ハンク・P(ヘンリー・P)

ハンク・P(ヘンリー・P) — Hank P. (Henry P.)

ヘンリー・G・パークハースト(Henry G. Parkhurst, 1895-1954)。ハンク・P(Hank P.)とも。ニューヨークのAAの最初期のメンバーの一人で、ビッグブックの制作とAAの非宗教化に大きな役割を果たした。

1935年9月、アクロンからニューヨークに戻ったビル・Wは、シルクワース医師にタウンズ病院に入院中の患者を紹介してもらった。そのなかで最初期に(おそらくは一番最初に)酒をやめたのがハンク・Pだった。

ハンク(ヘンリー)は以前はスタンダード・オイル という石油会社で販売副部長を務めていた。彼自身によればこの時が10回目の入院で、最初の数回は会社が費用を出してくれたものの、やがて飲酒が理由で解雇され、ビルと会った頃は無職になっていた。1)

彼の体験記 Unbeliever(不信心者)は、ビッグブック初版のドクター・ボブのストーリーのすぐ次に掲載された。ハンクは無神論者であることを公言していたが、ビルの話を聞いてスピリチュアルな解決法を受け入れた:

Told him it sounded like self hypnotism to me and he said what of it . . . didn’t care if it was yogi-ism, self-hypnotism, or anything else . . . four of them were well.2)


それはなんだか自己催眠のように聞こえる、と彼に言った。すると彼は、それがどうかしたかと答えた。・・私はそれがヨーガ教だろうが、自己催眠だろうが、他の何だろうと気にしないことにした・・彼ら4人はそれで良くなったのだから。(拙訳)

この4人というのは、おそらくビル・W、ドクター・ボブ、ビル・D、アーニー・Gのことだと思われる。酒をやめたハンクはニューヨーク州に隣接したニュージャージー州 でAAグループを始めた。

また彼は、シルクワース医師の書いた「医師の意見」において回復の事例として紹介されている(BB, pp.xxxviii (38)-xxxix (39), 慢性アルコホリズムの治療に連れてこられた男)

ビッグブックの出版:
ビッグブックの出版においても、ハンクは重要な役割を果たした。彼は自分をクビにしたスタンダード・オイル社に復帰することを目指していた。そのためには石油製品を売る実績を積まねばならなかった。そこで彼はオーナー・ディーラー(Honor Dealers)という会社を設立し、ガソリンや車の消耗品を共同購入することで、指定のスタンドで安価にガソリンを購入できると宣伝して会員を集めた。その会社の事務員としてビルを雇った。3)

Ruth Hock
Ruth Hock, from A.A. Mid Surrey Intergroup

だが実際にはガソリン事業はほとんど行われず、二人はアルコホーリクの回復の手助けと、本(のちのビッグブック)の出版準備にかかりっきりになった。会社の秘書としてルース・ホック(Ruth Hook, ?-1986)という若い女性が雇われ、執筆はビルの口述をルースがタイプして行われた。第十章の「雇用者たちへ」はビルではなくハンクが書いたとされている。4)

本を出版するというアイデアは、アルコホーリク財団(後の常任理事会)の支持が得られず、ビルたちは独力で出版を行なわなければならなかった。そこで、ハンクはワークス出版(Works Publishing)という実体のない出版社を作り、その株券をAAメンバーたちに売りつけた。メンバーたちも破産状態で金がなかったが、将来の配当を期待して分割払いで株を購入した。ハンクの役目はその支払いを毎月集め、新たな株を売って資金を集めることだった。そのようにして集めた資金は、オーナー・ディーラー社の事務所の家賃と、ビル、ロイス、ルース、ハンクらの食費に消えていったが、ハンクのその資金集めがなければ、ビルは執筆に専念できず、ビッグブックも存在しなかったかもしれない。

スピリチュアルなものはオーケー、でも宗教はお断り:
AAはオックスフォード・グループの分派であり、初期の頃はキリスト教の影響を強く受けていた。ところがハンクは元無神論者であり、スピリチュアルなものを受け入れて「宇宙的な力」のようなものを信じるようにはなっていたものの、宗教的なものは一切拒絶していた。

ハンクは「神」というものをビッグブックから取り除くようにビルに要求した。ビルは最初は頑固に抵抗していたが、最終的には妥協し、神という言葉を残す代わりに、ステップ2では「自分を超えた大きな力」に、ステップ3では自分なりに理解した神という表現に変え、ステップ7からは「ひざまずいて」という言葉を削った。さらに12ステップ全体は提案であることを明確にした。

