ビッグブックのスタディ (110) 行動に移す 2
「もう一人の人」に誰を選ぶか
今回はまず、ステップ5の「もう一人の人」の選び方からです。
幸せに長生きをしたいのなら、私たちは誰かに対して全面的に正直にならなければならない。ごく当然のことであるが、私たちは一身上の秘密を打ち明ける相手(person or persons)を誰にするかを、慎重に考えて選ぶ。1)
「一身上の秘密を打ち明ける」と訳されていますが、原文は「このステップは極めて私的(intimate)で内密(confidential)なものだ」と言っているので、誰を相手にステップ5を行うのかは大事なことです。
この先を読んでいくと、「もう一人の人」の候補者として次の三種類の人たちが挙げられています:
-
- 聖職者
- 友人――医者や心理療法士など
- 自分の家族
このリストには、スポンサーやAAメンバーは挙げられていません。その理由は、ビッグブックの成り立ちやその目的を考えれば分かります。ビッグブックはAAが存在しない土地に住んでいる人のために、本を使って12ステップを伝えることを目的として書かれたものです(第7回・第51回)。ですから、読者にはスポンサーもホームグループもない、という前提があります。
すでにAAグループが存在し、ミーティングも行われているのなら、それに参加してスポンサーを見つけ、スポンサー相手にステップ5を行うことができます。しかしながら、その土地で最初のAAメンバーとなる人には、スポンサーも他のAAメンバーも存在しませんから、AAメンバー以外の誰かを相手にステップ5を行うほかありません。その候補となるのが、聖職者・友人・自分の家族というわけです。
ざんげ(confession=告解)を義務づけている宗教に属している人は、ざんげの告白を聞くことを職務としている人のところへ当然行くべきであるし、本人もそれを望むだろう。1)
告解 は、キリスト教のなかでも主にカトリック教会 で行われている行為で、信者が神の代理である司祭に自分の犯した罪を告白することで神の許しを得るものです。カトリックの教会にはたいてい音が外に漏れない作りになっている告解室という小部屋があり、そこで行われます。プロテスタント 諸派では内面の信仰を重要視するので、牧師に罪の告白をする習慣はありませんが、信者が求めれば牧師は聞いてくれるでしょう。
懺悔はもとは仏教の言葉です。意味は同じく、自分の罪を認めて悔い改めることです。
どんな宗教とも無関係な人も、誰か聖職者に聞いてもらう(talk with=話す)のもよいだろう。1)
聖職者と訳していますが、旧訳では「しっかりした宗教によって叙階された人」と正確に訳していました。非信徒の告白を聞くために時間を割いてくれる司祭や牧師がどれだけいるのかわかりませんが――皆さんお忙しいので――そういう人が見つかればお願いするのもよいでしょう。
もしそういう人が見つからなければ、またそうしたくなければ、口の堅い、理解してくれる友人をさがす。たとえば、医者とか心理療法士(psychologist)などだ。2)
宗教者の知り合いがいないとか、宗教者に頼みたくない場合には、友人の中から選ぶという次の案が示されています。ただし「口の堅い、理解してくれる」という条件が付いています。そして、例えば医者とか心理師が良いだろうとしています。
ここに挙げられた司祭・医師・心理師に共通しているのは、彼らには職業上の守秘義務 があるということです。司祭は告解の秘密を守るように教会法で定められていますし、医師や心理師はクライアントの秘密を守ることを法律で義務づけられています。もちろん彼らは、仕事として棚卸しの相手をしてくれるのではなく、友人として棚卸しに付き合ってくれるわけですが、秘密を守ることの重要性を理解しているという点でふさわしいのです。
このことは、私たちがスポンサーとしてスポンシーのステップ5の相手をするときに、何が最も大事なのかを教えてくれます。ステップ5で明かされた秘密を私たちは他に漏らしません。もし、自分ではスポンシーに良い助言ができない件があって、それについて自分のスポンサーなどに相談してみたいという場合には、あらかじめスポンシーからその許可を得ておくべきです。私たちは自分が回復するために、スポンシーが神との関係を作り上げる手伝いをしているだけです。スポンサーであることによって何か特別な権限を与えられるわけでも、何かの責務を負うわけでもありません。この仕組みの有効性が保たれるためには、秘密が守られる保証が必要なのです。
