ビッグブックのスタディ (91) どうやればうまくいくのか 3

12のステップ

第五章のp.85から、12のステップが掲載されています。

  1. 私たちはアルコールに対し無力であり、思い通りに生きていけなくなっていたことを認めた。
  2. 自分を超えた大きな力が、私たちを健康な心に戻してくれると信じるようになった。
  3. 私たちの意志と生きかたを、自分なりに理解した神の配慮にゆだねる決心をした。
  4. 恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行い、それを表に作った。
  5. 神に対し、自分に対し、そしてもう一人の人に対して、自分の過ちの本質をありのままに認めた。
  6. こうした性格上の欠点全部を、神に取り除いてもらう準備がすべて整った。
  7. 私たちの短所を取り除いてくださいと、謙虚に神に求めた。
  8. 私たちが傷つけたすべての人の表を作り、その人たち全員に進んで埋め合わせをしようとする気持ちになった。
  9. その人たちやほかの人を傷つけない限り、機会あるたびに、その人たちに直接埋め合わせをした。
  10. 自分自身の棚卸しを続け、間違ったときは直ちにそれを認めた。
  11. 祈りと黙想を通して、自分なりに理解した神との意識的な触れ合いを深め、神の意志を知ることと、それを実践する力だけを求めた。
  12. これらのステップを経た結果、私たちは霊的に目覚め、このメッセージをアルコホーリクに伝え、そして私たちのすべてのことにこの原理を実行しようと努力した。

AAワールドサービス社の許可のもとに再録1)

12ステップを書籍やブログなどに転載したい人もいらっしゃるでしょう。その場合には、AAのオフィスからは以下の三つのことをお願いしているはずです。

    • 字句を変えない(送り仮名や句読点の位置なども)
    • 強調部分(具体的にはステップ3と11の「自分なりに理解した」)を強調表現する。2)
    • 末尾に「AAワールドサービス社の許可のもとに再録」と付け加える。

この三つを守っていれば、(いちいち許可を取らなくても)AAオフィスから文句を言われることはないでしょう(たぶん)。

OAやNAのテキストでもステップ3と11の「自分なりに理解した」の部分は強調表示されており、AA以外の12ステップグループの多くでも、これを強調する習慣が維持されていることが分かります。それはこの強調表現が、12ステップが宗教のプログラムではないことを明示するためのものであることが理解されているからでありましょう。

12のステップはどのように作られたか

この12のステップが書かれたのは1938年12月のことでした。3) その日、ビル・Wはスピリチュアルな状態とはほど遠い、イライラした気分で第五章の原稿に取り掛かろうとしていました。1934年の末にエビー・Tがビルに霊的な原理を伝えてから約4年間、ビルたちは少々漠然とした言葉で述べられた6つのステップを使ってプログラムを伝達してきました(cf. 「初期の6ステップ」――この6ステップは「オックスフォード・グループの6ステップ」と呼ばれることがありますが、オックスフォード・グループにそのような6ステップがあったわけではありません。オックスフォード・グループで回復したアルコホーリクたちが、オックスフォード・グループのプログラムを自分たち向けに解釈したものにすぎません(12ステップと元の6つのステップの対応関係については第4回を参照)

ビル・Wは、ビッグブックという書籍によって回復のプログラムを伝えるには、ステップの数が6つでは足りず、アルコホーリクがするりと通り抜けてしまう抜け穴があると考えていました。新しいステップを書き始めたとき、数を増やすことは決めていたものの、具体的に何を付け加えるのか、全体でいくつのステップにするのか、明確な考えはなかったようです。その時のことを、ビルは『AA成年に達する』でこう書いています:

 ついに書き始めた。六段階以上からなるステップを書こうと思った。いくつ多くするかは分かっていなかった。私はくつろぎ、そして導きを待った。これまでの乱れていた感情を考えると、ずいぶん驚くべき早さで第一稿を仕上げたと思う。三十分ぐらいだったろう。言葉が次から次へと溢れ出てきた。終わりまできたとき、新しいステップの数をかぞえてみた。十二になっていた。どういうわけかこの数は暗示的に思えた。特別な根拠は何もなかったが、私はこれを十二使徒と結びつけて考えた。非常に大きな解放感を感じながら、原稿を読み返し始めた。4)

もちろんその後で、他のAAメンバーの意見を反映して、ビッグブックの出版までにいくつか変更が加えられました。私たちが使っているのは変更後のバージョンです。5)

ビル・Wという人物

ビルとロイス
晩年のビルとロイス・W, from GalleryWestchester General Service Assembly(westchesternyaa.org)i.

