12ステップのスタディ (6) NAの始まり Q&A

今回は、前回前々回についてのQ&Aです。

Q: 結局のところ、どうしてAAとNAは別の共同体になったのでしょうか?

A: NAが創始された1950年代に、アルコホリズムと薬物嗜癖が別の病気だと見なされていたことが大きく影響した、と言えるでしょう。その意味では、当事者たちの選択と言うよりも、社会の影響を受けたと見るべきです。その後、NAがすべての薬物を対象としたことで、アルコールという単一の物質を対象にしているAAとは違った文化が発展しました。


Q: AAとNAの最も大きな違いは何でしょうか?

A: 前回書きましたが、AAがアルコールという単一の物質の使用体験に焦点を合わせることで、メンバー間のアイデンティフケーション(同一だという識別)を成り立たせているのに対し、NAは薬物の使用体験ではなくアディクションのプロセスアディクション・サイクルに焦点を当てることで、異なった薬物のユーザーに対して広くアイデンティフケーションを成り立たせています。言い換えれば、AAは飲酒に着目し、NAはアディクションに着目していると言えるでしょう。

ただし、NAのアディクション概念はAAの概念の転用であり、NAが新しくアディクション概念を作ったというわけではありません。使っている用語の違いを除けば、両者のアディクション概念やそこから回復するステップの解釈は共通しています。


Q: AAとNAの用語の違いとは?

A: 主な用語の対応表です。(cf. [BBS#20])

AANA
alcohol アルコールdrug 薬物
alcoholic アルコホーリクaddict アディクト
alcoholism アルコホリズム addiction アディクション
drink (酒を)飲むuse (薬を)使う
sober ソーバー(しらふ)clean クリーン
sobriety ソブラエティstaying clean クリーンでいる
allergy アレルギーallergy アレルギー
craving 渇望 compulsion 強迫的な欲求
obsession 強迫観念・とらわれobsession とらわれ
insanity 狂気insanity 狂気
slip スリップrelapse リラプス

Q: NAのクリーンとは酒も飲まないということでしょうか?

A: どうやらそのようです。それはNAは薬物のなかにアルコールを含めているので当たり前のことであるし、NAを創始した人たちがAAとのブリッジメンバーだったことからすれば、彼らが酒を飲まないのは当然のことだったと言えるでしょう。


Q: NAの先行団体はなぜ存続できなかったのでしょうか?

A: アディクツ・アノニマスについて言えば、施設の中だけに存在し、地域への展開を欠いていたことが原因でしょう。その結果、連邦麻薬ファームが役割を終えるころにアディクツ・アノニマスも活動を終えました。

ダニー・CによるニューヨークのNAについては、グループ間の交流を促すサービス機構を欠いていたために、それぞれのグループが孤立したことが長く存続できなかった理由だとされています。彼らがなぜサービス機構を持たなかったのかは分かりません。このNAについて記述した文献もありますが、そこまで調査範囲を広げる予定はありません。


Q: 逆にどうしてジミー・Kたちは存続できたのでしょう?

A: ダニー・CによるニューヨークのNAや、1950年代のサイ・Mがリーダーシップを取っていた時期のロサンゼルスのNAは、ミーティングの開かれる場所やスケジュールを公開せず、問い合わせをしてきた人に知らせるやり方をしていました。それは麻薬の密売人や秘密捜査官が入り込んでくることによるトラブルを警戒したからでした。そして、新聞や雑誌やテレビに露出することでアディクトたちにアウトリーチを試みました。12の伝統を採用しなかったニューヨークのNAでは、ダニー・Cが実名や写真入りでメディアに登場しました。

その反対に、ロサンゼルスのNAのリーダーシップを引き継いだジミー・Kは、AAが行っていたのと同様にミーティングの場所とスケジュールを公開し、アディクトがいつでも会場にやって来られる状態を維持しました。その粘り強い努力が実を結んだと評価されています。また12の伝統に忠実に個人をアピールすることは慎みました。


Q: NA以外にも薬物の12ステップグループがあるようですか?

