ビッグブックのスタディ (48) 解決はある 1

今回から第二章「解決はある」です。第二章は三つのパートに分かれています。


ページ範囲
ビッグブックそれを書いた人たちAA)について p.26-p.30
問題(ステップ1)の概論 p.31-p.37 14行
解決(ステップ2)の概論 p.37 15行-p.44

つまり、第二章を読むだけでステップ1と2を大まかに掴むことができます。(ちなみに、第三章がステップ1の各論、第四章がステップ2の各論になっています)。

回復した人たち

ではまず、最初のパートから始めましょう。

 私たちアルコホーリクス・アノニマスのメンバーは、かつてのビルと同じように絶望的だった幾万人もの男女を知っているが、ほとんどが回復している。彼らは飲酒の問題解決した1)


We, of Alcoholics Anonymous, know thousands of men and women who were once just as hopeless as Bill. Nearly all have recovered. They have solved the drink problem.2)

何度も説明してきた絶望的(hopeless)という言葉がここでも使われています。ビルのように絶望的な多くのアルコホーリクが、AAで回復し、飲酒の問題を解決しました。ここで彼らが「回復した(have recovered)」という表現を使っていることに注意して下さい。第2回第3回で説明しましたが、回復中(recovering)という現在進行形ではなく、現在完了形を使っています。このことは、彼らが霊的体験(あるいは霊的目覚め)を経験したことを意味します。それによって、彼らは飲酒の問題を解決した、と言っています。

ちなみに、1939年にビッグブックが出版されたときには、AAメンバーはまだ約100人しかいませんでした。ですから、初版では「幾万人(thousands)」ではなく、「百人(one hundred)」と書かれていました。AAのメンバー数が増えたため、後の版でこのように改められました。――ビッグブックの改版時の変更点については、Wikiにまとめてあります。

ふつうの共通点を持たない人たち

 私たちはごくふつうのアメリカ人である。出身地も、職業もさまざまなら、政治的、経済的、社会的、宗教的背景もいろいろで、ふつうなら出会うことさえもなかった者同士だ。1)

この段落はAAのことを説明しています。AAは人間の集団ですが、人間が集団を作るときには、何らかの共通点があるものです。例えば、会社という組織のメンバーには金を稼ぐという共通の目的があります。テニスのサークルのメンバーにはテニスという共通の趣味があります。出身地が共通している――県人会とか、同じ職業――同業者組合とか、政治的思想が同じ――政党とか、経済的立場が同じ――ライオンズクラブとか経済同友会とか、宗教的信念が同じ――宗教・・・といったように、人間は共通点を持つ者が集まって集団を作るものです。

しかしながら、AAはそのような(よくある)共通点を持たない人の集まりです。「ふつうなら出会うことさえもなかった者同士だ(normally would not mix)」とあるように、そのようにバラバラな人たちが一つの集団を作ることなど普通はあり得ません。

AAのミーティングに行って、そこにいる人たちを顔を眺めてみてください。もし自分がアルコホーリクにならなかったら、そこにいる人たちとは「出会うことさえもなかった」のではないでしょうか。――以前、田舎の小さな村でAAのミーティングを始めたときには、そこにやって来る人たちはお互い見知りのようでしたが、そのようなことは日本のAAではまだまだ例外的でしょう。

普通の意味の「仲間」ではない

日本のAAでは「仲間」という言葉を使います。ビッグブックやその他のAAの書籍にはあまり登場しない日本のAA独自の用語です。1979年に出版されたビッグブック日本語版初版のピーター神父の書いた文章には「仲間」という言葉がよく出てくるので、おそらくその世代の人たちが積極的に使ったのでしょう。ともあれ、日本のAAメンバーはお互いを「仲間」と呼ぶ習慣があります。他の日本の12ステップグループにもこの習慣は広がっています。

ところが、最初にAAのミーティングに出席したときに、AAメンバーから「仲間」と呼びかけられたことに抵抗を感じた、という経験のある人は少なくありません。僕も同じ経験をしています。仲間という言葉を国語辞典で引いてみると:

なかま[仲間]
① いっしょに何かをする人(の集まり)
② 同類のもの3)

僕の最初のホームグループは教会の談話室でミーティングを開いていました。初めて行ったときには、薄暗い電球の下で、壊れたソファーに三人のメンバーが座っていました。一人は小指がなく体にびっしりと彫り物が入った元ヤクザの小父さんで――この人が後に僕の最初のスポンサーになってくれた――、もう一人はこの人の同病の奥さんで、もう一人はいつもAAミーティングに行くかパチンコ屋に行くか迷いながらミーティングに来ている小父さんでした。

