アダルトチルドレン(AC)の文化の中では「自分を不完全だと感じること」ことを否定し、「あなたはすでに完全である」という表現をしますが 、この場合には complete/­incomplete という言葉が使われています。10) コンプリートとは全部が揃っているという意味です。あなたはすべて揃っているので、もうそれ以上何かを獲得しようと無理しなくて良いということです。

どちらも「完全」という同じ日本語に訳されているので、両者の言っていることが矛盾しているように感じて混乱する人が少なくありません(そして、それを根拠にAAのプログラムとACのプログラムは違うと主張する)。しかし、imperfect と complete は矛盾しません。私たちは完璧な存在ではないけれど、すでに全部そろった存在なのです

ハリー・ポッターシリーズ は全部で11巻です。この全部が揃った全巻セット(完本)がパーフェクトな存在だとすれば、私たち人間はそこから何冊か欠けている欠巻セットなのです。古本屋やメルカリにはそのような「欠けありセット」が安売りされています。人は誰もがこの欠巻セットなのです。なのに、アル中たちは(全巻揃っていないのに)自分は全巻セットだと主張し、ACたちは欠けがあることを気にしすぎて全巻そろいにならなくてはと焦っているのです。欠巻セットはパーフェクトではありませんが、それはそれでコンプリートな存在なのです。

12ステップは、私たちがパーフェクトではない、欠けがある存在であることを明らかにします。しかし12ステップは、欠けたものを補いなさいと言っているのではありません。あなたには欠けはあるけれど、すでにすべてが与えられているのだから、それをどう使えば良いかという教えなのです。

自分が不完全な存在だということを受け入れられず、善良な人間だという評価を取り戻すために埋め合わせを行うのであれば、本来の目的地である霊的体験(霊的目覚め)には近づけないでしょう。なぜならば、そのような埋め合わせでは自分と内なる神との間にある障害物が取り除かれないからです。

第89回で、12ステップにおいては「やることさえやっていれば、結果は後からついてくる」と考えてはいけないと警告しましたが、それは一つにはこういうことなのです。何をするかではなく、何のためにするのか(目的地)を意識しながら進めていきましょう。神に導いてもらうためにするのではなく、自分が本来善良な人間であることを証明するためにする、あるいは12ステップをやった人間になりたいからするのは、埋め合わせではありません。

だから、埋め合わせをする意欲が持てたときには、自分が何を目的に埋め合わせをしたいのか、じっくりと考えてみるべきです。自分が善良でないと見なされていることに耐えられないという理由ならば、埋め合わせは時期尚早だと言わざるを得ません。

これは、埋め合わせを延期した方が良いケースですが、逆に急ぐべき要素もあります。ステップ9は埋め合わせは「直接」行うとされています。これは相手と対面して行うということです。すると、すでに亡くなっている人にはどうやっても埋め合わせができない、ということになります。

私たちには、相手が生きているうちに埋め合わせを行わなくてはならない、というタイムリミットが与えられているわけです。このタイムリミットについてはジョー・マキューたちも明確に述べています。11) 僕は、相手が死んでしまったために埋め合わせができなかったことがありました。そのうちに埋め合わせに行かなければと思いながら先延ばしにしていたところ、ある日その相手の訃報が飛び込んできてしまいました。驚きましたが、どうしようもありません。後日、仏壇に線香を上げに行き、ご遺族と話をしましたが、それでは埋め合わせになっていないことは明らかでした。

このように、早く埋め合わせをしたいと自分の準備もできていないのに飛び出していってしまう人もいれば、いつまでも先延ばしにした挙げ句にそのチャンスを永遠に失ってしまう人もいます。埋め合わせにおける意欲とタイミングの関係は難しいものです。

ステップ9に進む

ともあれ、私たちはステップ8の表を手にしているのですから、それに従ってステップ9を進めていくのが良いやり方でしょう。

そうする気持ちがまだないのなら、その気になるまで祈り(ask)続けよう。3)

もしステップ8の表を手にしていても、まだ埋め合わせに取り掛かる意欲が持てないのであれば、意欲が与えられるまで神に祈れば良いのです。

「今すぐ」の列には、あなたの回復を応援してくれる人たちがリストアップされているはずですから、そこから取り掛かりましょう。慣れないうちは、埋め合わせするのにたいへん緊張したり、それゆえの失敗も起こりがちです。あなたの回復を応援してくれる人たち(e.g. AAのメンバーなど)は、あなたが慣れないことにチャレンジしていることを十分理解しており、励ましてくれるでしょう。表を右に進むにつれて難易度はあがっていくでしょうが、あなた自身も経験を積んで、難しい埋め合わせを行える成長を手にするでしょう。