身内に頼むこともあるだろうが、妻や親に話す場合、彼らを傷つけ、悲しませるようなことは決して話してはいけない。他人を犠牲にして自分だけが安全な場所に身を置く権利は誰にもないのだ。そういう部分の話は、理解があって、傷つける心配のない人に話す。2)
最後の選択肢は自分の家族です。「彼らを傷つけ、悲しませるようなこと」というのは、例えば性の問題(浮気や不倫)です。そういった話は別の人に話すべきです。106ページで「相手」と訳されている部分の原文は person or persons です。つまり棚卸表を話す相手は一人とは限りません。一部分を別の人に話すという選択もあり得るのです。
この次の段落は、ステップ5を延期することに関してです。誰も適当な人がいない場合にはステップ5を延期せざるを得ません。しかし、その場合でも、ふさわしい相手が見つかったらすぐに行えるように準備を整えておく必要があります。棚卸表を書き上げておき、心の準備をしておきましょう。この段落でも、相手は秘密を守ることができる人であることを強調しています。
スポンサーを得てステップワークを進めている人にとっては、きっとこれらは無用な説明だったでしょう。「もう一人の人」としてスポンサーを選ぶのが最も無難です。もちろん、他の人を選ぶこともできますが、その場合にはステップ6から9についてスポンサーの手助けが得にくくなるという難点があります。スポンサーにはすでにステップ5を経験しているアドバンテージがあります。
ステップ5の実践
誰に自分の話をするかを決めたら、一秒たりとも無駄にせずさっそく実行にかかろう。前もって書いた棚卸表があるのだし、長い話をする準備もできている。4)
一秒たりとも無駄にせず(waste no time)とあるように、相手が決まったらすぐにとりかかりましょう。92ページには、ステップ3が終わったら「すぐに」ステップ4に取り掛からなければならないと書かれていました(第102回)。同じようにステップ5にもすぐにとりかかりましょう。
とはいっても、まずはステップ5を行う日時と場所を決めなければなりません。二人だけで話ができる環境が必要です。スターバックスでラテを飲みながらステップ5をやる、というわけにはいきません。
ステップ4で棚卸表を書いたときには、列ごとに書いていきましたが(第103回)、ステップ5で話すときには行ごとに話していくのが自然でしょう(各行の第一列→第二列→第三列→第四列と話していく)。
スポンサーはただ話を聞くだけではなく、スポンシーの棚卸表の内容をより正確なものにするために助言をしなければなりません。そのためには、棚卸表を分析する必要があります。分析の方法はステップ4の96から100ページに説明がありました(第104回・第105回・第106回)。それは自分で書いた棚卸し表を自分で分析するための説明でしたが、同じ方法をスポンシーの棚卸表に使うことができます。
実際にやってみれば、これははそんなに難しいことではありません。なぜなら私たちは、自分の欠点(誤り)にはなかなか気づけませんが、他の人の欠点(誤り)にはすぐ気がつくからです。
ジョー・マキューは、スポンサーがあらかじめスポンシーから棚卸表を預かって、それに目を通しておくことを勧めています。5) 棚卸表を見て疑問に思うことがあったら、スポンシーに何を質問するか考えておきましょう。棚卸表の全体に目を通せば、スポンシーの欠点がよりハッキリ見えてきます。欠点というものは、それを持っている人に同じ間違いを繰り返させるものです。相手や場所や状況が違っているかもしれませんが、似たようなトラブルが繰り返され、それが棚卸表に載るのですから、共通性を見つけるのは難しいことではありません。ともあれ、スポンシーだけでなく、スポンサーにもステップ5の事前準備が必要なのです。
では、ステップ5では具体的には何をするのか、ジョー・マキューが述べていることを紹介しておきます:
