ビッグブックのスタディ (49) 解決はある 2

同じ問題を持つ人たちの共同体

同じ苦しみを味わったということは、私たちを結び合わせる強力な接着剤の一つではあるが、それだけでは、いまの私たちのようには決してなれなかっただろう。1)

前回は、AAは同じ問題を抱えた人たちの集まりである、という話をしました。私たちにとって共通の問題は、アルコホリズムという病気です。

同じ苦難を経験した人たちの間には、特別な精神的結びつきが生まれます。それが私たちがAAという共同体フェローシップを作っている理由の一つです。前回述べたように、AAメンバーの間には様々な違いがありますが、その違いにもかかわらず、そこには「仲間意識フェローシップと友情と共感」や「友愛と喜びと民主主義」(p.26)が育まれていきます。

僕は何回か海外のAAミーティングに出たことがあります(台湾と香港とアメリカ)。僕は英語のヒアリングは得意ではありませんし、ましてや中国語はさっぱり分かりません。しかし、そこで味わう気持ちは国内のAAミーティングと同じものです。アルコホーリクであることが、私たちを結びつけているのです。

ステップ1で、私たちはアルコールに対して無力であることを学びました。問題が「無力パワーレス」であるならば、解決は「パワー」です。そして、AAという集まりに何らかの力があることは明らかです。一人では酒をやめ続けられない人が、AAのミーティングに出続けることで酒をやめ続けるようになった、という事例を私たちはたくさん見てきました。一人ではできないことを可能にする力がAA共同体にはあります。それは自分を超えたパワーの一つです。

しかしながら、一人ではできないことが、集団になると可能になる、というのはAAに限ったことではありません。世の中のいたるところで、この「集団の力」は使われています。AAだけに特別に備わっている力ではないのです。その力は普遍的なものですし、知覚しやすいものでもあります。だから、この「集団の力」がAAのすべてであるという誤解が生じます。ジョー・マキューらは『プログラム フォー ユー』にこう書いています:

・・・誤解している人たちがいる。その人たちは、AAの仲間のつながり(fellowship)がすべてであり、それ自体が回復のすべてであり、かつ回復の終着点だと思い込んでいる。AAを過大評価し、結果的にフェローシップの意味と目的を見落としてしまっているのだ。2)

ミーティングに通えば酒がとまり、同じ問題を抱えた「仲間」と会い続ければ酒がとまり続ける・・・、たいへん分かりやすい構図であるだけに、それがAAのすべてである、と多くの人が誤解してしまうのです。

同じ解決を共有する共同体

ビッグブックのp.27です:

 私たち一人一人にとっての偉大な事実は、私たちが共通の解決方法を見つけたということにある。全員が全面的に賛成できて、兄弟のように仲良く、心を一つに結束していける解決法を、私たちは持っている。それが、この本がいまアルコホリズムで苦しんでいる人たちに届けようとする福音である。3)

AAメンバーにとっての共通の解決方法とは何でしょうか?

ミーティングだと考える人も多いようですが、そうではありません。ビッグブックにはミーティングのやり方は書いてありません。ビッグブックは12ステップを伝えるための本です。つまり共通の解決方法とは12ステップのことであり、また12ステップに取り組むことで得られる霊的体験(あるいは霊的な目覚め)のことです。

ジョーの別の本からです:

 AAには二つの側面がある。私たちを支えてくれるフェローシップとしてのAAと、私たちを変えてくれる行動のプログラムとしてのAAだ。ひとつは私たちを支え、もうひとつは私たちを変える。
 は、AAのフェローシップから生じる。
 は、ステップ3からステッブ12までのAAプログラムの成果として生じる。
 実際のところ、ステップを行おうとしない人たちもいる。彼らは、ただミーテイングに行くだけだ。それは回復では。しかし、人々の寄り集まりに大きな力があるのも確かだ。4)

先ほど述べたように、人の集まりには大きな力があり、それがアルコホーリクの酒をとめてくれることも多いのです。それをジョー・マキューはAAの共同体が与えてくれる支えsupportサポートと呼んでいます。その支えによって酒が止まっている状態は、回復ではありません。ミーティングに参加しているだけでは、シルクワース医師の言う霊的変化は起きてくれないからです。

つまり、AAは共通の問題(アルコホリズム)を、共通の解決方法(12ステップと、それに取り組むことで得られる霊的体験)によって解決する集まりなのです。

AAが始まったばかりの頃は、まだAAメンバーの数が少なく、共同体の力に頼るのは難しいことでした。彼らが頼ったのは、真の回復の力であるハイヤーパワーと12のステップでした。2) ニューヨークでもアクロンでも、ミーティングは週に一回程度しかなく、「90日間に90回のミーティングに出る」ことはできなかったのです。

そもそも、ビッグブックが書かれる前は、AAメンバーたちは、酒をやめ続けるためにミーティングが必要だとは考えていませんでした。5)その一方で、AAに加わっても12ステップに取り組まないということは、当時はあり得ませんでした。6) 後になってAAは、メンバーとなるための条件を緩和し7)、12ステップをやらなくてもAAから追い出される心配はなくなりましたが、AAが共通の解決(12ステップ)を伝えていく集まりであることは、いささかも変わりありません。

12ステップだけで回復は可能か?