12ステップは――メンバーたちとの議論によって変更が加えられてはいるものの――実質的には、ビル・Wという一人の人物によって産み出されました。なぜ彼にそんなことができたのでしょうか? ビル・Wの伝記本を何冊か読んでみると、彼が霊的に特別な資質を持っていたわけでもなく、特別な訓練を受けたりわけでもないことが分かります。また、AAの中で彼が特に優れた回復者だったわけでもありません(そのことはビル自身が率直に認めています)。6) 彼の伝記が描き出すのは、晩年まで女にだらしなく、タバコがやめられず、自分のお気に入りのメンバーを特別扱いし、年上の妻に甘えつつも離婚を望み、「AAの創始者が晩年離婚したのでは示しがつかないから」というAAの理事たちの説得をしぶしぶ受け入れつつも遺産を愛人に残そうと画策する小人物の姿です。7)

しかし彼は、AAにとって重要な局面では、強引とも言えるリーダーシップを発揮して、現在私たちが知っているAAを作り上げていきました。ですから、AAにしても、12ステップにしても、その成り立ちをビル・W個人と切り離して考えることは難しいのです。8)

なぜ彼にそれが可能だったのか? 彼が完成された人間だったからでないのは明らかです。また彼は特別な人間でもありませんでした。それを踏まえると、それは彼はこうしたことを成し遂げるべく神によって選ばれたから、としか説明のつけようがありません。彼自身は他の人生を望んでいたのかもしれませんが、神から与えられた役割を一生かけて果たしたのです。「彼は一度もAAメンバーだったことはなかった(he was never a member of A.A.)」と言われるように9)、彼はAAにとって特別な存在でした。しかし彼は、自分が崇拝され神格化されることを拒み通しました。それは彼が、自分も欲望に流されやすい一人の人間に過ぎない事をよく分かっていたからでしょう。

ですから、12ステップを、高度な完成を遂げた人が、その完成に至る道を指南するために作ったものだと捉えるのは誤りです。また、これは人々の合議によって作られたというよりも――それまであったものを元に――実質的にビル・Wという、私たちと同じように極めて不完全な一人の人物によって作られたものです。だからとて、12ステップが無価値なものだということにはなりません。彼が導きのままに書き出した12行の文章とそれを元にしたプログラムが、それ以来世界中で多くの人たちの人生を変えてきたのですから。こうしたことを踏まえると、この12ステップというプログラムは、人間の手によって作られたものだと考えるよりも、むしろ人間を超えた存在が、私たちアルコホーリクやその他の問題を抱える人たちに与えてくれたものである、と捉えるべきものなのでしょう。

完全に実行することはできない

さて、12ステップの次の段落に、このような文があります。

私たちの誰一人として、これらの原理を完全に実行できたという人はいないのだ。10)

この短い文章を心に留めておきましょう。12ステップの原理をきちんと実行できたという人間はどこにもいないのです。私たち人間は不完全な存在なのです。ジョー・マキューもこう述べています:

私たちが目指すのはスピリチュアルな完成ではなく、スピリチュアルな成長である。私たちは完全ではないし、完全になれるわけでもない。また、完全になれるかもしれないなどと期待するのもやめておいたほうがいい。11)

自分が不完全であることが悔しいとか、辛いと感じるのであれば、あなたは自分自身に対して「完全でなければならない」という実現不可能な目標を課しているのでしょう。それは自分に呪いをかけるようなものです。完全なるものが存在するとすれば、それは神だけであるということ、そして私たち人間は神にはなれないし、ならなくても良いのである、ということを心に留めておきましょう。