このことはAAのプログラムがオックスフォード・グループの教義から離れ、宗教的なものが苦手な(たいていのアルコホーリクはそうだが)人も12ステップに取り組めるように「入り口を広げる」効果があった。こんにちのAAの成功はハンクのこの働きかけによるといっても過言ではない。

恨みによる破滅:
彼らの努力の甲斐があって、1939年4月にはビッグブックが出版された。しかしハンクの奮闘にも関わらず、最初の半年ほどはまったく売れず収入ほぼゼロだった。その間に彼らの資金も尽き、ビルは住む家を失った。ハンクは職を探し、ニュージャージー州で働くことになった。ビルとヘンリーの間にいさかいが起こったのはその頃だった。

ハンクにはキャサリンという妻と、二人の息子がいた。だがハンクは妻と別れて、秘書のルース・ホックと結婚すると言い出した。さらに、ルースが彼のプロポーズを拒んだのは、ビルが邪魔したからだとビルに食ってかかった。9月にはハンクは酒を飲み出してしまい、AAのメンバーを動揺させた。翌年ビッグブックの販売が好調になったころ、酔ったハンクが事務所に現れて、そこの家具は元々は自分のものだったのだと騒ぎ立てた。ビルは何度か金を渡したが、最終的にはハンクの持っていたワークス出版の株式をAAの資金で買い取って、縁を切ることになった。

ハンクのビルに対する恨みはその後も晴れることはなく、彼は二度と長期的なソブラエティを得ることはなかった。それでも、一時期はクリーブランドのAAメンバーであるクラレンス・S(Clarence Snyder, 1902-1984)の妻の妹と結婚し、クラレンスの会社で優秀な営業マンとしての手腕を発揮した時期もあった。

ハンクはオハイオ州 に行き、ビル・WがAAの資金を私的に流用しているという悪意のある噂を流した。彼は飲んでいたが、いくつかのAAグループはハンクの言葉を信じ、そのなかにはクラレンスもいた。ビルがAAから1年間で65,000ドルを受け取っていると言う者もおり、オハイオのグループをAAから独立させようという動きが起きた。これに対して、ビル・Wとドクター・ボブは1942年6月にクリーブランドで夕食会を開き、その後で監査を求める委員たちに、AAの会計帳簿を示した。ビルとボブはビッグブックの売り上げから印税として週に25ドルを受け取っているだけであった(ボブはその一部をビルに渡し、残りはAAに返還していた)。この他にはロックフェラー財団が設定した基金から週に30ドルを受け取っているに過ぎなかった。疑いは晴れ、監査委員たちは二人に謝罪したが、このスキャンダルがかつてのビジネスパートナーであったハンクが起こしたものであることに、ビルは心を痛めた。ビルが書いた『AA成年に達する』において、他のAAメンバーが愛称で記載されているのに対し、ハンクに対してはヘンリーという実名が使われている。5) 6)

ハンクは、ヒューストン の石油相続人と三度目の結婚をし、その相手が財産を残して亡くなったため、その金を使って最初の妻キャサリンと再婚し、故郷のニュージャージー州に養鶏場を購入した。1954年にはその鶏舎が火事になり、新聞はそのニュースと一緒にハンクの死亡記事も掲載した。ビルの妻ロイスによれば、彼の死は飲酒によるものだったという。7)

参照:
無名性(アノニミティ)について

外部リンク:
Henry G “Hank” Parkhurst (findgrave.com)


  1. AA, Alcoholics Anonymous Facsimile First Printing of the First Edition, AAWS, 2014, p.194 []
  2. ibid., p.202 []
  3. The Big Book Study Group of South Orange, New Jersey, Henry (Hank) P., Northern New Jersey A.A. (nnjaa.org), 2009 []
  4. ハンクが第十章を書いたという説はAAで広く共有されているが、AAの文書にはそれについての記述は見当たらず、これは伝承の一つである。 []
  5. AACA, pp.292-294 []
  6. District 2, Henry G. (Hank) Parkhurst. (1895-1954), Alcoholics Anonymous District 2 Informational Website (the12traditions.com), 2016-2-25  []
  7. The Big Book Study Group of South Orange, New Jersey, op. cit. []
同義語:
ハンク・P, ヘンリー・P, Hank P., Henry P.
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2020-11-18

Posted by ragi