だから、この三人から「新しい仲間が来た」と声をかけられたとき、正直なところ「同類扱いしないでくれ」と思いました。それぐらい、自分と彼らの共通点を探すのが難しかったのです。人間は自分と共通点が多い相手を仲間だと考えるのに、この人たちがこんなにも違う僕を「仲間」呼ばわりすることに違和感を持ったのです。

もちろん、このグループは僕のソブラエティが始まった故郷のようなところであり、最初のスポンサーとその奥様には大変世話になったのですが、正直な第一印象は「自分は来てはいけない場所に来てしまったのじゃないだろうか」でした。

初めてAAに行って「仲間」と呼ばれたことがすごく嫌だった、という感想はポピュラーなものですが、それはおよそこんな事情ではないかと思われます。

ジョー・マキューも、基本的にAAはふつうの共通点を持たない人たちの集まりであると述べています。4) つまり仲間とは感じられなくて当然なのです。

しかし共通点がある

Titanic sinking
Titanic sinking, by Willy Stower, from Wikimedia Commons, PD

だが私たちのなかには言葉では言い表せないような素晴らしい仲間意識フェローシップと友情と共感がある。私たちはまるで遭難して救助されたばかりの大型客船の乗客のようであり、三等船室から船長室にいたるまで、友愛と喜びと民主主義がみなぎっている。ただ私たちと乗客たちとの違いは、絶望から解放された私たちの喜びは、それぞれが生活の場所に帰ったあとも、消えることがないことである。同じ苦しみを味わったということは、私たちを結び合わせる強力な接着剤の一つではある・・・1)

ここに書かれている大型客船は、映画にも描かれたタイタニック号です。タイタニック号は、1912年の処女航海でイギリスからニューヨークへ向かう途中の大西洋上で、大型氷山と衝突して沈没しましたタイタニック号沈没事故 。乗員乗客2,224人のうち1,513人が犠牲になりました。上に掲載したのは、その様子を想像して描かれた絵です。この事故はビッグブックが出版された1939年の27年前に起きたもので、まだまだ人々の記憶に強く残っている出来事でした。――2021年の私たちにとって、1995年の阪神・淡路大震災 が26年前です。

この文章は、ビッグブックの著者であるAAメンバーたちを、タイタニック号の乗客たちに例えています。タイタニックは豪華客船であり、高価な一等船室には上流階級の人たちが乗っていました。しかし、それだけでなく、船底に近い三等船室には、ヨーロッパからアメリカに渡る移民の人たちが乗っていました。彼らはなけなしの財産を売り払って、その金で運賃を支払い、新天地アメリカでの新しい人生を目指しました。一等船室にいる上流階級の人たちと、三等船室にいる貧しい移民の人たちが、交流することはありませんでした(would not mix)。もし、タイタニック号が無事にニューヨーク港に着いていたら、お互いに同じ船に乗っていたことすら知らなかったことでしょう。それはまるで、アルコホリズムという病気にならなかったら、多くのAAメンバーはお互いに顔を合わせることもなく一生を終えていたはずであるのと同じです。

しかし、氷山に衝突したことで、タイタニック号の乗客たちには「共通の問題」が生じました。それは船の遭難によって、自分が死の危険にさらされたことです。沈没すれば死ぬしかないという絶望の中で、彼らは協力して助かろうとしました。――実際に、一等船室から三等船室まで、どこでも女性と子供の生存率が高くなっています。これは乗っていたデッキにかかわらず、彼らが協力し合ったことを示します。そのときに、社会のなかでの階層の違いといったことは、お互いに協力する妨げにはならなかったことでしょう。

AAのメンバーにとっての「共通の問題」とは、アルコホリズムです。それによってアルコホーリクたちは死の危険にさらされています。飲み続ければ死ぬしかないという絶望の中で、助かるために協力し合うのがAAです。

「仲間」という言葉の意味

つまり、AAメンバーの共通点は、同じアルコホリズムという問題を抱えているということです。それ以外には共通点はない(かもしれない)のです。だから、世間的な意味で「仲間」だと感じられなくて当たり前です。「仲間」という言葉は、私とあなたは共通の問題(アルコホリズム)を抱えている、という意味なのです。だから、「仲間」という言葉はAAメンバーではない同病の人に対しても使われます(e.g. AAを知らずにまだ苦しんでいる仲間)。