しばしばこういう質問を受けます。ミーティングに通って酒をやめるのが回復ではなく、12ステップによって霊的体験を得るのが回復であるならば、「ミーティングに行かないで、12ステップをやるだけではダメでしょうか?」というものです。

こういう質問の意図をくみ取るならば――AAのヘンな連中と付き合うのは嫌だし、ミーティンも時間の無駄な気がするので、一人で12ステップをやって、霊的体験とやらを得て回復し、残りの人生はアル中とは関わらず、自分の病気のことは伏せて生きる・・・そんなふうにこの危機を乗り越えることはできないでしょうか? ということなのでしょう。

そこまで正直に気持ちを打ち明けてくれることは滅多にありませんが、質問者が心の中に秘めている考えは、おそらくこれに近いものでしょう。

残念ながら、答はノーです。理由はいくつもあります。

一つは、ソブラエティの初期には、集団の力(ジョーの言う「共同体の支え」)を多く得たほうが、断酒が続く確率が上がります。AAは「一生AAミーティングに通い続けなければならない」とは言っていませんが、回復の初期にミーティングへの参加が役立つことは、多くのAA文献で述べられています。

二つ目は、12ステップは一人ではできない、ということです。少なくともステップ5では、棚卸しを聞いてくれる「もう一人の人」が必要になります。「もう一人の人」が必ずしもAAメンバーである必要はありませんが、棚卸しで行うことを理解してくれる相手を一般の人の中から探すのは大変です。その点、12ステップを経験したAAのメンバーであれば、話が早いのです。AAのなかでスポンサーを得て、その人に12ステップ全体をガイドしてもらうのが、もっとも確実な方法になります。

三つ目は、ステップ12に「このメッセージをアルコホーリクに伝え」とあるように、解決方法を他のアルコホーリクに伝えていくことが12ステップに含まれています。これは概ねスポンサーシップのなかで行われていきます(あなたがスポンサーをやるということです)。つまり、12ステップに取り組む以上、他のアル中と関わりを持たないということはあり得ません

たまに、長くAAを離れている人から、「AAは離れてしまったが、私は飲んでいないし、12ステップの生き方を続けている」という言葉を聞くことがあります。断酒が続いているのは大変良いことです。しかし、他のアルコホーリクとの関わりを絶ってしまっているのなら、それはもう12ステップの生き方をしているとは言えません。そして、アルコホーリクと関わりを持ち続けるには、AAで活動を続けていくのが良いやり方です。

AAの主な活動はミーティングだけではない

前述のように、初期のAAメンバーは、酒をやめ続けるためにミーティングが必要だとは考えていませんでした。しかし、彼らがお互いに疎遠だったわけではなく、むしろミーティング以外でも積極的に一緒にいて、AAの活動に時間を費やしていました。なぜなら、アクロンでもニューヨークでもミーティングは週に一回か二回しかなく、ミーティングだけで支えを得ることが難しかったからです。

ビッグブックやその他のAAの書籍では、AAのことを fellowshipフェローシップ と呼んでいます。p.26では、fellowship という言葉を仲間意識と訳していますが、ビッグブックの他のところでは共同体あるいは集まりと訳しています。

アーネスト・カーツの『アルコホーリクス・アノニマスの歴史』では、fellowship に共同体という訳語を当てながらも、文脈に応じて仲間との交流あるいは仲間との交流の場と訳し分けています。

つまり、AA共同体が私たちに支え(サポート)を提供してくれるのは、同じ問題を抱え、同じ解決を使う仲間たちとの交流を通じてです。仲間たちとの交流には、さまざまなやり方がありますが、その一つがミーティングです。

ミーティングはAAでとてもポピュラーな活動です。ほとんどのAAグループが週に一回以上のミーティングを開催しており、そのスケジュールは公開され、どのグループがいつ、どこでミーティングを開いているのかを誰でも知ることができます。つまり、ミーティングの存在はおおやけの知るところである、と言えます。

逆に言えば、AAの外の人間には、ミーティングしか存在が分かりません。だから、外から見ると、AAはミーティングをするところであるように見えるのです。

しかし、このスタディでこれまで見てきたように、エビーからビル・Wへ、ビルからドクター・ボブへと、一対一でプログラムを手渡していく活動がAAの始まりから存在していました。このスポンサーシップと呼ばれるものも、AAを構成する重要な活動です。しかしながら、いつ、どこでスポンサーシップの活動が行われているか、またその内容については、AAの外の人たちが知ることはできません。だから、自助グループ(相互支援グループ)について論じた文献にスポンサーシップのことがあまり取り上げられないのも当然なのです。