これまでのまとめ

 私たちの、アルコホーリクの説明不可知論者についての章回復前後の一人一人の経験から、次の三つの考えが明らかになる。
(a)私たちはアルコホーリクであり、自分の人生が手に負えなくなったこと
(b)おそらくどのような人間の力も、私たちのアルコホリズムを解決できないこと
(c)神にはそれができ、求めるならば(if He were sought)そうしてもらえること12)

アルコホーリクの説明とは「医師の意見」や第三章のことです。不可知論者についての章は、もちろん第四章のことです。そして、回復前後の一人一人の経験とは、第一章のビルの物語やビッグブック後半のドークター・ボブらの個人の体験記を指しています。

この三つの考えは、ステップ1と2を表わしています。具体的には(a)と(b)の二つがステップ1を、(c)がステップ2を表わしています。13) つまり、この三つの考えは、これまで長いこと説明してきたステップ1と2を要約したものなのです。

(c)で sought を「求める」と訳しているのは間違いとは言えないでしょうが、seek には「見つける」とか「探し出す」という意味もあります。つまり、私たちはこれからステップ3から12で「神を見つけ出す」という努力をするのです。もちろん、回復するのには努力が必要です。ただし、その努力が直接私たちを回復させるのではなく、私たちを回復させてくれるのは「偉大な力」であることを忘れないでおきましょう。

この三つの考えを踏まえて、私たちはステップ3へと進みます。次回はようやくステップ3に入ります。お楽しみに。

今回のまとめ
  • 12ステップは、私たちと同じように不完全な人間であるビル・Wというアルコホーリクが、導きのままに書き出したものである。
  • だがそれ以来、12ステップは世界中で多くの人たちの人生を変えてきた。
  • 12ステップの原理をきちんと実行できたという人間はどこにもいない。
  • 私たちは完全ではないし、完全になれるわけでもない。また、完全になる必要もない。
  • p.87の三つの考えは、ステップ1と2を表わしている。

  1. BB, pp.85-86 []
  2. 例えば他の部分が明朝体ならば、強調部分をゴシック体にする。英語の場合にはイタリックにしている場合が多いが、タイプライターなどでイタリックができない場合にはその部分に下線を引く。 []
  3. AACA, p.vii []
  4. AACA, p.246 []
  5. ビルの書いたオリジナルのステップは失われているが、アーネスト・カーツは、長くビル・Wの秘書を務めAAアーカイブの責任者を務めたネル・ウィング(Nell Wing, 1917-2007)の助けを借りて、オリジナルの復元を試みた。cf. アーネスト・カーツ(葛西賢太他訳)『アルコホーリクス・アノニマスの歴史――酒を手ばなした人びとをむすぶ』, 明石書店, 2020, pp.126-128, およびその註32-33。ハンク・Pらとの議論による変更については AACA, pp.246-255 を参照。 []
  6. AACA, pp.330-331. []
  7. ビルの派手な女性関係については様々な本に書かれているが、特に晩年の愛人ヘレン(Helen Wynn, 1907-1981)との関係については Francis Hartigan, Bill W.: A Biography of Alcoholics Anonymous Cofounder Bill Wilson, St. Martin’s Griffin, 2001. が詳しい。自分に近しい人物、例えばマーティ・マン(Marty Mann, 1904-1980)の活動に資金を提供したことについてはカーツの第五章を、エビー・Tに対する行きすぎた援助については Mel B., Ebby: The Man Who Sponsored Bill W., Hazelden, 1998 を参照。 []
  8. カーツ, 第四章および第五章. []
  9. PIO, cover flip. []
  10. BB, pp.86-87 []
  11. 無名(A Program for You翻訳チーム訳)『プログラム フォー ユー』, 萌文社(ジャパンマック), 2011, p.189. []
  12. BB, p.87 []
  13. ジョー・マキュー(依存症からの回復研究会訳)『ビッグブックのスポンサーシップ』, 依存症からの回復研究会, 2007, pp.52-53 []