齋藤学は著書『魂の家族を求めて』で、血縁(血縁家族)・地縁(地域共同体)に期待できなくなった癒やしの機能が、同じ問題によって結びつく問題縁の中に残されていると述べました。5) 血のつながりでも、住む土地のつながりでもなく、アルコホリズムという縁でつながった共同体のなかに回復があるのです。

fellowship
from Pixy.org, CC BY-NC-ND 4.0

AAメンバーの中には、あなたが大変気に入らない人もいるかもしれません。AAという救命ボートにたまたまそういうヤツと乗り合わせてしまったのはお互いに不愉快なことです。しかし、気に入らないヤツは救命ボートから出ていって欲しいと考えてしまうと、自分も叩き出される羽目になるかも知れないという不安を抱える羽目になります。いかに違いが大きかろうとも、アルコホリズムという「共通の問題」が私たちを結び合わせる紐帯ちゅうたいであり、その解決のために協力するのだということを忘れてはいけません。

僕は最初のスポンサーから「仲良くやらなくても良いから、一緒にやりなさい」とよく諭されました。人は自分と気の合う仲間とつるみたがるものですが、AA共同体フェローシップというのは、仲が悪い相手とも力を合わせる場所なのである、と。

ジョー・マキューの言葉も紹介しておきましょう:

気の合う人に惹きつけられるのは人の世の一般だが、居心地の良さを求めていては成長できない。居心地の良し悪しを越えて足を踏み出すとき、私たちは大きく成長できる。私たちはみな同じアルコホーリクである。それで充分なのだ。6)

ビル・Wの文章の特徴

さて、p.26の大型客船の段落には「遭難」「絶望」「苦しみ」という言葉が出てきますが、これはどれも「共通の問題」のことを指しています。p.26の2行目にある「問題」という言葉も含めて、どれも私たちにとってはステップ1の問題を指す言葉です。

問題 = 遭難 = 絶望 = 苦しみ

これはビル・Wの文章の特徴で、同じ言葉を繰り返し使わず、同じ意味の別の言葉に言い換える修辞技法 の一つです。転義法 として別の言葉を使う場合もあれば、単に同じ意味の別の単語に言い換えていることもあります。このビルの修辞法に気がついていないと、ビッグブックを読むときに言葉の迷宮に迷い込んでしまいます。

例えば、12ステップの文言、でステップ5・6・7は:

五 神に対し、自分に対し、そしてもう一人の人に対して、自分の過ちの本質をありのままに認めた。
六 こうした性格上の欠点全部を、神に取り除いてもらう準備がすべて整った。
七 私たちの短所を取り除いてくださいと、謙虚に神に求めた。7)

ステップ5の過ち(wrongs)、ステップ6の欠点(defects)、ステップ7の短所(shortcomings)は、どれも同じものを指しています。それがビル・Wの文章の癖だからです。すなわち、過ち=欠点=短所です。同じ意味ですから、「欠点と短所の違いは何か」などという議論は時間の無駄です。それよりも、問題=無力=絶望であるとか、欠点=短所であるというように、同じ組み合わせを憶えていった方がビッグブックを読み解くときの役に立ちます。

そう考えると、

    • 問題を解決した
    • 遭難して救助された
    • 絶望から解放された
    • 苦しみを味わった

というのは、どれも同じ意味合いであることが分かります。

なんか国語の授業みたいになってますが、ビッグブックから回復のための情報を得るには、ある程度の読解 力は必要なのです。

さて、実は、共通しているのは問題だけではありません。それについては次回扱います。

今回のまとめ
  • AAはアルコホリズムという「共通の問題」を持った人たちの集まり。
  • アルコホリズム以外の共通点はない(かもしれない)
  • 「仲間」という言葉を使うが、普通の意味での仲間ではない。
  • 「仲間」とは、共通の問題を持っているという意味である。

  1. BB, p.26 [] [] []
  2. AA, Alcoholics Anonymous: The Story of How Many Thousands of Men and Women Have Recovered from Alcoholism, AAWS, 2001, p.17 []
  3. BIGLOBE『三省堂国語辞典 第六版 公式アプリ』, BIGLOBE Inc. []
  4. Joe McQ. and Charlie P., Joe & Charlie: The Big Book Comes Alive, 2014, pp.48-49 []
  5. 齋藤学『魂の家族を求めて―私のセルフヘルプ・グループ論』, 小学館, 1998, pp.296-298 []
  6. ジョー・マキュー(依存症からの回復研究会訳)『ビッグブックのスポンサーシップ』, 依存症からの回復研究会, 2007, p.36 []
  7. BB, p.86 []

2021-03-03ビッグブックのスタディ,日々雑記

Posted by ragi