スポンサーとしては、1列目と2列目に書き記されている事柄について、手を入れたりする余地はない。最初の二つの列が示していることは、起こった出来事に関するスポンシーの記憶、スポンシーがその出来事をどう見ているかという判断である。ところが3列目には、スポンシーが見落としたり、理解が不充分なところがあるはずだ。基本的本能のどこかが脅かされたのに、本人が気づいていない場合がある。その場合には、スポンシーにそのことを指摘しよう。
大きな手直しをするのは4列目である。4列目はもっとも重要である。4列目にこそ、探し求めている情報が現れるからである。ここは正確なものにしたい。おそらく、かなりの変更や追加が必要になるだろう。これらの変更をスポンシーに促すときには、スポンシーがスポンサーの意見に同意し、手直しに納得していることを確かめるべきである。6)
先ほど述べたように、他の人の欠点を見つけるのは難しいことではありません。しかし、単にそれを相手に指摘すれば良いというものではありません。スポンシーに自分の欠点(考えの誤り)を理解してもらうことが目的です。それが理解できれば、スポンシーは誰をどのように傷つけたかも理解するでしょう。
ステップ5は単なる告白ではありません。7) ステップ5の目的はスポンサーとスポンシーが協力して棚卸表を完成させることです。より正確に言えば、表を完成させることそのものが目的なのではなく、その作業を通じて、スポンシーが自分の考えの誤りや、誰をどのように傷つけたかを理解することが目的なのです。なぜならステップ6・7・8・9ではそれらの情報が必要になるからです。
ステップ5の約束
何一つ包みかくさずにこのステップを済ますと、私たちは晴れ晴れとした気持ちになり、世の中とまともに向き合えるようになる。完全な安らぎと心の落ち着きが得られるようになる。恐れは去り、創造主を身近に感じ始める。・・・4)
108ページの真ん中の段落には、ステップ5を終えると起こるであろう変化が書かれています。これも「約束」の一つです。この段落に書かれたような劇的な変化が起きたという話はあまり聞きませんが、多くの人がステップ5を終えたときに、自分の中で霊的な変化が始まっていることを自覚するようです。
人に話せない、話してはいけないと思っていた秘密を「もう一人の人」に打ち明け、それについて話し合ったことで、私たちには変化が訪れます。私たちは神と他の人たちを頼りにするようになっていきます。神は、神と他の人たちを必要とするように人間を作ったのですから、それらを拒んでいたのは不自然な状態でした。ステップに取り組むことで、私たちは本来の自然な状態へと戻っていきます。
ビッグブックは、ステップ5を終えたら、ビッグブックのステップの文が載っているページ(pp.85-86)を開き、最初の五つのステップを読み直して、何か抜けていることはないかチェックするように指示しています。たった五つだけなのに、何かを抜かしてしまうことがあるのかと疑問に思う人もいるでしょう。でも、結構そういうことはあります。12ステップはどのように解釈しても自由だということを盾にとって、ステップ2を省略したり、ステップ5を省略したり、ステップ3の決心を単に棚卸表を書くという決心にしてしまったり・・・と、大胆な省略をする人たちもいるのです。ビル・Wはそのことを十分に分かっていて、ここに「手抜きはしてませんよね」というチェックを入れたのでしょう。
大丈夫、省略していない、と言えるのでしたら、ステップ6に進みましょう。
- ビッグブックは読者に、聖職者や、医師や心理師である友人、あるいは自分の家族にステップ5の相手をしてもらうことを提案している。それはビッグブックが読者がAAの存在しない地方に住み、その場所の最初のAAメンバーになることを想定して書かれているからである。
- スポンサーがいる場合には、スポンサーを相手にステップ5を行えば良い。
- スポンサーとスポンシーは協力して棚卸表を完成させる。
- スポンシーはステップ5によって、自分の考えの誤りや、誰をどのように傷つけたかを理解する。
- ステップ5が終わったら、これまでの五つのステップを振り返り、抜けているところがないかチェックする。
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