ミーティングとスポンサーシップは、AAの活動の両輪と言えるものです。車輪が一つだけでは不安定にになります。そして、この二つ以外にも、AAでは様々な活動が行われており、そのすべてが「仲間との交流」を実現するためのものです。AAの活動の中からミーティングだけを取り上げて重要視するのは正しくありません。AAメンバーと付き合うのはミーティング中だけで、それ以外では一切関わりを持たない、というのは、仲間との交わりから支えを得るには下手なやり方です。

新型コロナウィルスが蔓延した昨今、対面でのミーティングの開催がままならない状態が続きました。それはオンラインのミーティングによって補われましたが、それだけでなく、電話やメールや様々なオンラインツールを使って仲間とのつながりを保っていた人たちの再発率は低く保たれました。

AA共同体フェローシップは、仲間との交流の場であり、そこから私たちは支えサポートを得ています。ミーティングというのは、その交流の一つの類型に過ぎません。ミーティングだけを大事にし、その他の交流をないがしろにするようなミーティング偏重主義は避けてほしいものです。

ビッグブックの記述と現実のAAの違い

ビッグブックのこの部分の記述は、AAは同じ問題を抱えているばかりでなく、その問題に対して同じ解決(12ステップと霊的体験)を用いる人たちの集まりであり、AAやビッグブックの目的は12ステップと霊的体験という解決方法を伝えていくことだ、というシンプルなものです。

そのシンプルな記述に対する説明が、なぜこんなに長くなってしまうか。それは、現実のAAが、ビッグブックのこの記述とは違ってきているからです。AAメンバーでありながら、12ステップに取り組まない人たちも多くいます。最新の2019年のメンバー調査によれば、日本のAAでスポンサーシップを提供しているメンバーは26%に過ぎません。8)

AAメンバーでありながら、12ステップに取り組まないメンバーの増加は、日本だけでなく、海外のAAでも起きていることだそうです。

これは深刻な事態だ、という意見を持つAAメンバーは少なくありません。例えばジョー・マキューは、たびたびこのことを取り上げています。9) 10) 1939年にビッグブックが書かれたとき、『アルコホーリクス・アノニマス』(AA)という本の内容と、アルコホーリクス・アノニマス(AA)という集まりの内容は一致していました。ところが今や、この両者のあいだには相違が生じています。

であるのに、そのことについての問題提起が(少なくともAA公式には)行われのは、12ステップはあくまで自発的に取り組まれるべきものだという考えが共有されているからでしょう。つまり、一人ひとりのAAメンバーがその意欲を持つまで、AAは辛抱強く待っていてくれるというわけです(12ステップに取り組まない人を排除するのではなく、その人たちを包摂したほうが、結果として12ステップに取り組んで回復する人は増えるでしょう)。

しかし、それにより、いざその人が意欲を持って12ステップに取り組もうと考えたときに、ステップを手渡してくれるスポンサーを得ることが難しくなっています。おそらくこのブログを読んでらっしゃる方のなかには、そのような状況の中で、少しでも12ステップに関する情報を得ようと探した結果として、ここにたどり着いたという人もいるでしょう。

もはやAAに来ても、そこに12ステップがあるとは限らない時代になってしまいましたが、少なくともAAはビッグブックという容器にAAを収め、それを世界中へ、そして未来へと大事に送り届け続けているのです。だから、その容器を開き、その中から霊的なメッセージを取り出すことにチャレンジするかどうかは、あなた次第なのです。

今回のまとめ
  • AAは共通の問題(アルコホリズム)を持つ人たちが、それを共通の解決方法(12ステップとそれによって得られる霊的体験)で解決していく集まりである。
  • ビッグブックの目的は、共通の解決方法を伝えていくことにある。
  • AAの共同体フェローシップからは、仲間との交流を通じて、断酒を続けていくための支えサポートを得ることができる。しかし、それは支えであって回復ではない。
  • 回復とは、12のステップを取り組むことで得られる霊的体験(霊的目覚め)が私たちにもたらす変化のことである。


  1. BB, p.26 []
  2. 無名(A Program for You翻訳チーム訳)『プログラム フォー ユー』, 萌文社(ジャパンマック), 2011, p.60 [] []
  3. BB, p.27 []
  4. ジョー・マキュー(依存症からの回復研究会訳)『ビッグブックのスポンサーシップ』, 依存症からの回復研究会, 2007, pp.55-56 []
  5. DBGO, p.200 []
  6. DBGO, pp.383-384, pp.385-386 []
  7. 伝統3は「AAのメンバーになるために必要なことはただ一つ、飲酒をやめたいという願いだけである」としている。 []
  8. AA日本常任理事会『AAメンバーシップサーベイ2019』, AA日本ゼネラルサービス ― このスポンサーシップのすべてで12ステップの手渡しが行われているとは限らない、という指摘もある。 []
  9. ジョー・マキュー, 第一章 []
  10. Joe McQ. and Charlie P., Joe & Charlie: The Big Book Comes Alive, 2014, pp.8-10 []