A: 薬物関係の主要な12ステップ共同体の一覧を作ってみました。

名称略称創始年創始者創始地グループ数
1997年直近
コカイン アノニマス
Cocaine Anonymous
CA1982Tom K.カリフォルニア1,5002,000
クリスタル メッシュ アノニマス
Crystal Meth Anonymous
CMA1994Bill C.カリフォルニア15861
ヘロイン アノニマス
Heroin Anonymous
HA2004Paul F.,
Mike S.
アリゾナ300
マリファナ アノニマス
Marijuana Anonymous
MA1989カリフォルニア100500
ナルコティクス アノニマス
Narcotics Anonymous
NA1953Jimmy K.カリフォルニア25,000+70,000+
ニコチン アノニマス
Nicotine Anonymous
NicA1982カリフォルニア500+700+
ピルズ アノニマス
Pills Anonymous
PA1972ニューヨーク280

注: 1997年のグループ数は AA Alabama District 2, List of 12-Step Groups from 1997 Database (the12traditions.com) から。直近のグループ数は各団体の発表による。一部はグループ数ではなくミーティング数。

NAと比較すると、どれも小規模な共同体であることが分かります。このうち比較的規模が大きいのがコカイン・アノニマス(CA)で、コカインだけでなく他の精神作用物質の使用もやめることを目的としています。その意味ではNA同様に、薬物全般を対象としているのですが、メンバーの主流はコカインやクラックなどのユーザーです。独自のパンフレット類は用いていますが、基本テキストはAAのビッグブック12&12をそのまま使っているそうです。

その他の共同体は、特定の物質の使用に焦点を当てています。対象の薬物以外の使用についての扱いはよく分りませんが、他の薬物を使う危険性についての警告は行われています。

CAにしても、他のHAなどにしても、なぜNAとは別に活動しているのかという動機は分かりません。ただ、日本のNAメンバーの話を聞いてみると、例えば覚醒剤のユーザーと処方薬の乱用者の間にはアイデンティフケーションが成り立ちにくいという実情があるようです。NAがアディクションのプロセスに焦点を当てるようにメンバーに促しているとしても、ミーティングではやはり薬物の使用体験が分かち合われがちであり、異なった薬物のユーザー間でアイデンティフィケーションを成り立たせるのはそれほど容易なことではないのでしょう。したがって、より深いアイデンティフィケーションを求めて、大麻の人たちはマリファナ・アノニマス、処方薬の人はピルズ・アノニマスを必要としたのだと考えられます。

しかしそのように対象の物質を絞り込むことは、より深いアイデンティフィケーションをもたらす一方で、対象者の数が限定されることにもなります。それがNA以外の共同体が比較的小規模に留まっている理由ではないかと考えられます。

規模の大小にかかわらず、存続している団体は、中央サービス機構を持ち、全グループが集まるコンベンションを定期的に開催し、文献の整備を進めています。

日本国内では、NAのほかにマリファナ アノニマスが活動しています。またピルズ アノニマスのミーティング一覧に日本国内の会場が掲載されています。


Q: NAが最大である事はわかったが、それでもAAに比べると小さいのではないか?

A: NAは確かに他の薬物の共同体に比べれば巨人ですが、AAと比較すると規模は三分の一程度です。アメリカでは、アルコールとアルコール以外の薬物の問題規模は同程度なのに、AAとNAでこれほどの規模の差が生じているのは理由がありそうです。

それについて、『米国アディクション列伝』の第二版でNAの章の作成に協力した Chris Budnick に質問したことがあります。彼によれば、アメリカのアディクトはヘロインのユーザーが最も多く、しかもヘロイン・ユーザーはたいていアルコホーリクでもあるので、彼らはAAに行き、AAのスポンサーを得て回復し、NAではなくAAで活動することを好むのだというのです。それは、アルコホリズムから回復したと言ったほうが、薬物嗜癖から回復したと言うより社会での評価が高いという現実を反映しており、つまりは社会に存在する偏見の反映だという主張でした。(これに対し、日本のアディクトは覚醒剤ユーザーが多く、アルコホーリクである比率が少ないので、日本のAAのなかでアルコール以外のアディクションを抱えている人は少ないのです)。

次回はオーバーイーターズ・アノニマス(OA)の始まりについてです。

2024-05-2212ステップのスタディ,日々雑記

Posted by ragi