埋め合わせは登山に似ていると思います。最初は誰もが低い山からチャレンジします。慣れてきたら少しずつ高い山に登るようになり、やがて谷川岳 へ、そして八ヶ岳 北アルプス に慣れてくれば、ヒマラヤ にだって挑めるようになるでしょう。私たちは埋め合わせすることによって経験を積み、自分の中にある罪悪感や後悔をどう扱えば良いのか学んでいきます。しばしば起こる間違いは、最初から難しい相手に埋め合わせしようとすることです。例えば、子供の頃に自分を虐待し、もう何年も会っていない親を最初の埋め合わせの相手に選ぶ人もいますが、それは山に登ったことがない人がいきなりヒマラヤに登ろうとするようなもので、遭難すること必至です。

ここまでステップと違い、埋め合わせには相手側の事情も関係するため、自分が頑張ればステップ9が早く終わるというものではありません。以前、Grapevine というAAの英語の月刊誌のサイトでAAメンバーに毎月様々なアンケートを取っていたことがありました。ある月のアンケートは「ステップ9をやった人に、埋め合わせの相手があと何人残っていますか?」というものでしたが、すべき人全員に埋め合わせを済ませたという人は約3割にすぎませんでした。残りの人は、ステップ8のリストのなかにまだ埋め合わせすべき人が残っているという状態に留まっているわけです。

このことから分かるとおり、多くの人にとって、ステップ9は完全にやり遂げることができないステップなのです。しかしそれは問題ではありません。「私たちは霊的な完成をではなく、霊的な成長を求めている」(p.87)のですから。

もう一度繰り返します。埋め合わせの目的は、神からの導きを得られるように、(他の人との間にではなく)自分の中にある障害物を取り除くために行うのだということを忘れずに取り組んでいきましょう。

今回のまとめ
  • すでにステップ4・5で傷つけた人たちの表を作り、その人たちに埋め合わせする意欲を持っているはずである。
  • 傷つけた人たちがリストアップされていない場合には、ステップ4まで戻ってそこをやりなおす。
  • 埋め合わせする意欲を持てない場合には、「今すぐ」「あとで」「たぶん」「できない」という四つの列をもった表を作り、そこに棚卸表の第一列から名前を転記していく。
  • 「今すぐ」の列の人たちへの埋め合わせから始める。
  • 埋め合わせの目的は、自分の評判を回復させるためでもなければ、人間関係の修復のためでもなく、内なる神との間に存在する障害物を取り除く(掃除をする)ため。
  • 多くの人にとって、ステップ9は完全にやり遂げることができないステップである。

  1. Merriam-Webster, Merriam-Webster Dictionary (m-w.com), 2023[]
  2. 「埋め合わせをする」と訳されている。[]
  3. BB, p.110[][][]
  4. ジョー・マキュー(依存症からの回復研究会訳)『回復の「ステップ」』, 依存症からの回復研究会, 2008, pp.117-118[]
  5. ジョー・マキュー(依存症からの回復研究会訳)『ビッグブックのスポンサーシップ』, 依存症からの回復研究会, 2007, pp.142-143[]
  6. 無名(A Program for You翻訳チーム訳)『プログラム フォー ユー』, 萌文社(ジャパンマック), 2011, pp.160-163[]
  7. Joe McQ. and Charlie P., Joe & Charlie: The Big Book Comes Alive, 2014, pp.142-143[]
  8. do our utmost to straighten out the past – 過去の問題を解決する、と訳されている。[]
  9. AA, Alcoholics Anonymous: The Story of How Many Thousands of Men and Women Have Recovered from Alcoholism, AAWS, 2001, p.76[]
  10. ACA WSO, 『アダルトチルドレン・オブ・アルコホーリックス/ディスファンクショナル・ファミリーズ』, ACA WSO, 2022, pp.36, 42, 94, 100[]
  11. Joe McQ. and Charlie P., p. 113[]

2024-01-16ビッグブックのスタディ,日々雑記

Posted by ragi